小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

日本人よ、国連信仰から脱却せよ(その2)

2016年04月29日 17時58分33秒 | 政治

      



(その2)を書く気はなかったのですが、短い間に情勢が変化したので、追加します。
 4月23日付の当ブログ「日本人よ、国連信仰から脱却せよ」の冒頭部分で、筆者は次のように書きました。
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/eb32263d8947a1441f600f23425f0fa5

 2016年4月19日、国連人権理事会の特別報告者、デービッド・ケイなる人物が記者会見し、「>日本の報道の独立性は(政府の圧力によって)重大な脅威にさらされている」と述べました(産経新聞4月23日付)。この人物は、国会議員や報道機関関係者、NGO関係者らの話を聞いてこう判断したそうですが、いったい誰に聞いたんでしょうね。だいたい想像はつきますが、それにしても、この発言の、実態とのあまりの乖離ぶりと、その質の低さには思わずのけぞってしまいます。日本ほど言論や報道の自由が許されている国が世界のどこにありましょうか。

 しかしその後、ケイ氏が記者会見で、単に政府の圧力による報道機関の危機を訴えただけではなく、日本のマスコミの政府からの非自立的な姿勢を批判し、記者クラブの廃止や報道監視のための独立機関の設立をを提案していることを知りました。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20160426-00057026/
 このケイ氏の提案に関しては、それが報道関係者の責任をより強く自覚させる効果を持つことを保証するものであるかぎりにおいて、ほぼ支持することができます。日本のマスコミは、たしかに右から左まで、だらしない御用マスコミと化している側面(たとえば消費増税肯定、大本営発表的な景気判断の垂れ流し、TPPや規制緩和路線に対する無批判、財務省発「国の借金一千兆円」説のデマのしつこい流布)を否定できず、インターネット上においてたびたびその姿勢を批判されているからです。しかもこの部分は、大部分のマスコミが意図的に報道しなかったようですが、それは事実報道を使命とする報道機関として許されてはならないことです。
 以上の点について、上記引用部分には、産経新聞の記事を鵜呑みにして論じた筆者の軽率ぶりがうかがえます。すでに公開した記事なので削除はしませんが、この場で新たに、引用部分のように安易には決めつけられないことを表明し、読者のみなさまにお詫び申し上げます。

 そのうえで、国連の人権理事会その他機関のこの種の日本への干渉が最近とみに目立ち、その背景に中共、韓国、および日本の反日勢力の存在があるに違いないという筆者の確信に関しては、ここで改めて強調しておきたいと思います。たとえば先の記者会見記事によると、ケイ氏は同時に放送法第四条の廃止を提案していますが、この提案は、明らかに度を越した内政干渉(余計なおせっかい)であり、国家主権を脅かすものです。なぜならば、放送法第四条は誰が読んでも、この国の秩序と平和を維持するために、放送機関が持つべき当然の責任と倫理を課したものであり、憲法第12条後段の「又、国民は、これ(国民の自由及び権利――引用者注)を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」という規定を放送機関にそのまま適用したものだからです。

放送法第四条第一項:
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 こういう倫理規範が国家の名で謳われていることは非常に大切であるにもかかわらず、その廃止をなぜケイ氏は主張するのか。ここからは筆者の想像になりますが、国連人権理事会なる機関が、おおむね三つの力学のアマルガムをその中核の精神としているからだと思われます。
 一つは、個人や民間組織の自由・権利を至高のものとして掲げる欧米的な理念の力、二つ目は、マイノリティ尊重という建前に立った多文化主義の力、そして三つ目は、これらをひそかに利用して日本の統治を弱体化させようとする中、韓、国内反日勢力です。最後のものについては、前期記事で詳しく述べたとおりです。第一と第二の力だけを国連の理想として崇めると、そこに第三の力が強力にはたらいていることが見えなくなり、お人好しニッポンはじわじわと自分の国の主権を侵害されていくのを拱手傍観していることになるわけです。
 次のような情報に接しました。これもネット上で大きく話題にされているようです。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/04/27/united-nation-okinawa-native_n_9791804.html

