まんぷくの主人はまたまた今の斜め前に桜庵という店をオープンしたと、こちらは自分だけが取仕切るために作ったとかで、家具はもちろんみなとのもの。夜だけの予約制でコース5000円からとか、でも昼なら予約しておけばまんぷくの方で創作料理を頼めるでしょうとは、これまたみなとの主人からの情報である。シェフは今でも週一回は東京へ料理の勉強に出ているし、折をみて全国を食べ歩き研鑚を続けている由、そんな時はつるんでみなとのオヤジも一緒に行くんだそうでなんとも羨ましいではありませんか。でもシェフは鉄の胃袋を持っているらしく一日中食べ続けられるそうで、ついていくのも大変なんて話も。そうとなれば料理の鉄人というのも鉄の胃を持ったシェフのことだったんですかね。
そのあとの内緒話では今後にも鮨屋の計画(2003年に李白がオープン、さらに浅間サンロード沿い東部湯の丸IC近くのとんかつ倭らくは揚物以外のメニューも多く、まんぷくの店内をモダンハイカラにした同経営の店)もあるそうで、さらには東京への出店を狙っているらしく益々楽しみになってくる話ですねぇ。またグルメとは別途のおまけの話だが、家具のみなとの先代は古時計のコレクターで、集めた何十という時計が2Fに飾ってあって、これは頼んで是非見さしてもらいましょう。たまたま遠くから見学予約があったということで、全部を時間合わせしたところに出会わせたことがあって、時報で一斉に鳴り出したのは壮観というかウルサイというか、本当に見事なものでしたよ。これでもまだ展示しきれないコレクションがあるそうで、一分野に集中すればこんなに見事なものになるんですかね。
鮨 李白
みなと2Fの時計コレクション
2002年6月の日韓共同ワールドカップ開催中に、アメリカ留学中の長女が2年半ぶりに帰ってきたので、息子を加えて一家四人で急遽旅行をということに。山形の例の肘折温海の我々の定番コースをと思ったのだが、もっと楽な短い旅行が良いと娘が言うので、行先は信州に決め白骨温泉に一泊、娘は7年ぶりという軽井沢にもう一泊、その二日目の夜にその桜庵で食事という、久しぶりの家族全員での旅行を計画した。ワールドカップ中の観光地は普段でも客足が落ちるし、さらに泊り客などは半分以下に減っていると新聞に書いてあったのに、義妹が草津の温泉料理旅館つつじ亭以上に気に入ったという仙仁温泉岩ノ湯に予約TELを入れたらもう満室というので、交通公社で探して貰って白骨の泡の湯をとったのです。白骨は10年程前にいくつかTELして最後に空いていた宿に泊れば大外れ、15000円もとっておいて民宿並とは、人気の上にアグラとはこのことかというのに懲りて温泉ならここから湯を引いている乗鞍高原でもよいかとついぞやその後は近づかなかったのだが、今回は親子4人だけの旅行はもう最後かもとやや高い宿を奮発したのです。
朝6時に出発してまずは松本に、9時過ぎには中心地に到着、いつも駐車させるデパートは開店前なので、新築なった美術館で開館記念展というのを来ていたので、これは力を入れているだろうと立寄ってみることに。メイン展示は日本における2001イタリア年最後の催しというダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロのルネッサンス三大巨匠素描展、それに「山笑ふ-岳都からの美的好奇心」という山をテーマにした国内大家の作品を集めた絵画展の二つで、こういう機会でないとこんなにまとめて見ることは出来ないものが見られたから良しとしよう。街中は中町通と周辺のいつもの我々のブラリ歩きコースに松本城まで足を伸ばし、娘が美味しい蕎麦が食べたいと言うのであの翁で修行したという浅田で昼、もう少し腹の足しにとチーズケーキとコーヒーをと半杓亭というおなじみ喫茶を廻り、さて!とお次はもう早々と宿に向かう。というのも良い温泉にタップリ浸かるのもありけれど、何と言っても今日は日本がワールドカップ予選通過を賭ける対チュニジア戦、3時半キックオフのテレビ観戦もしたかったものだから。途中の沢渡は上高地の観光客がマイカーを駐車、バスやタクシーに乗り換える所であるが、ここの湧水は乗鞍周辺で一番美味しいということを高原側で聞いていたので、道路沿いに山の水と表示してある水栓から絶えず吐き出されている水をペットボトルに汲むことに、こんなことをしているのは僕だけでしたけれどね。
