小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

日本の学者・エコノミストのほとんどはMMTを理解していない

2019年08月29日 14時07分14秒 | 経済

MMTの主唱者・ランダル・レイ教授

前2回の記事「MMTの服用を拒否する〇〇病患者を診断する」では、いずれの患者たちもあまりの重症であるために、ついつい診察と診断が長くなりすぎました。
そこで、前2回で展開した記事のダイジェスト版をお送りします(少しだけ訂正と補足があります)。

詳しくお知りになりたい方は、下記を直接ご参照ください。
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/5e55dccd53e80b1ffd733b2d407832e9
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/a87a7f5dd4c895ad790de8997b58c9c6

【症例1】MMTを実践すれば、インフレを止められず国債が紙切れ同然になって、財政が立ちいかなくなる可能性は否定しきれない。(中略)安倍政権では(中略)消費増税も2度先送りされてきた。いざという時に、果敢に利上げや増税ができるのかは疑わしい。財政主導の経済で生産性が落ち、中長期には日本経済の成長力が落ちる恐れはある。
(ダイヤモンド編集部・西井泰之 ダイアモンドオンライン 2019/7/17)

【診断】MMTでは、財政赤字はそれ自体悪ではなく、財政出動が行きすぎないようにする歯止めはインフレ率であると何度も断っています。
それに、消費増税の実施こそは、デフレの長期化を作り出してきたのです。
これまでの増税の延期がなぜ、高インフレ期になった時の増税を困難にする根拠になるのでしょうか。
また、財政主導の経済でどうして生産性が落ちるのですか。
逆に、政府がさまざまな公共部門に投資することによって、技術開発も進み、企業も活気を呈し、生産性があがるのです。
あなたは、おそらく日経新聞読みによくある「表層型ADHD」に罹患しています。

【症例2】MMTにおける中央銀行はこうした目標(物価上昇率2%)も出口(金融緩和の終わり)もない。政府の出す財政赤字をひたすら埋める役割を担うにすぎない。(中略)
逆説的だが、MMTによれば、政府が財政収支を気にしなくてよいのは、その気になればいつでも増税できるからだ。(中略)
MMTは政府に無限の課税権を認めているようにも思われる。
MMTが目指すのは脱デフレではなく、いわば「大きな政府」だ。

一橋大学経済学研究科・政策大学院教授・佐藤主光 プレジデントオンライン 2019/7/19

【診断】MMTはデフレ脱却ができない時には、お金を積み上げるだけの金融政策のみに偏したこれまでの政策を、もう少し実体経済を直接活性化させる財政政策主導に切り替えるべきだと主張しているにすぎません。
あなたは、いったいに、税の話ばかりしていますが、消費増税を強制してきたのはMMTではなく、政府財務省ですよ。
あなたは消費増税には反対らしい。
それなら、政府を責めるべきであって、なんで現代の貨幣や国債のしくみと回り方(「政府の赤字は民間の黒字」)を解明している「理論」に、増税の責任を押し付けるのでしょう。
MMTは「無限の課税権を認める」などと言ったことは一度もありません。
むしろ逆に、税とは政府の歳出の唯一の財源(であるべき)だという、誰もが陥っている考え方がそもそも間違いだという本質規定をしているのです。
MMTは、脱デフレのためには、金融政策偏重よりも積極的な財政政策にシフトした方がよいということをたしかに言っています。
ところでその場合、「大きな政府」(曖昧な言葉ですが)と脱デフレとは何が違うのでしょうか。
20年以上続くデフレで国民が苦しんでいる時に、「慢性的な需要不足を埋め合わせる」ために一時的に政府が「大きな政府」を演じることは悪いことでしょうか?
あなたは、まだ実施されてもいない「理論」を、すでに実施されている「政策」と勘違いして、それが招く高インフレとその結果として政府に「無限の課税」を許す事態に、極度におびえているようですから、「インフレ・フォビア」です。

【症例3】今仮に、日本政府がMMTの採用を真剣に検討しているというニュースが流れたとすると、私が真っ先にすることは、円建ての銀行預金をドルかユーロ建ての預金に預け替えることだ。(中略)ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない。(中略)MMTのようにこれから不換紙幣をどんどん刷りますと宣言するのは、フーテンの寅さんではないが「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではなかろうか。
元財務省大臣官房審議官・有地浩 アゴラ 2019/7/21

【診断】あなたは、MMTについてだけではなく、お金についての知識もまるで持ち合わせていません。
MMTでは、自国通貨建ての国債発行額には、インフレ率以外に制約はないと言っているので、財政出動の際に、どれくらいのインフレを許容するのかということは、大前提としてあらかじめ繰り込まれています。
したがって、「ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない」などというのは根も葉もない妄想です。
あなたは、お金というものを紙幣でしかイメージしていないのですね。
事実は言うまでもなく、政府がたとえば10兆円の国債を発行するに際しては、ただ日銀当座預金の簿記の借方欄に10兆円と記載されるだけです。
お金とは、借用証書に過ぎません。
この証書の流通を成立させているのは、人と人との信用関係であって、金銀や現金紙幣のような「モノ」ではありません。
あなたのような無知な人が、かつて大臣官房審議官という職に就いていて、いったい大臣に何を進言したのでしょう。それが今日の政治家たちの緊縮脳の育成に一役買っているかもしれません。
あなたは、重度の「被害妄想狂」です。

【症例4】彼女(ケルトン教授――引用者注)の提唱するケインズ主義的な財政運営については、わが国は苦い経験がある。それは90年代、バブル崩壊後の財政運営で、120兆円規模の減税と公共事業の拡大が、景気対策という名目で行われた。しかし失われた20年が経過し、いまだデフレ脱却すらできていない。
公共事業が、その効果や効率を考えずに行われた結果、経済の大きな非効率を生じさせ、維持・補修コストに四苦八苦しているというのが現状だ。
わが国一般会計の歳出・歳入のギャップは「ワニの口」と呼ばれているが、これが大きく開くのは、バブル崩壊後とリーマンショック後の景気対策としての公共事業の追加(歳出の拡大)と減税(歳入の減少)が行われたためで、いまだ「ワニの口」は開いたままだ。