これまでに国連の人種差別撤廃委員会などは、沖縄の人々を先住民族として認め、土地や天然資源に対する権利を保障するよう日本政府に法改正を求めている。2014年8月には「沖縄の人々は先住民族」として、その権利を保護するよう勧告する「最終見解」を採択した。
これについて宮崎氏(自民党議員――引用者注)は「国益に関わる大きなリスクだ。尖閣諸島を含む沖縄の土地や天然資源が、どこに帰属するのかを問題にされかねない話だ」と批判。「多くの沖縄県民は先住民族だと思っていません。誠に失礼な話だと思う。民族分断工作と言ってもいいようなことを放置しないでほしい」と政府への対応を求めた。
外務省の飯島俊郎参事官は「政府として先住民族として認識しているのは、アイヌの人々以外には存在いたしません。これら(国連の)委員会による最終見解や勧告などによって、日本の立場が変更されたということはございません」と答弁した。
また木原・外務副大臣は、沖縄県・豊見城市議会が国連勧告撤回を求める意見書を採択したことに触れ「政府の立場と異なる勧告や、実情を反映していない意見については、事実上の撤回や修正をするよう働きかけていきたい」と述べた。


 いかがですか。ここで宮崎議員が「民族分断工作」と述べているその主体がだれ(どこの国)を指しているかは言うまでもないでしょう。国連は、明らかにこの勢力に加担しているのです。その国が尖閣のみならず、次なる目標として沖縄の領有を狙っていることは、しきりに問題にされています。真偽のほどは定かではありませんが、その国の外務省から流出したとされる地図を以下に掲げておきましょう。これもネットで評判になっていますね。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-4980.html
【中国2050年の戦略地図】



 それにしても、外務省の答弁も一応優等生的に答えてはいるものの、本当にやる気があるのかどうか、この官庁のこれまでの姿勢から推して、はなはだ心もとないと言わざるを得ません。なぜ「働きかけていきたい」などと弱腰の表現で済ませて、「断固撤回するよう、強く要求していく」と言えないのでしょうか。
 以上によって、国連が「ちょろい」日本をいかに舐めてかかっているか、そうしてその姿勢を利用する反日勢力がいかに狡猾に「戦勝国包囲網」を作り上げようとしているかが明らかになったと思います。繰り返しますが、私たちは、偉そうな「上から目線」で日本にあれこれ提案したり要求したりしてくる国連の言うことを、けっしてまともに受け入れてはなりません。臨機応変につきあっておく必要はあるでしょうが、わが国の国益は国連の勧告などより常に先立つのだということをよくよく肝に銘じましょう。







日本人よ、国連信仰から脱却せよ

2016年04月23日 22時46分39秒 | 政治

        



 2016年4月19日、国連人権理事会の特別報告者、デービッド・ケイなる人物が記者会見し、「>日本の報道の独立性は(政府の圧力によって)重大な脅威にさらされている」と述べました(産経新聞4月23日付)。この人物は、国会議員や報道機関関係者、NGO関係者らの話を聞いてこう判断したそうですが、いったい誰に聞いたんでしょうね。だいたい想像はつきますが、それにしても、この発言の、実態とのあまりの乖離ぶりと、その質の低さには思わずのけぞってしまいます。日本ほど言論や報道の自由が許されている国が世界のどこにありましょうか。許され過ぎて、まさに反日パヨクによる偏向言論や偏向報道が思うざまのさばっているではありませんか。
 申すまでもなく、これは2016年2月に高市早苗総務相が国会で、放送法第四条と電波法第七六条に関わる発言をして物議をかもしたことに関わっています。反日左派メディアはいっせいにこの発言を歪曲して伝え、岸井成格氏、鳥越俊太郎氏、田原総一郎氏ら「有名」ジャーナリストが大慌てで記者会見を開き、高市発言は報道の自由を侵すものだと騒ぎ立てました。この人たちは、しょっちゅう偏向報道をやってきたくせに、その反省もなく、自分たちの活動に少しばかり言及されると、たちまちわがままなガキみたいに被害妄想ぶりを発揮します。まさにマスメディアの腐敗の象徴です。
 ところで、実際の高市氏の発言を議事録で読むと(http://theplatnews.com/p=1011
)、民主党(当時)議員のしつこい誘導尋問に対して、「行政が何度要請してもまったく改善しない放送局に、何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性がまったくないとは言えない」と答えているだけで、公正中立を守るべきだという電波法の当然の原則に忠実に従ったものにすぎません。これがどうして「報道の独立性は重大な脅威にさらされている」ことになるのか。
 国連人権理事会はいったい何を狙っているのでしょう。当然背後には中共の影が彷彿とします。蟹は己れの甲羅に似せて穴を掘ると言います。「重大な脅威にさらされ」つづけてきたのはもちろん中共政府に批判的なジャーナリストですから、ケイ氏はおそらく中共政府筋からの何らかの圧力のもとに、中共の実態と日本の実態とを意識的に一緒くたにしているのでしょう。そうではなくて、もし自主的にそうしたのだとしたら、日本の現実を何も知らないアホとしか言いようがありません。

