小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

マイクロソフト君、アップグレードの押しつけは犯罪行為ですよ

2016年05月24日 00時17分51秒 | 社会評論
      





 世界中でもうたくさんの人が経験しているでしょうが、ここのところ数か月、ずっと、マイクロソフト社のOS「ウィンドウズ」のユーザーに対して、「ウィンドウズ10へのアップグレードが無料でできます」というメッセージが画面を占領し、何度×をつけてもしつこく繰り返されてきました。それが次第にエスカレートし、今では日を指定して勝手にアップグレードしてしまうようになっています。その日付も画面上では気づきにくく、しかもPCを開いていなければ気づきようがありません。朝起きてみたらいつの間にか10に変わっていたといった声も多く聞かれます。今日(5月23日)のNHKニュースウェブでも取り上げられていましたね。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160519/k10010527561000.html

 私の場合、8.1を使っているのですが、つい先日、いきなり画面を占領され、一方的に「アップグレードします」と宣告されました。その画面が出ている間、他の画面への移行がまったくできません。しかし「拒否しますか?」というボタンがあるので、もちろんそれを押しました。するともう一度「ほんとうに拒否しますか?」と出たので、やはりそれを押しました。そうしたら起動時の画面に変わり、「数回の再起動が必要です」と出ました。そしてインターネットとの接続が断たれたのです。ちょうど数あるメールを読み込んでいる最中でした。(このあたり、あまりPCに強くないので、このとおりの経過ではなかったかもしれません。)
 これまでもアップグレードのメッセージが出るたびにけっこうイライラしていたのですが、ネットにつながらないとあってはそのイライラもいっそう募ります。いくら再起動を繰り返してもつながらないので、電話で知人に尋ねたところ、画面右下のタスクバーに、PCそのものがネットとの連結を断たれていることを示す「インターネットアクセス」というアイコンが出ているからそこをクリックしてつなぎ直す必要があると教えてくれました。で、その通りにすると、右側から「ネットワーク」の画面が出ます。接続環境を示すいくつかの記号が並んでいます。これは自分が直接使用しているものだけでなく、近所で使われているものまで拾ってしまうそうですね。私はWifiを使っているので、それに適合する記号を記憶の中から何とか呼び出し、それをクリックしました。すると今度は、「セキュリティキー」を打ち込まなくてはならなくなりました。セキュリティキー、セキュリティキー、ええっとどこに記録してあったんだっけ。Wifiをいじくりまわしてもなかなか出ません。説明書にノートしておかなかったっけ? 引っ越しの際にどこかに紛れていくら探しても出てこない(イライラ絶頂)。
 あれこれやっているうちに、ようやくWifiの中に記録されている場所を見つけました。これでようやくネットにつなげることができたのです。見つけてみると「なあんだ」という話なのですが、しかし日ごろこの種の操作をやりつけていないと、すぐにはわからないですよね。おまけに私はPCを始めたのも遅く、しかも高齢者です。私のような人も世の中にはわんさかいるはず。とにかくマイクロ君の押し売りまがい、ストーカーまがいの行為のせいで悪戦苦闘すること2時間、これだけの労働時間をマイクロ君に収奪されたわけです。
 慣れている人なら、こんな悪戦苦闘はお笑いに属するのかもしれません。しかしユーザーの誰もがそんなに慣れているわけはない。困っている人、怒っている人もたくさんいるでしょう。
 ともかく私は、このあこぎなやり方が頭にきたので、多くの被害者がいるに違いないと思い、ネットで調べ、人にも聞いてみました。そうしたら案の定、出てくるわ、出てくるわ。ネットからは一つだけ不満が満載されているサイトを紹介しておきます。
http://togetter.com/li/976577

 人から聞いた話をまとめます。

①古いパソコンを使っていたが、10に変えたらまったく操作不能になり、近所の電気屋さんで調べてもらったら、修復不能と言われ、新しいのに買い替えなくてはならなかった。
②あまり勧誘がしつこいのでつい10に変えたら、使い勝手が違い、慣れることができず変えたことを後悔している。
③7や8.1との互換性が低く、これまで使っていた周辺機器との接続ができなくなった。
④同じく、これまで使えたソフトが使えなくなった。