中央大学法科大学院教授・東京財団政策研究所主幹・森信茂樹 ヤフーニュース 2019/7/25

【診断】あなたは、デフレ脱却ができていない現在の状態の原因が、あたかも「120兆円規模の減税と公共事業の拡大」にあるかのように論じていますが、これはまったくのデタラメです。
一般的に減税を行なえば、企業はその浮いた分を投資に回すことができるし、また家計は消費や貯蓄に回すことができるはずでしょう。
また公共事業は、97年をピークとして、それ以降下がりっぱなし、いまでは当時の五分の二に減らされています。
そのため老朽化したインフラによって、災害に備えることができなくなっているのです。
自治体がこれらの「維持・補修コストに四苦八苦している」のは当然で、あなたの言っているのとは逆に、政府が公共事業費や補助金・地方交付税を削ってきたからにほかなりません。
歳入と歳出のギャップが「ワニの口」として開いているのを是が非でもPB黒字化という手法で埋めなければならぬというわけですね。
このたびの消費増税も、そのためにぜひ必要だと考えているのでしょう。
しかしMMTでは、政府内部のお財布事情、つまり「財政収支の健全化」に重きを置きません。
民間経済がいかに健全に機能しているかに重きを置くのです(「政府の赤字は民間の黒字」「政府の債務残高は、過去に政府が財政支出を税金で取り戻さなかったものの履歴でしかなく、それは民間の貯蓄になっている」)。
「ワニの口」が開いていることばかり心配するのは、税収だけを財源とみなすという錯覚に陥っているからです。
この錯覚が、デフレ、緊縮財政、消費増税、PB黒字化死守、「財政破綻の危機」扇動、政府の会計と家計との混同、公的資金が必要な時にすぐ「財源をどうするか」と問う態度など、すべてを縛ります。
税によってワニの口を埋める必要など、もともとないのです。
ところであなたは、財務省が言ってきたこと、行なってきたことをそのままオウムのように繰り返していますね。
そこでプロフィールを調べてみました。
「血は争えない」とはよく言われる言葉ですが、「出自は争えない」ものです。
「元財務官僚」とありました。あなたは「ザイム菌感染型脳障害」に深く侵されています。

【症例5】ケルトンは何もわかっていない。インフレが起きない国でこそ、MMT理論はもっとも危険なのだ。(中略)
日本ではインフレが起きにくい。(中略)MMT理論の最大の問題点はインフレになることではない。インフレにならない場合に起こる、過剰な財政支出による資源の浪費(中略)なのだ。
インフレが起きるのはむしろ歓迎だ。(中略)早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい。(中略)
ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはない、と言っていることから、彼女こそがMMT理論をもっとも理解していないことは明らかだ(中略)。
異常な低金利で財政支出を過度にすることは、現在の民間投資を阻害するクラウディングアウトを起こすのであるが、さらに深刻な問題は、異時点間の資源配分を阻害し、将来の投資機会を奪うことにあるのである。

慶応義塾大学大学院准教授・小幡 績 ニューズウィーク日本版 7/25

【診断】まず、どうして日本ではインフレが起きにくいのですか。
戦争直後は別としても、戦後日本は少なくとも2回、インフレを経験しています。
一つは60年代の高度成長期、もう一つは80年代のバブル期。
デフレが20年以上続くと、たしかに日本ではインフレが起きにくいのだという錯覚に陥りがちです。
しかし、インフレが起きにくいような構造にしてしまったのはいったい誰でしょう。
それこそは、企業家や投資家の利益最大化だけを考える新自由主義イデオロギーの仕掛け人たちです。
あなたは、そうした歴史を見ずに、日本では一般にインフレが起きにくいという普遍化を行なって、彼らの罪悪を隠蔽しています。
次に、仮にあなたの珍説を認めたとして、なぜ、MMTはインフレの起きにくい国において最も危険なのか。
あなたは「過剰な財政支出による資源の浪費」と答えています。しかし誰も「過剰な」などとは言っていませんので、この形容詞をまず取ってください。
さて政府が財政支出を行なうと、本当に資源の浪費につながるでしょうか。
政府が何らかの財政支出を行って事業を発注し、民間がそのお金を使って何らかの事業を受注し、そこで初めて財政支出の意味が具体的に実現に向かう。
これが普通の「財政支出」の道筋ですね。
そうだとすると、政府の財政支出は、そのまま民間の経済活動を積極化することにつながるのではないでしょうか。
次にあなたは、「早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい」と、信じがたいことを言っています。
ちなみにこれまで繰り返してきたように、「自国通貨建ての国債発行で、政府がデフォルトすることは100%ありえない」というのは、MMTならずとも、古くからの私たちの共通了解事項であり、しかもこれは財務省のHPにも掲載されている常識です。
あなたは、そのことも理解せずに、MMTについて「ケルトンは何もわかっていない」などと大言壮語するのですから、こちらとしても答えようもない。
しかし、何が言いたいかはわからないでもありません。
それは、あなたの頭の中が、政府の投資と民間の投資とは非妥協的な二項対立であり、パイの決まった経済資源の奪い合いだという考えに固着してしまっているということです。だから、政府のデフォルトは、そのぶんだけ民間の取り分を増やすことにつながるはずで、だから、「日本経済」の再生のためには、望ましいことである、と、こういう論理になりますね。
ガキの陣取り合戦みたいに一国の経済を考えている。
たとえばあなたが、地方で土木建設会社を経営していて、政府の財政支出(つまり「財政赤字」)によって、道路などの公共施設の建設を受注したとします。
そうしてその建設によって、あなたが利益を得るだけでなく、その道路を利用する人たちが大いに増え、その結果、いままで沈滞していた地方の街が活気を帯びることになります。
このプロセスに、政府と民間の二項対立が存在しますか?
その前に政府がデフォルトしてしまっていたら、インフラ整備による地方活性化のこの試みは、まったく成立しないのではありませんか?
またあなたは、「ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはないと言っている」などと、自分の誤った思い込みを勝手にケルトン教授に投影させていますが、彼女はそんなことは一言も言っていません。
それは先ほどあなた自身が言ったことでしょう?
しかも「心配することはない」とは逆に、「だからこそ危険なのだ」とヘンなリクツをつけて。
MMTでは、財政支出に制約があるとすれば、それはインフレ率だ、と何度も明確に述べています。
統合失調症の一症状に、自分で作り上げた妄想観念をそのまま他人に投影するというのがあります。
「あいつは頭がおかしくなって〇〇病院に運ばれた」というように。
あなたは、ここで、それと等しいことをやっていますね。
ここへきて、ようやくあなたの錯乱症状の根本原因が明確になりました。
「異常な低金利で財政支出を過度にする」などということはMMTと何の関係もありません。
異常な低金利は、むしろ日本政府が過度な金融緩和を、それもマネタリーベースの範囲内だけで行ったために市中にお金が流れなかったことと、デフレマインドがこの政策によっては一向に解消しないことから起きたことです。
積極的な財政支出(つまり民間を直接に刺激する)を適切に行なえば、マイルドなインフレが生じて、企業の貸し出しも増え、おそらく金利もそこそこ上がるでしょう。
銀行も一息つくことができます。
このように、あなたは間違いだらけを並べたてた後で、将来にわたって民間投資を阻害するのが、クラウディングアウト(大量の国債発行による金利の上昇によって民間の資金需要が抑制されるという説)によるものだと決めつけています。
これは、財政支出こそすなわち民業圧迫だという単純なリクツに金縛りになっていることを表しています。
このリクツは、政府を極小にせよ、というネオリベ(新自由主義)イデオロギーを子どもみたいに信じたところからきています。
全体の文章が支離滅裂ですが、一度このイデオロギーに取りつかれると、そんなことはどうでもよくなってしまうのですね。
あなたを、「ネオリベ・ウィルスの侵襲による錯乱症」と名付けておきましょう。