 ところで、この間の国連の日本に対する言いがかりの連発には、目に余るものがありますね。列挙してみましょう。

①いわゆる「南京大虐殺」資料のユネスコ記憶遺産登録。
②女子差別撤廃委員会が、慰安婦問題に対して金銭賠償や公式謝罪を含む「完全かつ効果的な賠償」を求めたこと。
③同委員会が2016年3月7日の最終報告において、日本の最高裁が下した「夫婦同姓は合憲」判決に対して、女性差別であるとの見解を表明したこと。
④同委員会が同じく最終報告で、「女性は離婚後六か月間再婚できない」という民法の規定に最高裁が下した「百日を超えて再婚を禁止するのは違憲」なる緩和判断に対して、これも女性差別であるとの見解を表明したこと。
⑤同委員会の最終報告案に、皇位継承権が男系男子だけにあるのは女性差別であるとの見解が含まれていたこと
(日本側の抗議により削除)。

 これらについての詳しい説明と批判については拙著『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)をお読みください。
 さて何よりも問題なのは、国連という機関が、その世界普遍性の装いを傘に着て、言いたい放題をやっていること、そうしてそれに対して日本(特に外務省)が何も有効な反撃対策を打っていないことです。こういう問題に時間と金を費やすことは、中共などの情報戦・歴史戦に対抗して国家主権を守るために非常に大切なのですが、外(害)務省は一貫して事なかれ主義を決め込んでいます。
 しかし事態をよく見れば(よく見なくても)、ここのところ、国連という組織の「人権派」が、世界に対して、「人権の尊重されていない国・日本」「歴史修正主義者・安倍に支配されている国」というイメージをことあるごとにアピールしようとしていることは歴然としています。
 それもそのはず、国際連合(United Nations)とはもともと第二次世界大戦の戦勝国である連合国を意味する言葉であり、「国際(International)」という意味合いは入っていません。そこに大戦後、中国内戦で蒋介石の中華民国を破った毛沢東の中華人民共和国がただ乗りして、自分たちも日本に対する戦勝国であると詐称しているわけです。
 また国連憲章にはいまだに第53条と第107条の「敵国条項」というのが残されています。死文化しているという人もいますが、けっしてそうではありません。情勢次第で、これは大いに利用できるのです。たとえば53条によれば、「敵国」日本が覇権主義を再現することがあると判断された場合には、安保理の決定を待たずして制裁戦争を起こすことができます。さらに107条は戦後の過渡的期間に行なった占領統治などの措置についての規定ですが、「過渡的期間」がいつまでを指すのかあいまいで、見方によっては永久にそう見なすこともできるのです。
 そこで、たとえば中共が、日本を覇権主義国家と決めつけて制裁戦争の名目で侵略することもできるわけですし、その過程で日本を制覇すれば、元から軍国主義国家だった日本を占領統治すると称して、その「過渡的期間」をアメリカに代わってずっと続けるという想定も成り立つわけです。覇権を後退させて中共と本気で闘う気のないアメリカが、「うん、それじゃ日本は君に任せるよ、東アジアで仲良くやってね」と言い出さないとも限りません。こういうことをやくざ国家・中共は必ず考慮に入れていると私は思います。
 ですから、外務省はまずこの「敵国条項」の削除を真っ先に国連に要求すべきなのですが、そういうはたらきかけをしている気配は一向にありません。

