先日、久しぶりに友人達と会ってお喋りをしていたら、トルーマン・カポーティの『ミリアム』という短編小説の話がチラッと出てきました。
なぜかその本が気になり、後日、図書館で借りて読んでみました。T・カポーティの短編集、『夜の樹』の中の1編として『ミリアム』が入っています。
『ミリアム』はこの本の最初に出て来る短編で非常に短く、2、30分で読んでしまいました。しかし短編であるにもかかわらず、その読後感は重苦しく疲れさえ感じるものでした。
解説によると、この小説はO・ヘンリー賞を受賞し、T・カポーティの小説の中では、もっとも親しまれている作品なのだそうです。
“彼女の生活はつましい。友達というような人はいないし、角の食料品店より先に行くこともめったにない”と描写されるミラー夫人はニューヨークのマンションに住む61才の老女(?)。
ある雪が降る夜、夫人は思いついて映画を見に行き、そこでミリアムという不思議な美少女と出会う。この出会いの場面から既に、何となく腑に落ちない感じがただよう。そして数日後の雪が降り続く夜遅く、そのミリアムがミラー夫人のマンションに現れる。
押し入るようにミリアムがミラー夫人の部屋に入った後、当惑している夫人にミリアムはサンドイッチを作ってくれだの、夫人が大切にしているブローチを欲しいだの言いだし、二人の会話から少女の不気味さや恐怖めいたものが伝わってきて何だかホラー小説の様な趣も。
ミリアムが出て行った次の日一日、夫人はベットで不安な気持ちのまま過ごし、これまでの静かな生活が少しづつ乱され始める。
その数日後ミリアムは大きな荷物を持ってやって来て、ミラー夫人の部屋に入り込む。夫人はこらえきれなくなりマンションの下の階の住人に助けを求めた時、誰にも少女の姿は見えなかった...。すべてミラー夫人の幻想だった。
だいたいこの様な内容なのですが、都会に住む一人の老女の孤独な境遇が描かれ小説全体が寂しさに満ちていて、又ゾクッと来るような怖さも感じます。幻想が老女の生活を壊してゆき、孤独が作り出す狂気の様なものが読者に伝わって来ます。作中降り続く雪は孤独な老女の心の象徴の様にも。
小説の最後は、“自分を取り戻したミラー夫人は、又もの憂げにこちらを見つめている女の子を見た。「ハロー」とミリアムがいった。”で終わるのですよ。あと味が悪い小説ですね~。
この作品はT・カポーティ21歳の時の作だそうで、その若さでこんな人物像をよく描き出せたな~と、驚きました。
『ミリアム』は、物語の筋で読ませるのではなく、人の心の動きを描いている小説です。ミラー夫人は、これから本当の老いに向かう私と同じ世代の60代、この様なところが重苦しい疲れを感じる読後感につながったのかもしれません。
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