MMTの上陸によって生じたさまざまな患者の症状を見てまいりました。
この後も、同じような患者は増え続けています。
しかしいちいち診察している時間がありません。
またの機会に譲らせていただきます。

私の中に残るのは、やはり、まともな理論、まともな事実を指摘されると、日本のおえらいさんたちは自分のこれまでの立場が脅かされるのに怯えて、こんなにも感情的な拒絶反応を引き起こすのかという、深い慨嘆です。
しかしめげてはなりません。
ちょうど明日(8月30日)には、MMTの主唱者であるランダル・レイとビル・ミッチェルの共著『MMT現代貨幣理論入門』が発売になりますし、なんと10月には、レイ教授が、そして11月には、ビル・ミッチェル教授が来日することが決定しています。
正しい理論についての理解を粘り強く広め、日本の官僚、学者、エコノミスト、マスコミが罹患している深い病気を少しでも治していきましょう。


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MMTの服用を拒否する〇〇病患者を診断する(その2)

2019年08月18日 19時11分27秒 | 経済



【症例4】インフレは突然やって来るが、増税は突然には発動できない。バブル期の土地税制の経緯を見ても、土地バブルが問題になり土地基本法が制定された89年から、地価税が導入される92年まで3年以上かかっている。そもそもあらかじめ決める増税は、所得税なのか消費税なのか、あるいは法人税なのか、だれがどのように国民の合意を求めるのだろうか。
もう一つ、彼女(ケルトン教授――引用者注)の提唱するケインズ主義的な財政運営については、わが国は苦い経験がある。それは90年代、バブル崩壊後の財政運営で、120兆円規模の減税と公共事業の拡大が、景気対策という名目で行われた。しかし失われた20年が経過し、いまだデフレ脱却すらできていない。
公共事業が、その効果や効率を考えずに行われた結果、経済の大きな非効率を生じさせ、維持・補修コストに四苦八苦しているというのが現状だ。
わが国一般会計の歳出・歳入のギャップは「ワニの口」と呼ばれているが、これが大きく開くのは、バブル崩壊後とリーマンショック後の景気対策としての公共事業の追加(歳出の拡大)と減税(歳入の減少)が行われたためで、いまだ「ワニの口」は開いたままだ。
(中央大学法科大学院教授・東京財団政策研究所主幹・森信茂樹 ヤフーニュース 2019/7/25)

【診断】あなたもまた、治癒の難しい症状に侵されているようです。
長い診察になります。
インフレは突然やってくる? インフレは大地震などの自然災害ではありませんよ。
人間社会のさまざまな要因が重なって起きる純然たる社会現象です。
だからこそ行き過ぎが見られた時には、政府が適切なコントロールをすることが可能なのです。

また、土地バブルとインフレとを混同してはなりません。
土地バブルは、金融市場に過剰な資金があふれたために、金融機関や土地ころがしが不動産の爆買いをして暴利を狙った末に起きた現象です。
インフレとは、供給が需要に(たとえわずかなりとも)追い付かない状態一般を指します。
これが緩やかに生ずることで、実体経済への投資が行なわれ、生産活動が活発となり、賃金も上昇しますから、消費が息を吹き返し、デフレ不況から脱却できるのです。

安倍政権は、この20年間つづいたデフレからの脱却を目指しながら、その方法を金融緩和にだけ偏らせ、おまけにデフレ脱却を阻む最大要因である緊縮財政に徹してきたため、見事に失敗したのです。
しかしその目標は2%程度のインフレを目指すというものでしたから、目標自体は間違っていなかったのです。
でも方法が悪かったのですね。
それなのに、あなたは、インフレそのものが悪であるかのように考えている。

あなたは、MMTがインフレ抑制の手段として増税しか提唱していないかのように論じていますが、これも間違っています。
政策金利を引き上げるという手もありますし、日銀が国債の売りオペを行なって過剰な流動資金を吸い上げるという手もあります。
また、仮に増税手段に訴えるとすれば、何税を引き上げるかは、自明です。
高所得者の所得税の累進率を高め、グローバル企業が不当に安い法人税しか払っていない状態を改めさせ、株式などに適用されている分離課税制度をやめればよい。
これらによって、貧富の格差をできるだけ小さくすることができます。
日本は(一応)民主主義国ということになっているのだから、政府がこれらの効用についてきちんと説明しさえすれば、大方の国民の合意が得られるに決まっています。

