小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

アメリカの「安保破棄」に備えよ!

2019年06月26日 12時01分13秒 | 政治



ブルームバーグ6月25日の記事によると、トランプ米大統領が最近、日本との安全保障条約を破棄する可能性についての考えを側近に漏らしていたそうです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-25/PTMUOE6TTDS801

これは予想されたことでした。

トランプ大統領は、以前から日米安保条約の片務性(日本が攻撃されれば米国が援助することを約束しているが、米国が攻撃された場合に日本が支援することは義務付けられていない)について不満を漏らしていました。
また、NATO加盟諸国に対しても、経費負担が不公平であると言い続けていますね。
大統領当選直前にもトランプ氏は、在日米軍駐留経費について、日本が全額負担すべきだと主張していましたが、さすがに最近では言わなくなりました。
日本が75%(2014年時点で約6700億円)も負担していることを知ったからでしょう。

経費の問題はともかくとして、今回、トランプ氏が側近に「安保破棄の可能性」を語ったとすれば、それは、アメリカン・ファーストを徹底させようという、ビジネスマンらしいそれなりのロジックに基づいています。
もちろん、事実だとしても、側近に漏らしたレベルの問題ですから、これが直ちに実際の破棄に結びつくかどうかはわかりません。
言葉をあまりに過大に受け取って、大騒ぎすることには慎重でなければなりません。
しかし、これがトランプ氏の本音であることはたしかです。
彼は来日した折、日米同盟はかつてなく確固たるものになったといった意味の発言をしていますが、単なる公式的なリップサービスと見るべきです。
なぜなら、自国の安全保障は自国が担うべきであるというのは、世界の常識ですし、アメリカは中国との覇権戦争には勝たなくてはならない必然性を持っていますが、日本のために多くの米兵の命を危険にさらし多額の軍事費を費やすだけの必然性などは持っていないからです。

たとえばアメリカは、北朝鮮が核弾頭を積んだICBMを持つことは断じて許さないでしょうが、中距離核を持つことを阻止するだけの理由が格別にあるわけではありません。
現にトランプ氏来日前の5月4日、北朝鮮は複数の飛翔体を発射したと韓国が発表しましたが、トランプ氏はその報道を問題にしませんでした。
そしてよく知られているように、中距離核は日本になら簡単に届きます。

もともとこのトランプ大統領の側近への発言は、事実だとしてもびっくりするようなことではなく、前大統領のオバマ氏が東アジアに対して取っていた姿勢の延長上にあります。

さて、この発言を知って、すわ日米同盟の危機だ、と慌てる向きもあるかもしれません。
もっとも、トランプ発言に本気かつ真剣に立ち向かい、それを奇貨とする手も考えられないではありません。
しかし、もし今頃慌てるなら、遅きに失すというべきで、じつは私たちは、とっくに独自の国防体制を充実させておかなくてはならなかったのです。
中国の露骨な膨張主義に対して、それに見合うだけの計画も予算も組まず、いざとなればアメリカ様が守ってくれるという空しい期待に長年依存してきた歴代政府の怠慢と国民の油断こそ、責められるべきです。

さらにブルームバーグの記事を引きましょう。

 《関係者によれば、トランプ大統領は沖縄の米軍基地を移転させる日本の取り組みについて、土地の収奪だと考えており、米軍移転について金銭的補償を求める考えにも言及したという。また、トランプ氏が日米条約に注目したことは、世界の他の国々との条約においても米国の義務を見直そうという広範な検討の端緒である可能性もあると関係者2人が述べている。(中略)
大統領が米議会の承認なしにいったん批准された条約を破棄できるかどうか、米国の法律では決着していない。


こうして、日米安保は、いつ破棄されてもおかしくないのです。
いまの日本政府に、それに対する心構えができているか。
答えは否定的たらざるを得ません。
この場合、単に、中国の軍事力に拮抗しうるだけの自主防衛力の準備がまるで整っていないことだけが危惧されるのではありません。
二つの点に注意を促しておきたいと思います。

①いまの緊縮病に冒された財務省、政治家、学者、マスメディアに、自主防衛力増強、国防予算大幅拡大の必要性を説いても、とうてい聞き入れるとは思えないこと。
②8月以降に予定された日米通商交渉において、トランプ政権は、「条件次第では安保破棄も辞さない」というカードを切って迫ってくる可能性が考えられること。


