小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

安倍首相を総括する

2019年06月20日 23時20分34秒 | 政治



残念なことに、10月の消費増税はそのまま施行され、衆参同日選挙もなさそうな気配ですね。

6月11日のNHK世論調査では、次のような結果になっています。
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
安倍内閣 支持する48%  支持しない32%
消費増税 賛成29%    反対42%
景気回復 続いている10% 続いていない53%

だれが見ても変な結果です。
デフレ脱却を第一の優先課題として掲げて6年半、安倍政権はこの公約をまったく果たすことができず、国民を貧困に陥れ、そのうえ、何の必要もない消費増税をやろうとしている(ちなみに財務省はじめ、その必要を説いている人たちのロジックはとっくに破綻しています)。
その安倍政権の支持率が5割近くの高さを維持しているのに、一方で、増税反対者が賛成者を大きく上回っています。
しかも、景気回復が「続いている」という答えは、わずか1割、「続いていない」の五分の一にも達していません。

世論調査の場合、こういうねじれ現象は昔からよくあることですが、これはなぜでしょうか。
一つは、現政権に対する、惰性的で無根拠な「信頼」です。
不安定を好まない国民性を表しているでしょう。
政治を自分の生活に結びつけて考えようとしない長きにわたる習慣的な感性と言えるかもしれません。
「長い物には巻かれろ」というやつですね。
もう一つは、野党のだらしなさに対する「不信」です。
野党は、実際、消費増税という、国民のためにならない政策一つにさえ、結束して反対することができていません。
三つ目に、安倍首相のイメージに対する、やはり無根拠な「信頼」があります。

実際には、安倍政権は、この6年半で、国民の敵であるグローバリズムや新自由主義に奉仕する政策ばかり採ってきました。
TPP参加、農協改革、種子法廃止、労働者派遣法改革、漁協法改革、国有林野管理経営法改革、水道法改革、入国管理法改革、発送電分離、消費増税、そしてPB黒字化目標という緊縮政策……と、挙げればキリがありません。
これらはすべて、国内産業を圧迫し、国民生活を困窮させ、外資の自由な参入を許し、格差を拡大する「亡国政策」です。

大多数の国民には、安倍政権がこんなにひどい政策を採ってきたという自覚と認識がありません。
この自覚と認識の欠落には、安倍首相のイメージがかなり貢献していると思われます。

日本はアホな国だねえ、と嘆息していればいいのかもしれませんが、それでは亡国を甘んじて受け入れることになります。

ここでは、二つの問いを出してみます。

①なぜ安倍政権が亡国への道をひた走っているにもかかわらず、安倍首相は国民の間で好意的なイメージを保ち続けているのか。

これは彼のキャラとそれを感じ取る国民心理に関する分析ですね。

②結局、安倍首相とは何者なのか。

これは、政治家としての安倍晋三氏についての本質的な分析です。

①から行きましょう。
安倍首相の人気の秘密は、先ほども言ったとおり、人格的なイメージです。
彼は三世議員で、育ちがよく上品で真面目、お高く止まったところがなく、気さくな雰囲気を持ち、顔も愛想もよくていかにも国民に受けそうですね。
演説がうまく、首脳会談や国会答弁やテレビ出演や記者会見などでの受け答えも、紙を読まずに堂々と前を向いてしゃべります。
アメリカ議会での演説では、すべて英語でスピーチし、議員たちの評判がたいへん良かった。
超多忙な中で演説文を暗記したのでしょうから、相当な努力家であることもうかがわせます。
日本の政治家は、これまで下ばかり向いて官僚の作文を呼んで済ませるか、そうでなければ意味不明の短い言葉でやり過ごす人が多かった。
それに比べると、安倍首相は、日本人には珍しく(アメリカ人には珍しくありませんが)、政治的パフォーマーとしては、一流だと言えるでしょう。
長いキャリアを通して饒舌なわりには、いわゆる「失言」も少ない。

これは、国民にいい印象を与えますね。
何となくこの人に任せておけば安心、というふうに、情緒レベルで多くの国民が思い込んでしまう。
特に「おばさん」には受けがいいでしょう。
それが曲者です。
イメージがよすぎると、その人が率いる政権が何をやってきたかが忘れられます。
その意味では、次期首相候補の一人と目されるイケメン・小泉進次郎などもたいへん困った人物です。
ちなみにこの人は、経済のことなど何もわかってない〇〇議員です。

②の問題。
安倍首相が、西田昌司参議院議員、藤井聡京都大学大学院教授、評論家・三橋貴明氏と食事を共にしたことがありました。
ネット広告で四人並んでいる広告をよく見かけますね。
その折、安倍氏は、「自分には三つの敵がいる。自分一人では戦えないので、力を貸してほしい」と漏らしたそうです。
これは三橋氏の証言によって明らかになっています。
https://keieikagakupub.com/38JPEC/adw/?gclid=EAIaIQobChMIt-vNlOD34gIVhfNkCh39qgTSEAEYASAAEgJrVvD_BwE

筆者の推定になりますが、三つの敵とは、
①朝日新聞
②グローバリズム
③財務省

でしょう。

もし彼がそう言ったとすれば、たしかに「一人では戦えない」と漏らすのももっともでしょうね。
しかし、彼はこの三つの敵、特に後の二つと本気で戦って来たでしょうか。
自ら本気で戦いもしないのに、他人に援けを求めたとすれば、それは日本国民の総司令官として、責任逃れのそしりを免れないのではないでしょうか。

筆者は、安倍氏を個人攻撃したくてこんなことを言っているのではありません。
公人として最高の地位にいる人なのですから、批判を受けて当然だと思うのです。

10月の消費増税決定の期限がもうすぐそこに迫っています。
さて、これが決定されてしまったとします。
すると、安倍首相は、就任以来、この三つの敵のどれひとつにも勝てなかったことになります。

・TPP参加→グローバリズムに敗北
・日韓合意→(おそらく)アメリカの意向に追随。つまりグローバリズムに敗北
・先に挙げた一連の制度改革→グローバリズムに敗北
・PB黒字化目標→財務省に敗北
・消費増税→財務省、朝日新聞に敗北
・緊縮財政→財務省、朝日新聞に敗北


全敗です。
一国の総理大臣という強大な権力を持ちながら、こんなことがあるでしょうか(民主主義国家の代表に大きな制約があることは認めますが)。
この疑問に対する答えは二つしか考えられません。
一つは、彼には本気で戦う気など初めからなかったということ。
もう一つは、彼の主観がどうあれ、周囲の勢力に押しつぶされてしまったということ。

筆者は、いちばんありそうな答えは、この二つの両方だろうと考えています。
財務省との戦いは、たしかに存在しました。
これはいろいろな傍証によって確かめられます。
いまここでは、ともかく増税を二度延期した事実と、PB黒字化目標の達成年次を5年延期した事実を挙げるにとどめましょう。
しかし、グローバリズムそのものを示す、諸制度の改革(農協法、移民法、水道民営化その他)については、安倍首相自らが明確な抵抗を示したとは思えません。
これらの改革のイニシャティヴを握っていたのは、小泉内閣時代から規制緩和(構造改革)路線を主導してきた竹中平蔵です。
竹中と安倍氏との関係はどうだったのか。

安倍氏が第二次安倍政権を成立させたとき、アベノミクスの三本の矢という施政方針を打ち出しました(2013年初頭)。
復習しておきましょう。
①大胆な金融政策――金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭
②機動的な財政政策――10兆円規模の予算で政府自ら率先して需要創出
③民間投資を喚起する成長戦略――規制緩和によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

①はリフレ派の考えに従ったもので、日銀の国債買い上げによって事実上政府の負債は減少しましたが、市場のインフレ率はさっぱり高まりませんでした。デフレマインドはお金の量だけ増やしても解決できなかったのです。
②は、最初の1年だけで、次年度からは、たちまち財務省の緊縮路線に抑え込まれました。
③ですが、これこそ竹中がずっと続けてきた新自由主義的な規制緩和路線、つまりグローバリズムをそのまま踏襲したものです。
筆者の想像では、安倍氏は、この路線を正しいものと信じ込んでいたフシがあります。先に述べたように、安倍政権になってから次々と成立した、国民生活を破壊する諸制度に、彼自身がまともに反対した形跡がないからです。

さてこうみてくると、実際には安倍首相は、いわゆる「三つの敵」に対して心から闘志を燃やして戦いに挑んだとはとても言えないことがわかります。
せいぜい財務省の緊縮路線に抵抗を示したくらいのところでしょう。
しかし今回、消費増税が決定されれば、それも空しくなってしまいます。

もし本当に彼が「三つの敵」を倒そうとして、総理の職を賭けて戦いに挑んだなら、事態は、こんなにひどくならなかったでしょう。
それは、必ずできたはずです。
でも、何一つできなかった。

すると、安倍首相の政治家としての本質とは何なのか。
筆者は、これをあえて、「周りばかりを気にする臆病政治家」と規定したいと思います。
三世政治家としてこれまでになくパフォーマンスに長けたこの人は、その面のすぐれた能力によって、国民をも自分自身をも欺いてしまったのです。
つまり、しょせんは、自分なりの信念を貫く強い意志を持たない「お坊ちゃん政治家」なのです。

何年も前のこと、ある(保守的な傾向を持つ人ならたいていは知っている)安倍シンパだった知人に、「安倍さんはしょせんお坊ちゃんだ」と告げたところ、彼はそれを言下に否定し、後の書き物にも、「お坊ちゃんなどと呼ぶ人がいるが、そんなことはけっしてない」という意味のことを書いていました。
さて、事態は動き、この人も、いまではさすがに心情的な安倍シンパにとどまっているわけにはいかなくなったことでしょう。

筆者も呼びかけ人の一人に名を連ねている政策集団「令和の政策ピボット」は、平成の末期に中央政治を運営した安倍政権の大失敗に対する深い反省から生まれました。
https://reiwapivot.jp/
平成に猛威を奮った緊縮財政やグローバリズムや構造改革が、国民の暮らしを深く破壊した事態をよく見つめ、二度とこのようなことがないように、大きなピボット(転換)を図りましょう。
国民の皆さんには、イメージで政治権力者を選ぶ愚を克服し、政策の良し悪しをよく吟味したうえで適任者を選ぶことを心から期待したいと思います。


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第一次産業のグローバル・ジャパン完成!

2019年05月24日 20時13分04秒 | 政治


あまり話題になっていませんが、5月21日、ドサクサに紛れて、またもやトンデモ法案が衆院本会議を通過しました。

全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案は21日、衆院本会議で自民、公明両党、国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決された。参院は22日の本会議で審議入りし、与党は月内にも成立させる構えだ。政府は昨年来、第1次産業や公共インフラの民間開放を拡大する法整備を相次いで進め、急激な規制緩和が不安視されるケースも目立っている。
https://mainichi.jp/articles/20190521/k00/00m/010/179000c

国有林は全国の森林の3割を占めています。
この伐採の「自由」を民間業者に与えようというのです。
「改正案」なるものの骨子は以下のとおり。

・伐採可能な国有林を農相が「樹木採取区」に指定。政府は1カ所あたり数百ヘクタールを想定
・民間事業者に採取区での森林伐採を最長50年間委託
・事業者は国に樹木採取権の設定料と伐採した樹木料を支払う
・農相は事業者に伐採後の再造林(植え直し)実施を申し入れ

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190516-00000083-mai-soci&fbclid=IwAR2GSsI4HVjT0OcaZmHSpQhmjTbsx1-rDC0K-FG7j9EEwyzuxZlq_wA5IwM

現行の国有林伐採では、せいぜい数ヘクタール規模で、1~数年単位で農水省が入札し、再造林は別の入札で委託しているそうです。
政府は、民間への開放によって、大規模集約化による効率化を図り、低迷する林業の成長を促し、伐採期間は10年が原則で、地元の森林組合など中小業者を想定していると説明しています。

白々しい大ウソです

なぜなら、第一に、数百ヘクタールの森林を50年間にわたって伐採することを民間に委託するなどということをすれば、その権利を取得できるのは、資本力のある大企業に決まっているからです。

第二に、「10年が原則」というのは、法案のどこにも明記されていません。

第三に、伐採された森林の跡地利用について国がどういう方針を持っているかについても明記されていず、再造林も「申し入れる」となっているだけで、義務化されていません。
業者が申し入れを拒否することも可能です。
採取後、権利を取得した業者あるいは別の業者が、その跡地利用について、森林以外の使用方法を申請してきた時に、林野庁はどういう対応を取るのか。

たとえば、広大な土地を必要とするメガソーラー発電ビジネスのために利用することなどを視野に入れた業者が当然現れるでしょう。
筆者は、さまざまな理由から、ソーラー発電の将来性そのものに対して否定的な見解を持っていますが、そのことはしばらくおきます。

次の写真は、鹿児島県の森林がメガソーラービジネスのために無残に伐採されてしまった例です。


こういう光景は、いま全国至る所で見られ、これからの計画に対して、反対運動も盛んに起きています。
また次の写真は、霧ケ峰高原の森林に計画されているメガソーラーの計画図です。


これらは民有林でしょうが、国有林だって、こんな法案を平気で通してしまうわが国では、きちんと環境保全がなされる保証は全くありません。

言うまでもなく、日本の豊かな森林は、水害、土砂災害の防止に大きな役割を果たしています。
この法案は、近年頻発しているこれらの災害に対する防災の観点が配慮されているでしょうか。
そうは思えません。

第四に、例によってこの法案には、外資規制がありません
グローバル企業が金にものを言わせて伐採権を取得し、それによって木材の売り上げを稼ぐだけではなく、腰の据わらない日本の国土行政の足元を見て、次々に跡地利用の新ビジネスに参入してくる可能性があります。

以上見てきたように、この法案が、やせ細りつつある日本の林業にさらに壊滅的な打撃を与えることは明白です。


これは、林野庁一個の問題ではなく、経産省、資源エネルギー庁、国土交通省、環境庁その他、要するに、中央政府全体の問題なのです。

この法的措置が、農協法改正、種子法廃止、漁業法改正、水道民営化など、安倍政権が進めてきた一連の構造改革・規制緩和路線の延長上にあることは明白です。
そこには、日本の産業や国民の生活を守ろうとする意図はみじんもなく、逆に、利益だけを追及する大企業、グローバル企業に、公共的な部門をすべて明け渡すという方針しか読み取れません。

2018年の12月10日に、第197臨時国会が幕を閉じました。
この国会の最末期に、改正入国管理法(移民法)、改正水道法(水道民営化)、改正漁業法(漁協解体)の三つが、バタバタと成立しました。
これによって、大資本やグローバル資本を利するだけのかたちに、ほぼ完全に書き換えられたのです。
筆者は、この日のことを忘れないために、勝手にわが国の「国恥記念日」と呼んでいます。
しかもこの国恥記念日は、他国からの直接の侵攻によるものではありません(間接的にはそう言えますが)。
いやしくも独立国家の体裁を保っている民主主義国の権力中枢が、自ら進んでグローバル・ジャパンを作り上げたのです。

しかし、グローバル・ジャパンはまだ完成していませんでした。
このたびの国有林野管理経営法の改正が成立すれば、農・林・水産と、第一次産業のすべての領域で、グローバリズムに城を明け渡す準備が整ったことになります。
さあ、私たちは揃って、グローバル神にお供え物を捧げましょう。

