電影フリークス ~映画のブログ~

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ジャッキー・チェンが端役出演。邵氏『黒店』(1972)について

2014-09-05 00:40:18 | 成龍的電影

今回の記事ですが、『黒店』という作品について書いてみます。この『黒店』という映画は1972年に製作され、邵氏にて葉榮祖が監督、女優シー・ズーや康華名義の董力(トン・リー)が主演した映画です。

 ロシア語音声、日本語字幕バージョン

董力が主演と言いますと、帝國影業の『過關斬將』(74)や蛇女ゴーゴンのような美女が登場する『蛇妖精(「蛇群拳~殺人スネーク対飛剣カンフー~」』(74)がありますね。私が最初に彼を見たのが「少林寺秘伝拳」(76)というヤツでして、ボスのタイコーが繰り出す毒龍掌が印象的で、序盤にそのボスの魔手にやられてしまった董力の黒い手形の付いた背中を治療するオババが現れてダラダラと黒い血が流れ落ちて見事に復活するというシーンがとにかく強烈でした!。全体的にまとまっていて同時期の少林寺モノとしてはカーター・ワンが不在でもそれなりに楽しめましたし、なかなか良く出来たカンフー映画でした。

この董力ですが、私は昔から井上順にそっくりに見えてしまったので、勝手に井上順と呼んでいましたね(笑)。

井上順トンリーちょっと似てませんか?顔の造りがそっくりなんです。特に鼻がね(笑)。もしかして年齢的にも近いんじゃないでしょうか。

冒頭、”酔楽酒楼”で一杯やっている連中。ここで飲んでいる輩の大勢いる中で目立つ剣士・査小魚(この董力)と張彩屏(シー・ズー)の前に、酔いどれ和尚(石天)が登場します。

『黒店』という映画は、内容としてはキン・フーの『龍門客棧』(67)のエピゴーネンと思われがちですが、実は同じキン・フー監督が邵氏で撮った『大酔侠』(66)から受け継いだ要素も相当盛り込まれていたりしますよね。キン・フーを相当意識した、つまりキンフーが気に入らなかった要素も存分に持ち込んだミックスしたような映画になるのではないでしょうか。

そもそも”黒店”とは、旅人を殺したりその金銭を奪うために開いた宿屋・・・と辞書には書いてありましたが、この映画では金銀財宝を持って任期を終えた省の長官が帰郷する噂を聞いて、獲物を狙う店側の人間と”黒店”にやってくる多彩な訪問客のドラマが展開されます。

それではちょっと、馴染みのある顔ぶれから紹介してみたいと思います。まずは午馬演じる白塗り浪人ですが、これは『大酔侠』で陳鴻烈が演じた玉面虎を意識したキャラクターでしたね。午馬は今年の2月に肺癌で惜しくも亡くなってしまいましたが、(葬儀にはサモ・ハン夫妻や成龍、張徹一家の姜大衛やティ・ロン、そして石天の顔もありました。)この映画では役者として出演していました。キョンシーもどきの湘西五通鬼を引き連れていましたね。

 ピョンピョン跳ねる湘西五通鬼の連中

今回、鄭壽山という名のボスとなった谷峰も『大酔侠』では盗賊の一味に扮していただけだったので相当出世しましたね(笑)。あと、『空中必殺・雪原の血闘』(71)では雪の上を歩いても足跡が残らなかったのですが、今度は逆に客棧内の階段を昇ると足跡がつくという、何という術なのか分からない点は同じと言えば同じですね(爆)。今回は剣をムチに持ち替えた神鞭鬼王となって堂々とした”ムチの鬼”ぶりを見せつけています。

石天は一見何者か分からないのですが、ひょうたんを持った和尚ですね。冒頭から登場しストーリー的には重要な役目を果たしますが、最終的にどんな人物だったのかは読めてきます。見た目は『大酔侠』の酔猫(岳華)をややイメージした感のある乞食のような役柄となっています。

七小福のメンバーだったユン・ワーもちょっとだけ顔を出します。先の湘西五通鬼の一人としてですが、キョンシーのようなのにまだキョンシーとは呼ばれていないのが特長で、このキョンシー軍団(ニセ)を使ったアイデアは時期的にも驚異ですし、どこで仕入れたネタなのでしょうか?

 不気味な顔のユン・ワー。どこから持ってきたの??

そして、何と言っても同じく『大酔侠』で悪和尚を演じていた楊志卿が、今回はストーリー上、最重要人物の海剛峰に扮しているのでニヤニヤせずにはいられませんでしたね。

この映画のように客棧を舞台にした映画は、キン・フー監督が何本も撮っていたように最も得意とした映画であり、監督曰く客棧を用いれば脚本さえ要らなくなるとかで、映画が撮りやすくなるパターンなのでしょうね。つまり客棧はキンフー映画のジェネレータの役目なんですね。

そして、当然ながら葉監督はキンフーの影響を受けたということになると思うのです。客棧を使うものは大抵は京劇の立ち回り代表作である『三岔口(さんちゃこう)』から来ているそうですから、この黒店も多分そうなのでしょうね。あと、鍾馗嫁妹という姉妹の話を扱った京劇もあったりしますが、要するにみんな最初は京劇からとなっちゃいます。セリフが少なくて映像を見せるという作劇方は京劇の影響を受けたキンフー映画の特徴だった訳です。京劇ってやっぱり凄いですね。

王侠扮する初代店主・高三風の店、”高家客店”にやってくる客は多く、この店の料理も有名らしく料理人が作る料理は、なんと人肉饅頭であるのでした!