ちなみに自主防衛力増強と言うと、すぐ「日本も核武装すべきだ」といった極端な「べき論」が飛び出しますが、ネトウヨ諸君、ここは少し冷静に。
日本の核武装など現実的ではないことは、次のいくつもの点によって明らかです。
①アメリカがこれ以上核拡散を許すはずがありません。これは、北朝鮮やイランの例によってわかります。それとも、アメリカをも敵に回す覚悟でそれに踏み切りますか?
②国際社会に逆らって核拡散防止条約(NPT)からの離脱を決断する必要があります。
③たとえ核兵器の生産が技術的に可能だとしても、実用化に当たっては、陸上基地や車両や爆撃機からの発射などは種々の理由から問題点をクリアすることがきわめて困難。唯一可能性があるのは、原子力潜水艦への搭載ですが、これにも現状では時間やコストや技術面で数々の困難が伴います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A0%B8%E6%AD%A6%E8%A3%85%E8%AB%96#%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%9A%84%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E5%95%8F%E9%A1%8C
④唯一の被爆国である日本が核保有国になるには、国内の反対のみならず、国際的評判を一気に落とすことを覚悟しなければなりません。

自国核武装論などしなくても、他の軍事技術や兵力の増強によって、防衛体制を固めることは可能です。
もともと軍備拡張は、必ずしも戦争のためにするのではなく、相手国に脅威を示して相手のやる気を殺ぎ、外交を有利に進めるためにあります。
その場合、核が唯一の手段というわけでもありません。
万が一、敵国が核の使用に訴える気配を見せたら、たとえば、ドイツやイタリアのように、アメリカとの間で核シェアリングの合意を取り付けることも一つの手でしょう。

いずれにしても、もはや日米安保に頼れる情勢ではありません。
沖縄始め世界に類のない広大な面積比を占める在日米軍基地には、徐々に撤退してもらうべきです。
アメリカもそれを拒否しないでしょう。
代わりに一刻も早く自衛隊を拡充させ、国防体制を固める必要があります。
しかし、その大きな障害になっているのが、財務省の緊縮路線です。
観念的な核武装論などに耽るよりは、まずはこの緊縮病をどうやって打ち破るかに国民の力を結集させるべきでしょう。

また、いまの日本政府に、アメリカの通商交渉のシビアな攻勢に対等に立ち向かえるだけの力があるとも思えません。
とりあえず、日本の交渉当事者たちが、「安保破棄」の脅しなどでおたおたしないように、腹をくくって臨んでもらうよう、祈るしかないでしょう。
アメリカは仲良し同盟の相手などではなく、国益のためなら何でも打ち出してくる国だということを再確認しましょう。

以上述べてきたことの一部は、筆者も呼びかけ人として名を連ねている、政策集団「令和の政策ピボット」の政策にも書かれています。
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安倍首相を総括する

2019年06月20日 23時20分34秒 | 政治



残念なことに、10月の消費増税はそのまま施行され、衆参同日選挙もなさそうな気配ですね。

6月11日のNHK世論調査では、次のような結果になっています。
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
安倍内閣 支持する48%  支持しない32%
消費増税 賛成29%    反対42%
景気回復 続いている10% 続いていない53%

だれが見ても変な結果です。
デフレ脱却を第一の優先課題として掲げて6年半、安倍政権はこの公約をまったく果たすことができず、国民を貧困に陥れ、そのうえ、何の必要もない消費増税をやろうとしている(ちなみに財務省はじめ、その必要を説いている人たちのロジックはとっくに破綻しています)。
その安倍政権の支持率が5割近くの高さを維持しているのに、一方で、増税反対者が賛成者を大きく上回っています。
しかも、景気回復が「続いている」という答えは、わずか1割、「続いていない」の五分の一にも達していません。

世論調査の場合、こういうねじれ現象は昔からよくあることですが、これはなぜでしょうか。
一つは、現政権に対する、惰性的で無根拠な「信頼」です。
不安定を好まない国民性を表しているでしょう。
政治を自分の生活に結びつけて考えようとしない長きにわたる習慣的な感性と言えるかもしれません。
「長い物には巻かれろ」というやつですね。
もう一つは、野党のだらしなさに対する「不信」です。
野党は、実際、消費増税という、国民のためにならない政策一つにさえ、結束して反対することができていません。
三つ目に、安倍首相のイメージに対する、やはり無根拠な「信頼」があります。