 外務省はまさに国際社会に対する日本人の外向きの顔を象徴しています。大方の日本人は「何となく」、国際連合というのは国家よりも上位にあって、どんな場合にも中立的な立場から国際紛争を調停する機関だと考えているようですが、それは大きな間違いです。その何よりの証拠に、これだけの大国になっている日本やドイツはいまだに常任理事国入りを許されていませんね。
 国連は、世界平和を実現するという建前を取っていながら、じつは戦勝国(詐称している中共や、戦中まで日本の一部であったはずの韓国も含む)の国益に叶うならいくらでも利用されうるし、彼らが国益に叶わないとみなすなら何の意味もない無力な機関です。韓国人である潘基文事務総長自身が、国連は別に中立的な機関ではないと言明しているのです。
 その国連に日本は膨大な金を払っています。それなのに、ユネスコ、人権理事会、その傘下にある女性差別撤廃委員会など、国連の重要機関に勝手なことをさせておいてよいのでしょうか。これらは、国家の上位にある組織でも何でもなく、ただ特定の野心をもった国々にとって利用価値のある単なる圧力団体にすぎません。今回の一連の日本非難をきっかけとして、日本人はそのことをはっきりと悟るべきなのです。
 私は、あの松岡洋右のように、そんな腐敗した敵対的な組織ならさっさと脱退してしまえなどと短気なことを勧めているのではありません。孤立はかえってよくない。お金をたくさん払っている以上、株主と同じように大きな発言権を持つのは当然です。わが国に対して不当なことをしている中共、韓国、それを許しているアメリカをはじめとした先進各国に、その不当さを大きな声で訴えていくべきだと言いたいのです。
 他の国が普通にやっているように、何であれ利用価値のある国際組織や国際機関は大いに利用すべきです。それは、仮想敵国・中共の露骨な膨張主義を抑止するために、それを警戒している同盟国アメリカや、外交のもっていきかた次第でこちらになびく可能性もあるロシアをうまく利用すべきであるのと同じです。
 日本人よ、国連が国際紛争を解決し、世界平和を希求する理想的な機関だなどという幻想から一刻も早く目覚め、その実態を正しく値踏みするようにしましょう。




『デタラメが世界を動かしている』もうすぐ発売!

2016年04月19日 21時17分53秒 | お知らせ
拙著『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)が、23日に発売になります。
全国書店、ネット書店で予約受付中。 定価1700円(本体) 384ページ


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【内容紹介】
ここ数年、いや、この半年だけを振り返ってみても、国内外の政治、経済、社会の動きには、どうにも解せないものが多い。それらの事象に対するメディアや知識人の「解説」にいたっては、なおさらの感がある。
2015年末に突如として発表された「日韓合意」、国連が日本に仕掛ける情報戦(歴史戦)、「グローバリズム」「国際平和」への妄信、海外要因にもかかわらず下がり続ける日経平均株価、不透明なTPP、既成事実であるかのように語られる消費増税、労働者派遣法改革、英語公用語化、発送電分離、くすぶる反原発ムード……。
かくも数多くのデタラメが現実に進行しているわけだが、それをただ愚劣だと笑って済ませるわけにはいかない。これらが愚劣どころか、日本国民にいかなる災難をもたらしかねないかを、客観的なデータを用いながら、「国民目線」でわかりやすく解説する。ケント・ギルバート氏とのガチンコ対談「日本外交というデタラメ」も収録!


