MMTの主唱者・ランダル・レイ教授
前2回の記事「MMTの服用を拒否する〇〇病患者を診断する」では、いずれの患者たちもあまりの重症であるために、ついつい診察と診断が長くなりすぎました。
そこで、前2回で展開した記事のダイジェスト版をお送りします(少しだけ訂正と補足があります)。
詳しくお知りになりたい方は、下記を直接ご参照ください。
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/5e55dccd53e80b1ffd733b2d407832e9
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/a87a7f5dd4c895ad790de8997b58c9c6
【症例1】MMTを実践すれば、インフレを止められず国債が紙切れ同然になって、財政が立ちいかなくなる可能性は否定しきれない。(中略)安倍政権では(中略)消費増税も2度先送りされてきた。いざという時に、果敢に利上げや増税ができるのかは疑わしい。財政主導の経済で生産性が落ち、中長期には日本経済の成長力が落ちる恐れはある。
(ダイヤモンド編集部・西井泰之 ダイアモンドオンライン 2019/7/17)
【診断】MMTでは、財政赤字はそれ自体悪ではなく、財政出動が行きすぎないようにする歯止めはインフレ率であると何度も断っています。
それに、消費増税の実施こそは、デフレの長期化を作り出してきたのです。
これまでの増税の延期がなぜ、高インフレ期になった時の増税を困難にする根拠になるのでしょうか。
また、財政主導の経済でどうして生産性が落ちるのですか。
逆に、政府がさまざまな公共部門に投資することによって、技術開発も進み、企業も活気を呈し、生産性があがるのです。
あなたは、おそらく日経新聞読みによくある「表層型ADHD」に罹患しています。
【症例2】MMTにおける中央銀行はこうした目標(物価上昇率2%)も出口(金融緩和の終わり)もない。政府の出す財政赤字をひたすら埋める役割を担うにすぎない。(中略)
逆説的だが、MMTによれば、政府が財政収支を気にしなくてよいのは、その気になればいつでも増税できるからだ。(中略)
MMTは政府に無限の課税権を認めているようにも思われる。
MMTが目指すのは脱デフレではなく、いわば「大きな政府」だ。
(一橋大学経済学研究科・政策大学院教授・佐藤主光 プレジデントオンライン 2019/7/19)
【診断】MMTはデフレ脱却ができない時には、お金を積み上げるだけの金融政策のみに偏したこれまでの政策を、もう少し実体経済を直接活性化させる財政政策主導に切り替えるべきだと主張しているにすぎません。
あなたは、いったいに、税の話ばかりしていますが、消費増税を強制してきたのはMMTではなく、政府財務省ですよ。
あなたは消費増税には反対らしい。
それなら、政府を責めるべきであって、なんで現代の貨幣や国債のしくみと回り方(「政府の赤字は民間の黒字」)を解明している「理論」に、増税の責任を押し付けるのでしょう。
MMTは「無限の課税権を認める」などと言ったことは一度もありません。
むしろ逆に、税とは政府の歳出の唯一の財源(であるべき)だという、誰もが陥っている考え方がそもそも間違いだという本質規定をしているのです。
MMTは、脱デフレのためには、金融政策偏重よりも積極的な財政政策にシフトした方がよいということをたしかに言っています。
ところでその場合、「大きな政府」(曖昧な言葉ですが)と脱デフレとは何が違うのでしょうか。
20年以上続くデフレで国民が苦しんでいる時に、「慢性的な需要不足を埋め合わせる」ために一時的に政府が「大きな政府」を演じることは悪いことでしょうか?
あなたは、まだ実施されてもいない「理論」を、すでに実施されている「政策」と勘違いして、それが招く高インフレとその結果として政府に「無限の課税」を許す事態に、極度におびえているようですから、「インフレ・フォビア」です。
【症例3】今仮に、日本政府がMMTの採用を真剣に検討しているというニュースが流れたとすると、私が真っ先にすることは、円建ての銀行預金をドルかユーロ建ての預金に預け替えることだ。(中略)ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない。(中略)MMTのようにこれから不換紙幣をどんどん刷りますと宣言するのは、フーテンの寅さんではないが「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではなかろうか。
(元財務省大臣官房審議官・有地浩 アゴラ 2019/7/21)
【診断】あなたは、MMTについてだけではなく、お金についての知識もまるで持ち合わせていません。
MMTでは、自国通貨建ての国債発行額には、インフレ率以外に制約はないと言っているので、財政出動の際に、どれくらいのインフレを許容するのかということは、大前提としてあらかじめ繰り込まれています。
したがって、「ニュースが流れた1時間後には1ドル=300円まで円安となっているかもしれない」などというのは根も葉もない妄想です。
あなたは、お金というものを紙幣でしかイメージしていないのですね。
事実は言うまでもなく、政府がたとえば10兆円の国債を発行するに際しては、ただ日銀当座預金の簿記の借方欄に10兆円と記載されるだけです。