ところで、まったく関係ないこと(じつは関係あるのですが)を最後に付け加えます。

先にもこのブログで触れましたが、筆者は、このたび長編小説を完成させました。
この小説は、2018年の8月から12月までの期間、ごく普通の一人の女性と一人の男性がモノローグを交替で繰り返す形を取っています。
ただし、単なる恋愛ドラマではなく、作品の中に、現代日本の政治、経済、社会に対する批判的なメッセージを込めています。
その中に、上に述べたようなことも含まれています。
グラフなども登場する、実験的な試みです。
そんなのは文学じゃない、とお感じの方もいると思いますが、筆者自身は、少しでも多くの方に自分の考えをわかっていただくために、意図的にこういう方法をとっているつもりです。
現在、アメブロに毎日少しずつ分載しており、二か月弱、つまり参議院選挙の投票日までには終わる予定です。
少し堅苦しく、理屈っぽいかもしれませんが、ご関心のある方は、ぜひアクセスしてみてください。
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●『クライテリオンメルマガ』
・池袋事故のSNS炎上から何を学ぶか
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190426/
・ポリティカルコレクトネスという全体主義
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190329/
・性差、人権、LGBT
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190302/

●『「新」経世済民新聞』
・消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿
https://38news.jp/economy/12512
・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
https://38news.jp/economy/12559
・先生は「働き方改革」の視野の外
https://38news.jp/economy/12617
・水道民営化に見る安倍政権の正体
https://38news.jp/economy/12751
・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
https://38news.jp/default/12904
・急激な格差社会化が進んだ平成時代
https://38news.jp/economy/12983
・給料が上がらない理由
https://38news.jp/economy/13053
・「自由」は価値ではない
https://38news.jp/economy/13224
・日経記事に見る思考停止のパターン
https://38news.jp/economy/13382
・優れた民間人のほうが主流派経済学者などより
ずっとマシ
https://38news.jp/economy/13506
・まもなく小説を完成させます
https://38news.jp/economy/13576

●『Voice』2019年2月号
「国民生活を脅かす水道民営化」

なぜ経済問題は敬遠されるのか

2019年05月15日 09時48分38秒 | 政治

世界のGDP成長率

令和元年5月13日、ついに内閣府が景気動向指数の基調判断を、6年2カ月ぶりに「悪化」へと引き下げました。
いままでいろんな屁理屈をつけて「いざなぎ越え」だの「ゆるやかな回復基調」だのとデマをまき散らしてきたのが、ついに認めざるを得なくなったわけです。
しかし、この判断は、たしかな数字に依拠してなされたというよりは、政権内部の力関係にもとづく、政治判断だろうと推定されます。
為政者たちが、経済を理解した上で、判断したわけではないでしょう。
不景気を示す指標なら、実質賃金、物価指数、民間最終消費支出、GDP成長率、世界に占めるGDPのシェアなど、これまでいくらでもあり、みな低下あるいは低空飛行していることが歴然としているからです。

政府がようやく「悪化」を認めるに至ったということは、来たる7月の参議院選挙(場合によっては衆参同日選挙)を睨んでのことと思われます。
10月に予定された消費増税を実行に移すか移さないかは、おそらくこの選挙の最大の争点となるでしょう。
もし実行に移すと決断すると、与党自民党が大敗するだろうという危惧が、党内にも高まっているようです。
それを避けるために、増税延期のカードを切ったうえで、総選挙に持ち込むというのが、いまのところ、最もありうるシナリオです。
それには、「景気の悪化」という判断を前もって示しておき、その上で、「延期やむなし」との決断に正当性を与えなくてはなりません。
そのことによって、野党の批判をあらかじめ封じておこうという心算でしょう。
リーマン級、リーマン級と、バカの一つ覚えのように言っていたのでは、安倍政権が立たされている難局を乗り越えられない――そういう政治判断が熟してきたのだと考えられます。

「延期」ということになれば、ひどい状態の日本経済が一息つけることはたしかでしょう。
しかし本当は、延期ではダメなのです。
たとえば、東京五輪の行なわれる2020年まで延期、などとなったら、目も当てられません。
今年度中に五輪特需が終わりますから、五輪が行なわれた後は、その反動で投資も消費もさらに落ち込むことが予想されます。
その上に増税実施となれば、日本経済は壊滅的打撃をこうむります。

消費税が、富裕層に優しく貧困層に厳しい逆進性を持つことは、よく知られています。
その上、増税が経済にもたらす打撃は長期にわたります。
これは1997年、2014年と2回にわたる増税が証明しています。
また、言うまでもなく増税を唱える財務省が、その根拠としている「財政破綻の危機」なるお題目には、
まったく根拠がありません。
税率のアップによって、消費は冷え込み、これと連動して投資もさらに縮退します。
すると財務省が見込んでいる税収増は実現されず、かえって「健全財政」は果たされなくなります。
デフレ期の増税など、病人に対して薬の代わりに毒を盛るたぐいの、狂気の振舞いです。
ただちに凍結、あるいは、減税、最良なのは廃止することです。

ところで、財務官僚が国民生活のことなど何も考えず、「PB黒字化」という教義だけをひたすら信じる狂気のカルト集団であることは、すでに一部で知られています。
しかし政治家たちは、どうして、こんなカルト集団の言い分に洗脳されてしまったのでしょう。
財務官僚も政治家も、経済がわかっていないバカだから、と片付けてしまえばそれで終わりですが、それだけでは、そういう事実を確認し、この事実は変わりっこないから諦めようぜと言っているのと同じです。
もう少しこの問題を考えてみましょう。

ごく少数の例外を除いて、政治家たちは、なぜこんなにもマクロ経済を知らないのか。
あるいは知ろうとしないのか。
日本の政治を動かそうという意思を持った人たちが集まっているはずなのに、そのために必要不可欠であるマクロ経済について、最低限の知見すら持ち合わせていないのはなぜなのか。

以下、箇条書きにして、その理由を挙げてみます。
(1)政治家もわれわれふつうの生活者と同じ知恵と関心しか持っていない、凡人である。
(2)民主主義的な手続きによって選ばれた現在の政治家は、人格イメージや演説のうまさや現職の強みや背後の組織力によって選ばれているので、別段、経済の知識など必要としていない。
(3)いったん選ばれてからも、組織内の分掌に割り当てられ、そこに集中することを余儀なくさせられるため、広く公共的な問題を見渡そうとする視野を失ってしまう。

この(3)の点ですが、現代の政治組織は、官僚組織や企業と同じように、分業化とトップダウンの構造を持ち、党内の自由な議論の空間が存在していないように思います。
政治組織こそ、他の組織と異なり、公共的な問題についての自由な討論の場が持続的に確保されなくてはなりません。
それなのに、細分化されたアドホックな事務的仕事に追われ、いつの間にか、官僚の提出する「資料」のままに動く習慣を身につけてしまいます。
しかし、国会議員は、常に国民全体の安全と幸福について考えるべき使命を担っており、そのためにこそ高い給料と秘書を与えられ、国政調査権も持っているのですから、この怠惰な習慣に眠り込んではなりません。
これらの特権について「身を切る改革」などというバカなことが言われましたが、「身を切る」のではなく、せっかくの特権をフルに活用すべきなのです。

政治家は、消費増税のような国民すべてにかかわる重要な問題について、なぜ増税が必要とされてきたのか、誰がそれを声高に主張しているのか、なぜそんなことを主張し続けるのか、自分の頭で、また反対している人たちの意見によく耳を傾けて、勉強しなくてはならないはずです。
しかし、彼らのほとんどがそれをやっていないのです。

「多忙」や「分掌の拘束」を言い訳にせず、党内に必ず、国政、特に重要な経済政策に関する自由な討論の場と時間を設けておき、そこで、キャリアや派閥に関係なく、対等に議論しあう。
そのために各人、勉強を怠らない。
これは、近代政党のあるべき姿としてかなり重要な反省点ではないでしょうか。


もう一つ、政治家に限らず、私たちは一般に、政治的な事象、たとえば、国政選挙とか、日韓問題とか、米朝首脳会談とかに対しては、妙に熱くなる傾向があります。
マスメディアもそういう問題には時間をかけて鳴り物入りで報道しますね。
しかし、たとえば消費増税や移民受け入れ政策や水道民営化や発送電分離などは、私たちの身近な生活圏、つまり家政に直接かかわってくる問題であるにもかかわらず、メディアもあまり報じません(これらについては、既定のこととして報じるばかりです)。
これはどうしてでしょう。

ここで、「狭義の政治」と「広義の政治」という概念分けを試みます。

狭義の政治では、国内政局の力関係、隣国の反日的姿勢、国際環境の変化などが問題とされます。
しかしこれらは、私生活からの遊離度・超越度が高い問題です。
もっとも政治とは、いずれにせよ、「わたくし」の領域から超越した「共同観念」を扱う領域です。
マルクス流にいえば、「上部構造」ということになります。
ところが、その超越の度合いにも落差があって、より超越度の高い問題と、より「わたくし」領域に近い問題とがあります。
前者だけに特化するのが「狭義の政治」であり、両者を含むのが「広義の政治」です。

不思議なことに、私たちは、超越度が高ければ高いほど、興奮する傾向があるのですね。
そしてこの興奮(たとえば「韓国の駆逐艦が自衛隊の対潜哨戒機にレーダー照射をした」といった問題に対する興奮)が、足元の家政という最重要問題を忘れさせます。
狭義の政治は、ある意味で、身近な生活問題を忘れさせてくれる麻薬のようなものです。
それは日々の報道を通じて、私たちの政治意識の表層を覆い尽くしてしまうのです。
床屋政談を繰り返すことは、私生活のうさを紛らして、麻痺させてくれるのですね。
自民か立憲民主かといった政局談議、保守とリベラルのイデオロギー対立の問題などというのも、この麻薬に酔った人たちが作り上げた空中楼閣の典型です。
この人たちのなかに、経済を理解している人がどれくらいいるというのでしょうか。

本来、「広義の政治」には、生活に直結するはずの経済政策のいかんが中核に位置しており、これを外しては、そもそも経世済民を目指すはずの「政治」という概念そのものが成り立ちません。
しかし麻薬による麻痺の作用によって、本末転倒が起きます。
ここに、経済一般に対する関心の希薄さが、集団心理として成立してしまうのです。
これに、「経済学」という、難解な数学などを用いて学問めかした「権威」が、追い打ちをかけます。
私たちは、こうして経済について自ら考えることを敬遠・放棄してしまうのですね。
経済って、なんだか難しそうでわからないわ、ってね。
結果、たとえば消費増税がどんなにトンデモ発想に基づいていても、それを受け入れてしまうし、逆にMMT理論がどんなに当たり前のことを言っていても、トンデモ理論扱いされてしまうのです。

読者のみなさんは、中野剛志氏の最近著『奇跡の経済教室』はもうお読みになりましたか。
未読の方にはぜひおすすめです。
これを読むと、安倍政権、特に財務省の政策がいかにトチ狂ったもので、日本をダメにしてきたかがわかるだけでなく、経済問題そのものに対する敷居がぐっと低くなります。

筆者自身、数年前までは、経済はどうもわからないという敬遠の姿勢を取っていたのです。
しかし、それではいけないと思い始め、極力、三橋貴明氏や、藤井聡氏、中野氏などの主張に触れることに勤めました。
その結果、マクロ経済のからくりがだいぶ読めるようになり、読めるようになると、そんなに難しくないということがわかってきたのです(まだ再現可能性という点で未熟ですが)。
わかってくると、何を「敵」とすればいいか、「味方」と思えた考え方もじつは「敵」だった、など、その照準が定まってきます。
読者の中に、もし「経済はどうも……」と思っている方がいたら、どうか、筆者が身をもって体験してきたことを参考になさってください。



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・池袋事故のSNS炎上から何を学ぶか
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190426/
・ポリティカルコレクトネスという全体主義
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190329/
・性差、人権、LGBT
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●『「新」経世済民新聞』
・消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿
https://38news.jp/economy/12512
・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
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・水道民営化に見る安倍政権の正体
https://38news.jp/economy/12751
・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
https://38news.jp/default/12904
・急激な格差社会化が進んだ平成時代
https://38news.jp/economy/12983
・給料が上がらない理由
https://38news.jp/economy/13053
・「自由」は価値ではない
https://38news.jp/economy/13382
・優れた民間人のほうが主流派経済学者などより
ずっとマシ
https://38news.jp/economy/13506
まもなく小説を完成させます
https://38news.jp/economy/13576

●『Voice』2019年2月号
「国民生活を脅かす水道民営化」

「令和の政策ピボット」にご賛同ください!

2019年04月03日 15時45分51秒 | 政治


新しい御代、令和を迎えるにあたり、三橋貴明氏、藤井聡氏を中心に、政策集団「令和の政策ピボット」が誕生しました。
https://reiwapivot.jp/
できるだけ多くの方に賛同者になっていただくことを望みます。

このプロジェクトに参画した者のひとりとして、掲げられている政策について感想を述べさせていただきます。

このプロジェクトで、特に大切なのは、「1.財政・金融政策」です。
この政策が実現されない限り、以下の経済政策、真・地方創生、食糧安全保障、エネルギー安全保障、科学技術、外交・領土問題などの諸政策は、一つも実現されないと言っても過言ではありません。

この財政・金融政策は、この間、しつこく遂行されてきた財務省の狂気の緊縮財政を否定するものです。
日本がこんなに衰退してしまったのも、国民生活の貧困化がこれほど進んでしまったのも、ひとえに、この緊縮財政の固執によるものです。
何をやるのも「先立つものは金」という当たり前の常識を政府が取り戻さなければ、日本は滅びます。

さてその財政・金融政策では、まず、財務省改革として、「安定的な経済成長の達成」を謳っています。

これは、財務省設置法第三条にある「健全な財政の確保」が、事実上、PBの黒字化目標という誤った政策実現手段にすり替えられ、これが、諸外国でふつうに達成できている経済成長を阻み、これまで二十数年も続いてきたデフレの元凶をなしているからです。

PB黒字化目標に代えるに、政府の負債対GDP比率という正しい健全財政の概念を用いて積極財政に転じれば、デフレから脱却でき、消費増税はおろか、消費税そのものも必要なくなります。
なぜなら、積極財政によって民間経済の活性化を促し、GDPの増大が達成できさえすれば、分母が大きくなるわけですから、政府の負債の比率は相対的に縮小し、健全財政が実現でき、そうすれば国民からわざわざ血税を搾り取る意味がなくなるからです。

また、財政法第四条、第五条は、もともとGHQが日本に軍事予算を組ませないために、国債の発行を禁じたものです。
この時代錯誤な条項がいまだに残存しているために、国債増発による積極財政にブレーキがかかっていて、必要な支出拡大が阻まれています。

ここで必要な支出拡大とは、単年度予算におけるそれではなく、具体的には、国土強靭化、公共インフラの整備、防衛力強化、科学技術振興、教育充実、医療・介護サービスの拡充、地方経済再生などの中長期的な投資系支出を意味します。
これによって、数年のうちに、日本は、まともな経済成長を成し遂げ、さまざまな意味の安全保障が達成され、地方の疲弊も克服できるでしょう。

ちなみに、財源は、言うまでもなく新規国債の増発によって賄います。この政策の実行を長い間妨げてきたのが、財務省が国家財政と家計の同一視というトリックによって政治家、マスコミ、ほとんどの国民を騙してきた「財政破綻の危機」なる大ウソです。

三ツ橋氏や藤井氏や中野剛志氏が何千回も繰り返してきたように、100%自国通貨建ての国債では、財政破綻はあり得ません。
日本に財政問題は存在しないのです。
これは、最近、アメリカで評判になっているMMT(現代貨幣理論)によっても証明されています。
https://toyokeizai.net/articles/-/271977?fbclid=IwAR02G9QUgeMG1SfwUrLYnHvfcf7nZDdowR4Fj3XpFFAsED5UqkmdOHSgDEI