【目次】
    はじめに 
    第一章 歴史認識というデタラメ
    第二章 アベノミクスというデタラメ
    第三章 グローバリズムというデタラメ
    第四章 国際平和というデタラメ
    第五章 デモクラシー(民衆支配)というデタラメ
    第六章 反原発というデタラメ
    第七章 戦後知識人というデタラメ
    第八章 日本外交というデタラメ(ケント・ギルバート氏とのガチンコ対談)
    終 章 絶望の中をそれでも生きる――あとがきに代えて


【「はじめに」より抜粋】

  いま一般の日本人の多くは、「何となく」次のように信じているのではないでしょうか。

  ①「日韓合意」はまあよかった。
  ②「南京大虐殺」はほぼ史実に近い。
  ③生活は苦しくなっているが、ほかに代わりがいないから安倍政権を支持するしかない。
  ④このままだと国の借金がかさんで日本は財政破綻するから消費増税はやむを得ない。
  ⑤日本はこれから人口減だしモノがあり余っているから、需要はもう伸びないだろう。
  ⑥景気の波は天候の変化のようなものだから、日和を待つしかない。
  ⑦金融緩和とマイナス金利政策を続けていれば、いつかデフレから脱却できる。
  ⑧女性も男性とまったく平等に社会で活躍すべきだ。
  ⑨TPPに代表される自由貿易の拡大はよいことだ。
  ⑩自由競争を阻害する規制は壊すべきだ。
  ⑪失業率が下がっているようだから雇用はかなり改善されつつある。
  ⑫人口減で人手不足なら労働移民拡大もやむを得ない。
  ⑬日本の農業は補助金漬けだ。農協をつぶして農業を新しくビジネスとしてとらえ直すべきだ。
  ⑭英語教育を強化しないとグローバル社会の競争に勝てない。
  ⑮電力自由化は避けられない流れだ。
  ⑯EUはこれからもそのまま存続するだろうし、存続させるべきだ。
  ⑰テロは絶対に許されない。
  ⑱自由、平等、博愛という近代的価値は普遍的だ
  ⑲貧富の格差は資本主義社会である以上、仕方がない。
  ⑳中国と日本は、対話を通して仲良くすべきだ。
  ㉑中国の市場は巨大で魅力がある。
  ㉒国会議員の定数は削減すべきだ。
  ㉓一票の格差は是正されるべきだ。
  ㉔日本の民主主義はまあ安定している。
  ㉕婚外子にも平等な相続権がある。
  ㉖原発は危険だから、再生可能エネルギーに転換していくべきだ。
  ㉗知識人は学識があるのだから、彼らの言うことはまあ信用しておこう。

  この本では、これらがすべて誤りであるか、または浅薄な考えであることを明らかにします。なお、なに
 ぶん問題が多岐に渡っていますので、すべてを読み通すのがかったるいと感じられた方は、関心のある章を
 選んで読んでいただいてもけっこうです。

パナマ文書問題を論じて「新々三本の矢」を提案す(その2)

2016年04月15日 14時02分31秒 | 経済

        




