テレビは、ニュース番組以外はほとんど見ないのですが、8月26日の「たけしのTVタックル」をたまたま見ました。
大水害がテーマで、いろいろと防災対策について話し合っていました。
ハザードマップの当たる確率の高さが強調され、そのあと防災対策を何とかしなければという話になりました。
そこまではいいのですが、とにかく堤防を整備しなくてはならない、しかし国に多くの税金が行ってしまうので、自治体には資金が不足していると誰かが発言しました。
そこから先に議論が進みません。
これは何もTVタックルに限った話ではないのです。
社会福祉、医療、科学技術開発、国防、どんな社会問題を扱った番組でも(といってもニュース番組やクローズアップ現代などで見る限りですが)、その個別問題について詳しい専門家を連れてきて、ディテールについて紹介をします。
それによって問題の根深さが強調されます。
さてどうするか。
解決のためには、こういう努力が必要だといった結論に導かれるのですが、そこから先は思考停止状態に陥ります。
解決に導くための資金をだれが出すのか、そのために何が必要か、だれが資金提供を阻んでいるのかという問題に突き進まなければ、みんなで頭を抱えていても意味はないのです。
さてこの問いの答えははっきりしています。
中央政府が、問題ごとに国民の生命、安全、生活にかかわる度合いを判断して、優先順位を迅速に決め、積極的に財政出動をすればいいのです。
ところが、どの番組も、個別問題を切れ切れに取り上げて、その範囲内で「資金不足だねえ、困ったねえ」と財政問題に突き当たって止まってしまいます。話がそこまで行けばまだいいのですが、ただの精神論で終わる場合も多くあります。
総合的に政策を見ようとする視野が開かれません。
目の前に梁(うつばり)がかかっています。
もちろん、かけている張本人がおり、かけられている張本人もいるのです。
前者は財務省、後者はマスコミ(これは前者と共謀もしていますが)と、それをうのみにする国民です。
先のTVタックルでは、初めから三つの大きな誤りと無知にもとづく枠組みによって番組が構成されていました。
第一に、まず番組の初めに、政府が2023年に配備運用を予定しているイージス・アショア(弾道ミサイルを陸上で迎撃するシステム)に6000億円も必要だという情報をセンセーショナルに流しておいて、それと大規模な災害に対する対策とどっちが大事か、と視聴者に二者択一を迫ったのです。
予算規模が限られていることを前提として、そのパイの範囲内でどちらかを選べ、という心理操作を行っているわけです。
しかしこれは二者択一の問題ではありません。
安全保障と防災、どちらも大事で、どちらにも大金を投じて実現させなくてはならないのです。
すぐ後で述べますが、それはいくらでも可能なのです。
第二に、税金が国にたくさん行っているから地方に金が回らないという認識ですが、これは二重の意味で間違っています。
まず国の予算規模は100兆円ですが、税収はわずかに40兆円です。残り60兆円は国債その他で賄っています。
発言者はそんなことも知らないのでしょうか。
そしてこの予算総額の中には、当然、地方への補助金も含まれます。
もし政府が事態の重大性にかんがみて、国債発行による特別予算を組み、補助金を大幅に増やせば、自治体に金が回らないなどということはないのです。
第三に、財務省が流し続けた例の財政破綻論のウソにみんなが騙されているという事実です。
以下は、「キャッシング大全」という、国の財政には直接関係のない、個人借金のためのサイトですが、そこにまで、両者を混同させるようなことが書かれています。
http://www.cashing-taizen.com/kokusai1016.html
《国が頼りにしている国債は誰が貸しているのか?