実際には、安倍政権は、この6年半で、国民の敵であるグローバリズムや新自由主義に奉仕する政策ばかり採ってきました。
TPP参加、農協改革、種子法廃止、労働者派遣法改革、漁協法改革、国有林野管理経営法改革、水道法改革、入国管理法改革、発送電分離、消費増税、そしてPB黒字化目標という緊縮政策……と、挙げればキリがありません。
これらはすべて、国内産業を圧迫し、国民生活を困窮させ、外資の自由な参入を許し、格差を拡大する「亡国政策」です。

大多数の国民には、安倍政権がこんなにひどい政策を採ってきたという自覚と認識がありません。
この自覚と認識の欠落には、安倍首相のイメージがかなり貢献していると思われます。

日本はアホな国だねえ、と嘆息していればいいのかもしれませんが、それでは亡国を甘んじて受け入れることになります。

ここでは、二つの問いを出してみます。

①なぜ安倍政権が亡国への道をひた走っているにもかかわらず、安倍首相は国民の間で好意的なイメージを保ち続けているのか。

これは彼のキャラとそれを感じ取る国民心理に関する分析ですね。

②結局、安倍首相とは何者なのか。

これは、政治家としての安倍晋三氏についての本質的な分析です。

①から行きましょう。
安倍首相の人気の秘密は、先ほども言ったとおり、人格的なイメージです。
彼は三世議員で、育ちがよく上品で真面目、お高く止まったところがなく、気さくな雰囲気を持ち、顔も愛想もよくていかにも国民に受けそうですね。
演説がうまく、首脳会談や国会答弁やテレビ出演や記者会見などでの受け答えも、紙を読まずに堂々と前を向いてしゃべります。
アメリカ議会での演説では、すべて英語でスピーチし、議員たちの評判がたいへん良かった。
超多忙な中で演説文を暗記したのでしょうから、相当な努力家であることもうかがわせます。
日本の政治家は、これまで下ばかり向いて官僚の作文を呼んで済ませるか、そうでなければ意味不明の短い言葉でやり過ごす人が多かった。
それに比べると、安倍首相は、日本人には珍しく(アメリカ人には珍しくありませんが)、政治的パフォーマーとしては、一流だと言えるでしょう。
長いキャリアを通して饒舌なわりには、いわゆる「失言」も少ない。

これは、国民にいい印象を与えますね。
何となくこの人に任せておけば安心、というふうに、情緒レベルで多くの国民が思い込んでしまう。
特に「おばさん」には受けがいいでしょう。
それが曲者です。
イメージがよすぎると、その人が率いる政権が何をやってきたかが忘れられます。
その意味では、次期首相候補の一人と目されるイケメン・小泉進次郎などもたいへん困った人物です。
ちなみにこの人は、経済のことなど何もわかってない〇〇議員です。

②の問題。
安倍首相が、西田昌司参議院議員、藤井聡京都大学大学院教授、評論家・三橋貴明氏と食事を共にしたことがありました。
ネット広告で四人並んでいる広告をよく見かけますね。
その折、安倍氏は、「自分には三つの敵がいる。自分一人では戦えないので、力を貸してほしい」と漏らしたそうです。
これは三橋氏の証言によって明らかになっています。
https://keieikagakupub.com/38JPEC/adw/?gclid=EAIaIQobChMIt-vNlOD34gIVhfNkCh39qgTSEAEYASAAEgJrVvD_BwE

筆者の推定になりますが、三つの敵とは、
①朝日新聞
②グローバリズム
③財務省

でしょう。

もし彼がそう言ったとすれば、たしかに「一人では戦えない」と漏らすのももっともでしょうね。
しかし、彼はこの三つの敵、特に後の二つと本気で戦って来たでしょうか。
自ら本気で戦いもしないのに、他人に援けを求めたとすれば、それは日本国民の総司令官として、責任逃れのそしりを免れないのではないでしょうか。

筆者は、安倍氏を個人攻撃したくてこんなことを言っているのではありません。
公人として最高の地位にいる人なのですから、批判を受けて当然だと思うのです。

10月の消費増税決定の期限がもうすぐそこに迫っています。
さて、これが決定されてしまったとします。
すると、安倍首相は、就任以来、この三つの敵のどれひとつにも勝てなかったことになります。

・TPP参加→グローバリズムに敗北
・日韓合意→(おそらく)アメリカの意向に追随。つまりグローバリズムに敗北
・先に挙げた一連の制度改革→グローバリズムに敗北
・PB黒字化目標→財務省に敗北
・消費増税→財務省、朝日新聞に敗北
・緊縮財政→財務省、朝日新聞に敗北