日本で狂った財政政策が続行され、それが生み出した長年の危機(というか、多大な犠牲)を、危機とも犠牲とも思わず受け入れてきたわが国民のノーテンキぶりが、例のごとくアチラの理論の輸入によって修正されるとすれば、それ自体は、まことに情けないことですが、しかし、背に腹は代えられません。
この際、誤りを正すのに役立つなら、活用できるものは何でも活用することにしましょう。

さらに、移民法、水道民営化、IR法、高プロ制度、種子法廃止、農業競争力強化法、生物特許制度、遺伝子組み換え食品表示義務の緩和、労働者派遣法改正、発送電分離など、安倍政権のもとで矢継ぎ早に行われた(行われつつある)政策は、すべて、グローバル企業の利益拡大を目的とした竹中平蔵一派による規制緩和政策です。

これらが、日本国民の豊かさや安全を阻害し、国論の分裂と内ゲバ(古い言葉が出ました)、労働者賃金の低下、主権喪失と外資による侵略を招くものであることは論を待ちません。
令和ピボットでは、この竹中構造改革という売国政策を徹底的に打ち砕いていきます。

また、原発問題と基地問題は、これまで、いわゆる「左右対立」を激化させてきた二つの大きな論点ですが、令和ピボットでは、次のような立場を採っています。

原発が大きな危険をはらむ発電方式であることは言うまでもありません。
もし現時点で、これに代わって、十分な安定供給を保証する発電方式があれば、原発廃止もやぶさかではありません。
しかし昨年9月の北海道胆振東部地震における全道ブラックアウトに見られるように、原発をすべて停止した状態では、今後の電力需要を満たすには、はなはだ不十分です。

また、再生可能エネルギーも、太陽光や風力は、供給がきわめて不安定です。
ことに太陽光は、広大な土地を必要とするため、自然環境を無残に破壊します。
またこれは、レントシーカーたちの恰好の餌食となってきました(固定価格買い取り制度はその典型です)。

中小水力、ダムのかさ上げ、地熱その他は、可能性が期待できますが、実用化には相当の時間が必要とされます。

火力発電への過度の依存も、発電施設の劣化、国際関係の悪化に伴う資源確保の困難など、多くの不安定要因を抱えています。

そこで、原発ゼロを将来的な目標とし、いまのところは、最大の安全確認のもとにベースロード電源として位置づけ、順次再稼働に踏み切っていくのが現実的と考えます。

基地問題については、米軍基地にこれだけの広大な土地を取られ、付近住民は、危険や騒音の悩みを抱えています。
しかも日米地位協定によって、治外法権に等しい状態が続いている事実を、このままにしておくわけにはいきません。

民間航空機が頻繁に飛び交う今日、本土の空域の大きな部分が米軍に占領されているという事実は、きわめて危険な状態であることを意味します。

こんな国は、わが国以外、どこにもありません。
米軍には早く撤退してもらいたいと思うのは、沖縄住民ならずとも、日本国民全体のひそかな願いでもあるでしょう。

しかし、今日、中国の覇権主義をはじめとして。東アジアの国際関係は、きわめて不安定な状態にあります。
戦後、憲法九条の制約もあり、事実上は、ほとんど武装解除された状態にあると言ってもよいわが国は、米軍撤退後の空白をどのように埋めたらよいのでしょうか。

この問題の解決には、自主防衛力の充実を迅速に図るべきですが、長きにわたる習慣のため、いまの日本国民の大部分は、その気概を喪失しています。
まずは自分の国は自分で守るという気概を取り戻す必要があります。
また、物理的にもすぐに満足な防衛力を身につけるためには、膨大なコストと、国際社会の合意を取り付けるための外交努力とを覚悟しなければなりません。
その間にも中国は着々と軍事予算を増大させ、現在すでに日本の5倍の軍事費を計上していると言われています。

したがって、当面は、不本意ながらも、アメリカの軍事力に依存し、その片方で、自主防衛力の拡充にできるだけ速やかに努めていくという両面作戦を取らざるを得ません。

以上、「令和の政策ピボット」の、特に政策部分について思うところを述べてきました。
賛同していただける方は、ぜひ、今すぐにでも、HPのご案内に従って賛同手続きを行ってください。
よろしくお願いいたします!


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●『別冊クライテリオン 消費増税を凍結せよ』(2018年11月14日発売)
「消費増税の是非を問う世論調査を実行せよ」
●『クライテリオンメルマガ』
・なぜ間違った知と権力がまかり通るのか
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20181221/
・「日本の自死」の心理的背景
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190201/
・性差、人権、LGBT
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190302/
●『「新」経世済民新聞』
・消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿
https://38news.jp/economy/12512
・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
https://38news.jp/economy/12559
・先生は「働き方改革」の視野の外
https://38news.jp/economy/12617
・水道民営化に見る安倍政権の正体
https://38news.jp/economy/12751
・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
https://38news.jp/default/12904
・急激な格差社会化が進んだ平成時代
https://38news.jp/economy/12983
・給料が上がらない理由
https://38news.jp/economy/13053
・「自由」は価値ではない
https://38news.jp/economy/13224
・日経記事に見る思考停止のパターン
https://38news.jp/economy/13382
●『Voice』2019年2月号
「国民生活を脅かす水道民営化」



領土を平気で侵略させる日本

2019年01月23日 00時01分39秒 | 政治


1月15日付、「新」経世済民新聞のSaya氏の記事は秀逸でした。
群馬県大泉町の現状がリアルに伝わってきます。
同時に日本政府の移民政策や、外国人(主に中国人)の領土侵略がいかに恐ろしいかも。
https://38news.jp/politics/13070

不肖私も外国人(主に中国人)の不動産取得による領土侵略(サイレント・インヴェ―ジョン)については、これまで何度か触れてきました。
https://38news.jp/economy/10151
https://38news.jp/politics/12044
https://38news.jp/asia/12312

要点をまとめると、
(1)北海道・沖縄を中心として、中国人の日本の土地爆買いは全国土の2%に達している。これは静岡県全県の面積に匹敵する。
(2)国防の要衝である対馬は、韓国観光客の激増だけではなく、ホテル、民宿なども韓国人に経営され、実質的に韓国化している。
(3)自治体は、これらの実態を知っていながら、正確に把握していないし、しようとしない
(4)日本には不動産購入の外資規制はなく、国交省は、外国人が買いやすいように紹介パンフレットを発行している。
(5)所有者不明の土地は全国で410万ha、これは九州全域を超える面積である。
(6)政府は、2018年6月、所有者不明の土地の利用を、最大10年、民間業者やNPOなどが、公共目的に限って使えるようにする特別措置法を成立させた(2019年6月より施行予定)。

(4)はいったいなぜだと思う人が多いでしょうが、これは、後述するように2つの克服困難な理由があります。
(4)と(6)とを合わせ考えると、これは日本の国土のサラミ・スライスを企んできた中国の思うつぼです。
政府は、「公共目的に限って」と歯止めを置いたつもりでしょうが、日本の土地取得は、許可制はもちろん届け出義務もなく、登録は任意ですから、自治体の規制や周辺住民の手の届かないところで自由にできます。
たとえば、中国企業(国営も含む)の子会社の日本法人が買って、それを中国企業に転売すれば、その企業の所有になりますし、さらにそれを転売すれば、所有者を見つけることは至難の業になります。
また、公共目的かどうかを審査するなどといっても、取得の際の名目などは何とでもつけられるでしょう。
審査後に変えてしまってもいいわけです。
まして転売されれば、追跡することはほぼ不可能になります。
ここには、長年にわたる政府の国土行政の無策ぶり、それをきちんと追及してこなかった国会議員たちの怠慢ぶりが躍如としています。
主権、領土、国民は国家の三要素と言われますが、この三要素のいずれも、日本は喪失しようとしているのです。
某宇宙人が唱えた「日本は日本人だけのものではない」という名言が、まさに現実化しつつあるわけです。

2018年12月10日に、この問題を粘り強く追及し続けてきた産経新聞の宮本雅史氏と青森大学教授の平野秀樹氏による『領土消失』(角川新書)が出版されました。
未読の方は、ぜひ読んでください。
奇しくもこの日は、あのひどい二つの法案、移民法案水道民営化法案が強行採決された後、第197臨時国会が閉じられた日でした。
グローバリズム・ニッポン完成記念日として、忘れないようにしましょう。

ところで同書には、北海道や対馬の惨状のほかに、東北や山陰の山が中国人に買われている事実、奄美大島の西古見地区(人口35人)に7000人を乗せた22万トン級の大型クルーズ船が押しかける計画が、国交省お墨付きで進められている事実などが書かれています。
クルーズ船の乗客は、もちろん中国人観光客です。
そのなかには当然、不動産の買い占めを狙ってくる人も含まれているでしょう。
宮本氏は、この奄美大島問題について詳しく記述しています。
その中で、次の二つの事実が目を引きました。

(1)中国の本来の「占領」目的は、対岸の観光名所、加計呂麻島ではないかと想定されること。

加計呂麻島は、水深が深く、東西両端で外界に接続しているので、天然の要塞と言っても過言ではありません。
日露戦争時、連合艦隊がここに停泊して演習を重ね、出撃してバルチック艦隊と決戦したそうです。
島には、軍事施設の戦跡が数多く残っており、奄美大島との間の大島海峡沿岸そのものが、国防の重要な拠点でした。

(2)中国人の観光誘致ばかり考える国交省と、中国に対する国防戦略を考える防衛省とは、真逆のほうを向いていること。

防衛省は、奄美北東部に陸自「奄美駐屯地」を、南西部に海自「瀬戸内分屯地」を建設しています。
2018年度中に、「奄美駐屯地」には中距離地対空誘導ミサイル運用部隊など350人を、「瀬戸内分屯地」には地対艦誘導ミサイル運用部隊など210人を配する予定です。
この、国交省と防衛省との分裂した施策の方向性は、いまの日本政府の融解状態を象徴しているでしょう。

さて、なぜ日本は他国と違って、不動産の外資規制ができないのでしょうか。


出典:『領土消失』平野秀樹氏

これについては、同書で、平野氏が苦渋とともに二つの理由を挙げています。
ふつう、日本が外国人の不動産取引に規制を敷いていないのは、WTOのGATS(サービス貿易にかかる一般協定)で、160を超える国々と交わした「外国人等による土地取引に関し、国籍を理由とした差別的規制を貸すことは認められない」という約束を遵守しているからだと言われています。
これは、1994年のウルグアイラウンド交渉の際に、日本自らの意思として、「外国人土地法に基づいて留保を行なうことは、サービスの自由化を率先して推進している日本の立場として適切でない」と謳ってしまったからです。
例によって、国益を考えない、お人好し丸出しの宣言でした。
しかし、GATSをバカ正直に守っているのは日本だけで、上の表のように、世界の四割の国が、国益を優先させるために、何らかの規制をかけているのです。
他の国にできて日本にできないはずはないと思うのですが、平野氏によれば、もし今から土地売買に対する外資規制を始めようとすると、30近い条約を改正しなくてはならず、おまけに各国との間で交渉を重ねて、規制の見返りに別の自由化を認めなければならなくなるというのです。
平野氏は、こう語ります。

振り返って考えてみると、それは1994年までの交渉時だけの問題ではなく、戦後の日本が長い期間、領土保全などの国家の安全保障にかかる諸問題について、無思考なまま、何ら身構えることなく、やり過ごしてしまったツケが回ってきたということでもあるのだろう。

もう一つの理由は、憲法29条です。

29条 財産権は、これを侵してはならない

この条文には主語がありません。
「この憲法は日本国民にのみ適用される」という条文でも別にあればいいのですが、それもありません。
結果的に、外国人が合法的に日本の土地を買っても、それはいくらでも許されることになります。
戦前の帝国憲法には、次のように書かれていました。

27条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ

はっきり日本国民に限定されていますね。
これなら、外国人の土地購入に対して規制をかけることは容易です。
しかし戦後の日本は、9条2項のみならず、憲法で、経済侵略や国土侵略に対する自衛権放棄を約束してしまっているわけです。
戦後憲法はGHQが占領統治のために作ったとよく言われますが、占領が終わってから六十数年経つのに、その間、日本人は、国土の安全保障に対する自覚がないままに、眠りこけてきました。
その結果、現在、中韓の「静かな侵略」を許してしまったのです。

1月7日、中国人が多いことで有名な西川口の芝園団地に行ってみました。
2400世帯、住民5000人を擁するこのマンモス団地は、最高15階建てまである棟が15棟、殺風景な風情で、傲然と構えています。
月曜日だったせいか、団地内はひっそりしていましたが、それだけに、不気味な感じも漂います。
URの物件情報を見ると、1k(33㎡)~3DK(75㎡)で54,000円から122,100円、出物では、築40年経っているのに、45㎡で75,000円以上、52㎡で85,000円以上となっていますから、そんなに安いとは言えません。
入ったところと反対側のほうに回ってみると、別の入り口から何人かの母子が連れ立って歩いてきました。
親も子どもも、言葉は中国語です。
各棟のエントランスにずらりと並んだ郵便ポストには、室番号だけ打たれていて、ほとんど表札がありません。
ときおり表札を見つけると、それはだいたい日本人だったのが印象的でした。

元の入り口のほうに戻ってみると、掃除のおじさんがいたので、ちょっとインタビュー。
「お仕事中すみません。ここは中国の方はどれくらいいるんですか」
「7割以上だよ」
半分近くというネット情報よりもずっと多い。
「もっと増えそうですか」
「増えるね」
「日本人は引っ越しちゃうんですか」
「いや、40年経ってるからね。高齢者ばっかりで、亡くなる人が多いんだよ。空いたところに中国人が入るわけよ。だって羽田空港に案内の看板が立ってるんだもの」
「なるほど。団地の脇に中学校がありましたが、中国の方はそこに通ってるんですか」
「いや、通ってないね」
「じゃ、日本語を習っていないんですか」
「あっちのほうに、日本語学校があるけど、あれは大人用だな」
「小学校は?」
おじさんは反対側を指さしましたが、そこに中国人が通っているかどうかは、よくわかりませんでした。。
教育の問題をどう解決しているのかが、謎として残りました。
自治体が日本語を教えるようにきちんと対応しているとは思えません。
団地内に、中国語で学科を教える場所が作られているのではないでしょうか。
もしそうだとすると、彼らは日本語を習わずに、中国人村を形成しているのだと言えます。
どなたか詳しい方がいましたら、教えていただけるとありがたく思います。
「トラブルはありますか」
「そりゃ、いろいろあるけど、立場上、言えないね」
「そうですか。ありがとうございました」

ネットに、次のような内容の記事が書かれていました(この記事には、ほかにもいろいろ書いてあるのですが)。
https://globe.asahi.com/article/11578981

芝園団地では、「静かな分断」が起きていて、多くの中国人は自治会には加入しない。「ふるさと祭り」の準備はすべて日本人、中国人は楽しむだけ楽しんでおきながら、後片付けも手伝わない。日本人の側も、それを要求しようとしない。自分も祭りの手伝いをしたが、中国人の宴席が椅子を運ぶのに邪魔だからちょっとずれてくれと頼んだのに、椅子を持ってきたら、元のまま居座っていた。日本人は高齢化していて、亡くなる人も多く、やぐらを組む力仕事に耐える人々も年々減っている。ここには「共存」はあるが、「共生」はない。

これは実態を確かめようとわざわざ芝園団地に移り住んだ某新聞記者が書いていたものです。ちなみにこの新聞は「リベラル」とか「多文化共生主義」を気取ることで有名な朝日新聞です。