またあなたは、デフレ脱却ができていない現在の状態の原因が、あたかも「120兆円規模の減税と公共事業の拡大」にあるかのように論じていますが、これはまったくのデタラメです。
一般的に減税を行なえば、企業はその浮いた分を投資に回すことができるし、また家計は消費や貯蓄に回すことができるはずでしょう。
また公共事業は、97年をピークとして、それ以降下がりっぱなし、いまでは当時の五分の二に減らされています。
そのため老朽化したインフラによって、災害に備えることができなくなっているのです。
自治体がこれらの「維持・補修コストに四苦八苦している」のは当然で、あなたの言っているのとは逆に、政府が公共事業費や補助金・地方交付税を削ってきたからにほかなりません。
「失われた20年が経過し、いまだデフレ脱却すらできていない」のは、減税や公共事業の拡大のせいではなく、財務省の緊縮財政路線とその一環としての消費増税のせいです。

最後の一節には、あなたの本音がいみじくも出ています。
歳入と歳出のギャップが「ワニの口」として開いているのを是が非でもPB黒字化という手法で埋めなければならぬというわけですね。
このたびの消費増税も、そのためにぜひ必要だと考えているのでしょう。
しかしMMTでは、政府内部のお財布事情、つまり「財政収支の健全化」に重きを置きません。
民間経済がいかに健全に機能しているかに重きを置くのです(「政府の赤字は民間の黒字」「政府の債務残高は、過去に政府が財政支出を税金で取り戻さなかったものの履歴でしかなく、それは民間の貯蓄になっている」)。

「ワニの口」が開いていることばかり心配するのは、税収だけを財源とみなすという錯覚に陥っているからです。
この錯覚が、デフレ、緊縮財政、消費増税、PB黒字化死守、「財政破綻の危機」扇動、政府の会計と家計との混同、公的資金が必要な時にすぐ「財源をどうするか」と問う態度など、すべてを縛ります。
政府はもともと、集められた税収を使って国費に充当するのではありません。「スペンディング・ファースト」と言って、まず政府短期証券などの形で日銀当座預金からお金を引き出してから(といっても記載するだけですが)、税を集めて国費の一部を補てんするのです。
これは、純然たる会計上の事実です。
税によってワニの口を埋める必要など、もともとないのです。

ですから、無税国家は理念としては可能ですが、徴税の四機能(国民経済の安定化、所得の再分配、自国通貨納税による経済活動の維持、公共性を害する経済活動に対する処罰)を無しにしてしまうと、一国の経済政策のタガが外れて、政府の統制が壊れ、アナーキーな状態に転落します。
徴税の意味は、そこにこそあります。

ところであなたは、財務省が言ってきたこと、行なってきたことをそのままオウムのように繰り返していますね。
そこでプロフィールを調べてみました。
「血は争えない」とはよく言われる言葉ですが、「出自は争えない」ものです。
「元財務官僚」とありました。
もしかして、財務省自身があからさまに言えないことを、言ってくれるように財務省に頼まれているのかもね。
それはともかく、あなたは「ザイム菌感染型脳障害」に深く侵されています。
治癒までには、一生かかるかもしれないことをご覚悟ください。


【症例5】:ケルトンは何もわかっていない。インフレが起きない国でこそ、MMT理論はもっとも危険なのだ。
インフレが起こる国であれば、MMT理論(中略)は問題ない。支出が多すぎれば、インフレをもたらし、すぐに財政支出の拡大が経済に悪影響をもたらすことが認知され、財政支出が極端に過度になる前に止まる。
しかし、インフレが起きにくいとしたらどうだろう。
財政支出は無限に膨らみかねない。だから、日本でMMTは危険なのだ。
日本ではインフレが起きにくい。だから、財政支出が課題となっても、現在世代の人々はそれが経済を傷めていることに気づかない。MMT理論の最大の題点はインフレになることではない。インフレにならない場合に起こる、過剰な財政支出による資源の浪費(中略)なのだ。
インフレが起きるのはむしろ歓迎だ。ハイパーインフレにならないほうがいいが、まったくインフレが起きず、永遠に無駄遣いが続き、日本経済がゼロになってしまうよりは、早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい。企業が最後まで無理をして、破産するよりも生きているうちに倒産して、新しい経営者の下で再生を図ったほうが良いのと同じである。(中略)しかし、彼ら、つまりMMTを主張する人々が気づいていないのは、インフレになるかどうかではなく、その財政支出が効率的なものであるかどうか、財政支出をするべきかどうか、というところが最大のポイントだということだ。しかも、其の点においてMMT理論は理論的に破綻していることに気づいていない。
ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはない、と言っていることから、彼女こそがMMT理論をもっとも理解していないことは明らかだ(中略)。
すなわち、MMT理論から出てくる財政支出を拡大すべきだ、という主張は、その支出が有効なものか立証されていない。(中略)MMT理論自体が、財政支出が効率的な水準になることを阻害するどころか、そのメカニズムを破壊するところから理論をはじめているところに致命的な欠陥がある。すなわち、国債は中央銀行が引き受けるメカニズムになっており、国債市場が機能しないようになっているところである。(中略)
異常な低金利で財政支出を過度にすることは、現在の民間投資を阻害するクラウディングアウトを起こすのであるが、さらに深刻な問題は、異時点間の資源配分を阻害し、将来の投資機会を奪うことにあるのである。

(慶応義塾大学大学院准教授・小幡 績 ニューズウィーク日本版 7/25)

【診断】失礼ながら、あなたは錯乱の度がひどいので、あなたを正気に立ち返らせることができるかどうか、正直なところ私にも自信がありません。
でも、どういうふうに錯乱しているかだけはちゃんと指摘しておきましょう。