松本美術館 浅田の蕎麦
細い山道を入れば途中大型バスなんぞが1台前方にいてすれ違うのに難儀しているのに出くわし、白骨温泉中心部の奥の林道側に少しばかり進んだ所にある宿にはキックオフぎりぎりに到着。確か以前泊った宿はもっと先の乗鞍高原に近い側にあって気がつかなかったのだが、中心地やここは硫黄、硫化水素の臭いがあたり一面に漂って、いかにも温泉地に来たという雰囲気。乗鞍高原ではこんなに硫黄の臭いは無かったので、長い距離引き湯すると疲れて劣化し駄目になり、やはり源泉近くが一番ということは本当なんですねぇ。入ると湯の中の泡が肌に纏い着き、そこに文字が書ける程というので泡の湯と名付けられたという温泉を持つ宿は、道路を隔てて小梨の湯笹屋と2軒だけが並ぶ場所にある。手前本館は木造3階のレトロなものだが玄関としてのみ使っているだけのようで(その後のTVで旧館を使っての映像があったが)、宿泊室は奥に建てられた新館で結構立派なもの。通された部屋は4人なのでここの大きなタイプ、玄関小上り廊下風の設えがあって3畳の次の間に12畳の和室と広縁、バス(温泉ではない)トイレ付き。温泉にきて普通の風呂というのはどういう種類の客を考えているのでしょうかね。さすがにテレビは大型が備え付けられ、これならバッチリとワールドカップが観戦できる。これは今日だけは特別だからで、普段なら僕なんぞはこういう山深い温泉は鄙びた木造の一軒宿、心尽くしの持て成しと素朴ながらも味わい深い食事なんていうのが本当は好ましいんですがね。でも娘達など若い人には鄙びたなんてどうでもよくて、大型画面でテレビ観戦ができてよかったでしょう。
肝心の温泉は内風呂のある建物を木肌葺造り屋根にして石を屋根抑えに乗せた昔ながらの別棟を維持して守っているようだし、混浴の大露天風呂は湯の花がこびり付いた3ヶ所の太いパイプ口から温泉が涛々と流れ落ちている様は、これぞ本物の温泉というもの。ここの湯は含硫黄-カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型)でPH6.38、泉温39.3℃、効能が高く、じっくりと入っていられるという温泉好きにはまさに嬉しいかぎり。内湯は洗い場まで全て木造で、大きい方は源泉から出たばかりの湯の花が浮かぶ無色透明のヌルッとした湯、隣の小さい方は乳白に白濁しやや加温した湯で、始め透明な湯が空気に触れて時間が経つと白く濁ってくるんだそうだ。さらに小さ目ながら白濁した露天風呂が男女それぞれに附属している。新館ロビーから見下ろせる大露天風呂は個人経営の宿では相当に大きい広さ、男女別の着替場から直接6段の階段を降りて入浴でき、女性はタオルを巻いて入れるのです。パイプからは無色の湯が落ち、中は乳白色、ぬろめなのであたりの木々を眺めてゆっくり長々と浸かれば極楽々々とはこのことでしょう。足元や中に配された岩の肌は湯の花がベットリ着きヌルヌルして滑ること、風呂から出ても肌は次の日まで硫黄の臭いが残る、さぞや効きそうですねぇ。効能書きに肝臓病、糖尿病、高血圧、動脈硬化など、飲泉で痛風リューマチに利くとは正に僕達からの世代には有難い、ピッタシの温泉だ。露天風呂には外来客は午後1時45分までに上がって下さいとの看板、入るだけでも来てみる価値大の温泉ですな。ワールドカップの前半は見ないで風呂に行けば案の定ただ一人で大露天風呂を独り占め、結構々々と、今日は酒も控え目にして健康に過ごしましょうなんて心掛けまで変ってしまうんですよこの風呂は。
さて宿の食事は懐石処という小さく仕切られた掘り炬燵風になった畳敷きコーナーが並ぶ場所で、今日のお品書きには全13品だとか。高い分だけお造り、信州牛ステーキ、タラバガニなど良い食材を使っているのだが、かなり大人数を作るだけに味わいでは今ひとつで残念ですねぇ。すべてに良ければ10日前では予約が取れるとは思われないからこんなものですかね。翌日の朝食では前日にご飯かここの温泉で炊いたお粥かを選ぶようになっていて、おかずは鮭のホイル蒸や厚焼玉子などと普通の旅館よりワンランク上というように見せていたが、これも好みの問題があるのでは。僕なんかは本当に旨い塩鮭や干物類と納豆に旨い味噌汁という方が御馳走なんですけどね。でも温泉は極め付けで素晴らしいものだったからまず良しとしましょうかね。