外国人の不動産取得にしろ賃貸契約にしろ、一定の規制が必要です。
また受け入れる場合でも、きちんと覚悟と体制を整えるべきです。
それをしてこなかった日本の権力者、関係者たちの無計画さ、安全保障に対する鈍感さは、計り知れない禍根を残してきたと思います。
もちろん、最終的な責任は、主権者たる国民にあります。
移民法が国会を通過し、これからますますこうした事態が増えるでしょう。
多文化共生主義などという美辞麗句ではごまかしがきかない事態が、日本全国で当たり前になるでしょう。
「日本が日本でなくなる日」も近いかもしれません。


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「国民生活を脅かす水道民営化」


水道民営化に見る安倍政権の正体

2018年11月27日 21時30分40秒 | 政治



外国人労働者受け入れの拡大を目指した入管改正法案が衆議院で可決しました。
この法案は言うまでもなく事実上の移民解禁法案です。
ヨーロッパの移民国家化の惨状から何も学ぼうとせず、しかも起こりうる事態に対して何の準備も整えていないひどい法案ですが、それについては、すでに多くの人の指摘があるので、ここでは触れません。

以前、このブログでも扱ったのですが(2018年1月)、
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/17802bf252decb3fac028a02d88c051b
水道民営化法案(水道法改正法案)は、現在すでに衆議院を通過しており、今国会で参議院での継続審議案件となっています。
当然、どさくさに紛れて数の勢いで国会を通過してしまうでしょうが、マスコミは相変わらず、この法案の危険性について報道しません。
この法案の目的は、もちろん、フランスのヴェオリア社など、水や環境にかかわるグローバル企業の便宜を図るところにあります。
ちなみに、これまでも水道事業の多くの部分は、民間企業に業務委託されてきました。
しかし、それは今回立法化されようとしている管理運営権の売り渡しとはまったく意味が違います。
業務委託の場合は、自治体が公共的な観点から必要と判断された業務の一部を、その範囲内で業者に委託するので、契約更新は毎年度になります。
これに対して、今回の水道民営化法案では、運営権を丸ごと企業に譲渡するので、企業は企画から実行までをすべて行い、契約期間も15年以上まで可能です。
その間、運営に不満が出たとしても、消費者も自治体も原則として契約条項を変えさせることができません

水道民営化法案の問題点は、次の六点に要約できます。
(1)今回のコンセッション方式(所有権は自治体、管理運営権は民間企業)では、運営権の売却は地方議会の議決を必要とせず、水道料金も届け出制で決められることになっています。
政府は上限を設けるなどと言っていますが、水道をめぐる状況は地域によって複雑で多様なので、それは無理でしょう。
(2)何か問題が起きた時の修復や後始末は、運営会社ではなく、自治体が解決することになっています。
https://www.facebook.com/gomizeromirai/videos/1947720121973442/UzpfSTE2MDc4MjYwODI6MzA2MDYxMTI5NDk5NDE0Ojc1OjA6MTU0MzY1MTE5OTotNDEzNjgzNzEwODg1MDg5MzUz/
(3)他のモノやサービスと違って、消費者には選択の自由が与えられていないので、企業間の競争が起こりえず、寡占化が進み、料金の高騰を招きます。
実際、世界の事例では、ボリビアが2年で35%、南アフリカが4年で140%、オーストラリアが4年で200%、フランスが24年で265%、イギリスが25年で300%上昇しています(堤未果著『日本が売られる』)。
(4)ビジネスは利益を出さなくてはなりませんから、そのぶん、料金が消費者に上積みされますし、利益は株主への配当に流れるので、現在のようなデフレ下では労働者の賃金低下を招きます。
また採算が取れないとわかったら、企業はさっさと撤退しかねません。
(5)一度民営化してしまうと、失敗した時に再公営化するためには、たいへんなコストと時間がかかります。
(6)一番の問題は、当の推進論者たちが、なぜ民営化するとこれまでよりサービスが「よい」ものとなるのかを、積極的な論拠をもって説明できないことです。
今年は災害が多かったので、彼らはそれに乗じて、「災害時に効率的に対応できるように」などとひどい屁理屈をつけていますが、「おいおい、そりゃ逆だろう!」と言いたくなりますね。
擬似ショック・ドクトリンとでもいうべきでしょうか。
じつはこの政策は、ずっと前から竹中平蔵を筆頭とする規制緩和論者たちの間で立てられていたもので、民主党政権がそれにまんまと引っかかったのです。
災害の増加とは何の因果関係もありません。

以上、水道民営化の問題点を見てきましたが、世界で実際に民営化した自治体はさんざんな目に遭っています。
先の投稿では、パリ、ベルリン、クアラルンプール、アトランタをはじめ、世界180の自治体で再公営化に踏み切っていると書きましたが、堤氏の前掲書によると、最新のデータでは、世界37か国、235都市で公営化に戻しているそうです。
要するに、この政策は、グローバル企業が儲けるためだけの政策なのです。

いまや、水も環境も電気も医療も農作物も、すべてが巨大グローバルビジネスの対象になっています。
安倍政権は、国民の命を犠牲にしても、グローバル企業の利益に奉仕する政策をずっととってきたのです。
売国政権と呼んでも過言ではありません。
労働者派遣法改正、農協法改正、混合診療解禁、発送電分離、種子法廃止、消費増税、移民(特に単純労働者)受け入れ、そして今度は水道民営化です。
こういう悪政を平然と行っている政権の最新の支持率がなんと10月から4ポイント上がって46%になっています(「支持しない」は37%)。
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
これはいったいどういうわけでしょうか。
日本以外の国なら、暴動が起きてもおかしくないでしょう。
現にフランスでは、マクロン大統領の支持率は26%で、パリをはじめとして各地で暴動が起きています。
日本の現政権が、内外に迫る危機を少しも解決できていないどころか、むしろひたすら国家的自殺行為に走っているのに、高い支持率を維持できている。
これには、次の理由が考えられます。
(1)もともと日本人は、政治、特に経済政策に関心が薄く、社会の悪化を自然現象のように見なしてしまう習慣を身につけている。
(2)移民問題、貧富の格差問題、文化摩擦問題などが、まだ欧米社会ほど深刻でない。
(3)政治の上部組織と国民の私生活との間に乖離感覚があり、誰がやっても同じというあきらめ感が強い。
(4)平和が続いたために危機に対する緊張感を喪失して、今日明日が過ごせればそれでよいという能天気状態に陥っている。
(5)高度成長期やバブルを経験したころの感覚がいまだに残っている。
(6)社会全体が複雑化したために、国民だけでなく、政治家やマスコミや学者が、個々の不全現象を個別バラバラにしか把握できず、統合失調症に陥っている。
(7)政治現象を右か左か、保守かリベラルか、の軸で解釈しようとする習慣から抜けきっていない。
 まだあるでしょうが、いずれにせよ、こういう日本の状態をそのままにしておいてよいはずがありません。
 単に移民政策や水道民営化政策だけでなく、安倍政権が採っている経済政策が、みな国民生活を犠牲にしてグローバル資本に奉仕する性格のものであること、まずはこのことに気づく必要があります。
個々の社会問題は、それ一つだけで切り取られるものではなく、ほとんどすべての原因が、一つの間違った政治運営に収斂するものなのだという統合された視野を、ぜひとも回復しなければなりません。


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従軍慰安婦、徴用工、南京大虐殺

2018年11月23日 12時52分29秒 | 政治



韓国政府は21日、慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意に基づいて韓国政府が一昨年設立し、日本政府が10億円を拠出した元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」を解散すると発表しました。
韓国政府は、日韓合意の破棄や再協議は要求しないという立場を示していますが、この解散発表は、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意に反するものです。
河野外務大臣は、「発表は日韓合意に照らして問題であり、受け入れられない」と述べました。
この発表について、一部の元慰安婦の女性たちが暮らす「ナヌムの家」を運営する市民団体は、日本政府が拠出した10億円を返還し、日韓合意そのものを破棄するよう求めました。
ちなみに、合意が結ばれた当時、生存していた47人の元慰安婦の女性のうち、これまでに4分の3以上が支援事業を受け入れています。
先月30日には、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる裁判で、韓国の最高裁判所が新日鉄住金に賠償を命じる判決を出しました。
この問題は、1965年の国交正常化の時点ですでに解決済みです。
河野外務大臣は、「判決は暴挙だ」と厳しく批判しました。
しかし徴用工をめぐる裁判では今月29日に予定されている、三菱重工業に損害賠償を求める判決でも、同様の判決が出ることが確実視されています。

こうした一連の日韓関係のいわゆる「悪化」の過程について、ほとんどの日本人は怒りを覚えているか、釈然としないものを感じているでしょう。
しかし、そもそも三年前の日韓合意が、日本政府の賢明な選択であったのかどうかを問い直す声はあまり聞こえてきません。
いわゆる「従軍慰安婦問題」なるものが、吉田清治という詐欺師による捏造を朝日新聞がうのみにし(あるいは知りながら意図的に)、その報道に韓国側が飛びついたところから始まったことはよく知られています。
これにもとづき、河野洋平官房長官(1993年当時)が、証拠がないにもかかわらず、「軍による従軍慰安婦の強制連行」があったことを認めて謝罪しました(河野談話)。
その後、捏造の事実を暴かれた朝日新聞は、はなはだ不十分ながら誤りを認め、社長が辞任しました。
しかし朝日は、体面を保つために、議論の本質を、大東亜戦争当時の朝鮮人の慰安婦という具体的な歴史問題から、女性の人権一般の問題にすり替えて、自らを正当化してきたのです。
しかも日本向けには誤りを認めたのに、英字版では、相変わらず「軍によってセックスを強制された慰安婦」という表現を垂れ流し続けてきました
こうした経緯があったにもかかわらず、安倍政権は、韓国に対して「謝罪の必要はない」という毅然とした対応をとらず、パククネ政権との間で、「日韓合意」を交わしたのです。
これは、冒頭に書いた「最終的かつ不可逆的な解決」を目指したものということになっており、安倍政権もそれをもくろんで妥協したのでしょう。
しかし事実はそのように動きませんでした。
岸田外相はこの時「軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた。日本政府は責任を痛感している」と発言しました。
そして10億円で手を打とうという話になったのです。
筆者はこの発言について、当時ブログで次のように書きました。

『責任』とは法的なものも伴うのかどうかまったく曖昧ですし、しかも『痛感している』と現在進行形になっています。韓国は、その曖昧さと現在進行形とを利用してこれからも執拗に問題を蒸し返し、『日本の罪』をネタに『責任』を追及しつづけ、世界に発信しつづけるでしょう。なぜなら、慰安婦問題の韓国側主役である韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の突き上げや、それに同調する反日世論を、韓国政府が抑え切れるとは思えないからです。

さらに韓国新財団に10億円の出資とは!
名目上、『賠償』ではないと謳ってはいますが、国際社会はそう見ません。この約束は、先の岸田発言、安倍首相の『心からのお詫びと反省』発言と合わせて、三点セットで、『旧日本軍は20万人もの韓国女性をセックス・スレイヴとして扱い、虐殺した』とのこれまでの戦勝国の定説を、オウンゴールで追認したことになります。
(拙著『デタラメが世界を動かしている』参照)

当時、北朝鮮のエージェントであるムンジェインが政権を握ることまでは予想できませんでしたが、この政変で、三年前に予想された事態はさらに悪化したと言えます。

日韓合意に、当時のアメリカの意向が働いていたことは明確です。
その意向とは、
(1)対北朝鮮、対中国問題を睨んで、東アジアの同盟国間でいざこざを起こさせないようにする。
(2)戦勝国の「正義」を世界に信じ込ませるために、かつての日本の「悪」を固定化しておく。
(3)国力の大きくなった日本の自主独立の機運を阻み、いつまでも自らの属国として服従させておく。
外交的行為は、相手国一国との間に友好関係を築けばよいといった甘い認識で行われてはなりません。
世界各国、特に自国と関係の深い国々がそれをどう見なし、どう利用するかという幅広い見通しの下に行われなくてはならないのです。
安倍政権の決断は、明らかにアメリカの意向に過剰に反応したものでした。
結果を見れば明らかで、この決断は、単に日韓関係の悪化にとどまらず、国際社会での日本の印象を著しく損なうものとなりました。
「日本はかつて数十万人の植民地女性をセックス・スレイヴとして扱い、かつ虐殺した悪い国」というイメージがいろいろなところで定着し、小学校でも教えられているのです。
これは戦勝国包囲網によって日米分断を図ろうとしてきた中共政府の思うつぼでした。
事実、これ以後、欧米豪各国における慰安婦像設置の攻勢はますます強まりましたし、その背後には中共政府の力がはたらいていたことも今では明らかとなっています。
徴用工の像もこれから増えていくでしょう。
しかし日本政府は、これらの動きに対して、口先だけの抗議はしますが、中韓の情報戦に見合うだけの積極的な活動を何ら行なおうとはしていません。

中共政府は、韓国の反日感情を利用するだけではなく、自国の情報戦の有力カードとして、「南京大虐殺」というもう一つの強力なでっち上げ材料を持っています。
先ごろ、安倍首相が訪中し、李克強首相との会談で、若い世代の交流を拡大すべきとの認識で一致し、来年を「日中青少年交流推進年」として、今後5年間で3万人規模の青少年交流を進める覚書に署名したそうです。
お人好しニッポン。
訪中に参加することになる日本の青少年は、南京大虐殺記念館などを見学させられ、中国版「正しい歴史認識」を注入されるに決まっています。

ところで、歴史認識の問題に関して中韓にやられっぱなしの日本は、次のような覚悟を固めなくてはなりません。
唯一の正しい歴史認識などというものが存在するはずがないと肝に銘じて知ること。
歴史とは後世の人間が、自分の属する共同体の過去を、想像力を駆使して作り上げる「物語」のことです。
したがって、異なる共同体どうしの間で完全に一致する物語などありえないのです。
言葉は生き物です。「事実」も「歴史」も、編み替えられてゆく宿命のうちにある。
ニーチェは、『力への意志』で、真実とは強い種族に都合のよいように作られたでっち上げであると、何度も繰り返しています。
「歴史」の共有は、言葉と情緒を共有できる範囲でしか可能ではありません。
敵対感情のある隣国どうしの「共同研究」など、空しい限りです。
また、たとえばユネスコ記憶遺産のようなグローバルな歴史認識など、理念からして間違っています。
中国や韓国の「南京大虐殺」や「従軍慰安婦の強制連行」は、こちらから見れば、いずれも資料レベルと証明レベルがきわめて低く、反日意識だけで成り立ってしまったまことにお粗末な物語です。
しかし声の大きい者、うまく宣伝した者が勝つという現実を否定することはできません。
お金と時間と労力を使い、より大きな声を出し、よりうまく宣伝する以外に、これに対抗する方法はないのです。
自分たちは誠実だが、向こうはウソで塗り固めているなどといった道徳的な非難などいくらやっても効果はありません。
相手も同じことを言うに決まっているからです。
歴史とは物語の集積であって、その中身がぶつかり合うときには、さまざまな「力」を用いて相手の口を封じるほかはありません。
「力」とは一般に武力、経済力、外交力ですが、これらのほかに、「歴史認識」にかかわって何よりも大事なのは、説得力と構想力です。
この問題で闘っているAJCNの山岡鉄秀氏が説くように、説得力が成立するための「立論」をいかに組み立てるかに最大のエネルギーを注ぐべきなのです。

消費増税の賛否を問う世論調査を実行せよ

2018年10月12日 00時58分32秒 | 政治


 2018年10月10日、NHKラジオ午後6時の「Nらじ」という番組で、社会保障問題を取り上げていました。その中で、女性の解説委員(?)が、全額社会保障費に充てるはずだった消費税の使い道の8割が国債の借金返済に充てられているのはおかしいと、かなり激しい調子で訴えていました。
 これは確かにおかしいので、そのことを指摘する意味がないわけではありません。しかし議論がそこをめぐってしまうと、本質的な問題が隠されてしまいます。
 本質的な問題とは、2019年10月に予定されている消費税10%への増税が、日本経済に対してどんな壊滅的な打撃を与えるかという問題です。
 Nらじの解説委員の叫びは、もし消費税が社会保障費に充てられるなら、増税してもかまわないと言っているようにしか聞こえません。それが間違いのもと。