まず、どうして日本ではインフレが起きにくいのですか。
その根拠を、慶応大学大学院准教授、説明してもらえませんか。
戦争直後は別としても、戦後日本は少なくとも2回、インフレを経験しています。
一つは60年代の高度成長期、もう一つは80年代のバブル期。

次に、仮にあなたの珍奇な説を認めたとしましょう。
ではなぜ、MMTはインフレの起きにくい国において最も危険なのか。
「過剰な財政支出による資源の浪費」とは、政府が資源の浪費を行なうという意味ですね。
誰も「過剰な」などとは言っていませんので、この形容詞をまず取ってください。
でも政府が財政支出を行なうと、本当に資源の浪費につながるでしょうか。

政府が何らかの財政支出を行って事業を発注し、民間がそのお金を使って何らかの事業を受注し、そこで初めて財政支出の意味が具体的に実現に向かう。
これが普通の「財政支出」の道筋ですよね。
公共機関の職員がそのまま出ていって、じっさいに「えんやこら」をやり出すなんてことは万に一つもあり得ないでしょう。
さてそうだとすると、政府の財政支出は、そのまま民間の経済活動を積極化することにつながるのではないでしょうか。
これは、民間にデフレマインドが染みついていて、誰も積極的な投資を行わない時に、政府が刺激を与える効果を生みますから、別に民間の経済活動を邪魔することにはならないでしょう。

次にあなたは、「永遠に無駄遣いが続き、日本経済がゼロになってしまうよりは、早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい」と、信じがたいことを言っていますが、どうして政府がデフォルトする方がいいのですか。
ちょっと「トンデモ」という以外、形容のしようがないご説です。

ちなみにこれまで繰り返してきたように、「自国通貨建ての国債発行で、政府がデフォルトすることは100%ありえない」というのは、MMTならずとも、古くからの私たちの共通了解事項であり、しかもこれは財務省のHPにも掲載されている常識です。
あなたは、そのことも理解せずに、MMTについて「ケルトンは何もわかっていない」などと大言壮語するのですから、こちらとしても答えようもない。

しかし、何が言いたいかはわからないでもありません。
それは、あなたの頭の中が、政府の投資と民間の投資とは非妥協的な二項対立であり、パイの決まった経済資源の奪い合いだという考えに固着してしまっているらしいということです。
どうもそれが、この錯乱の核心をなしているようです。
だから、政府のデフォルトは、そのぶんだけ民間の取り分を増やすことにつながるはずで、だから、「日本経済」の再生のためには、望ましいことである、と、こういう論理になりますね。

でもこんな机上の単純論理で「日本経済」は回っていません。

たとえばあなたが、地方で土木建設会社を経営していて、政府の財政支出(つまり「財政赤字」)によって、道路などの公共施設の建設を受注したとします。
あなたは入札に成功したのです。
あなたは、さっぱり不景気だったのに、久しぶりに仕事が入ったと喜んで、建設に必要な資材、労働力などを駆り集め、さっそく作業に入ります。
もちろん、利益がどのくらい出るかは、あらかじめ計算済みです。
そうしてその建設によって、あなたが利益を得るだけでなく、その道路を利用する人たちが大いに増え、その結果、いままで沈滞していた地方の街が活気を帯びることになります。

このプロセスに、政府と民間の二項対立が存在しますか?
その前に政府がデフォルトしてしまっていたら、インフラ整備による地方活性化のこの試みは、まったく成立しないのではありませんか?

次に、財政支出が「効率的」なものかどうかが最大のポイントだ、とあなたは言っていますが、ここにはしなくもあなたの新自由主義ゴリゴリのイデオロギーがにじみ出ています。
もちろん、ケルトン教授は、政府の財政支出に関して、優先順位を決めることの重要性を強調していました。
しかしそれはあなたの主張するように、「効率的かどうか」(いったい何にとって、誰にとっての?)を尺度とするものではありません。
一般国民の安全や豊かさを確保するために、いま何を優先させるべきかを、その都度政治的に決定していくことが要求されるのです。

またあなたは、「ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはないと言っている」などと、自分の誤った思い込みを勝手にケルトン教授に投影させていますが、彼女はそんなことは一言も言っていません。
それは先ほどあなた自身が言ったことでしょう?
しかも「心配することはない」とは逆に、「だからこそ危険なのだ」とヘンなリクツをつけて。
これによって、あなた「こそがMMT理論をもっとも理解していないことは明らか」です。

MMTでは、財政支出に制約があるとすれば、それはインフレ率だ、と何度も明確に述べています。

統合失調症の一症状に、自分で作り上げた妄想観念をそのまま他人に投影するというのがあります。
「あいつは頭がおかしくなって〇〇病院に運ばれた」というように。
あなたは、ここで、それと等しいことをやっていますね。

さらにあなたは、「財政支出を拡大すべきだ、という主張は、その支出が有効なものか立証されていない」などと批判していますが、ある支出が有効なものかどうか(何にとって、誰にとって?)、あらかじめ立証できる人がいたらお目にかかりたい。
あなたならできるんでしょうね。
効率のことしか頭にないあなたに、ぜひ立証してみせてほしいものです。

あなたのMMT批判はますます錯乱の度合いを深めています。
「MMT理論自体が、財政支出が効率的な水準になることを阻害するどころか、そのメカニズムを破壊するところから理論をはじめている」とは、財政支出を一切排して、すべてを民業にまかせれば、いつでも経済の効率性は最大限に実現されると主張するのでもなければ、意味不明な文章です。

次に続く文章も明確な間違いです。
中央銀行が必要に応じて国債を引き受けることができるのは事実ですが、そのために、「国債市場が機能しないようになっている」などということはありません。
現に市中の金融機関が国債を大量に買い込み、そこから、民間の預金を創造しているではありませんか。
もっとも、この6年間、過剰な金融緩和により、金融機関保有の国債の割合が激減してきたことは事実ですが、それは安倍政権が勝手に取った金融政策の結果であり、MMTにその責任を押し付けるのは、ひどい濡れ衣というものです。

