恋する万葉植物 伊東ひとみ・文 千田春菜・絵 P124より引用
ISNB978-4-8381-9977-8 1400円+税
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「万葉集」の中でもとくに名高い歌と
いえば、教科書にもっとも多く取り上
げられている額田王と大海人皇子の相
聞歌ではないだろうか。その両方に詠
われているのが、紫草(むらさき)で
ある。ときは天智七年(668)五月
五日、近江の蒲生野(かまふの)の天
皇ご料地での薬狩(端午の節句に薬草
を採る中国伝来の行事)の折り、大海
人皇子は兄帝天智天皇の女性となって
いたかつての恋人(額田王)を見つけ
て袖を振った。傍目を気にしないその
ふるまいに、額田王が詠んだのがこの
歌だ。「あかねさす紫野行き標野行き
野守りは見ずや君が袖振る」(巻1-20)
それに対する大海人皇子の返しが、紫
草のように美しいあなた、あなたが人
妻だからといってどうして恋い慕わず
にいられましょうか。という↓の一首
である。
紫草のにほへる妹を憎くあらば
人妻ゆゑいわれ恋ひめやも(巻1-21)
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▼最近万葉の植物に興味があって図書
館で借りてきた本にむらさきのイラス
トが掲載されていた。見たことのない
植物です。解説を読んでみると「絶滅
危惧種に指定」とあった。三重県では
見たことがありません。
日本の山野草456種 菱山忠三郎著
主婦の友社
によると根が紫色で太く、古くから染
料または薬用として利用され、万葉の
歌などにも多く詠まれてきた植物。
また「万葉集に歌われた草木」
猪股靜彌著 冬至書房には
現在、近江鉄道、一の辺の駅の北の丘
にこの「万葉集」中の贈答歌の傑作の
歌碑があり人を素直に愛し得たよき万
葉の時代を思い見るよすがとなってい
る。歌碑の丘の下に公園広場があり、
片隅に
ムラサキを栽培してある。
初夏、蒲生野に晴嵐が渡るころ、歌碑
の丘を訪れると、ムラサキ畑に可憐な
白い花が咲いている。
いつか訪れてスケッチをしてみたいも
のです。それにしてもお互いに大胆な
歌を詠んだものですね。その時の情景
がふと見えるようです。今、若かりし
昔のことを思い出しますとムラサキに
一時凝ったことがあります。今では海
苔の佃煮江戸ムラサキの「ごはんです
よ」を美味しくいただいております。

こめぞう