 先に筆者は、経済思想家の三橋貴明氏が主宰される「『新』経世済民新聞」に、「国民の思考停止」と題した一文を寄稿しました。
https://38news.jp/economy/12380
 この記事で筆者は次のようなことを指摘しました。
 社会福祉に限らず、メディアでの社会問題の取り上げ方はみな個別的です。その個別問題について詳しい専門家を連れてきてディテールを紹介し、その深刻さが語られます。ところが、さてどうするかという段になると、ほとんどが、解決のためにはこれこれの努力が必要だといった精神論に終始するのです。
 解決に導くための資金をだれが出すのか、そのために何が必要か、だれが資金提供を阻んでいるのかという問題にけっして議論が及びません。総合的に政策を見ようとする視野がちっとも開かれないのです。目の前に梁(うつばり)がかかっているのですね。

 さて右の問いの答えははっきりしています。中央政府が、問題ごとに国民の生命、安全、生活にかかわる度合いを判断して、そのつど優先順位を迅速に決め、国債を発行して積極的に財政出動すればいいのです。そしてそれを阻んでいるのが、財務省の緊縮財政路線です。これが消費増税の必要を正当化させています。
 消費税10%への増税は、財務省が税収増を見込んで、その「増えた税収分」によって負債の返済を賄い、歳入と歳出のバランス(プライマリーバランス)をゼロに持っていこうという「財政均衡」の目論見です。財務省は、この目論見を果たすために、日本では原理的に起きるはずのない「財政破綻の危機」をでっちあげて、国民の不安をあおるという戦略をとり続けてきました。
 ところが第一に、税の割合を増やすことは必ずしも税収そのものの増加にはつながりません。それどころか、これによって消費は減退し、中小企業は納税に四苦八苦、新たな投資がますます控えられます。するとGDPが下がるので、プライマリーバランスの赤字はかえって拡大してしまうのです。
 第二に、消費増税には、経団連など、大企業グループの要求する法人税減税の肩代わりという意味があります。経団連だけではありません。つらい経営を強いられている中小企業の代表であるはずの日本商工会議所の幹部までが、財務省のペテンに引っかかって、増税の必要を叫んでいます。もちろん、与野党を問わず、ほとんどの政治家も、マスコミも、このペテンに引っかかっています。まことに何をかいわんやです。
こうして10%への増税は、特に国民の低所得者層をますます苦しめ、日本を亡国に追いやる最悪の政策なのです。

 このブログを好意的にご覧になってくださってきた方々は、みな、こんなことはとっくにご存知でしょうから、あえて筆者が改めて取り上げるにも及ばないのですが、問題は、冒頭に例示したように、国民のほとんどが、財務省主導の消費増税の実施こそ現政権が抱える根本悪の一つであるという事実に気づいていないということです。
 国民は、2014年4月における5%から8%への増税がいかに救いがたい禍根を残したかについて忘れてしまったのでしょうか。わずか4年半前のことなのに。
 日本人は健忘症だとは昔からよく言われることですが、最近はこれに麻痺症という新しい症状が付け加わっています。というのは、先の増税時の禍根は、まだそのまま続いているのに、ごく少数の例外を除いて、だれもそのことを指摘しないからです。GDPは他の諸国に比べてわが国だけがまったく伸びず、実質賃金は下がり続けています。

 たとえばあなたが強制収容所に入れられたとします。過酷な労働と、腹を満たすには到底足りない貧弱きわまる食事。しかしそこから脱出する方法が絶対にないのだとしたら、その劣悪な条件を受け入れて、生きられるだけ生きるしかありません。そのうちに、その劣悪な条件にしだいに慣れてきて、これがひどい事態だということをそれほど感じなくなってしまうでしょう。つまり感覚が麻痺してしまうわけです。
 今の普通の日本国民が置かれている状態は、ちょうどこのたとえが当てはまります。強制収容所とは、25年近くにも及ぶデフレ不況であり、感覚の麻痺とは、それが当たり前だと思ってしまうことです。
 97年の橋本政権のとき、消費税が3%から5%に引き上げられ、これをきっかけにして日本は深刻なデフレに突っ込みましたが、その時生まれた子は、いまや21歳の青年です。彼らは繁栄を知らず、日本がデフレから脱却できない貧困国であるとしか認識できないのです。
 ちなみにこの時の増税によって、税収はかえって減ってしまいました。財務省は自縄自縛をやってのけたのです。そうしてこの自殺行為は今も国民を巻き込みながら続いているわけです。

 「消費増税は必要だ」、または「消費増税はやむを得ない」という黒魔術の呪文がいかに功を奏してきたかは、このわずか4年半における、マスコミの反応を追いかけることによって明らかとなります。

 まず、2014年の増税時からおよそ半年たった同年9月末と10月下旬における世論調査を調べてみましょう。

 《日本世論調査会が9月末に行った全国世論調査によると、消費税を10%に引き上げることについて、アンケートに答えた方の72%が再増税に反対していたことが判明しました。賛成は僅かに25%だけで、国民の大多数が増税に反対していることを示しています。また、4月に行われた3%の増税で、「家計が厳しくなった」と感じている方は82%に達しました。
一方で、政府が有識者を対象にしたアンケート調査では、6割が「再増税に賛成する」と答えたとの事です。この二つの調査は同じような質問をしているのに、全く異なった結果になったのは非常に面白いと言えます。

http://saigaijyouhou.com/blog-entry-4087.html

 《
産経新聞社とFNNの合同世論調査で、消費税率の10%への引き上げについて68・0%(前回比2・6ポイント増)が反対し、賛成は29・8%(同2・3ポイント減)だった。性別、年代、支持政党別で見ても、すべてで反対が賛成を上回った。(中略)一方、安倍晋三政権の経済政策アベノミクスによる景気の回復を「実感していない」と答えた人は80・6%で、「実感している」(15・7%)を大きく上回った。》(産経ニュース 2014年10月21日)
lhttps://www.sankei.com/politics/news/141021/plt1410210018-n1.htm

 ご覧のように、この時期では、一般庶民は七割が反対しています。消費税は毎日の生活や生産活動に直結しているので、増税のダメージがいかに大きかったかを表しているでしょう。
 それにしても、「政府が有識者を対象にしたアンケート調査では、6割が『再増税に賛成する』と答えた」とは何事でしょうか。政府の意識的な印象操作もさることながら、「有識者」なる存在がいかに裕福な生活をしつつ庶民の実感と乖離した空理空論にふけっているか、容易に想像されようというものです。

 3年後の2017年10月の総選挙前に行われた調査では、次のようになっています。

 《毎日新聞が13~15日に実施した特別世論調査で、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げの賛否を聞いた。「反対」との回答は44%で「賛成」の35%を上回った。「わからない」も15%あった。衆院選で自民党などは増税分の使途変更、希望の党などは増税凍結を主張するが、世論は割れている。》(毎日新聞2017年10月16日)

 「反対」が激減していることがわかります。まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ですね。しかもこの調査では、選挙の争点として消費増税を挙げた人はわずか6%に過ぎませんでした。

 最後に、直近で、今年の夏、121の主要企業を対象にした政府の調査ではこうなっています。

 《平成31年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げについて聞いたところ、「予定通り実施すべきだ」と回答した企業は60%に上り、「再延期すべきだ」の3%、「引き上げるべきではない」の2%を大きく上回った。少子高齢化で社会保障関連費用の増大が見込まれる中、財政健全化に向け、増税が欠かせないとの見方が強まっている。予定通りの実施を求める企業からは、「20%台の税率が当たり前となっている欧米諸国のように、消費税率のさらなる引き上げも検討すべきだ」(石油元売り)との声も出た。》(産経ニュース 2018年8月14日)

 何しろ「主要企業」ですからね。グローバル企業に決まっています。石油元売りなどは、原油価格の高騰による経営難を逃れるために、法人税減税を要求して、そのしわ寄せをすべて一般国民に押し付けようとしているのが見え見えです。

 こうして、財務省が長年苦労して作り上げた増税物語が完成に近づいています。「財政健全化のためには」などと緊縮真理教の教義の宣伝を、この人たちは自ら買って出ていますが、自国通貨建ての国債で、統一政府の一部である日銀が通貨発行権を握っている日本において、財政破綻など100%ありえない。
 しかも大量の金融緩和で日銀が買い取った国債は既に400兆円を超えています。そのぶんだけ、いわゆる「国の借金」は消滅しているのです。この簡単な理屈がわからないおバカな人たちばかりが有力者になっているこの国の狂乱状態は、はかり知れません。

 そしてもう一つ大事なことを強調しておきます。
 2018年以降、消費増税についての賛否を問う全国世論調査が行われた形跡がないのです。筆者もずいぶん探しましたが、限られた時間のせいもあり、見つけることができませんでした。
 これは何を意味しているでしょうか。
 増税の時期が刻々と迫っているというのに、この大問題について、マスコミは右から左まで知らん顔を決め込んでいるのです。そういうことをきちんとやるのが、マスコミの役割なのに、彼らはこうした最低限の責任すら果たそうとしません。
 いまや政治家、官僚、御用学者、マスコミ、末端の国民に至るまで、税率アップは既定路線であると錯覚させられていて、あたかもだれも疑問を持たないということになってしまっているわけです。
 さて、本当はどうなのでしょう。朝日から産経まで、試しに増税に賛成か反対か、大々的な世論調査(あらゆる階層を対象に2万人規模くらい)をやってごらんなさい。結果を見て安倍政権はどうするか、総理の顔が見たいものです。

 強制収容所であれば、強大な監視の力と空間的な制約に取り囲まれていますから、脱出はまず不可能です。この状況では、諦めるよりほかにほとんど手はありません。しかしデフレ不況は違います。これを作り出しているのは、財務省を筆頭とする、極端な緊縮財政論という狂った考え方なのです。
 私たち国民は、頭を使うことによって、この狂った考え方を訂正させることができるはずです。その考え方を訂正させる最も差し迫った目標として、消費増税を阻止するという政治課題があるわけです。
 水害、台風、地震など、うち続く自然の猛威による多くの死者。
 電気、水道、道路など各種インフラの劣化によってこれから予想される大災害の懸念。
 高速交通の未整備による大都市圏と地方の格差。
 これらは、みな国債発行による公共投資はまかりならぬという狂った考えによってもたらされた「人災」なのです。そうである以上、私たちがまず目指すべきなのは、財務省というカルト集団が長年かけ続けてきた黒魔術から一刻も早く覚醒することです。



泊原発を再稼働すべき理由

2018年09月20日 00時10分05秒 | 政治


北海道胆振東部地震から二週間経ちました。
ライフラインはだいぶ復旧してきたようです。
でも依然として断水が続いている地域があります。
しかし、北海道最大の火力発電所である苫東厚真発電所の復旧は意外に早く、すでに一部
の供給は始まろうとしています。
そういえば、関空の復旧もハイスピードで進んでいますね。
このあたりの日本の技術者、作業員の協力体制はさすが、まだまだ捨てたもんじゃないな
と思いました。

それはいいのですが、問題は、ハード面に関するこれからの対応です。

このたびの地震によって生じた全道ブラックアウトの問題を考えてみましょう。

筆者は、泊原発をすぐにでも再稼働すべきだと考えています。
政府が決断しさえすれば、一か月でこぎつけることができます。

以下に、再稼働すべき理由を述べます。
これは、単純な数字の問題なのです。

苫東厚真の最大出力は165万kW。
地震時(9月6日)の全道の電力需要は380万kW。
苫東厚真が担っていた電力は全道の総電力需要の半分以下でした。
しかし、苫東厚真が損傷を起こしただけで、全道295万戸が停電してしまいました。
それには、二つの原因があります。
第一に、このような大幅な供給バランスの崩れによって、他の発電所からの送電の周波数
を一定に保つことができなかったこと。
第二に、もともと北海道電力は、一部の電力を本州からの供給に頼っていた(はずでした)。
これが機能しなかったのですね。
この本州からの供給を北本連携線といいます。

海底ケーブルのように長距離で絶縁が重要なポイントになる送電では、直流が有利ですか
ら、本州から北海道に送電されてくる電気は直流です。
家庭での電気は交流ですね。
これは発電所から家庭に至るまでに、交流だと変圧が容易だからです。
すると北本連携線では、直流を交流に変換しなくてはなりません。
ところが今回の場合、この変換がうまく行きませんでした。

しかし、この北本連携線が仮にうまく作動したとしてもその最大出力はわずか60万kW。
ということは、仮に第一の周波数の問題がなく、かつ第二の北本連携線をうまく利用でき
た場合でも、
380-165+60=275(万kW)
しか確保できなかった計算になります。
残りの105万kWは、不足したわけです。
部分的な停電は避けられなかったでしょう。

ちなみに苫東厚真発電所は、初稼働以来33年以上を経ていて、かなり老朽化しています。
さらに、不足分を慌てて補った五つの発電所の年齢はこれよりも古く、38歳から48歳で
す。
一般に火力発電の耐用年数は40年とされています。
最大の危機に対応すべく、青息吐息のお年寄りに頑張ってもらったわけですね。

こんな状態を続けていていいのでしょうか。
何か肝心なことを忘れていませんか。

今回、テレビのニュースを見ていて、初めのうち、政府筋から原発の「ゲ」の字も出ない
のに驚きました。
10日になってようやく政府見解が出ましたが、何と泊原発の再稼働は「考えていない」というものでした。
常識的に考えて、こんな大緊急時には、政府は直ちに泊原発再稼働の議論を開始すべきで
しょう。
原子力規制委員会の審査などを待っている場合ではありません。

その審査とは、例によって、数十万年前の活断層の安全性を確かめるという悠長極まるも
のです。
活断層の存在が地震に結びつくかどうかは、個々の場合で異なります。
ふつう数千年から数万年規模のサイクルで地震が起きるとして、たとえば5000年周期の
活断層で、2000年前に地震が起きたとしたら、あと3000年は大丈夫ということになり
ます。
いずれにしても、100年単位以下の精密さで活断層地震の発生確率を計算することはき
わめて困難だということになります。

しかし、もし今回のような地震によるブラックアウトが厳冬の北海道で起きていたら、寒
さのために何人の人が凍死するでしょうか。
ライフラインも途絶え、物流も滞り、道内の産業は停止し、回復に何か月もかかり、その
間に餓死する人も出るかもしれません。
これらの確率の方がずっと高いことは確実です。

冬期の北海道の電力需要は約500万kW超。
今回、青息吐息の老兵たちをかき集めることと、北本連携線の修復と、相当無理をした節
電によって、ようやく380万kWの需要の9割を確保したのです。
しかしこんな状況では、とうてい冬の電力需要を満たすことはできないでしょう。

泊原発の総出力は、207万kW。
苫東厚真が全面回復すれば(11月までには可能とされています)、苫東厚真プラス泊で、
165+207=342(万kW)
ですから、残り160万kWを他の発電で確保すればよいことになります。
しかも泊の年齢は1号機29歳、2号機27歳、4号機9歳です(3号機は廃止)。
若い彼らに頑張ってもらえば、楽々厳しい冬場をしのげるでしょう。

ちなみに原発の耐用年数は、国際的にも法的な基準がありませんが、原発を最も活用して
いるフランスでは40年を目途にしようという動きが有力です。

泊原発ではまた(どこの原発でも事情はだいたい同じですが)、福島事故の教訓を活かして、
16.5メートルの防潮堤、建屋への水の浸入を防ぐ水密扉、免震重要棟、フィルター付きベ
ントなどの設置・建設をすでに終えています。
できる限りの備えがすでにできているのです。