最後です。
ここへきて、ようやくあなたの錯乱症状の根本原因が明確になりました。
「異常な低金利で財政支出を過度にする」などということはMMTと何の関係もありません。
異常な低金利は、むしろ日本政府が過度な金融緩和を、それもマネタリーベースの範囲内だけで行ったために市中にお金が流れなかったことと、デフレマインドがこの政策によっては一向に解消しないことから起きたことです。
積極的な財政支出(つまり民間を直接に刺激する)を適切に行なえば、マイルドなインフレが生じて、企業の貸し出しも増え、おそらく金利もそこそこ上がるでしょう。
銀行も一息つくことができます。

このように、あなたは間違いだらけを並べたてた後で、将来にわたって民間投資を阻害するのが、クラウディングアウト(大量の国債発行による金利の上昇によって民間の資金需要が抑制されるという説)によるものだと決めつけています。
これは何が言いたいのでしょう。
財政支出は、すなわち民業圧迫だという単純なリクツに金縛りになっていることを表しています。

このリクツの出所がどこかは明らかですね。
政府を極小にせよ、というネオリベのイデオロギーを子どもみたいに信じたところからきています。
全体の文章が支離滅裂ですが、一度このイデオロギーに取りつかれると、そんなことはどうでもよくなってしまうのですね。
あなたをとりあえず、「ネオリベ・ウィルスの侵襲による錯乱症」と名付けておきましょう。

MMTの上陸によって生じたさまざまな患者の症状を見てまいりました。
私の中に残るのは、やはり、まともな理論、まともな事実を指摘されると、日本のおえらいさんたちは自分のこれまでの立場が脅かされるのに怯えて、こんなにも感情的な拒絶反応を引き起こすのかという、深い慨嘆です。
この兆候を最近は「センメルヴェイス反射」と呼ぶそうですが、すでにフロイトが100年以上も前に、「否認」という概念で説明しています。

ケルトン教授の講演後の記者会見で出なかった質問が二つあります。
一つは、JGP(雇用保障プログラム)についてです。
もう一つは、安倍政権が取り続けているPB黒字化政策の是非についてです。
これらは、さっきの話をちゃんと聞いていて、しかも日本経済の現状を多少とも憂慮しているなら、当然出てきてしかるべき質問です。
代わって出てきたのは、ほとんどがインフレ懸念ばかりでした。
私は、これまで取り上げてきた学者、エコノミスト(錯乱症の小幡氏を除く)と同じように、日本の経済ジャーナリズム全体が、デフレのただ中にありながら、強度のインフレ恐怖症に侵されているという、まことに残念な印象を持ちました。

しかしめげてはなりません。
11月には、「MMTの教科書」の執筆者、オーストラリアのビル・ミッチェル教授が来日する予定です。
正しい理論についての理解を粘り強く広め、日本の官僚、学者、エコノミスト、マスコミが罹患している深い病気を少しでも治していきましょう。

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MMTの服用を拒否する〇〇病患者を診断する(その1)

2019年08月09日 00時26分13秒 | 経済



ステファニー・ケルトン教授が来日してから、3週間以上が経ちました。
その間、日本の経済学者、エコノミストなどの発言がいくつも出ましたが、わずかな例外を除いて、大部分がMMTについての無理解と、日本経済の現状に対する無知をさらすものでした。
筆者は経済学なるものを正式に学んだことはありませんが、その素人の目にも、これはほとんど病気だとしか思えないような発言が目立ちます。
MMTがどうのという前に、この人たちは、専門家面をしていながら、マクロ経済の基本がわかっていません。
それらしき専門用語を使っていながら、人を煙に巻くだけではなく、頭が病理的な段階に入っていて、自分でも何を言っているのかわかっていないのではないでしょうか。
こういうひどい「経済言説」がはびこっている日本の現状を深く憂慮します。
せっかくケルトン教授に来てもらった以上、こうした頭のおかしい言説群を少しでも吹き払うのでなければ、彼女に申し訳が立ちません。
「やっぱり日本て、ダメね」と思われて悔しく、また恥ずかしくないでしょうか。

そこで、ここでは、これらの《症例》を発表順にいくつか挙げて、それに対して厳しい診断を下すことにします。

【症例1】MMTを実践すれば、インフレを止められず国債が紙切れ同然になって、財政が立ちいかなくなる可能性は否定しきれない。(中略)安倍政権では首相の意に沿う日銀総裁やリフレ派の審議委員が任命され、日銀が事実上の財政ファイナンスに踏み出し、消費増税も2度先送りされてきた。いざという時に、果敢に利上げや増税ができるのかは疑わしい。財政主導の経済で生産性が落ち、中長期には日本経済の成長力が落ちる恐れはある。(ダイヤモンド編集部・西井泰之 ダイヤモンドオンライン 2019/7/17)

【診断】MMTでは、財政赤字はそれ自体悪ではなく、財政出動が行きすぎないようにする歯止めはインフレ率であると何度も断っています。
それをコントロールすることが政府日銀の役割であり、それには増税だけではなく、さまざまな方法が考えられるとされています。
どういう実体経済の現場から高インフレの兆候が出てきているのかをまず具体的に精査することが必要だと、ケルトン教授は記者会見で答えていました。
あなたはそれを聞かないで書いているようですね。
それに、消費増税の実施こそは、デフレの長期化を作り出してきたということがまるで分っていません。
これまでの増税の延期がなぜ、高インフレ期になった時の増税を困難にする根拠になるのでしょうか。
また、財政主導の経済でどうして生産性が落ちるのですか。
逆でしょう?
政府がさまざまな公共部門に投資することによって、技術開発も進み、企業も活気を呈し、生産性があがるのではないですか。
前後で論理がまるで通っていませんね。
あなたは、おそらく日経新聞読みによくある「表層型ADHD」に罹患しています。