 前回、陰謀論合戦がこの稿の目的ではないと述べました。今回は初めに、陰謀論合戦にはあまり意味がないと私が感じているその理由について簡単に述べます。推理小説ファンやスパイ小説ファンの方には申し訳ありませんが。
 まず私には、どういう力がどのように作用してこうした結果を生んだのかということについて、たしかなことを言えるインテリジェンスの持ち合わせがありません。
 それに、そもそも陰謀論は、一つの明確な目的意識を持った有力な人物や組織や勢力がその目的を達するためにあることを目論んで、そのとおりの結果を生み出したという前提に立っていますが、この前提自体が疑わしい。
 世界の動きは、恐ろしく多元的な作用の交錯によって一つの結果を生むので、本当は、私たちの一元的な因果的思考(の組み合わせ)を超えているところがあります。陰謀を仕組んでもその実現のプロセスで思わぬ作用が入り込んできて反対の結果になってしまったとか、思わぬ方向に展開してしまったいうような例は、歴史上いくらもあるでしょう。
 ところで今回の騒ぎで危惧されるのは、アメリカ(や日本)以外の著名な政治家の名前がこれだけ出ることによって、世界の関心が、この驚くべきスキャンダルに対する関係者の直接的な対処や、分析家の謎解きや、各国の感情的一時的な反政府デモなどに集中してしまうことです。なぜなら、そういうことに関心が終始することによって、本当の問題への目がそらされてしまいかねないからです。
 本当の問題とは何か。
 言うまでもなく、世界のグローバル資本が想像も絶するほどの巨額の資金をタックスヘイヴンにプールして税金逃れをやっているというわかりやすい事実です。これは明らかに、国家の財布を貧しくして、そのツケを増税や福祉削減などのかたちで、富裕層でない一般国民に押し付けていることを意味します。グローバル資本は自国の国益のことなどまったく考えていませんから、この歯止めの利かない流れが続く限り、近代国家の防壁と秩序は崩され、貧富の格差はますます開き、大多数の国民は貧困化していくでしょう。
 今回のパナマ文書には、日本の一部上場企業時価総額上位五十社のうち、四十五社までが記載されているという情報もあります。電通、ユニクロ、ソフトバンク、楽天、バンダイ、三菱商事、三井物産、三井住友FG、みずほFG……。これ自体は、どうやらガセネタの可能性が高いようですが、ICIJは五月に日本の企業名も発表すると言っているそうなので、いずれ真偽のほどは明らかとなるでしょう。しかしいずれにしても、火のない所に煙は立たぬ、タックスヘイヴンは、何もパナマやヴァージン諸島だけではなく、世界中にいくらでもありますから、日本のグローバル企業がこれを大いに利用していないはずはありません。
 井上伸氏の次のブログに書かれていることは、かなり信頼がおけます。ここには、タックスヘイヴンとして有名なケイマン諸島における日本企業の投資総額についてのグラフ、および、これに正しく課税すれば消費税が不必要になる事実についての記述があります。ケイマン諸島への投資額については、日本銀行の「直接投資・証券投資等残高地域別統計」という公式サイトに掲載されている数字にもとづいています。
http://editor.fem.jp/blog/?p=1969(井上伸ブログ)
【グラフ】


(ポインターを当ててクリックすると拡大できます。)

【記述】
 このケイマン諸島で税金逃れした60兆9280億円に、現時点の法人税率23.9%を課すとすると、14兆5617億円の税収が生まれることになります(中略)。増税前の消費税率5%のときは、消費税の税収は10兆円程度でした。消費税率8%になって直近の2016年度予算で消費税の税収は17兆1850億円です。これに対して、大企業のケイマン諸島のみで14兆5617億円の税収が生まれるので、これに加えて、ケイマン諸島での富裕層の税逃れと、ケイマン諸島以外での大企業と富裕層のタックスヘイブンでの税逃れ(中略)を加えれば、現在の消費税率8%の税収をも上回ると考えられるのではないでしょうか?
 そうだとすると、庶民には到底活用など不可能なタックスヘイブンにおける大企業・富裕層の税逃れをなくすだけで、消費税そのものを廃止することができるのです。これが当たり前の「公正な社会」ではないでしょうか?