反原発派は何を言っても100%の安心を求めますが、そんなことは神でもない限り不可能
です。
交通事故で毎年4000人以上の人が死ぬのに、車をなくせという声が盛り上がらないのは、
車の効用が大多数の人に受け入れられているためと、交通事故を可能な限り少なくする努
力が現に多方面で行われているためです。
文明の利器にはリスクがつきものですが、私たちは、便利さや快適さの度合いとリスクの
大きさとを、広い視野と正しい情報をたよりにしながら、常に天秤にかけて生きていくほ
かはない
のです。

本当は、北海道電力は、もっと発電設備を増やさないと危ないのです。
泊も含めた北海道の総発電設備による出力は、一応780万kWありますが、泊はまったく稼働していませんから、それ以外の発電所の出力は、フル稼働して573万kW。
設備利用率は、ここ数年、ピーク時で9割に達しています。
8%以上は余剰電力としてキープしておくのがこの業界の常識ですから、
573×(1.00-0.08)=527
となって、ぎりぎりなわけです。

 電力は私たちの生活と産業の源です。
 悲惨な結果がこれ以上広がらないように、政府はもっとエネルギー行政にお金をかけ、
知恵をはたらかせなくてはなりません



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「安倍政権の『新自由主義』をどう超えるか」
●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
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静かな侵略

2018年08月22日 18時17分00秒 | 政治


メコン川といえば、東南アジア最長の川ですね。
この大河は、中国のチベット高原に源流を発し、雲南省を通って、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジアを通過し、ベトナムへと至り、南シナ海に注いでいます。
何と6か国にまたがる流域を持っているのです。
このことは、この川をめぐって水利や発電や環境にかかわる複雑な政治問題を生む原因になっています。
というよりも、水源と上流を中国が押さえているということ、この事実が東南アジア諸国への強力な圧力行使として利用される結果を生んでいるのです。

ラオスは中国とわずかに国境を接していますが、東南アジアでは最貧国です。
メコン川にいくつもダムを作って、発電を行い、その供給が国内需要を上回るので、周辺諸国に輸出していますが、逆に他から輸入もしています。
ラオスは自力ではダムや発電所の建設ができないので、多くの部分を中国からの借款に依存しています。
支払い不能になれば、すぐにでも中国の銀行が差し押さえるでしょう。
https://fujinotakane.amebaownd.com/posts/3997388

またラオスには鉄道がありません。
中国は「一帯一路」の東南アジア版で、昆明を起点としてシンガポールにまで至る高速鉄道の計画に着手しています。
当然、ラオスを通過するルートもありますが、ラオスの資金不足や政界上層部の反対もあって、工事は進捗していません。
結局、これを実現させようとすれば、中国は、中国資本をつぎ込み、資材や技術や労働力はすべて本国から、といういつものやり方を取るでしょう。関係国には何の経済効果ももたらしません。
こうしてラオスは、事実上、中国の植民地なのです。
https://fujinotakane.amebaownd.com/posts/3997369

またラオスだけではなく、他の東南アジア諸国もこうした中国の強引な圧力を受けざるを得ません。

話をメコン川に戻しましょう。
数年前、海抜1800mの山岳地帯にある昆明がにわかに超高層ビルの林立する大ビジネス都市に変貌しました。
ここを根拠地として、メコン川上流の中国領地内に、水力発電ダムが次々に3つ作られ、さらに12のダムを計画中。
いくつもの国を通過する大河の上流に、他国との正式な合意も、きちんとした環境影響評価もなされないまま、勝手にダムを作れば、困るのは、下流域の国々です。
カンボジアでは、食料供給の大部分を川に依存しています。
年に一度の氾濫がなければ、この地域はほこりだらけの土地となり、ひいては都市を維持することもできなくなります。
カンボジアの農業生産は絶妙な水量のバランスの上に成り立っており、それが崩れることで、大規模な飢饉と壊滅的な洪水が発生する可能性が大きいのです。
最初の中国のダム建設以降、水位は低下し、捕らえられた魚は小さく、漁獲量は四分の一に減少したそうです。
また、水位の低下によりフェリーが立ち往生するため、チェンライ(タイ)からルアンパバーン(ラオス)までの航行は、以前は8時間で行けたのに2日間を要するようになったそうです。
ダム建設が計画通り行われるとさらに深刻な影響を及ぼすことになるでしょう。
下流域諸国は環境破壊と汚染に加え、低い水位が魚の遡上を妨げ、産卵ができなくなるという、川の閉塞問題にも直面します。
中国の身勝手な姿勢を他国は非難し、ダム建設の中止を求めましたが、空振りに終わりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%B3%E3%83%B3%E5%B7%9D

これは、単に自国中心主義の勝手なことをやっているというだけではなく、中小国を流れる大河の水利の管理を掌握することによって、政治的経済的な支配を押し進めようという、長期戦略の一環なのです。
こうして中国は、国際世論も無視して中華帝国主義を平然と進めているのです。
もちろんタイやベトナムは、このやり方に反発し、さまざまな抵抗を試みています。
しかし東南アジア諸国は結束力が不足しているので、本来なら、日本のような大国がASEAN会議などでリーダーシップを発揮して、中国への対抗措置を取る必要があります。
でも日本は、企業同士の利権獲得競争には参加しても、政治外交面では、中国との緊張を恐れて何もやらないでしょうね。
日本の弱腰外交は、中国の思うつぼです。

さてその日本ですが、以前にもこのブログで書きましたように、日本には不動産売買についての外資規制がなく、中国資本に北海道その他の土地を爆買いされています。
その総面積は、全国土の2%、静岡県全県に匹敵します。
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/143ace7cec4dd061a549846b6a4c02ad

https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/aaf36ed3b0d0adf5a081f1cc4a8861be
この問題を粘り強く追及している産経新聞の宮本雅史氏が、最近、次のような記事を発表しました。
《 買収目的のわからない事例の一つに日高山脈の麓の平取町豊糠(びらとりちょうとよぬか)地区がある。幌尻岳(ぽろしりだけ)の西側の麓に位置し、過疎化と高齢化で、住民はわずか12世帯23人ほど。冬季は雪深く、袋小路のような地形の集落は陸の孤島になる。
 この豊糠地区で、平成23年に中国と関係があるとされる日本企業の子会社の農業生産法人(所在地・北海道むかわ町)が約123ヘクタールの農地を買収した。地区内の農地の56%にあたる広さだが、農業生産法人は何の耕作もせず、放置するという不可解な状態にあった。》
《 農作物を作れば利益が期待できる広い農地を放置しているのはなぜなのか。買収が行われた7年前から、住民の間で一つの仮説が立てられていた。
 「農地を荒れ地にしておき、いずれ地目(ちもく)を『雑種地』に変更するつもりではないか。制約の緩い雑種地になれば自由に売買でき、住宅や工場を建てられる」
 豊糠地区は抜け道のない行き止まりにある集落で他の地域との行き来も少ない。豊かな水源地でもあることから「土地が自由に利用できるようになる時期まで待って、何者かが意図的に隔離された地域を作ろうとしているなら、これほどうってつけの場所はない」と懸念する住民もいた。》
《不可解な集落の丸ごと買収、非耕作地で放置された農地、空を舞う正体不明のヘリ、不釣り合いな高級車の来訪、日本国籍を得た者に対する「仲間に入れ」という強い勧誘、中継基地計画…。情報提供者らは「不可解なことだらけだ。いったい何をやろうとしているのか。年月がたつに従って不安と危機感が膨らんでいる」と話した。》(強調は引用者)
https://www.sankei.com/affairs/news/180817/afr1808170009-n1.html
「いったい何をやろうとしているのか」――これは明らかですね。
雑種地になってから資本をつぎ込んで、オフィスビルやマンションを建て、そこに大量の中国人を居住させ、やがては昆明と同じようなことを始めるつもりでしょう。
こうしてわが国土ばかりでなく、国の主権そのものが長期戦略のターゲットとして、すでに着々と奪われつつあるのです。
静かな、そして合法的な侵略です。
その100年先を見た長期展望と戦略の巧妙さには舌を巻くばかりです。
日米同盟の強固さを睨んだ中国は、軍事的な刺激を与えることを控え始めました。尖閣にばかり視線を集中させていては、はなはだ不十分です。
うかうかしていると、わが国がラオスをはじめとした東南アジア諸国と同じように、中国の冊封体制に組み込まれる日が、そう遠くない将来やってくるかもしれません。
この巧妙さに打ち勝つには、一刻も早く不動産売買の厳格な外資規制を法律で定めるのでなくてはなりません。






冷房装置代ケチって亡国へ

2018年07月25日 00時57分01秒 | 政治


今から三年前の2015年8月27日、安倍首相は、遠藤利明五輪相が新国立競技場の整備計画について説明したところ、
「冷暖房はなくてもいいんじゃないか」
と指摘しました。

https://www.sankei.com/politics/news/150828/plt1508280044-n1.html

2651億円→1640億→1595億円→1550億円。
(中略)
首相自ら新計画の発表前日となる27日、冷暖房設備のカットを指示するなど土壇場まで調整を続けた結果、旧計画から1101億円もの削減が実現した。
「冷暖房はなくてもいいんじゃないか…」
(中略)
これ以上ない削減を行ったと思っていた遠藤氏は驚いた。
首相の手元には、冷暖房を盛り込み『総工費1595億円』などと書かれた新計画案のペーパーがあった。


唖然とする発言です。
こういう発言をする安倍首相の生理を疑います。
もっともこの発言は、3年前のものですので、その点は割り引くべきですが、残暑が厳しい時期であったことには相違ないでしょう。

おまけに、今年はついに40度を超える史上初の酷暑が続いています。
この状態は2年後も変わらない可能性がきわめて濃厚です。
引用の後続部分に、開会式、閉会式は夜行われるとありますが、夜でも熱帯夜が続いていることは日本国民なら誰でも経験しています。
しかも競技は日中の炎天下でも行われるのです。

冷房の効いた官邸の執務室で、想像力の欠落した首相はじめ閣僚たちが、ソロバンばかりこちょこちょはじいて経費削減に血眼になっている姿。
みっともないというか恥ずかしいというか。

新国立競技場はもう着々と工事が進んでいます。
しかし今年の酷暑のことを考えれば、今からでも遅くありません。
さっそく冷房装置を新たに設置するよう、予算を増額すべきです。
技術的には可能なことで、何ら問題ありません。

そもそも東京五輪はどうして真夏に開催することに決まったのか。
これについては、早くから疑問の声が上がっていました。
ここ数年日本の夏は、亜熱帯としか言いようのない酷暑と高い湿度が続いており、屋外競技では選手も観客も参ってしまうことが十分に予想されたはずです。
しかし、次の記事を見てください。

だが、開催時期は招致の時点で決まっており、今後日程が変わることは基本的にはない。
なぜなら、国際オリンピック委員会(IOC)では、立候補都市は夏季五輪開催日を7月15日~8月31日までの間に設定することを大前提としているからだ。
では、IOCが開催時期をこの期間としているのはなぜか。
それは、欧米のテレビで五輪競技の放送時間を多く確保するためである。
IOCは欧米のテレビ局から支払われる巨額の放映権を収入の柱としている。
そのため、欧米で人気プロスポーツが開催されておらず、テレビ番組の編成に余裕のある7~8月に五輪の日程を組み込むことで収入を得るという仕組みを作ったのだ。

https://www.nippon.com/ja/currents/d00104/

要するに、欧米のビジネスによってことが決まっているという話です。
IOCというのもしょうもないひも付き組織ですね。

64年の東京オリンピックは「スポーツの秋」にふさわしく10月に行われました。
その経済効果も、新幹線や首都高、一流ホテルなどの巨大インフラが整備され、莫大なものがありました。
今回はそれも期待できません。

ちなみに公立小中学校の冷房装置設置率は、ようやく5割弱で、都道府県によっては、2割未満のところもあります。
千葉市はゼロだそうです。

https://www.nippon.com/ja/features/h00248/

直接の原因は、自治体の財政難ですが、究極の原因は言うまでもなく財務省の根拠なき緊縮路線です。
特別国債を発行し補助金を計上することなど、決断次第でいくらでもできるはず。
公共設備として資産価値に計上されるだけでなく、大規模発注による経済効果も生じます。

大人たちが冷房の効いたオフィスで仕事をしているのに、子どもたちに毎日こんなかわいそうな目に遭わせてよいのでしょうか。
また今度の水害で明らかになりましたが、避難所である体育館には冷房が全くありません。
避難所には乳幼児もいます。
日頃からのインフラ整備を怠ってきたツケがいまこの国に大きく回ってきています。
未来の日本を担う子どもたちを見殺しにするこういう国は、早晩亡ぶでしょう。


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柄谷行人、中沢新一」
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「ポピュリズム肯定論」の座談会に
出席しました。(8月16日発売予定)


角栄の政治家魂を復権させよう

2018年07月11日 22時04分44秒 | 政治



西日本を襲った豪雨は広域にわたって大被害を及ぼしました。
不幸にして亡くられた方たちに心よりお悔やみを申し上げるとともに、被災者の方たちが一刻も早く立ち直ってくださることをお祈りいたします。

今回の災害では、これまでにも増して、インフラの未整備や経年劣化したインフラのメンテナンスを怠ってきた行政の怠慢が露呈しました。
長年の間、緊縮財政に固執してきた財務省による人災の面が色濃く出たと思います。

ところで、田中角栄と聞くと、みなさんはどんなイメージを思い浮かべますか。
ロッキード事件、田中金脈、日本列島改造論、今太閤、目白の闇将軍などいろいろありますが、概してあまりいいイメージを抱かれていないと思います。

しかしあまり知られていないようですが、総理大臣以前、1950年代から70年代初めにかけての衆議院議員や閣僚時代、角栄の政治家としての活躍には目覚ましいものがありました。

衆議院議員としては、何と100本を超える議員立法を成立させています。

その主なものは、

・建築士法
・公営住宅法(これは日本住宅公団設立のための基本法です)
・道路法全面改正
・道路・港湾・空港の整備のための特別会計法
・二級国道制定による国費投入の範囲の拡大
・道路審議会の設置による民意の反映
・道路整備費の財源等に関する臨時措置法
(これは道路特定財源の獲得を意味します)

また閣僚時代には、社会基盤整備にかかわる通産省、建設省、運輸省、郵政省などに強い影響力を及ぼし、政治主導による官僚統制の原型を作り出したのです。
大蔵大臣時代に豪雪被害に初めて災害救助法を適用させたこともその大きな功績です。
その後、この官僚統制の型はすっかり崩れ、財務省が実権を握ってしまいました。

こうしてみると高度成長の実現を、インフラ整備の面で制度的に支えた角栄の、政治家としての実力がいかに大きかったかがわかろうというものです。

もちろん、こうした大きな力を振るうには、巨大な金脈を作り出し、それを存分に用い、あらゆるコネを利用し、法的には、ずいぶん危ない橋も渡ったことでしょう。
そのことをいいとは言いませんが、そうしなかったら日本の成長と繁栄がなかったことも事実です。

また彼の活躍した時代には、官僚に勝手な真似をさせず、国民の豊かさの実現のために彼らを思い通りに使うことができたのです。
政治家と官僚とはシーソーのようなもの。
本当に国民のためを思う力ある政治家がその気になって官僚を統制すれば、官僚は言うことを聞くのです。

ちなみに安藤裕議員率いる「日本の未来を考える勉強会」が、このたび安倍首相に素晴らしい提言をしましたが、安倍首相がこれをまともに受け取って、財務官僚を抑えることを切に望みます。
この提言が提出された記事は、何と官邸のHPに掲載されているのです。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201807/06moushiire.html