【症例2】平時における財政赤字には、金利上昇やインフレにつながるリスクがないだろうか? MMTは「心配ご無用」という。自国通貨建てで国債を発行する政府は、これをいつでも自国通貨に換えることができるからである。(中略)MMTにおける中央銀行はこうした目標(物価上昇率2%)も出口(金融緩和の終わり)もない。政府の出す財政赤字をひたすら埋める役割を担うにすぎない。
中央銀行が国債を引き受けるなら、財政赤字はそのまま貨幣の増発になる。いずれインフレを誘発しないのだろうか?
しかし、MMTによれば、貨幣が増え過ぎても、その価値が毀損することはない。
逆説的だが、MMTによれば、政府が財政収支を気にしなくてよいのは、その気になればいつでも増税できるからだ。
MMTは高い成長を見込んでいるわけではない。自然増収ではなく増税なしには貨幣を回収できない。
MMTは課税を貨幣(タンス預金)の回収とみなすが、回収の仕方に配慮がないようだ。仮に消費税や所得税でもって課税するなら、景気や成長に与える影響は甚大だろう。(中略)MMTは政府に無限の課税権を認めているようにも思われる。
MMTが目指すのは脱デフレではなく、政府が主導する(慢性的な需要不足を埋め合わせる)経済の再構築、いわば「大きな政府」だ。金融政策を補完する(助ける)ための財政政策でもない。MMTでは金融政策は財政政策(赤字)の帳尻合わせに使われている。
(一橋大学経済学研究科・政策大学院教授・佐藤主光 プレジデントオンライン 2019/7/19)

【診断】あなたは一橋大教授という高い地位にありながら、かなりの重症に侵されています。
少し時間をかけて診察しましょう。
まずあなたは、MMTを実施する政府による歯止めのない財政出動が、中銀を奴隷化することを心配されているようですが、政府と中銀はもともと統合政府です。
しかし財政政策と金融政策という役割分担はおのずとあって、このことはMMTでも何ら変わりありません。
MMTはデフレ脱却ができない時には、お金を積み上げるだけの金融政策のみに偏したこれまでの政策を、もう少し実体経済を直接活性化させる財政政策主導に切り替えるべきだと主張しているにすぎません。
高インフレをコントロールするのは、統合政府が二人三脚で行えばよいのです。
つぎに、「MMTによれば、貨幣が増え過ぎても、その価値が毀損することはない」とありますが、そんなことは、MMTは一言も言っていません。
インフレが行き過ぎれば貨幣価値が毀損するのは当然のことで、MMTは、財政赤字の制約をまさにそこに置き、そのためのプランをいくつも提示しています。
つぎに、MMTは、デフレからの脱却や高インフレの抑制のために、政府と民間との経済的関係の事実を解き明かしているだけであって、資本主義であるかぎり、成長(国民が豊かになること)のためのヒントを提供しているのは当然です。
仮にMMTが高成長を望んでいるとあからさまに言明していなくても、経済成長が実現するような政策を政府がとるなら、税の自然増収が期待できますから、増税をあえて強制する必要はなくなるでしょう。
あなたは、いったいに、税の話ばかりしていますが、消費増税を強制してきたのはMMTではなく、政府財務省ですよ。
「消費税や所得税でもって課税するなら、景気や成長に与える影響は甚大だ」と言っているところを見ると、消費増税には反対らしい。
それなら、政府を責めるべきであって、なんで現代の貨幣や国債のしくみと回り方(「政府の赤字は民間の黒字」)を解明しているだけの「理論」に、増税の責任を押し付けるのでしょう。
MMTは「無限の課税権を認める」などと言ったことは一度もありません。
むしろ逆に、税とは政府の歳出の唯一の財源(であるべき)だという、誰もが陥っている考え方がそもそも間違いだという本質規定をしているのです。
ケルトン教授は、財政赤字をそんなに気にする必要はないということを説明するために、次のように言いました。
「政府の債務残高(例の1200兆円云々)は、過去に政府が財政支出を税金で取り戻さなかったものの履歴でしかなく、それは民間の貯蓄になっている」
これは、裏を返せば、まさに税の機能が政府の歳出のためにあるのではなく、別のところにあることを示唆していることになります。
それは、ビルトインスタビライザー(経済の安定化装置つまりインフレやデフレの調整)、所得の再分配機能、自国通貨納税による経済活動の維持、公共性を害する経済活動に対する処罰の四つです。
そういうわけで、あなたは、反論のピントがまるでずれているのです。
さらに、たしかにMMTは脱デフレを「目指して」はいませんが、現在の日本のようにデフレがこれほど続いている時に、政府が取るべき政策の間違いについては指摘しています。
MMTは、脱デフレのためには、金融政策偏重よりも積極的な財政政策にシフトした方がよいというヒントを与えているからです。
ところでその場合、「大きな政府」(曖昧な言葉ですが)と脱デフレとは何が違うのでしょうか。
20年以上続くデフレで国民が苦しんでいる時に、「慢性的な需要不足を埋め合わせる」ために一時的に政府が「大きな政府」を演じることは悪いことでしょうか?
しかし、そもそもMMTは、「小さな政府」か「大きな政府」のどちらがよいかなどというイデオロギーの選択を迫るような「政治思想」ではありません。
民間の景気がよい時には、政府の役割は小さくて済みますから、その時には「小さな政府」がよいと言ってもあながち間違いではないでしょう。
これはMMTの一環であるJGP(雇用保障プログラム)のアイデアを見ればよくわかります。
繰り返しますが、MMTは国民が豊かになるためには、どういう考え方をしたらよいかを示す「理論」です。
最後に、「MMTでは金融政策は財政政策(赤字)の帳尻合わせに使われている」とはいったい何のことでしょう。
意味不明ですね。
大規模な財政出動をした時に、高インフレが生じ、その尻拭いを日銀がする羽目に陥るという意味でしょうか。
しかし日銀ばかりでなく、政府が赤字財政を少し抑えることはいくらでもできますよね。
それにしても、まだMMTはどこでも「使われてい」ませんよ。
あなたは、まだ実施されてもいない「理論」を、すでに実施されている「政策」と勘違いして、それが招く高インフレとその結果として政府に「無限の課税」を許す事態に、極度におびえているようですから、「藁人形恐怖症」です。