客室から露天風呂を
夕食のお品書き 朝食
二日目は安曇野か諏訪かと考えていたのだが、曇り空でアルプスの眺めはダメなので子供達が小学校以来という諏訪廻りで上田に出ることに決め宿を出発。塩尻峠越えで下諏訪は秋宮の駐車場に停めて御柱を見せてから近辺を散策。次は上諏訪で昼を洋食みさわでと行けば店名が変っていて、どうやらゴルフ好きの主は茅野豊平に移ってしまったらしい。昨年なにかでゴルフプロ級のシェフが洋食屋を開いたというのを見たことがあり、おなじ名前でしかも平仮名なのでおやっと思ったものだから、きっとそうでしょうな。それで今回も高島城前のかわら亭で昼をとり、周辺にいくつかある美術館の中から女房が好きで見せたいという原田泰治美術館に行き、さらにルネ・ラリック美術館のガラス販売コーナーを見てから下諏訪に戻り、御柱の木落し坂を車窓から見させながら和田峠経由で北上、我々も初めての武石村うつくしの湯で一風呂浴びてから上田に向かう。うつくしの湯はまだ新しい公衆温泉で、残念ながら循環湯であるが、泉質はカルシウムナトリウム塩化物泉で蒸留残存物は6070gという特に塩分が多いとかでやけど、切傷、慢性皮膚病に特効がある温泉とあった。
原田泰治美術館
ルネ・ラリック美術館
さて上田の桜庵(冒頭写真)は道路側は黒塀で仕切って玄関までの小さなスペースを設け、和風踏石のアプローチを取ってシャレた演出。店内は天井コンクリート面も真っ黒に塗り、全体に黒を基調にした中の右手奥に伸びるみなとの無垢材カウンターは9人がゆったり座れ、左手は個室風に2室と少しばかりのテーブル席という配置。古材や時代箪笥で内装にアクセントを付け、みなとにあった鉄や流木のオブジェを飾り、シェフに加えてソムリエ風を含め5人の若手店員も皆男性でこれまた黒のユニフォームと、かなり気取りましたねぇ。前日予約すればカウンター席でも良いですかと言われた通り、どうやら満席らしい。席に着いてしばらくで若手が準備するカウンター内にシュフの登場。カウンター越しに我々を見るなりちょっとビックリした風に、これはこれはどうもいらっしゃいませと。みなとさんの紹介で以前いらしたんでしたねと話すのに、今度もみなとでこの店のことを聞いたので是非と思ってやってきましたよと、ちょっと恩着せがましく少しばかりお世辞っぽくに返事を。まだ1年も経たないはずなのにこの繁盛振りは大したものではありませんか。ワインはボトルでは3000円代から80000円代を並べ、更に上のグランヴァンまでも、で今日は初めてなので最低の5000円のコースだし、食事より高いのはということで僕の好きなカベルネ・ソヴィニヨンで4600円というのがあったので、カルフォルニア、ナパヴァレーのベリンジャーというのを頼む。食事には重過ぎない程度で果実味豊かなカルフォルニアらしいこのワインは、我家のハウスワインの安旨ワインに不足の品と香りを高めた感じでまずまずの味わいで結構でした。あとで知ったのだがこのベリンジャーは各種コンクールで常に評価が高くて、本家ワイナリーのものはかなりのお値段であるにもかかわらず入手が困難とか。この時のワインはその系列のワイナリーで生産されたものであったらしい。
さて肝心の料理ですがコースメニューの内容は
前菜 ホウレンソウのソティー土手中心にエビミソ入りマヨメーズ
真丸ズワイカニクリームコロッケ乗せ
トーストパン台にスモークサーモンとヤリイカのタルタル風乗せ
副菜 洋風茶碗蒸にズワイ蟹ミソ餡懸け、蟹肉乗せ
中休め 引き湯葉、ナス、インゲンの和風煮物小碗
メイン 真鯛とホタテに野菜、ジャガイモのブイヤベース、中に一面フライパン焼サフランライス
仙台牛バラ肉(脂肪削ぎ落とし)ビーフシチューにクリームソースパスタ合わせ
ご飯 エンドウマメとジャコの炊込ご飯、シジミ味噌汁、香の物
デザート バレンシアオレンジのシャーベットにイチジクムース、ゼリー寄せ
コーヒー