 私などはまだまだ軽傷で済みました。いずれにしても、これは悪徳商法であり犯罪行為です。いくら無料といっても現に取り返しのつかない被害をこんなに広汎に及ぼしているのですから。
 コンピュータをめぐるトラブルはこれまで数限りなくありましたね。「ヘルプ」などは全然役に立たず、用語からして素人にはわからない。ITに詳しい若い知人・友人がいればいいけれど、いない人はどうすればいいのか。また仮にいたとしても、相手も忙しかったり、時間帯が遅かったりしたら、そうそう気安く人に相談するわけにもいかないでしょう。SEに頼んだら大金を取られるでしょうし、頼んでもなかなか来てくれない。締め切りのある仕事を抱えている人がごまんといるのに、いったいこの体制の不備は何なんだと。
 それでもユーザーは、涙ぐましい苦労を重ねた上で何とか乗り切ってきたのです。複数のベテラン・ユーザーから、「コンピュータは欠陥商品です」というのを聞いたことがあります。安くないお金をかけて買ったのにどう使いこなしてよいかなかなかわからず、ごく普通の消費者に大きな努力を強いたり、いたずらに神経を消耗させるような商品は、明らかに欠陥商品ですね。にもかかわらず、必要上やむを得ないということで、私たちは我慢に我慢を重ね、やっとそこそこ使いこなせるようになったのです。
 それにしても、マイクロ君のこのたびのやり口は度を越しています。こういうことをやって平然としているマイクロ君は、商いというものの基本精神がまったくわかっていません。先述のNHKニュースウェブには、当のマイクロソフト社の担当者の弁が出てきます。

今回の騒動について、日本マイクロソフトの担当者は、無償期間の終了が迫っていることから、通知画面を変更したことが理由ではないかと話しています。
通知画面は5月13日に変更されました。この変更によって画面には「Windows10はこのPCで推奨される更新プログラムです。このPCは次の予定でアップグレードされます」などと表示され、併せてアップグレードが実行される日時が示されるようになりました。
最近この画面を見た人も多いのではないでしょうか。中には、あとでアップグレードしようと思い、右上の「×」印をクリックして表示を消した人もいるかもしれません。
しかし、マイクロソフトによりますと、この操作だけでは、通知画面が消えただけで、予定をキャンセルしたことにはならないということです。そのため、利用者の思わぬ形でアップグレードされるという事態が起きているというのです。


 本当にこのとおりだとしたら、開いた口が塞がりません。これではまるで、いいものを勧めてやっているんだから、きちんと認知して理解しないお前らのほうが悪いと言っているようではありませんか。こういうことを平然と言い放つ担当者は、傲慢そのものです。商品を売る人が顧客に対してわきまえるべき反省点が何も備わっていないのです。反省点とは、
①10が果たして普通のユーザーにとって本当にいい商品なのかをまったく疑っていない。
②自分で勝手に通知画面を変更しておきながら、「理由ではないか」とは何事か。まず不手際を詫びるべきではないか。
③「この操作だけでは、予定をキャンセルしたことにはならない」などと澄まして説明する前に、「宣伝に行き過ぎた点がありました」と頭を下げるべきではないか。
④アップグレードへの誘導をどんどんエスカレートさせて強制的なところにまでたどり着いた結果として混乱した事態が起きているのに、その点について何も触れていず、まるで他人事のように、×をつけたユーザーの理解不十分が混乱の原因だと言っているかのようである。

 車や家電製品に少しでも欠陥が見つかれば直ちにリコールになり、しかもその企業は一気に評判を落とすのに、電子情報産業には、こうした顧客第一を考える商習慣がまったく身についていないようです。誰か訴訟を起こしてもよさそうな事態なのに、受ける側も、とにかく新しい世界なので「自分がマスターできていないのが悪い」と殊勝にも考えてしまうのでしょうか。しかし我慢せずに憤りを率直に表現すべきだと思います。
 ところで、マイクロ君はなぜこんな強引な商法に打って出たのか。以下の資料によると、これまでのいくつものヴァージョンで成功と失敗を繰り返してきたマイクロ君は、7が成功したのに8で失敗したために、7の次世代版を狙って10で起死回生を試みようとしているということのようです。ところが7の人気は根強く今でも約半分のシェアを占めるのに、10はせいぜい15%、そこで期限付き(2016年7月まで)無料アップグレードを続けることで一気にシェアを拡大させようという魂胆らしい。しかし無料期間が終わったら果たして多くのユーザーが更新するかどうかは未知数だと、この資料の著者も言っています。
http://potato.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1456187443/

 何よりも、こういう調子でユーザーの意向を無視したくるくる変える強引な商法を続けていく限り、遠からぬうちに7や8の対応商品はもう打ち切りですということにするに決まっています。「技術革新」という信仰に取りつかれて、多様な顧客の気持ちに配慮することを忘れてしまったマイクロ君。君には職業倫理というものがないのか。「三方よし」の近江商人をちっとは見習うといい。
 とにかくこんなことを続けていると、そのうち愛想を尽かされて、じゃあいっそアップルに変えようという人が大量に出てくる可能性がありますよ。特に日本では私のような高齢者のユーザーがこれからますます増えるでしょうから、若い人だけをターゲットにしたこんな変化のスピードにはもうとてもついていけないと感じるようになるでしょう。悪徳商法から早く足を洗った方が身のためだと思いますけれどね。少なくとも私は、使い慣れた今のOSを変える気はまったくありません。