全敗です。
一国の総理大臣という強大な権力を持ちながら、こんなことがあるでしょうか(民主主義国家の代表に大きな制約があることは認めますが)。
この疑問に対する答えは二つしか考えられません。
一つは、彼には本気で戦う気など初めからなかったということ。
もう一つは、彼の主観がどうあれ、周囲の勢力に押しつぶされてしまったということ。

筆者は、いちばんありそうな答えは、この二つの両方だろうと考えています。
財務省との戦いは、たしかに存在しました。
これはいろいろな傍証によって確かめられます。
いまここでは、ともかく増税を二度延期した事実と、PB黒字化目標の達成年次を5年延期した事実を挙げるにとどめましょう。
しかし、グローバリズムそのものを示す、諸制度の改革(農協法、移民法、水道民営化その他)については、安倍首相自らが明確な抵抗を示したとは思えません。
これらの改革のイニシャティヴを握っていたのは、小泉内閣時代から規制緩和(構造改革)路線を主導してきた竹中平蔵です。
竹中と安倍氏との関係はどうだったのか。

安倍氏が第二次安倍政権を成立させたとき、アベノミクスの三本の矢という施政方針を打ち出しました(2013年初頭)。
復習しておきましょう。
①大胆な金融政策――金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭
②機動的な財政政策――10兆円規模の予算で政府自ら率先して需要創出
③民間投資を喚起する成長戦略――規制緩和によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

①はリフレ派の考えに従ったもので、日銀の国債買い上げによって事実上政府の負債は減少しましたが、市場のインフレ率はさっぱり高まりませんでした。デフレマインドはお金の量だけ増やしても解決できなかったのです。
②は、最初の1年だけで、次年度からは、たちまち財務省の緊縮路線に抑え込まれました。
③ですが、これこそ竹中がずっと続けてきた新自由主義的な規制緩和路線、つまりグローバリズムをそのまま踏襲したものです。
筆者の想像では、安倍氏は、この路線を正しいものと信じ込んでいたフシがあります。先に述べたように、安倍政権になってから次々と成立した、国民生活を破壊する諸制度に、彼自身がまともに反対した形跡がないからです。

さてこうみてくると、実際には安倍首相は、いわゆる「三つの敵」に対して心から闘志を燃やして戦いに挑んだとはとても言えないことがわかります。
せいぜい財務省の緊縮路線に抵抗を示したくらいのところでしょう。
しかし今回、消費増税が決定されれば、それも空しくなってしまいます。

もし本当に彼が「三つの敵」を倒そうとして、総理の職を賭けて戦いに挑んだなら、事態は、こんなにひどくならなかったでしょう。
それは、必ずできたはずです。
でも、何一つできなかった。

すると、安倍首相の政治家としての本質とは何なのか。
筆者は、これをあえて、「周りばかりを気にする臆病政治家」と規定したいと思います。
三世政治家としてこれまでになくパフォーマンスに長けたこの人は、その面のすぐれた能力によって、国民をも自分自身をも欺いてしまったのです。
つまり、しょせんは、自分なりの信念を貫く強い意志を持たない「お坊ちゃん政治家」なのです。

何年も前のこと、ある(保守的な傾向を持つ人ならたいていは知っている)安倍シンパだった知人に、「安倍さんはしょせんお坊ちゃんだ」と告げたところ、彼はそれを言下に否定し、後の書き物にも、「お坊ちゃんなどと呼ぶ人がいるが、そんなことはけっしてない」という意味のことを書いていました。
さて、事態は動き、この人も、いまではさすがに心情的な安倍シンパにとどまっているわけにはいかなくなったことでしょう。

筆者も呼びかけ人の一人に名を連ねている政策集団「令和の政策ピボット」は、平成の末期に中央政治を運営した安倍政権の大失敗に対する深い反省から生まれました。
https://reiwapivot.jp/
平成に猛威を奮った緊縮財政やグローバリズムや構造改革が、国民の暮らしを深く破壊した事態をよく見つめ、二度とこのようなことがないように、大きなピボット(転換)を図りましょう。
国民の皆さんには、イメージで政治権力者を選ぶ愚を克服し、政策の良し悪しをよく吟味したうえで適任者を選ぶことを心から期待したいと思います。