人肉饅頭というとアンソニー・ウォンのスプラッター映画『八仙飯店之人肉饅頭』を連想してしまいますが、シナリオライター葉逸芳(葉榮祖監督の父上様)は人肉好きで、『女侠賣人頭 』(70)でも女剣士が斬った生首を売ろうとするビックリ仰天映画の脚本を書いていたりしています。『黒店』劇中にも名前が出て来た『鍾馗娘子』も同氏の書いたシナリオですね。(葉逸芳は引退間際だったのですが、この『黒店』で初めて親子共同製作が実現しました。)

この人肉饅頭プロットの元ネタとなっているのは、古くは伝奇小説の「西遊記」にも似たようなものがあるようですが、おそらく「水滸伝」に出てくる母夜叉と呼ばれた孫二娘がモデルとなっていると思います。孫二娘は武芸の達人という設定で、夫の張青と経営している店にやってくる客に痺れ酒を飲ませ、果ては人肉饅頭にしてしまうという恐ろしい人物です。『黒店』においては、于楓が二娘ではなく三娘という役名で登場していますので、これはもう明らかですよね。葉親子はキンフーが好まなかった人肉饅頭を使い、つまりキンフーとはまったく逆の描写をこの『黒店』で持たせた訳なのです。

店にやって来た鉄腕ゴールデン・アイこと劉通(演じているのは李皓)。どこで噂を聞きつけてきたのか席につくなり「人肉饅頭を出せ」と言うが、そんなものはある訳ないときっぱり否定されてしまう。このあとのセリフが重要で、誰が店にやってくるのか、またどんな宝を持っているのかを彼が説明しています。

鄭壽山の一行が到着し、店を乗っ取り、店主になりすまします。店主らが変わった事を不審に思う輩もいたりするのですが、そして付き人と2人の守衛を連れた一行の馬車が店に・・・。そこから降りてきたのは噂の人物・海剛峰だったのです。という具合にあとから続々と登場する客人たち。姜南のおっさんやら、三頭蛇(小麒麟ら)に続いて胡(フー)というバイキング・ヘルメットをかぶった男が現れます。周りが”大哥”と呼ぶ実力者です。しかし、これらの登場人物たちはあまり重要ではありません。大して重要ではない人物を次から次へと登場させてハラハラさせられるという具合。ムチの餌食となってしまいますが。

そして、忘れてはならないこの人。小鍾馗こと張彩屏を名乗るシー・ズーは、チェン・ペイペイ正に”鍾馗娘子”のあとを継いだ素晴らしい武侠女星です。(この映画では痛々しい姿でしたので見ていられませんでした。)

 残酷な相手の攻撃に歯を食いしばるシー・ズ-!!!

もう一人、まったく良いところを見せずに結局、董力の剣士に倒されてしまう意外な人物が・・・。途中から店の番頭さんに扮していた衛子雲ですね。荊虎という役でしたが、2人の娘も荊緑、荊紅と同じ荊が付きますから兄弟の設定なのかも知れません。衛子雲は当時、おそらく本名の章恆と呼ばれており、(私が見た功夫片ですと『中國人』(72)や『一條龍』(73)という主演作もありましたね。)台湾のTVドラマで活躍した武侠明星であります。現在は、台湾截拳道アカデミーにて總館長としてジークンドーを指導されています。

若き衛子雲

そして物語後半、海大人の付き人としてマースとのペアリングでジャッキー・チェンが出演していますね。これは『金毛獅王』と同じパターンであり、『黒店』でも武術指導している徐二牛の下についていた時期であることが分かると思います。

最終的に胡大哥の相棒(陳贊剛:右)に殺されてしまう役であるのですが、途中のアクションを含めた登場シーンでは相変わらず顔を極力映らないようにする姿勢は変わっていません。この点、マースは顔映りがジャッキーとは対照的ですね。剣を使ったアクションシーンや素早い動きのシーンもあり、しっかり仕事してるよなぁジャッキー!

 

 

 

 

ラスト、政府の役人たちが黒店にやって来ます。罪人の二人の娘を捕まえるためです。『黒店』の時代設定はおそらく明代ですから錦衣衛ではなくて青い服を着ていることから東廠の人間となるのでしょうか。石天にしてもそうだったと想像できますね。そして、謎の人物・海剛峰は何者だったのでしょうか?

男女の剣士をうまく引き込んで、悪者を退治して民衆を守るという、すべては海大人が計画した一掃策であったのではないかと。また、巡撫という地方官だったのではないか(?)と思っています。

 

長々と書いてしまいました『黒店』。キン・フーのアレンジにして、葉親子のコラボレーションの映画ですから面白い訳ですね。

 

おまけ:
徐二牛関連作品で火星が出演しているものをリストアップしておきます。
”火星の近くにジャッキー在り。”

★金毛獅王 The Golden Lion
★店 The Black Tavern
洋妓 Virgins of the Seven Seas 
★埋伏 Ambush 
鬼太監 The Eunuch 
★惡虎村 Village of Tigers 

注)★は出演確認済み作品。 

 

 

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