それは国民です。
なので国債=国の借金=国民の借金ということになるのです。
もし国は破綻すればその借金はほぼ国民にかかってくることになります。2015年3月の時点で1053兆円もの大金が国の借金となり、国民1人あたりで計算すると830万円もの借金をかかえていることになるのです。》
完全に財務省のトリックにハマっていますね。国民が貸主なのに、なんで国債=国民の借金ということにされてしまうのか。
でもみんなが騙されるのも無理がないかもしれません。
なぜなら、財務省の御用学者たちが、その権威を傘に着て「財政健全化」を説き、根拠なき「財政破綻の危機」、それゆえの「消費増税の必要」を煽りつづけているからです。
たとえば吉川洋東大名誉教授は、大規模災害対策のための公共投資よりも、「財政健全化」を重視すべきだと平然と述べて、ここ数十年にわたる公共投資のひどい削減を正当化しています。
吉川氏は、本年6月に土木学会が発表した、南海トラフ地震で予想される被害総額1400兆円のうち、40兆円の耐震化費用で500兆円以上の被害が防げるという試算結果を悪用し、次のように述べます。
《今回の土木学会の発表で最も注目されるのは、インフラ耐震工事約40兆円で南海トラフ地震の場合509兆円の被害を縮小できるという推計結果である。これほどの高い効率性をもつ公共事業は他に存在しない。整備新幹線はじめほとんどすべての公共事業をわれわれはしばらく我慢しなければならない。(中略)あれもこれもと、現在国費ベースで年6兆円の公共事業費を拡大することはできない。それでは『国難』としての自然災害を機に、『亡国』の財政破綻に陥ってしまう。》(『中央公論』8月号)
要するに、すべての公共事業費をあきらめるか、そうでなければ南海トラフ地震対策をあきらめるか、どちらかにしなければ、「財政破綻」すると言っているわけです。
こういう狂信的な輩が「学術論文」めかして、財務省の緊縮路線に根拠を与えているのです。
さらに吉川氏は、2003年3月19日付日本経済新聞「経済教室」で、「このままだと政府債務の対GDP比率が200%に達するが、この水準は国家財政の事実上の破たんを意味すると言ってよい。たとえデフレが収束し経済成長が回復しても、その結果金利が上昇するとただちに政府の利払い負担が国税収入を上回る可能性が高いからである。」と述べています。
ところが、経済思想家の中野剛志氏が、「しかし、現在の政府債務の対GDP比率は、吉川氏らが『国家財政の事実上の破たん』とした水準をすでに上回り、230%以上となっているが、長期金利はわずか0.03%に過ぎない。政府債務の対GDP比率と財政破綻とは関係がないのだ。」(「東洋経済オンライン2018年8月1日」)と反論しています。
吉川氏の「警鐘」がまったく非現実的であったことが事実によって証明されたわけです。
また、政府債務は、無利子無期限の新規国債に次々に借り換えてゆくことによって、原則として返済しなくてもよい特殊な「借金」なのです。
国民が取り付け騒ぎでも起こして、返せ返せと押し掛けたわけでもないのに、いったい誰に返すのですか。
それとも銀行ですか。
銀行は新規国債が発行されないために、発行残高が不足して取引が成立せず、困っている状態です。
政府は通貨発行権を持っていますし、日本国債はすべて自国通貨建てです。
そうであるかぎり、財政破綻など起こりようがありません。
そもそも「財政破綻」の定義とは何でしょうか。
御用学者や財務省は一度もこれを明らかにしたことがありません。
それは、政府の負債が増えることではなく、正確には、国として必要なのに誰もお金を貸してくれなくなった状態を意味します。
しかしいまの日本は、国債を発行すれば、いくらでも貸し手(直接には、主として銀行)がいる状態です。
またたとえば、政府の子会社である日銀が市場の国債を買い取れば、事実上、その「借金」なるものは、買い取った分だけ減殺されるのです。
現にここ数年日銀が行ってきた大量の量的緩和によって、すでに日銀の国債保有高は400兆円を超え、国債発行総額の4割に達しています。
つまり「国の借金1000兆円超」というのはデタラメなのです。
水利事業、インフラ整備、国防、災害対策――これらは、現在、政府が果たさなくてはならない喫緊の課題です。
税収で賄えない分は、どんどん新規国債の発行で賄うべきです。
新規国債の発行は、これまでの負債の借り換えによる補填以外は、そのまま政府の新たな公共投資を意味しますから、市中へ資金が供給され、内需の拡大に直結します。
日銀の金融緩和によって銀行の当座預金が膨らんでも、投資のための借り手が現れなければ(現れていないのですが)、デフレから脱却できませんが、政府の公共投資は、具体的な事業のための出資ですから、確実に市場にお金が回り、生産活動が動き出します。
それによる経済効果も、特に疲弊した地方を潤すことになるでしょう。
やがて沈滞している消費も活性化し、30年間伸びていなかったGDPも上昇、結果、税収も伸びるでしょう。
こうした一石三鳥、四鳥の財政政策の発動を阻止し、自分で自分の首を絞め、デフレ脱却を遅らせて国民生活を窮乏に陥れているのが、当の財務省なのです。
この程度のことは、少し勉強すればわかることです。
しかし政治家、学識者、マスコミ人のほとんどが、この程度のことを理解していません。
残念ながらそれが日本の現状です。
自民党次期総裁選に立候補する石破茂氏も、全然このことを理解していませんよ。
こんな人が次期総裁になったら、日本はさらに悲惨です。
今の日本人の多くが、財務省を総本山とする「緊縮真理教」という宗教の信者になってしまったので、個別社会問題をあちこちでいくら取り上げても、根っこは、当の総本山にあるのだということが見えず、ある時点で必ず思考停止してしまうのです。
マスコミで取り上げられる社会問題のほとんどの原因は、財務省の緊縮路線にあるのだということにみんなが気付くべきです。