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80%AB%E7%90%86%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90&qid=1554280459&s=gateway&sr=8-1


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https://ameblo.jp/comikot/




お知らせ

2019年06月14日 15時21分00秒 | お知らせ



★思想塾・日曜会からのお知らせ

病む心・病む社会
――滝川一廣・小浜逸郎 公開対談――

●11月2日(土) 13:30開場 14:00開演~16:30終了
●JR大井町駅隣、きゅりあん5F第2講習室
●アクセス:http://www.shinagawa-culture.or.jp/…/page0…/hpg000000268.htm
●参加費2000円
●要予約(詳細は後日お知らせします)

************************

【対談趣旨】
現代日本は、さまざまな不安定と予測不可能性に満ちています。
政治の屋台骨が揺らぎ、経済はいまだにデフレを脱却できていません。
若者は低賃金と臨時雇用ときつい労働にあえぎ、将来の見通しが立たず、結婚もままならないありさまです。
高齢者は年金の削減や医療・介護の負担を抱え、老後の不安はいや増すばかりです。
現役世代は、分厚い高齢世代の生活を背負わなくてはならず、教育にも多額の費用が必要とされ、厳しい生活維持に追われています。
貧困家庭のみならず、中流家庭でも、しばしば「虐待」やDVと呼ばれる現象が起きています。また、いわゆる「引きこもり」による殺人事件や、それを恐れて息子を殺害する事件などが世間を騒がせ、8050問題などという言葉も生まれました。
いま日本人は、戦後最大の危機に直面しているのだと思います。
それは、ひとりひとりの「こころ」の問題としても現れ、同時に「社会」全体の解決困難な課題としても現れています。

こうした現実を踏まえ、思想塾・日曜会では、子どもや青少年の精神発達に詳しい精神科医・滝川一廣氏をお迎えし、結婚や家族問題を専門としてきた評論家・小浜逸郎と対談をしていただきます。
この対談では、日本人の病むこころから、それを生み出している社会病理に至るまで、広い視野のもとにその背景を探り、適切な処方箋を見出していきたいと思います。

たとえば、いわゆる「虐待」事件が報道されると、マスメディアはこぞってその関係者をたたき、そのたびに児童相談所の相談件数はうなぎ上りに増えてきました。
しかし、「虐待」とは何か。じつはその定義すらはっきりしていません。
ところが、「虐待」という連絡が入ると、児童相談所では、実相を詳しく調査するゆとりもないままに、とにかく親と子の隔離という、本来の業務ではない対処に追われています。行政もこれを問題視してはいますが、有効な対策を打てているとは思えません。
こうしたところに、わたしたちは、いまの日本社会の他の現象にも共通する、性急な対応と思考停止の状況を見ないでしょうか。

多くの芳しくない社会現象はなぜ起きるのか。わたしたちは、何よりも、その背景と歴史をしっかりつかむ必要があります。この対談によって、少しでもその糸口にたどり着くことを期待したいと思います。
                               思想塾・日曜会 対談企画委員会

令和元年6月10日経済罪政諮問会議議事録

2019年06月10日 22時44分47秒 | 経済



 出席者(発言順):  余り 明か(内閣府特命大臣)
           嗚呼 そうだろう(財務大臣)
           どぶ板 蹴ろう(慶応大学教授)
           面皮 ひろし(東京大学名誉教授)
           中二 白空き(経団連会長)
           嘘尾 雄蔵(東京大学教授)
           浜海苔 むらさき(同志社大学大学院教授)
           厭う 高年(東京大学名誉教授)
           ミス 魔女宅(国際魔女大学学生)