日本銀行【直接投資・証券投資等残高地域別統計】
https://www.boj.or.jp/statistics/br/bop/index.htm/

 おまけに、経団連など財界は、政府に、自分たちがろくに払ってもいない法人税の減税を要求しています。これは減税すれば日本で生産してやるという条件提示と、外資を呼び込みやすくする規制緩和との二つの意味がありますが、前者は当てにならない単なる脅しであり、デフレ脱却ができていない現在では、実際には浮いた部分、内部留保を増やすだけでしょう。また後者は、TPPと同じように、日本の農業、医療、保険など、国民生活にとってなくてはならない分野の安全保障を根底から脅かすことになります。
 こうしてタックスヘイヴン問題は、じつはナショナリズム(国民主義)に対するグローバリズムの経済的な侵略以外の何ものでもないのです。
 タックスヘイヴンは一応合法的ですから、個々の企業を道徳的に非難してもあまり意味はありません。要は法制度の問題です。財務省が一般国民を苦しめる消費増税に固執することをやめ、政策の矛先をタックスヘイヴンに対する厳しい規制に向けかえればよいのです。先述のように、二〇一四年七月から米政府のFATCAが実施に移されているので、日本もこれに積極的に協力して、グローバル企業からの徴税の道筋をぜひともつけるべきです。
 これによって、国民の消費性向は強まり内需が高まりますから、企業もデフレマインドから目覚めて国内向けの投資を増やすようになるでしょう。そうすればGDPの成長率は期待どおり伸び、税収も余裕で確保できます。
 もちろん、企業の国内投資を牽引するために、政府が新幹線網、高速道路網などのインフラ整備を中心とした大幅な財政出動をすべきであることは論を俟ちません。これは三橋貴明氏や藤井聡氏らが繰り返し説いているように、首都一極集中を避け、防災体制を固め、生産性を向上させ、疲弊した地方を甦らせることにも貢献します。
 アベノミクス三本の矢のうち、第一の矢である「大胆な金融政策」は、黒田バズーカとマイナス金利政策によって、もう十分すぎるくらい行われました。いま貸し出されない資金がすでにジャブジャブあり、長期国債の金利までがマイナスとなりました。政府はまさに財政出動に打って出るチャンスを手にしているのです。
 ちなみに、「新三本の矢」なるものは、安倍政権の経済政策の失敗を糊塗するためのものです。目的を掲げただけで、それを達成するための具体的な手段をなんら提示できていません。的と矢をはき違えているのですね。
 そこで、ここに真にデフレ脱却を果たすための「アベノミクス新々三本の矢」を提案します。

①消費増税の廃止、または5%への減税、最低でも凍結
②20兆円規模の建設国債の発行によるインフラの整備
③タックスヘイヴンへの投資の規制による適正な税の徴収


パナマ文書問題を論じて「新々三本の矢」を提案す(その1)

2016年04月12日 19時24分56秒 | 政治

      




 中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書が流出し、その中に世界の政府要人の関係者が含まれていたことで、大騒ぎになっていますね。キャメロン首相の亡父、プーチン大統領の友人、習近平国家主席の親族、ウクライナのポロシェンコ大統領自身、シリアのアサド大統領のいとこ、アルゼンチンのマクリ大統領自身、ブラジルの七つの政党の政治家、マレーシアのナシフ首相の息子等々、みんなみんなヴァージン諸島やパナマにペーパーカンパニーを作って「タックスヘイヴン」の利用者だったと。いやはやにぎやかなスキャンダルです。アイスランドの首相の辞任騒ぎまで起きました。
 この問題、これからも相当複雑な形で尾を引くことでしょう。
 ところですでにあちこちで言われていますが、これらの要人の中に米政府関係者や米国大企業主の名が一つも入っていない事実がまず疑問点として浮かび上がります。パナマやカリブ海諸国といえばアメリカの裏庭であり、米政府関係者やそれに近い大企業が最も数多く含まれていて当然と考えられるからです。事実、産経新聞二〇一六年四月七日付の記事によれば、「米メディアによると、問題の法律事務所は米国内(ネバダ州やワイオミング州)で千社以上の設立に関与していた。文書にはテロ資金に関わっている可能性もある会社も含まれ、司法当局は調査に着手した」とあります。
 これについては、当然、次のような推測が成り立ちます。すなわち、米政府筋はこの情報をリークした国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に初めから深く関与しており、それを利用して米国に敵対的または不服従的な国の威信を失墜させ、自国の覇権を回復する戦略的目的があったのだ、と。しかし、ロシア、中共、シリア、イスラム教国のマレーシアについてなら、そういう推測が成り立つ余地があることはわからないでもありませんが、ウクライナ(ポロシェンコ政権はアメリカが作ったようなものです)やアイスランドやブラジルやアルゼンチン、同盟国のイギリスまでが入っているとなると、首をかしげざるを得ません。もっとも、最近、イギリスは米国の言うことを聞かずに中共にばかりすり寄っているのは確かですが。
 とはいえ米国は、国内にすでにマネー・ロンダリングや租税回避のための地域をいくらも抱えており、わざわざパナマの地にペーパーカンパニーを作る必要はないのだという説もあります。
http://www.afpbb.com/articles/-/3083379?pid=0
 しかしこの説はにわかには信じ難い。たとえばタックスヘイヴンとして有名なケイマン諸島には、アメリカ企業が集中していて、世界第一位の巨額な資金をここにプールしています。アメリカ企業がパナマだけをはずす理由はありません。
 また社会分析家の高島康司氏によると、今から16か月前、パナマ文書はすでに独立系メディア「VICE」にその怪しい内情が報じられていましたが、一年前にある匿名の人物から南ドイツ新聞に21万4000社のリストが持ち込まれました。これとICIJとの協力によって、このたびのリークに至ったそうです。またICIJは、今後アメリカ企業の名も出てくるが政治家の名前は含まれていないと答えているそうです。
 氏はまた、ICIJの上部組織・アメリカの非営利の調査報道団体「センター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)」による「組織犯罪と汚職の報告プロジェクト」の資金源を調べてみると、共和党や米国務省と深いつながりのある次のような提供者がはっきり記載されていると述べています。