また、提言の詳しい内容は、三橋貴明氏の次の記事で把握することができます。

https://38news.jp/politics/12153


さて一方には、田中金脈問題を執拗に追い、「巨悪」なるものを暴くことに信じられないほど情熱を注いだライターがいました。
ご存知、あの「知の巨人」とうたわれた立花隆氏です。
彼は、この問題について書いた記事を、『田中角栄研究』(講談社)という上下二巻のものすごく分厚い本にまとめました。
ところがこの本は驚いたことに、角栄の政治的手腕をどう評価するのかについてはただの1ページも記されていません。

この本は、戦後の政治権力者の「道徳的な悪」を暴くジャーナリズムの嚆矢と言ってもよいもので、民衆のルサンチマンを煽る悪い風潮を作り出しました。
今でもこの風潮が根強く残っていることは、近年流行の政治家・官僚の引きずりおろしごっこを見ても歴然としています。

政治家や官僚はもちろん公人として高い道徳性を要求されますが、そのことだけで政治家を評価してすませ、国民のためにどんな政治的手腕や才覚や視野の広さを行動によって示したか、という肝心の点に目がいかなくなってしまうのは困ったことです。

「清廉潔白」は政治の理想かもしれませんが、現実の政治とそれを取り巻く世界とは、猥雑さに満ちています。
複雑な社会でものごとを通そうと思ったら、理想通りにはいかないことは、大人なら誰でも知っているはず。
民衆のルサンチマンを満たすために、道徳の名を借りて政治の本質から目をそらすことは、たいへん下品でけち臭いことです。
中国の文化大革命なども、権力闘争のために、「造反有理」などという単純なスローガンの下、民衆のルサンチマンを利用して、多くの政治家や知識人をつるし上げにしたことで有名です。


今回の大災害で、どんな理屈を垂れようが、緊縮などと言っている場合ではなく、インフラ整備、インフラ・メンテのために早急に予算を増額すべきことがはっきりしました。
転ばぬ先の杖(もう転んでいるのですが)が何より大事であることを角栄は「土建屋」の直感で知っていたのです。
いまこそ角栄の政治家魂を復権させましょう。


安倍政権20の愚策(その3)

2018年07月04日 00時38分45秒 | 政治



(17)外国人土地取得にかかわる無規制
中国が日本の土地を爆買いしています。
すでに北海道や沖縄を中心に、全国土の2%が中国人の所有になっています。
https://www.recordchina.co.jp/b190071-s0-c20-d0035.html
2%というと静岡県全県にほぼ匹敵します。
http://www.sankei.com/world/news/170225/wor1702250023-n1.html
http://blog.goo.ne.jp/sakurasakuya7/e/884073e66a98c0319f25170316a099a9
古くは2005年、国交省主催の講演会で、中国人男性が「北海道1000万人計画」というのをぶち上げました。
以下の動画で、産経新聞の宮本雅史氏がその模様を語っています。
https://www.youtube.com/watch?v=P7urvLd18u0
やがては北海道全域を中国の支配下に収めようという魂胆が丸見えです。
このような事態を招いたのは、外国人が土地を取得することに対して法的な規制がないことが原因です。



しかも国交省は、わざわざ外国人不動産取引の手続きを円滑化するための実務マニュアルを作成。
「どんどん買ってください」と言わんばかりの姿勢を示しています。
日本は外国人土地法の第1条で、「その外国人・外国法人が属する国が制限している内容と同様の制限を政令によってかけることができる」
としていますが、政令が制定されたことはありません。
対して中国では外国人の不動産所有は基本的に不可。
なおこの件は以前にも扱いましたので、詳しいことは、以下で。
https://38news.jp/economy/10151

また、国防の要地であるはずの対馬が韓国人に不動産を爆買いされ、民宿、ホテル、釣り宿など、思いのままに建設、経営されています。
韓国のツアー客が大挙して対馬に来るとツアーガイドが開口一番、「対馬はもともと韓国の領土です」と説明するそうです。
対馬市当局は、どれくらいの土地が韓国人の手にわたっているか、把握していません。
こういう危機的状態は、政府がいち早く手を打たない限り、今後ますます加速するでしょう。

(18)中国人の医療タダ乗り

これは最近問題になっていますね。
https://diamond.jp/articles/-/129137
中国のがん患者数は半端ないですが、そのうち一部の人が日本で最先端治療を受けるために来日します。
医療で来日する場合は医療滞在ビザが必要で、これだと費用は1000万円以上かかります。
しかし経営・管理ビザで入国して三か月以上滞在すると、国民健康保険の加入が義務付けられます。
すると前年に日本で営業していなければ(実際しているわけがないのですが)、月4000円の保険料を支払って、三割負担で医療費が安くなるという仕組み。
渡航費、滞在費も含めて300万円程度の負担で済みます。
患者は日本で会社を経営するわけではなく、斡旋業者が資本金の500万円を見せ金として示し、ビザが発給されると次の患者に回す。
これを繰り返して、何人も患者が来日します。
また中国残留孤児が家族を呼び寄せて、生活保護世帯の処遇を受ければ、ゼロ円で医療が受けられます。
もちろんこれらの差額分は、日本国民の税金によって賄われます。

筆者は、こうした巧妙なからくりを利用する外国人たちを特に非難しようとは思いません。
なぜなら、制度の抜け穴がある限り、合法的ならだれでもそれを利用しようというのが人情で、それが生活者というものです。
問題なのは、こうした制度の抜け穴をいち早く塞ごうとしない日本の管轄官庁のだらしなさ、鈍さにあります。

(19)観光立国、カジノ法案
インバウンド、インバウンドと、政府は日本を観光立国にしようと騒いでいます。
しかし内需拡大を目標に自国の生産力の拡大を諮ろうとせず、ガイジンさんに頼るようになった国は必ず衰えます。
ところで訪日外国人の内訳ですが、韓国、中国、台湾、香港の4地域で、全体の73%を占めます。
欧米加豪の合計はわずか14%。
しかも2014年当時、前者は67%、後者は18%でした。
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf
つまり増えているのは、お隣からの訪問者であって、欧米人の割合は減っているのです(絶対数は微増)。
韓国や中国がいまの日本にとって、不安定な関係にあるということを忘れないほうがいいと思います。
しかも訪日外国人の4割は、観光客ではなくビジネスマンです。
これらの人は日本でちゃっかり稼ぐ意図で来日します。
訪日外国人の増加を素直に喜べません。
もう一つ素直に喜べない理由。
じゃんじゃん高級ホテルの建設でも進むなら話は別ですが、実際には、サービスの悪い民泊の増加による料金低下競争が起きています。
老舗旅館などが閉鎖されつつあります。
デフレ不況期にこういうことが起きると、移民による賃金低下競争と同じで、日本の経済全体に悪影響を及ぼすのです。

さらに、次の点が決定的に重要です。
最新の統計では旅行収支1.3兆円の黒字と出ていますが、これってGDPのわずか0.26%です。
この程度の黒字幅をもって、日本経済に好転の兆しがあるかのような幻想をマスコミが振りまいています。
この種の幻想は、政府がやるべきことをやらない口実として利用され、不作為の事実を隠蔽する効果を生むだけです。

カジノ法案(IR実施法案)が衆議院で可決されました。
これも「観光立国」というまやかしの政策の一部です。
パチンコや競馬・競輪などでギャンブル依存症が多いことは知られていますから、カジノが出来たからといって、急に依存症が増えるとは思いませんが、政府がやるべきことをやらず、デフレ脱却を先延ばしするなら、カジノがあろうとなかろうと、貧困層が増え依存症も増えるでしょう。
さらに、カジノ収入のすべてが国庫に収まるのではなく、7割は賭博事業会社の懐に入るという事実に注目すべきです。
さぞかしラスベガスなどで鳴らした名うての外資に狙われることでしょう。
ここにも米国の大きな圧力を感じますし、農業や電力や水道の自由化と同じように、グローバリズムを無反省に受け入れる日本政府の亡国路線が見えます。
日本は「観光立国」などという浮かれ騒ぎにうつつを抜かすのではなく、一刻も早くデフレ脱却のために、内需拡大を目指すべきなのです。
社会資本が充実し経済活動が繁栄すればその国は魅力を増すので、観光客などはおのずと増えます。

下図は2016年の外国人訪問者数の国際順位。



(20)歴史認識問題の放置
2015年12月に交わされた日韓合意によって、安倍政権は慰安婦問題について、謝罪と責任表明、10億円の資金提供を約束し、事実上、村山談話、河野談話をそのまま引き継ぐ形になってしまいました。
ここにはアメリカの意向が働いていました。
その意向とは、

①東アジアの同盟国間でいざこざを起こさないでほしい。
②敗戦国・日本の「悪」を固定化しておきたい。
③日本の自主独立を阻み、いつまでも属国として服従させておきたい。

朝日新聞がはなはだ不十分ながらせっかく吉田清治の本のウソを認めたのに、安倍政権の所行はそれを裏切るものでした。
その後、事態は予想通りに進みました。
今では中韓のみならず欧米諸国においても、旧日本軍が20万人の若い朝鮮女性を性奴隷として強制連行しひどい目に遭わせたという理解が定着しています。
外務省は、杉山審議官が国連女性差別撤廃委員会で、強制連行の事実を否定した以外には、国際社会の歪曲に対して、何らの積極的行動も起こしていません。
杉山審議官の声明もかき消されています。
しかも朝日新聞はその英語版で、自ら認めたはずの誤りを平然とくつがえし、国際社会の日本たたきの風潮に便乗して、「性奴隷」説を触れ回っているのです。
外務省は、もちろんこれに対しても何もしていません。

一方、2015年10月、ユネスコは、中国が申請してきた「南京大虐殺文書」を記憶遺産として認めました。
この30万人虐殺説は、何の証拠も目撃証言もなく、写真資料も偽造や他からの借用であることが今でははっきりしています。
しかし世界に散らばる中国系の人々は各地で盛んにこの説を定着させつつあります。
その旺盛な活動歴は山ほどあります。
たとえば最近も、カナダで中国系団体が「南京大虐殺犠牲者記念碑」の建立を目指し、中国系国会議員がカナダ政府に12月13日を「南京大虐殺記念日」と制定するよう求める署名を行っていますが、日本政府はこれを「遺憾だ」と述べるのみで、何ら阻止すべき行動に出ていません。
アメリカの意向への過度な気遣い、日中関係への配慮、これらの事なかれ主義が正当な外交交渉の道を阻んでいるのです。
日本は軍事的には米国と同盟関係にあるものの、情報戦において完全に戦勝国包囲網に取り囲まれてしまっているのです。
いまだ敗戦は続いています。


以上、三回にわたって安倍政権の愚策を並べてきました。
本当にひどいものですね。
だからといって今すぐこの政権を倒せばよいというものではありません。
倒した後、たとえ自民党の誰かが引き継ぐとしても、これらの愚策を払拭できる実力と英知を具えた有力政治家が今の自民党にはいません。
それどころか、財務省の緊縮路線や外務省の親中路線にハマっている人たちばかりです。
またありえないことですが、仮に野党が倒閣を実現させたとしても、彼らはただ反権力を自己目的にしているだけなので、何の建設的な政権構想も持っていません。
事態は絶望的に思えます。
しかし絶望してはなりません。
絶望しないための手は三つあります。

①安倍政権のグローバリズム政策を根底から批判できる健全野党を育てるために、言論その他によって世論形成を試みること。
②自民党内の若手議員をはじめとした積極財政派を応援しその勢力の伸長を図ること。
③政権を一枚岩と見て安倍首相個人への感情的批判や憎悪に終始するのではなく(それはほとんど意味のないことです)、政権内部の複雑な権力駆け引き、特に財務省と官邸の対立や、内閣府に属する諮問機関の中で実力を持つ「民間議員」の悪影響の大きさ、などを正確に見積もること。

①と②は今のところかなり迂遠ですが、③をさらに現実的に活かす方法は、いろいろ考えられると思います。
参考までに以下の拙稿を。
https://38news.jp/politics/11893
https://38news.jp/politics/11942


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「ポピュリズムの再評価」(仮)の座談会に
出席しました。(8月15日発売予定)




安倍政権20の愚策(その2)

2018年06月30日 14時14分15秒 | 政治


(11)農協法改革
2015年8月、政府は農業分野に外国資本の参入も可能となる農協法改革を行いました。
例によって調子いいことを謳っていましたが、この改革の趣旨を露骨に示せば、

①農家保護団体「全中」を解体し、個別農家、単位農協をバラバラに市場に向き合わせる。
②農業委員会の委員を首長専任制とし、農業以外の大企業もそこに参加させる。
③農協の要件を緩和し、株式保有者の利益、外資の参入に資するように「自由化」する。

明らかに竹中式構造改革・規制緩和路線の強力なパンチです。
日本の農業は亡びに向かうでしょう。

(12)種子法廃止
これも(11)と同じく、ただでさえ食料自給率の低い日本で農業に壊滅的な打撃を与える政策です。
2016年9月に規制改革推進会議で提起され、都道府県や農家への説明もなく、2017年3月に唐突に国会を通過してしまいました。
すでに今年の4月1日から施行されています。
種子法とは正確には主要農作物種子法と呼ばれ、稲、麦、大豆の種子の開発や生産・普及を都道府県に義務づけたものです。
この制度の下で都道府県は試験研究の体制整備、地域に合う品種の開発と「奨励品種」の指定、原原種や原種の生産圃場の指定、種子の審査、遺伝資源の保存などを行ってきたのです。
政府は「すでに役割を終えた」「国際競争力を持つために民間との連携が必要」などの理屈をつけていますが、とんでもない話です。
民間とはどこか。
言うまでもなく大いに問題な遺伝子組み換え作物を大量生産しているアメリカのモンサント社、デュポン社などの外資です。
以下に世界の種子生産企業のシェアを記します。

1位 モンサント(アメリカ) シェア23%
2位 デュポン(アメリカ) 15%
3位 シンジェンタ(スイス) 9%
4位 リマグレイングループ(フランス) 6%
5位 ランド・オ・レールズ(アメリカ) 4%
6位 KWS AG(ドイツ) 3%
7位 ハイエルクロップサイエンス(ドイツ) 2%
8位 サカタ(日本) 2%以下
9位 DLF(デンマーク)
10位 タキイ(日本)
出典主要農作物種子法廃止について(2007年)

これでどうして「役割を終えた」とか、「国際競争力をつける」などと言えるのか。
有力外資系に独占されるに決まっています。
頭がおかしいとしか言いようがありません。
73年後もアメリカの奴隷国家、日本。

(13)電力自由化
電力自由化の歴史は長く、90年代に始まっていますが、家庭用電力も含めた全面自由化に踏み切ったのは、2016年4月です。
この場合も、なぜ自由化がいいのか、政府は明確な根拠を示し得ていません。電力料金の低減と効率化を理由として挙げていますが、効率化とは自由化論者が必ず使う抽象語で、意味不明なゴマカシです。
料金については、次の指摘がなされています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E8%87%AA%E7%94%B1%E5%8C%96#%E6%97%A5%E6%9C%AC
 自由化により電気料金の低減に成功した国は今のところない。むしろ、自由化で先行する英国や
 ドイツでは電気料金が急激に上昇しており、自由化されていない日本の電気料金を上回るなど、
 期待されていた電気料金の低下は全く起きていない。




また発送電分離などの自由化が進んでいたアメリカでは、災害時の修復に時間がかかり、大規模停電も起き、価格も乱高下したので、現在では15の州とワシントンだけに限られています。