お金とは、借用証書に過ぎません。
この証書の流通を成立させているのは、人と人との信用関係であって、金銀や現金紙幣のような「モノ」ではありません。
あなたのような無知な人が、かつて大臣官房審議官という職に就いていて、いったい大臣に何を進言したのでしょう。それが今日の政治家たちの緊縮脳の育成に一役買っているかもしれません。
あなたは、重度の「被害妄想狂」です。
【症例4】彼女(ケルトン教授――引用者注)の提唱するケインズ主義的な財政運営については、わが国は苦い経験がある。それは90年代、バブル崩壊後の財政運営で、120兆円規模の減税と公共事業の拡大が、景気対策という名目で行われた。しかし失われた20年が経過し、いまだデフレ脱却すらできていない。
公共事業が、その効果や効率を考えずに行われた結果、経済の大きな非効率を生じさせ、維持・補修コストに四苦八苦しているというのが現状だ。
わが国一般会計の歳出・歳入のギャップは「ワニの口」と呼ばれているが、これが大きく開くのは、バブル崩壊後とリーマンショック後の景気対策としての公共事業の追加(歳出の拡大)と減税(歳入の減少)が行われたためで、いまだ「ワニの口」は開いたままだ。
(中央大学法科大学院教授・東京財団政策研究所主幹・森信茂樹 ヤフーニュース 2019/7/25)
【診断】あなたは、デフレ脱却ができていない現在の状態の原因が、あたかも「120兆円規模の減税と公共事業の拡大」にあるかのように論じていますが、これはまったくのデタラメです。
一般的に減税を行なえば、企業はその浮いた分を投資に回すことができるし、また家計は消費や貯蓄に回すことができるはずでしょう。
また公共事業は、97年をピークとして、それ以降下がりっぱなし、いまでは当時の五分の二に減らされています。
そのため老朽化したインフラによって、災害に備えることができなくなっているのです。
自治体がこれらの「維持・補修コストに四苦八苦している」のは当然で、あなたの言っているのとは逆に、政府が公共事業費や補助金・地方交付税を削ってきたからにほかなりません。
歳入と歳出のギャップが「ワニの口」として開いているのを是が非でもPB黒字化という手法で埋めなければならぬというわけですね。
このたびの消費増税も、そのためにぜひ必要だと考えているのでしょう。
しかしMMTでは、政府内部のお財布事情、つまり「財政収支の健全化」に重きを置きません。
民間経済がいかに健全に機能しているかに重きを置くのです(「政府の赤字は民間の黒字」「政府の債務残高は、過去に政府が財政支出を税金で取り戻さなかったものの履歴でしかなく、それは民間の貯蓄になっている」)。
「ワニの口」が開いていることばかり心配するのは、税収だけを財源とみなすという錯覚に陥っているからです。
この錯覚が、デフレ、緊縮財政、消費増税、PB黒字化死守、「財政破綻の危機」扇動、政府の会計と家計との混同、公的資金が必要な時にすぐ「財源をどうするか」と問う態度など、すべてを縛ります。
税によってワニの口を埋める必要など、もともとないのです。
ところであなたは、財務省が言ってきたこと、行なってきたことをそのままオウムのように繰り返していますね。
そこでプロフィールを調べてみました。
「血は争えない」とはよく言われる言葉ですが、「出自は争えない」ものです。
「元財務官僚」とありました。あなたは「ザイム菌感染型脳障害」に深く侵されています。
【症例5】ケルトンは何もわかっていない。インフレが起きない国でこそ、MMT理論はもっとも危険なのだ。(中略)
日本ではインフレが起きにくい。(中略)MMT理論の最大の問題点はインフレになることではない。インフレにならない場合に起こる、過剰な財政支出による資源の浪費(中略)なのだ。
インフレが起きるのはむしろ歓迎だ。(中略)早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい。(中略)
ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはない、と言っていることから、彼女こそがMMT理論をもっとも理解していないことは明らかだ(中略)。
異常な低金利で財政支出を過度にすることは、現在の民間投資を阻害するクラウディングアウトを起こすのであるが、さらに深刻な問題は、異時点間の資源配分を阻害し、将来の投資機会を奪うことにあるのである。
(慶応義塾大学大学院准教授・小幡 績 ニューズウィーク日本版 7/25)
【診断】まず、どうして日本ではインフレが起きにくいのですか。
戦争直後は別としても、戦後日本は少なくとも2回、インフレを経験しています。
一つは60年代の高度成長期、もう一つは80年代のバブル期。
デフレが20年以上続くと、たしかに日本ではインフレが起きにくいのだという錯覚に陥りがちです。
しかし、インフレが起きにくいような構造にしてしまったのはいったい誰でしょう。
それこそは、企業家や投資家の利益最大化だけを考える新自由主義イデオロギーの仕掛け人たちです。
あなたは、そうした歴史を見ずに、日本では一般にインフレが起きにくいという普遍化を行なって、彼らの罪悪を隠蔽しています。
次に、仮にあなたの珍説を認めたとして、なぜ、MMTはインフレの起きにくい国において最も危険なのか。
あなたは「過剰な財政支出による資源の浪費」と答えています。しかし誰も「過剰な」などとは言っていませんので、この形容詞をまず取ってください。