フォード・ファウンデーション
カーネギー財団
ロックフェラー家財団
WKケロッグ・ファウンデーション
オープンソサエティー(ジョージ・ソロス設立)


 さらに、CPIは、米政府の海外援助を実施する合衆国国際開発庁(USAID)から直接資金の提供を受けているそうです。
http://www.mag2.com/p/money/9580
 アメリカは外交政策のためにさまざまなNGOを利用しており、たとえば「カラー革命」や「アラブの春」を引き起こすことに貢献したフリーダムハウスというNGOは、その活動資金を上記の団体から得ていたというのです。
 こうした事情から高島氏は、このたびのリークにも米政府の外交政策という目的が絡んでおり、その外交政策とは、ロシアと中共を牽制することによって、日米韓同盟による北朝鮮への攻撃を正当化することではないかと推定しています。
 この推定には一定の説得力があります。というのは、第一にアメリカは中東から手を引き、「リバランス」政策によってアジアの安全保障にその力をシフトさせることを建前上表明していますし、第二に、北朝鮮の相次ぐ暴発を、国連常任理事国や六か国協議によって消し止めることは、中共やロシアがいるかぎり不可能に近いからです。
 また、北朝鮮が新たなタックスヘイヴンになっているという情報もあります。
http://www.realinsight.tv/nishi/episode_3_rzcf4bq5/
 今回のリークは、二〇一四年七月から実施されているFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)によって租税回避を抑え込もうとする米政府の意志との間に整合性があるという見方も成り立ちます。外交面・経済政策面でほぼアメリカのいいなりになっている日本政府が、この騒ぎに対して口をつぐみ、文書を調査することは「考えていない」(菅官房長官)と表明していることも、高島説の妥当性を匂わせます。
 しかしここで疑問が湧いてきます。高島氏の説は、プーチン大統領が言っているのとだいたい同じ米政府陰謀論ということになりますが、それにしては、リークのされ方がナイーブすぎないでしょうか。というのは、現時点でアメリカ企業やアメリカ政治家の名前が一つも出ていないという状態に対しては、誰もが疑問を抱くに決まっているからです(現に抱かれています)。そうしてその疑問に対する答えも単純で、それは、米政府が自分の国のことは棚に上げてこの陰謀を仕組んだに違いないからだというものでしょう。
 しかしもし私が米政府の立場に立って陰謀を企むとしたら、権力中枢に致命的なダメージが及ばない限りで、アメリカの有力企業や有力政治家の名前をわざと公表させるでしょう。その方が、事実の公正な発表だという体裁が保てるからです。
 そこで、あえて別の陰謀論的仮説を出すなら、「ある匿名の人物」と南ドイツ新聞という左派系のメディア、およびICIJ(これも思想的には左派リベラルと考えていいでしょう)とが、いかにも米政府の陰謀らしく見せるような陰謀を仕組んだという見方も成り立つわけです。または、ここには、アメリカの政治的影響を排除したいドイツ(あるいはほぼ同じことですがEU)の思惑が何らかの形で絡んでいるとか。
 しかしじつは、この稿を起こした目的は、こうした陰謀論合戦をするところにあるのではありません。その本来の目的については次回に譲りましょう。