「駿河三保之松原」
三保の松原は、駿河湾に伸びた白砂青松の砂洲で、古代より歌枕として和歌に詠まれ、名所絵としても描かれた景勝地である。羽衣伝説の舞台としても知られている。三保の松原を題材とした絵画の多くは、右手から松の茂る砂洲が伸び、その奥に富士の稜線を配した構図で描かれている。この絵の時刻はいつ頃であろうか。空には明るさが残り、淡く水色をぼかした海が残照を映す夕暮れ時のようだ。富士も山々も松原も影に沈んで色を失いつつある。沢山の帆掛け船が清水湊に戻ってきており、松原の手前の三保浦にはすでに帆をたたんだ船も停泊している。海浜に暮らす人々の、一日の仕事を終えた安堵感が漂うような穏やかな情景である。