とまあこんな内容で僕でもかなり腹一杯、これを小柄な娘も宿の料理より10倍以上美味しいとペロリ平らげるとは。息子は洋風茶碗蒸にはこれは絶品、シチューのソースとクリームソースが混ざった濃厚さに旨い旨い、親父との旅行には気乗りしなかったけどこれを食べるなら軽井沢にきてもいいよだと。女房も二人でワインを楽しめるわと運転手役に息子を連れて来るのに大いに乗り気、さかんにたまには一緒にと口説くことであった。ここは本当に創作料理でジャンルに拘らない美味しさ追及の内容、料金はこれに消費税がつくだけ、東京ではいくら位になるんでしょうかね。本日の客は女性だけのグループが2組、カップルが1組、3世代らしき家族が一組、仕事の同僚らしきが1組で満席。途中フリで訪れた客が2組断られ、さっさと食べてさぁっと引上げるのが常の我々が帰る直前に来て待っていたこれも女性だけのグループは幸運でしたねぇ。もうこんなに人気がある様子では本当に予約しておかなくてはいけませんね。あとは1時間足らずで軽井沢の小屋に帰り、ワールドカップの決勝トーナメント、イングランド対デンマークの後半戦を見ながらもう少しワインを飲んでぐっすり眠る。
翌日は旧軽銀座を一巡り、その後はプリンスショッピングプラザにと何か欲しい物があれば買ってやろうという親気分。アメリカが性に合っているなどとぬかす娘は実質的であれば安い方が良いという性格、アウトレットで安いものばかりを選んで買物、昼前には家路に着く。アメリカはハンバーガーはあるがレストランはステーキばかりで日本風のハンバーグが食べたいと言うので、都内は高井戸のEATで遅めの昼食をとる。ここはこの近くに住む友人に関越からの帰り駐車場があって旨いレストランがこの辺りにないか聞いたら教えてくれた店、その後テレビでも紹介された由だが2時過ぎでも食べられるのが重宝でもある。店の名前も直接的だし、メニューにはア・レなぞというのもあって、客が他人の食べていた旨そうなあれを頂戴と言ったのをメニュー名にしたという愉快そうな親父がオーナーで、地元に馴染んだ様子がよく分かる店ですな。
ということで父親の日が最終日となり、すっかりお父さんをしてきました。今度帰ってきた時もまた行きましょうねの声に、アメリカで早目に仕事が決まって帰れればねの冷たい娘の返事にややがっかりの女房、いや心の中では感謝しているはずですよ。いい温泉に美味しい食事、それに安い買物とまあまあ良かったんじゃありませんか。
<追記>
平成16年8月に桜庵に寄れば、以前より安い設定メニューとなり、単品メニューもいくつか作り、ワインもやや手軽なものが用意されていた。今回は平日ということもあって客は地元の常連らしい感じの男連中で6割ほどの入り、マスターの直弟子が一人で料理していた。その日の本日のコースは3700円で前菜は和か洋、次はスープ又はジュレ(洋風茶碗蒸でトッピングを蟹とフォアグラから選択)、メインは肉(黒毛和牛のビーフシチュー)か魚料理(鯛のポワレ)、パスタはその日の2種類からチョイス、あとはデザートにコーヒー又は紅茶と以前の5000円のコースにかなり近い内容。シェフのお任せコース5250円は要予約となっていて本日コースよりさらに上ならそれこそどんな内容か、食材準備が必要だそうでこちらはマスターが直接手掛けるのでしょうか、それを知らずに行った我々はそちらは食べられずでちょっと残念でしたね。
<店データ>
まんぷく 上田市中央 2-6-14 0268-24-8100 <2012年6月に一旦閉店、軽井沢に出店準備中とか>
くいものや写楽 上田市中央 2-6-13 0268-21-1500
こうや 上田市中央 2-6-12 0268-22-8421
桜庵 上田市中央 2-7-4 0268-23-4868
李白 上田市中央 2-5-15 0268-23-2256
刀屋 上田市中央 2-13 0268-22-2948
エル・ビノ 上田市天神 1-3 0268-26-0077
福昇亭 上田市中央 2-9 0120-242-086
蔵屋 上田市中央 4-8 0268-25-7400
ボンデール 上田市御所 115-12 0268-25-3886 <軽井沢に出店、こちらは長期休業中>
パパ・オルソ 上田市中央 1-2 0268-28-5700 <ノンノと改名>
葡萄屋 上田市中央 2-1 0268-27-1141
飯島商店 上田市中央 1-1 0268-23-2150
家具のみなと 上田市中央 6-1 0268-24-3710
真田屋 上田市天神 2-2 0268-22-2317
刀花 上田市中央 2-13-28 0268-21-1466 <閉店か>
泡の湯 安曇村白骨温泉 4181 0268-93-2101
EAT 杉並区高井戸西 3-7-10 03-3334-6486