さて政府が財政支出を行なうと、本当に資源の浪費につながるでしょうか。
政府が何らかの財政支出を行って事業を発注し、民間がそのお金を使って何らかの事業を受注し、そこで初めて財政支出の意味が具体的に実現に向かう。
これが普通の「財政支出」の道筋ですね。
そうだとすると、政府の財政支出は、そのまま民間の経済活動を積極化することにつながるのではないでしょうか。
次にあなたは、「早くハイパーインフレで財政支出ができなくなり、政府の倒産(デフォルト)という形で、日本経済が完全になくなる前に再スタートが切れたほうがよい」と、信じがたいことを言っています。
ちなみにこれまで繰り返してきたように、「自国通貨建ての国債発行で、政府がデフォルトすることは100%ありえない」というのは、MMTならずとも、古くからの私たちの共通了解事項であり、しかもこれは財務省のHPにも掲載されている常識です。
あなたは、そのことも理解せずに、MMTについて「ケルトンは何もわかっていない」などと大言壮語するのですから、こちらとしても答えようもない。
しかし、何が言いたいかはわからないでもありません。
それは、あなたの頭の中が、政府の投資と民間の投資とは非妥協的な二項対立であり、パイの決まった経済資源の奪い合いだという考えに固着してしまっているということです。だから、政府のデフォルトは、そのぶんだけ民間の取り分を増やすことにつながるはずで、だから、「日本経済」の再生のためには、望ましいことである、と、こういう論理になりますね。
ガキの陣取り合戦みたいに一国の経済を考えている。
たとえばあなたが、地方で土木建設会社を経営していて、政府の財政支出(つまり「財政赤字」)によって、道路などの公共施設の建設を受注したとします。
そうしてその建設によって、あなたが利益を得るだけでなく、その道路を利用する人たちが大いに増え、その結果、いままで沈滞していた地方の街が活気を帯びることになります。
このプロセスに、政府と民間の二項対立が存在しますか?
その前に政府がデフォルトしてしまっていたら、インフラ整備による地方活性化のこの試みは、まったく成立しないのではありませんか?
またあなたは、「ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはないと言っている」などと、自分の誤った思い込みを勝手にケルトン教授に投影させていますが、彼女はそんなことは一言も言っていません。
それは先ほどあなた自身が言ったことでしょう?
しかも「心配することはない」とは逆に、「だからこそ危険なのだ」とヘンなリクツをつけて。
MMTでは、財政支出に制約があるとすれば、それはインフレ率だ、と何度も明確に述べています。
統合失調症の一症状に、自分で作り上げた妄想観念をそのまま他人に投影するというのがあります。
「あいつは頭がおかしくなって〇〇病院に運ばれた」というように。
あなたは、ここで、それと等しいことをやっていますね。
ここへきて、ようやくあなたの錯乱症状の根本原因が明確になりました。
「異常な低金利で財政支出を過度にする」などということはMMTと何の関係もありません。
異常な低金利は、むしろ日本政府が過度な金融緩和を、それもマネタリーベースの範囲内だけで行ったために市中にお金が流れなかったことと、デフレマインドがこの政策によっては一向に解消しないことから起きたことです。
積極的な財政支出(つまり民間を直接に刺激する)を適切に行なえば、マイルドなインフレが生じて、企業の貸し出しも増え、おそらく金利もそこそこ上がるでしょう。
銀行も一息つくことができます。
このように、あなたは間違いだらけを並べたてた後で、将来にわたって民間投資を阻害するのが、クラウディングアウト(大量の国債発行による金利の上昇によって民間の資金需要が抑制されるという説)によるものだと決めつけています。
これは、財政支出こそすなわち民業圧迫だという単純なリクツに金縛りになっていることを表しています。
このリクツは、政府を極小にせよ、というネオリベ(新自由主義)イデオロギーを子どもみたいに信じたところからきています。
全体の文章が支離滅裂ですが、一度このイデオロギーに取りつかれると、そんなことはどうでもよくなってしまうのですね。
あなたを、「ネオリベ・ウィルスの侵襲による錯乱症」と名付けておきましょう。
MMTの上陸によって生じたさまざまな患者の症状を見てまいりました。
この後も、同じような患者は増え続けています。
しかしいちいち診察している時間がありません。
またの機会に譲らせていただきます。
私の中に残るのは、やはり、まともな理論、まともな事実を指摘されると、日本のおえらいさんたちは自分のこれまでの立場が脅かされるのに怯えて、こんなにも感情的な拒絶反応を引き起こすのかという、深い慨嘆です。
しかしめげてはなりません。
ちょうど明日(8月30日)には、MMTの主唱者であるランダル・レイとビル・ミッチェルの共著『MMT現代貨幣理論入門』が発売になりますし、なんと10月には、レイ教授が、そして11月には、ビル・ミッチェル教授が来日することが決定しています。
正しい理論についての理解を粘り強く広め、日本の官僚、学者、エコノミスト、マスコミが罹患している深い病気を少しでも治していきましょう。
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