余り議長 それでは令和になって初めての経済罪政諮問会議を開きます。本来なら安倍総理に議長をやっていただくんですが、今日はあいにくトランプのやりすぎでシンゾーを悪くされて、出席できませんので、私が代わりを務めます。
 ところで、令和初めての会議ということで、新元号が万葉集から採られたことにちなみ、安倍総理からお祝いのしるしとして短歌が届けられました。まずはそれを詠みあげてから、実質審議に入りたいと思います。
  天の原 ふりさけ見れば 微かなる われの力も 消えし月かも
嗚呼委員 どっかで聞いたような歌だな。ま、彼がいなくても何とかなる、何とかなる。
つぶやくようにいない方がやりやすいかもしれん。
余り議長 それでは議題に入ります。本日は、今年10月に予定されている消費税の増税について、各委員のご意見をうかがいたいと思います。
どぶ板委員 それはもう必要ないですよ。こないだの骨太方針原案で、もう増税実施と明記されたじゃないですか。参院選の自民党公約にも入ってますよ。私はこれで財政均衡に近づくのかと思うと、喜びに堪えない。
余り議長 まあそうなんですが、一応、手続きとして、国民に納得してもらうためにも、ここで各委員に増税の根拠をご説明していただくと、ダメ押しが可能となると思うんです。
嗚呼委員 G20でも、世界経済の下振れリスクが高まってるって共通認識があるからね。僕はそんな中で日本が率先して財政基盤を固めて、国際的な信用を維持するために増税は必要と発言したんだ。
面皮委員 私はこう考えるんです。南海トラフ大地震の可能性が切迫してる。それに対処するためにもぜひ増税はしなくちゃなりません。
中二委員 財政再建待ったなしですね。将来世代にツケを残さないためにも、PBの黒字化を早めておかないと。それに、財界としては、国内の健全経営の維持のために、法人税を減税してもらう必要があります。そのぶん、消費税で賄うのが合理的でしょう。
嘘尾委員 財政赤字を続けていると、国債の増発と長期金利の上昇を招きますからね。これは結局、民間支出を締め出す恐れがあります。最近は、積極財政を主張する論調も散見されますが、政府の財政出動には無駄が多く含まれるので、経済の生産性や効率性をむしろ阻害する要因にもなるんです。ですから、財政を均衡させるのが政府の役割です。その意味で、増税によって税収をがっちり固めておかなくてはなりません。
浜海苔委員 財政破綻の危機はもうそこまで迫ってます。増税は言うまでもありません。
余り議長 だいたいこんなところですか。厭う委員、何かありましたら。
厭う委員 増税はもちろん必要ですが、私は、財務省が景気の悪化を恐れて設定している軽減税率も弊害が多いと考えてるんですよ。3月に、経済学や政治学の専門家を集めて「軽減税率に関する緊急政策提言」というのを出したんです。いえ、私は発起人ではなく賛同者の筆頭に名を連ねていますが、実質的にまとめたのは私です。
軽減税率は、対象品目を生産・販売する業界にとって、既得権益となってしまうんです。税率の改定時にその既得権益を守ろうとするし、他の業界も新たに軽減税率が適用されるように働きかけるようになります。将来的な財政基盤の安定を考えたら、税率を20%くらいまでは上げなくちゃいけませんから、この既得権益化をあらかじめ摘み取っておかなくてはなりません。
嗚呼委員 ああ、そうだろう。
余り議長 ご意見が出そろったようですね。これで消費増税の必要が確認されると同時に、軽減税率もやめた方がいいというところでまとまったようです。それではこれにて……

この時、ミス・魔女宅、箒に乗って乱入。なんだなんだ、とみんなびっくり
ミス・魔女宅 遅れちゃってすみませーん。出てくる前に箒の調子がちょっと悪かったんで。
余り議長 あんた誰? 呼んでないよ。出てってください。
ミス・魔女宅 ウフン、わかってる。でも許して。皆さんにキスしてあげるから。