【症例3】今仮に、日本政府がMMTの採用を真剣に検討しているというニュースが流れたとすると、私が真っ先にすることは、円建ての銀行預金をドルかユーロ建ての預金に預け替えることだ。(中略)MMTによれば、政府の財政需要をまかなうために、日銀は輪転機を回して、円の紙幣をどんどん刷り、それで国債を買うわけだから、円は供給過剰となって価値が下がるに決まっている。これは私だけでなくヘッジファンドなど世界中の投機家も円安を見越して円売りドル買いをするだろうから、ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない。(中略)紙幣の価値が、中央銀行が持つ銀や金で裏打ちされている時代と違い、現在はどの国も国の信用(徴税力)だけが裏付けとなっている。MMTを実施すると言った瞬間に、この信用が根底から揺るがされるのだ。(中略)MMTのようにこれから不換紙幣をどんどん刷りますと宣言するのは、フーテンの寅さんではないが「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではなかろうか。(元財務省大臣官房審議官・有地浩 アゴラ 2019/7/21)

【診断】あなたについては、前々回のこのブログでも取り上げたのですが、あまりに無知なので、もう一度診察室に来てもらいました。
あなたは、MMTについてだけではなく、お金についての知識もまるで持ち合わせていません。
MMTでは、自国通貨建ての国債発行額には、インフレ率以外に制約はないと言っているので、財政出動の際に、どれくらいのインフレを許容するのかということは、大前提としてあらかじめ繰り込まれています。
したがって、「ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない」などというのは根も葉もない妄想です。
次に、「日銀は輪転機を回して、円の紙幣をどんどん刷り、それで国債を買う」などといっていますが、財務省出身のくせに、日銀が国債を買う(貸す)際に紙幣など刷らないということを知らないのでしょうか。
この人は、お金というものを紙幣でしかイメージしていないのですね。
事実は言うまでもなく、政府が国債を発行するに際しては、ただ日銀当座預金の簿記の借方欄に10兆円と記載されるだけです。
現金紙幣なんて、そんなに動いていないのですよ。
私たちは、日常生活で現金紙幣を用いていますから、「お金」と聞くとすぐに現金紙幣を思い浮かべてしまいますが、日銀当座預金に書き込まれた数字も、政府小切手も、企業・組織の預金通帳に書き込まれた数字も、すべて「お金=借用証書」なのです。
この証書の流通を成立させているのは、人と人との信用関係であって、金銀や現金紙幣のような「モノ」ではありません。
通貨とは、不換紙幣だけではありません。
それはごく一部であって、日銀当座預金や銀行預金に書き込まれた数字(万年筆マネー)も、カードで買い物をして記録された数字も、政府小切手もみな一種の通貨です。
MMTが財政出動を促す場合にもこのことは変わりありませんから、「信用が根底から揺るがされる」などということは、200%あり得ません。
あなたは、財務省時代、大臣官房審議官という職に就いていて、いったい大臣に何を進言したのでしょう。
あなたのような無知な人が、政治家にもっともらしく何か吹き込んだとすれば、それが今日の政治家たちの緊縮脳の育成に一役買っているかもしれません。
あなたは、重度の「インフレ被害妄想狂」です。
(次号に続く)


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●長編小説の連載が完結しました!
 社会批判小説ですがロマンスもありますよ。
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ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』書評

2019年08月04日 00時08分18秒 | 思想


以下に掲げるのは、産経新聞文化部より依頼されて寄稿した、ウォルター・シャイデル著『暴力と不平等の人類史』の書評です。
この書は、トマ・ピケティ『21世紀の資本』、ダグラス・マレー『西洋の自死』などと並んで、現代の世界状況に対する極めて重要な問題を提起しています。
字数の関係もあって、意を尽くしていませんが、いずれこの書に関しては、もう少し詳しく批評を展開したいと思っています。


 本文六百頁に及ぶ大著。
 著者は、ジニ係数と資産や所得の総額に対する割合とを用いて、人類史上経済的な不平等がどんな時に抑えられたかを浩瀚かつ克明に調べ上げる。
その結果「四人の騎士」と称して、戦争、革命、国家の破綻、疫病(ペストの流行)の四つが不平等を軽減したという結論を得る。
しかも古代アテナイを例外として、前近代における戦争や革命は、平等化に大して貢献しなかったと説く。
二度の世界大戦とロシア革命や中国革命だけが不平等を抑える大きな力を示したというのだ。
しかしこれらの力もそう長くは続かなかった。

 近代以後の戦争や革命が恐るべき犠牲や破壊を伴ったことは自明だから、著者は、平等の達成と膨大な死や破壊とは後者が前者の条件をなすと言っているに等しい。
雑駁に言えば、平等化の実現とは、みんなが豊かになったのではなく、みんなで貧しくなったことを意味する。ということは、裏を返せば、曲がりなりにも「平和な秩序」が保たれている時期には、資産や所得の格差は一貫して増大していたことになる。
著者の筆致はあくまで冷静で、いろいろなケースに慎重な配慮を巡らしてはいるが、論理的にはどうしてもそうならざるを得ない。

 そしてこの指摘は、自由貿易や金融資本の自由化が進み、グローバル化が行きつくところまで行った今日、私たちに明確な思い当たり感を与える。
グローバル化が進むのは平和な時期に限られるからだ。
事実、アメリカに代表される極端な富の集中という現実がグローバリズムによってもたらされたことは、否定しようがないのである。

 読者の中にはかつてトマ・ピケティが『21世紀の資本』を著して、資本収益率が経済成長率を上回る場合には常に貧富の格差が開くと説いた事実を思い起こす人も多いだろう。
これも踏まえて議論すべきは、巨大な暴力なしに「一%対九九%」問題を解決する道はありうるかという一点なのだ。
著者シャイデルは多くの社会改良案を紹介しつつ、それらに懐疑的な眼差しを注ぐ。
筆者もこの懐疑に暗澹たる気持ちと共に共感する。

 ちなみに日本の場合には、「騎士」の仲間に「大災害」を加えてもらうべきだろう。