大正9(1920)年夏に父の納骨のため信州松本に行き、そこで病を得しばらく療養、その後東京の実家に戻り入退院を繰り返し、その間に離婚問題がおきるという成り行きですが、信州では珠玉の句がこぼれ落ちました。
「紫陽花に 秋冷いたる 信濃かな」
この句は久女の代表作と言われているものの一つです。普通は梅雨の頃に咲くアジサイですが、春の訪れが遅く夏も短い信州では、咲いたあとの花が立ち枯れず、長くその風情を保つのだそうです。そんな情景を詠った句だと思います。
秋の冷気の中でそんなアジサイに出会った久女は感動したことでしょう。ゆるみがなく骨格のしっかりした名吟だと言われています。切れ字の「かな」が全体を引き締めていますね。
私はこの紫陽花の句が、数ある久女の句の中で一番好きです。何故か〈久女伝説〉などというおかしな噂や話題が残る久女ですが、彼女本来の自信に満ちた落ち着きと凛とした風情が感じられ、信州の秋の冷気が伝わって来る気がします。
松本市の城山公園に、この句の句碑が建っているそうです。残念ながら私はまだ目にしていませんが、いつの日か必ずこの句碑の前に立ちたいと思います。
<城山公園の句碑>
(上の写真はネットよりお借りしました)
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