男の委員たち、ミス・魔女宅のキスの魔法にかかり、とたんににやけてしまうが、浜海苔委員だけは、いつもの苦虫を噛み潰したような顔をさらに顰めて、ハエを追い払うように拒否する
ミス・魔女宅 わたし、ミス・魔女宅って言います。どうぞよろしく。略称でいいから、MMTって呼んでね。
浜海苔委員 えっ? MMTって理論じゃなくて人間だったの!
ミス・魔女宅 理論でも人間でもなく、魔女のタマゴで~す。
 時間には遅れちゃったけど、来る途中で皆さんの話、みんな聞いちゃいましたよ。魔法の力でね。
 それで思ったんだけどぉ、皆さん、ひどいデタラメばっかりおっしゃってるのね。よくこれで内閣府の諮問委員が務まるわね。しかも東大の先生が3人も入ってるんでしょう。
各委員 な、なんだ失敬な。どこがデタラメなのか、説明してみたまえ。
ミス・魔女宅 一人一人行きましょ。
 まず嗚呼さん。G20で下振れリスクが確認されたんでしょう。だったら、増税なんかして、どうしてデフレを促進するような真似するの。世界経済にも悪影響与えるわよ。あなた、総理だったときは積極財政やってたじゃないの。財務大臣になったとたんに財務省に篭絡されて緊縮派に転向しちゃったの? それに、格付け会社の評価なんか歯牙にもかけなかったのに、増税延期したら格付け会社の評価が下がることを覚悟しなくちゃならないなんて、いったい、どうしてそんなに弱気になっちゃったの? ねえ、嗚呼ちゃんてば。
嗚呼委員 ……君の考え方については知ってる。だけど、日本経済をそういう考えの実験場にするわけにはいかないんだ。
ミス・魔女宅 あーら、緊縮路線で20年も実験してきて、全然デフレから脱却できてないじゃない。景気判断も連続で「悪化」よ。賃金も下がりっぱなしだし。消費も投資も冷え込んでるし。
嗚呼委員 いや、しかしGDPはこの前プラスになったじゃないか。
ミス・魔女宅 G20でそう言ってたわね。あなた数字のマジック知ってながら平然とウソついてるのよ。GDPがプラスになったのは、輸入が極端に落ち込んだからでしょ。それだけ、内需が振るわなくなってる証拠じゃない。
嗚呼委員 ああ、そうだろう。しかし、私の立場として……
ミス・魔女宅 悪いけど長いことないんだから、この際、財務大臣の立場なんか捨てて、政治家としての立場を活かしなさいよ。ダメねえ。
 それから、どぶ板さん。なに喜んでんの。「財政均衡」がそんなにうれしいの。あなた、財務省がPB黒字化方針に固執してきたために、デフレが続いて国民の中間層が脱落しちゃったの知ってる? 国民が貧しくなると快感を感じるんだから、サディストね。
 次。面皮さん。大地震が来るから増税が必要って、なに、それ。反対でしょ。大地震に備えて国土強靭化を急がなくちゃならないんだから、大規模なインフラ整備のために、すぐにでも建設国債を発行すべきじゃないの。あなたも昔、積極財政派だったのに、財務省に誘惑されたら、コロッと緊縮派に変わっちゃったのね。
面皮委員 しかし、災害に備えて歳入を確保しておくことは大切なことじゃないか。
ミス・魔女宅 あなたって、すごくたちが悪いわね。東大名誉教授。立正大学学長。日本マクロ経済学界の権威。
 いい? 税率上げた結果、消費が減退して、税収が減っちゃったら元も子もないじゃない。小学生でもわかるわよね。それとね、これも知ってるでしょう。国家予算て、税収だけで賄ってるわけじゃないわよね。毎年、国債を大量に発行してる。なんでこのうえ、国民から税を搾り取る必要があるの?
 それより、これはどう? 自国通貨建ての国債でデフォルトすることは原理上あり得ないって。だからデフレの時には、インフレが過熱しない程度に、どんどん国債発行して経済成長させないと、今後ますます日本はダメになってくわよ。日本がだめになってもいいの紫綬褒章受章者さん。
嘘尾委員 ちょっと待った、MMT。そんなことしたら、長期金利が上がってエライことになる。それにインフレが加速して抑制が効かなくなる。
ミス・魔女宅 おや、飛んで火にいる夏の虫ね。あんたも何にもわかってないのね。これまでさんざん国債発行してきたのに、金利は下がる一方じゃないの。ヘンな理屈こねないで、現実をよく見てちょうだいね。東大坊や。
 それに、いまはデフレよ。デフレから一刻も早く脱却しなくちゃならない時に、インフレの加速を心配してどうすんの。国債の発行に制約がないなんて、わたし、ひとことも言ってないわよ。インフレ率がその制約よ。万一過熱しそうになったら、政府と日銀で火消しに回ればいいじゃないの。それって長年緊縮やってきた財務省のチョー得意技でしょう。金利上げたり、国債の売りオペやったり、場合によっちゃあ、資産家や儲けてる人から税金取ればいいじゃないの。
 ついでに言っとくけど、「政府の財政出動には無駄が多く含まれる」って、どっかで聞いたような話ね。どういう無駄か、具体的に言ってちょうだい。公共投資、削りに削ってきた結果、高速道路網や新幹線は北海道、山陰、四国、九州でひどい未整備、橋やトンネルや堤防は劣化して事故や災害が頻発。科学技術や医療や国防や教育には全然投資がなされないまま他国に後れを取るばかりじゃないの。