電力供給の主体は東電などの地域独占ですが、これは総括原価方式を取っています。
この方式には次のようなメリットがあります。

①電力会社が中長期的な計画を立てやすい。
②消費者が過大な料金負担を負わなくて済む。
③企業経営者が長期的な設備投資をしやすい。

そもそも電力はそれがなければ一日も文明生活が送れない最重要な公共財です。
各事業所や家庭に毎日滞りなく安定供給されるためには、発電所から消費者までの全プロセスを総括的に管理する体制が不可欠なのです。
ちなみに以下の図は、自由化施行後、8か月を経た時点での調査結果です。



切り替えなかった最大の理由は、「思ったほど料金が安くならなかった」で、約3割でした。

(14)固定価格買い取り制度(FIT)
この制度は2011年の東日本大震災の1年後、当時の菅直人内閣の下、鳴物入りで始められました。
原発をゼロにして、再生可能エネルギー電力を供給した企業から電力会社が高額で電気を買い取るという制度ですが、これが欠陥だらけであることは既に露呈しています。
再エネの中心である太陽光発電は、安定供給を確保するのに致命的な欠陥を持っています。
夜は発電できないこと、日本の不安定な気候や風雪に弱いこと、など。
それで稼働率はわずか15%程度です。
また広大な用地を確保するのが難しい。
原発一基分の電力を供給するのに山手線内部ほどの面積が必要です。
しかもこの制度は建設計画もないのに書類申請だけで認可されるというずさんなものでした。
そこでこのおいしい話に、電力事業の専門でもない企業の申し出が殺到しました。
電力量は、多すぎても少なすぎても困ります。
そういうわけで、九州、北海道、沖縄、四国、東北の各電力会社は、買取を拒否しました。
加えて消費者には再エネ賦課金が課されます。
賦課金は次第に安くなってきてはいるものの、将来あまり発展する見込みのない電源のために税金のように金を取られるのは腑に落ちません。
これはそのままレントシーカーたちの懐に収まるのです。
ちなみに以下の図によれば、2015年時点で、「新エネルギー」が全電力量に占める割合は4.7%となっていますが、太陽光はその四分の三
ほどですから、3.5%程度ということになります。



2017年4月からこの制度の見直しがなされ、価格の上限設定や入札制度を導入していくらかマシにはなりましたが、太陽光や風力に今後もあまり可能性が見出せないことには変わりありません。
将来性がそんなに見込めない電源のために国民に賦課金を課すような不条理な制度は速やかに廃止し、安全確認がなされた原発から順に再稼働に踏み切ることが望まれます。

(15)混合診療
2016年から混合診療が解禁になりました。
公的保険(健康保険)の利く診療と利かない診療(自由診療)とを組み合わせた診療が受けられるというのです。
一見、診療の範囲が広がって朗報のように聞こえるところがミソです。
混合診療を受けると、わずかな例外を除いて、保険適用分も全額自己負担になってしまうという決まりがあるのです。
おまけに自由診療では、薬代が月700万円もかかるといった場合が出てきます。
お金持ちしか受けられませんね。
それだけではありません。
命や健康は何よりも大切なものですから、そんなにお金がない人でも、この際、混合診療に対応した民間保険に入っておこうと考えるでしょう。
そこをアフラックなどの外資系が狙ってきます。
保険会社は当然、薬会社と提携しています。
患者は健康になれるなら高い薬による治療でも受けたいと思う。
そこで暮らしに困らないようにやむを得ず高い保険料を払って保険に加入する。
こういうからくりになっているのです。
さらにそれだけではありません。
現在の政府の緊縮財政路線では、膨らむ社会福祉関係の支出削減に躍起です。
そこで公的保険の適用範囲を狭めようとしています。
すると逆に自由診療の範囲が広がるでしょう。
つまり政府もこの流れに結託して、国民生活を苦しめようとしているのです。

ところで社会福祉支出が膨らむのは事実だから政府が財源に苦慮するのは仕方がない、とあなたは思っていませんか。
政治家もマスコミも、与党も野党も、ほとんどがマクロ経済をわかっていなくて、財務省の罠に引っかかっています。
財源など国債発行でいくらでも賄えます。
「とんでもない、「国の借金」が1000兆円を超えているのに、これ以上そんなことをしたら財政破綻する!……」
これもまた財務省の仕掛けた罠です。
日本の国債はすべて円建て、政府は通貨発行権を持っていますから、原則としていくらでも国債を発行できます。
また日銀の買いオペは政府との連結決算でチャラになりますからその分負債は減ります。
現にこれまでの量的緩和で、すでに政府の負債は300兆円以上減っているのです。
さらに、たとえ国債が膨らんだとしても、借り換えを繰り返すことで継続して負債を続けてかまいません。
しかも国債発行による政府の消費支出は、その分、市場に流れて国民経済を潤します。
日本に財政問題など存在しないのです。
国民の福祉のために、どんどん財政出動するのが政府の任務です。

(16)水道の自由化
第二次安倍政権成立後間もない2013年4月に麻生財務大臣がワシントンで、「日本のすべての水道を民営化する」と言い放って周囲を驚かせました。
4年後の2017年3月にはその言葉通り、水道民営化に道を開く水道法改正が閣議決定。
このように国民不在のまま、水道民営化路線は着々と進められてきたのです。
水道民営化が、電力自由化、労働者派遣法改正、農協法改正、種子法廃止、混合診療解禁と同じように、規制緩和路線の一環であることは明瞭です。
これにより外資の自由な参入、水道料金の高騰、メンテナンス費用の節約、故障による断水、渇水期における節水要請の困難、従業員の賃金低下、疫病の流行の危険などがかなり高い確率で起きることが予想されます。
先日の大坂地震で明らかになったように、現在の日本の水道管はあちこちで老朽化し、これを全て新しいものと取り換えるには、数十兆円規模の予算がかかるそうです。
しかしいくら金がかかろうと、国民の生命にかかわる飲料水が飲めなくなる状態を改善することこそは政府の責任でしょう。
それを放置してすべて民間に丸投げしようというのです。
正しく公共精神の放棄です。
このような水道民営化は、推進論者がうそぶくように、少しも世界のトレンドなどではありません。
それどころかもうかなり前からその弊害が指摘され、反対運動も高まり、再公営化した自治体が180にも上っています。
パリ、ベルリン、クアラルンプール……。
https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=148552
フランスの大手水道企業・ヴェオリア社は、パリその他で水道が再公営化され干されたのをきっかけとして、免疫のない日本を狙い撃ちしようとしています。
そのことに気づかない安倍政権のこの政策は、愚策中の愚策と言ってもよいものです。
まことに情けない限りという他はありません。


*2回で終える予定でしたが、各項目が長くなってしまったので、もう1回追加します。


安倍政権20の愚策(その1)

2018年06月27日 22時21分07秒 | 政治


首都圏ではまだ梅雨が明けていないのに、真夏日が続いていますね。外を歩いていると、照り付ける太陽で体はほてり、頭はぼーっとなりそうです。皆さんも熱中症にはぜひお気を付けください。

さてこのあたりで頭の整理のために、安倍政権がいかに拙い政策を打ってきたかを、その不作為も含めて列挙し、端的に批判することにしましょう。
これを筆者なりに数え上げてみたところ、何と20項目にも及びました。これではかえって頭を冷やすことができず、熱中症になってしまいそうです。

(1)PB黒字化目標
「骨太の方針」が閣議決定されましたが、25年にまで延ばされはしたものの、PB黒字化目標達成が残ってしまいました。これあるがために根拠なき財政破綻論がこれからものさばり続けるでしょう。

(2)消費増税
同じく「骨太の方針」に、19年10月に消費税10%への引上げが明記されました。
もし実施されればデフレはさらに進み、消費の減退が投資のさらなる縮小を引き起こし、GDPは伸びず、税収も伸びないでしょう。
実質賃金はさらに圧迫されるでしょう。
下請け中小企業は音を上げるでしょう。
格差はさらに開くでしょう。
デフレ期の増税というこの気違いじみた政策を取っているのは日本だけです。

(3)インフラの未整備
新幹線の整備基本計画は1970年代初めに立てられました。17あるのですが、60年近く経っても営業にこぎつけたのは、東海道、東北、上越、山陽、九州の各線と、北陸、北海道のほんの一部だけ。
図で見るといかに未整備か一目瞭然です。



高速道路網もひどいものです。



インフラの未整備は東京一極集中、地方経済の沈下につながってきただけでなく、災害時の対応の手遅れという深刻な問題を引き起こします。

(4)インフラの劣化
昨年、いくつもの自治体で、財政難のため、老朽化した橋を再建せずに撤去しましたが、橋を撤去したということはそこを通る道路も使えなくなったことを意味します。(3)と同じように、災害対策の手遅れにつながるのです。
下の表は、国土交通省が、建設後50年を経過する社会資本の割合を試算したものですが、今後急速に増加することが予想されます。



しかもこの表は、建設年度不明の橋やトンネルを除いてあります。建設年度不明ということは、50年より古いと考えるのが常識でしょうから、それを含めれば、劣化した橋やトンネルの割合はもっと多くなるはずです。
戦慄すべき数字ですね。
政府や自治体は有効な対策を早急に打つべきなのに、その気配は見られません。
財務省が緊縮路線に固執しているからです。

(5)公共事業費削減
(3)と(4)のような事態になった原因は、ひとえに財務省をはじめ、マスコミの喧伝による長年にわたる公共事業悪玉論です。
下の図で分かるように、現在の公共事業費は、ピーク時のわずか五分の二に減らされています。



このどうしようもない思い込みを何とかして打ち砕かなくては、日本の国土と経済に望みはありません。安倍政権もいまだにこの路線を走っています。

(6)科学技術予算削減
日本からここ数年、ノーベル賞受賞者が多数輩出しましたが、この方たちが研究に専念されていたのは、だいたいが今から二十年以上前、つまり日本がデフレに突っ込む以前のことです。その時期にはまだ基礎研究のためにも長期的な科学技術予算が期待できたのです。
ところが最近は、期限付きでしかお金が与えられず、しかも各国と比べ政府支出に占める割合は、年々減っています。



つい先日もスパコンの速度を争う「TOP500」の結果が発表されましたが、1位と3位がアメリカ、2位と4位が中国で、日本はやっと5位につけたほか、12位、16位、19位といった成績です。昨年4位につけたペジーコンピューティングの「暁光」は期待されていましたが、検察の邪魔が入ってランクから姿を消しました。
https://www.sankei.com/smp/economy/news/180625/ecn1806250014-s1.html
こんな「緊縮病」にかかったままでは、科学技術立国としての日本は、やがて亡びるしかないでしょう。

(7)成果主義
「労働時間でなく成果で評価を」という話は、かなり前から企業サイドで出ていました。
2014年5月にに安倍首相は、「成果で評価される自由な働き方にふさわしい労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」と、その趣旨を述べています。
「自由な働き方」というと聞こえはいいですが、要するに、終身雇用を壊して人件費を減らそうという企業者側の要求に従ったものです。そしてこの考え方は、欧米の「個人」単位でものを考える思想の敷き写しです。
成果主義は有能な個人の感覚に合うため一見いいことのように思えますが、「仕事は共同作業」という日本人の考え方に基本的にマッチせず、よき労働慣行を壊す働きをします(してきました)。
実際、少し考えてみればわかることですが、組織での仕事というものは、一人で完遂できるものではなく、本質的にチームワークによって成り立つものです。何でも欧米を見習おうというジャパン・グローバリズムの悪しき面をここにも見る思いです。
また、何をもって「成果」と呼ぶのか、抽象的で、その基準がはっきりしません。
「売り上げを伸ばす」ことだけを成果とみなすなら、ブラックな企業にとっては好都合です。というのも、成果主義は雇用形態とも連動しているからです。「成果」が上がらない場合、臨時雇い、派遣、契約社員などによって、次々と歯車を取り換えればよいということになります。まさに労働者は「自由」に入れ替わるので、協力体制も長続きせず、若年労働者の経験知(暗黙知)やスキルも向上ません。世間には40代、50代の働き盛りの人たちの定職難民があふれています。
このことはすでに巷では反省されています。それなのに安倍政権は、次の「働き方改革」の中心部分に、この成果主義思想を盛り込んでいるのです。

(8)働き方改革
今国会で審議中の高度プロフェッショナル制度ですが、この法案の要は、報酬と労働時間との関係を切り離す点にあります。
野党や労組からは、過労死を誘発するとか、残業代ゼロはなし崩し的に他の職種や低所得層にも波及するとして強い反対の声が出ています。野党の言い分はもっともなところがありますが、それとは別に、そもそもこの法案の根底には、「何でもかんでも自由が素晴らしい」といった幼稚な自由主義イデオロギーがあります。
しかし実際に組織で仕事をしている人々というのは、いくら高度な専門職だろうと、人間関係のしがらみを通して働いているので、そんなに自由裁量が利くはずがありません。
また仕事がどっと押し寄せてきて短期間のうちに乗り切らなくてはならないことはごまんとある。過労死に至るかどうかはともかく、仕事の量と質によって大きな制約を受けるのは当たり前です。そんな時、自分はその道のプロだというプライドだけでやる気を維持できるかどうか。仕事を放りだすわけにはいかない、でもこんなに働かされた以上これくらいはもらいたいと感じるのが人情ではないでしょうか。
この制度は、じつは雇用者と労働者との間の「自由」の確保しか考えていません。そこに人件費削減を狙う雇用者(や株主)の、つけ込みどころがあります。成果主義と同じ「自由」の罠です。
彼らは、労働者にとってなぜこの雇用形態が今までに比べていいのか説明できないはずです。安倍首相もまた。

(9)労働者派遣法改正
これは2015年10月に施行されました。
この「改正」のポイントは三つです。

①同じ派遣先で三年以上働けない。
②三年を超えた雇用を派遣元が依頼できる。
③専門26業務とその他の業務の区別をなくす。

①は労働者の入れ替えを容易にします。
②は「できる」と言っているだけで、派遣先が断ればそれで終わり。
③は正規雇用への道を一層閉ざします。
専門26業務では、派遣先で新規求人する時、派遣労働者に雇用契約を申し込むことが義務付けられていましたが、それが取り払われたのです。
非正規雇用は現在4割に達しており、所得や結婚の面で大きな不利を背負っていることは、よく知られているところです。
安倍政権の規制緩和路線の意図が丸見えです。

(10)移民受け入れ
個別企業にとって人手不足が深刻です。
単純労働者の場合、即戦力を外国人に頼るのは安易とはいえ、わからないではありません。
しかし政府が率先して受け入れ制度を緩和するとは、あきれてものが言えません。
まず2012年5月に「高度人材」の名目でこの制度は拡張されました。
それ以前にも留学生、技能実習生などの形で外国人労働者はたくさんいましたが、今年の「骨太の方針」で新たな在留資格を設けることが明記され、ついに50万人超の受け入れ増を見込むことになりました。すでに在留外国人は約250万人、3割は中国人です。



移民難民問題でヨーロッパがいまどんな惨状を呈しているか、安倍首相は知らないのでしょうか。賃金低下競争、文化摩擦、国論分裂、国民の不満の増大、治安の悪化、教育問題など、そのデメリットは量り知れません。
多少時間はかかるかもしれませんが、人手不足は、技術開発投資や設備投資による生産性の向上と、医療看護、介護、建設など、低所得できつい分野における日本人の賃金の大幅アップによって解消できます。これは同時に経済を活性化させる意味で、一石二鳥なのです。
しかしそれを阻んでいるのは、財界の人件費削減圧力と、財務省の緊縮路線と、グローバリズム・イデオロギーです。だれがこれらの亡国路線を生み出しているのか、それぞれについてその真犯人を見抜きましょう。



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