モンクおじさんの家の周囲を囲むようにし
て作られた板塀は、森で伐採した木で造られ
たもの。
雨や雪の浸食を少しなりとも防ごうと、そ
の表面を厚いコールタールでおおっている。
塀はそれほど高くなく、大人が背伸びすれ
ば、頭のてっぺんが外から見えそうだ。
出入口は二か所。
ひとつは来客用で、もうひとつは勝手口。
メリカおばさんはいったん辺りを見まわし
てから、、勝手口の戸の上部にしのばせてあ
る鍵に、女にしては太い左手を差し入れた。
その時、丁度、庭にいたメイがメリカに声
をかけたのである。
「おばちゃん、おばちゃん」
メイはできるだけ声をひそめた。
「なんだい、メイかい。びっくりするじゃ
ないか。おどかさないでおくれ。わたしもすっ
かり年老いてしまったんだんだからね」
「ごめんなさい。実はね、ケイのこと知っ
てるでしょ」
「ああ、この間だっけ、円盤に乗って、お
まえをさらおうとした。わたしの大事なひと
にひどいことをしてさ。ほんとにもう今度会っ
たら承知しないから」
「でもねえ。どうしようかな……」
「どうしようって、なにがだい」
メイは、メリカと話している間、自分のセ
リフを、できるだけ声を落として言った。
自然とメリカもひそひそ声になった。
だが、メリカおばさんは感情豊かな人物。
時折、ええっとか、なるほどとか、彼女特
有の大げさな感嘆詞が、ケイの耳に届いた。
ヴェランダにぽつんとひとり残された格好
のケイは、彼女たちが何をしゃべっているか、
知りたくてたまらない。
ケイは一種、こころの病を得ていた。
敵に拉致され、頭脳に手術をほどこされた
後遺症が、メイの母アステミルたちの手厚い
医療や看護にもかかわらず、残ってしまった。
「一度いじられ、壊れた神経の束がもと通
りになるには、かなりの時間が必要です」
ケイの主治医はそう語った。
ケイは、牛が食べ物を反芻するように、く
どくどと思考をめぐらせてしまう。
(メリカおばさんはきっと、わたしのこと
をうらんでいる。だってだって、わたしはあ
ろうことか、メイを連れ去ろうと、もくろん
でいたんだもの。今更いいわけになるけれど、
それはわたしの意志じゃない。惑星エックス
の欲深な連中の言いなりになってしまったの。
彼女の大切なモンクおじさんを、光線銃を使
用して動けなくしてしまったわ……)
ケイは不安でたまらず、とうとう椅子から
腰を浮かした。
ちょうどその時、メリカおばさんが、メイ
をともない、ヴェランダに近寄ってきた。
「へえっ、ケイが来てるんだって。あの子
がね。ひょっとして、まだ、何か魂胆がある
のかもしんないよ。円盤で来てるやつら、ほ
とんどみんな心がわりしておとなしくなったっ
て聞いてるけど。ほんとにほんとに、ケイが
信じられるか、わたしがよおく、観察してあ
げる。メイ、おまえ、あの子に何もされなかっ
たかい?」
メリカの声が、庭先に響いた。
メイはショックで、両手で顔をおおった。
(メリカおばさんを、納得させるのは容易
ではない)
そう悟ったケイは、あやうく、気を失いそ
うになった。
て作られた板塀は、森で伐採した木で造られ
たもの。
雨や雪の浸食を少しなりとも防ごうと、そ
の表面を厚いコールタールでおおっている。
塀はそれほど高くなく、大人が背伸びすれ
ば、頭のてっぺんが外から見えそうだ。
出入口は二か所。
ひとつは来客用で、もうひとつは勝手口。
メリカおばさんはいったん辺りを見まわし
てから、、勝手口の戸の上部にしのばせてあ
る鍵に、女にしては太い左手を差し入れた。
その時、丁度、庭にいたメイがメリカに声
をかけたのである。
「おばちゃん、おばちゃん」
メイはできるだけ声をひそめた。
「なんだい、メイかい。びっくりするじゃ
ないか。おどかさないでおくれ。わたしもすっ
かり年老いてしまったんだんだからね」
「ごめんなさい。実はね、ケイのこと知っ
てるでしょ」
「ああ、この間だっけ、円盤に乗って、お
まえをさらおうとした。わたしの大事なひと
にひどいことをしてさ。ほんとにもう今度会っ
たら承知しないから」
「でもねえ。どうしようかな……」
「どうしようって、なにがだい」
メイは、メリカと話している間、自分のセ
リフを、できるだけ声を落として言った。
自然とメリカもひそひそ声になった。
だが、メリカおばさんは感情豊かな人物。
時折、ええっとか、なるほどとか、彼女特
有の大げさな感嘆詞が、ケイの耳に届いた。
ヴェランダにぽつんとひとり残された格好
のケイは、彼女たちが何をしゃべっているか、
知りたくてたまらない。
ケイは一種、こころの病を得ていた。
敵に拉致され、頭脳に手術をほどこされた
後遺症が、メイの母アステミルたちの手厚い
医療や看護にもかかわらず、残ってしまった。
「一度いじられ、壊れた神経の束がもと通
りになるには、かなりの時間が必要です」
ケイの主治医はそう語った。
ケイは、牛が食べ物を反芻するように、く
どくどと思考をめぐらせてしまう。
(メリカおばさんはきっと、わたしのこと
をうらんでいる。だってだって、わたしはあ
ろうことか、メイを連れ去ろうと、もくろん
でいたんだもの。今更いいわけになるけれど、
それはわたしの意志じゃない。惑星エックス
の欲深な連中の言いなりになってしまったの。
彼女の大切なモンクおじさんを、光線銃を使
用して動けなくしてしまったわ……)
ケイは不安でたまらず、とうとう椅子から
腰を浮かした。
ちょうどその時、メリカおばさんが、メイ
をともない、ヴェランダに近寄ってきた。
「へえっ、ケイが来てるんだって。あの子
がね。ひょっとして、まだ、何か魂胆がある
のかもしんないよ。円盤で来てるやつら、ほ
とんどみんな心がわりしておとなしくなったっ
て聞いてるけど。ほんとにほんとに、ケイが
信じられるか、わたしがよおく、観察してあ
げる。メイ、おまえ、あの子に何もされなかっ
たかい?」
メリカの声が、庭先に響いた。
メイはショックで、両手で顔をおおった。
(メリカおばさんを、納得させるのは容易
ではない)
そう悟ったケイは、あやうく、気を失いそ
うになった。