「財政出動は経済の生産性や効率性をむしろ阻害する要因にもなる」って、どうしてそうなるのか説明してよ。地方にインフラが整うだけで、経済効果が上がるに決まってるじゃないの。違う? 東大坊や。
 国債は政府の債務だから、民間にとっては債権なのよ。だから政府が赤字国債を増やして公共投資に踏み切れば、それだけ民間は生産活動が活発になって潤うことになる。わかってる? 東大坊や。
 次。中二さん。あなたも財界引っ張ってながら、ほんとにバカね。消費増税やって国民生活が貧困化して、投資も減退したら、最後に困るのはあなた方自身よ。
 でも本音が思わず出たわね。消費増税は法人税減税の肩代わりだって。だけど、あんた、自分が儲けることばっかり考えてて、この国のことなんか何にも心配してないんでしょう。国内産業大切にするふりして法人税下げさせておきながら、実際には土地や人件費や税金の安いところがあれば、すぐにでもそっちに逃げてくつもりでしょう。見え見えなんだから。そうして内部留保ため込んだり、株主に奉仕することしか考えない。
 繰り返すけど、日本に財政問題なんてないのよ。だから財界人は、グローバルなところばっか見てないで、少しは国民の豊かさや国内産業の発展に貢献するために、国内に投資すること考えなさいよ。
 最後に厭うさん。あんたも悪いねえ。将来の増税にそなえて、既得権益化しがちな軽減税率はやめた方がいいだって。とんでもないこと言うわね。
 消費税って、富裕層に優しくて貧困層に厳しい税制だってこと知ってるわよね。知らない? 東大名誉教授。コロンビア大学教授。一橋大学名誉教授。そう言えばこの提言の発起人に一橋のセンセが多いのもうなずけるってもんよ。
 わたしは、この税制自体が間違ってると思うけど、それでも今すぐ廃止できないなら、軽減税率があることはせめてもの救いじゃないの。
 そもそも増税を絶対の前提にして、それを疑わない学者連中ばかり集めて煙に巻いて、権威の衣着せて緊急政策提言するなんて、悪人だよねー。悪人面してるもんね、紫綬褒章受章者にしては。
厭う委員 いや、あの提言の趣旨は、軽減税率は複雑すぎるし、富裕層に有利だからよくないんで、増税前に一律に一定額を給付する方がいいってとこにあるんだ。
ミス・魔女宅 ふん。いかにも国民のこと考えてるみたいな調子いいこと言ってるけど、それなら初めから増税に反対すればいいじゃない。ほんとは、これから消費税率を増やしていこうって魂胆でしょ。さっきそう言ってたじゃないの。
 さてっと、そろそろ帰らなくっちゃ。お母さんがトカゲの丸焼き焼いて待っててくれてるんだ。
浜海苔委員 待って、MMT。もう一人忘れてない?
ミス・魔女宅 おっと、そうだったわね。あら、そんなに怖い顔しないで、むらさきさん。あなたには、特に言うことありません。だって昔っからアホなんだもん。話が通じっこないよ。
浜海苔委員 うーん、この娘っ子めが! あたしをなんだと思ってる。許さないから覚えてろよ。MMTなんてのは、「MAD」のM、「まともじゃない」のM、「盲点」のMよ。ついでにTは「たわけ!」のTとしとこうか。
ミス・魔女宅 いろいろ専門的解釈をいただいて、ありがとうございます。でもお願いだから「むらさき」のMにだけはしないでね。
 そう言えば初めに安倍首相の短歌が朗詠されたわね。わたしもお別れのしるしに一首。
  むらさきや 浜の海苔っ子は尽きるとも 世にアホ学者らの 種は尽きまじ
 それじゃ、皆さん、さようならー

 (ミス・魔女宅、箒にさっとまたがり、ミニスカートをひらめかせて、すごい速さで会議室から去る


 *参考サイト
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-30/PS9RQK6TTDS301
https://dot.asahi.com/aera/2019060500023.html
https://r.nikkei.com/article/DGKKZO45512980R30C19A5KE8000?unlock=1&fbclid=IwAR3-X32zRApM1Mo29asNE0QQpXhc43fF3qNU4qk-TF6ySMw4H96kXNdYbk4&s=1
https://sites.google.com/view/suggestiondifftaxpublic/
https://news.yahoo.co.jp/byline/takerodoi/20190608-00129271/
https://jp.reuters.com/article/aso-g20-tax-idJPKCN1RO0E1
https://jp.reuters.com/article/abe-mmt-idJPKCN1RG04W
https://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/2019/0520.html



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