新聞社主催による「日本新名勝俳句」に寄せられた応募句数は10万3207句、選者の高浜虚子はほぼ半年間にわたり選句に没頭し、まず応募句より2万句を選び、そこから更に1万2千句を選び、更に1万句にしぼり、入選句を決定したそうです。
催しの規模、応募句数において、俳句史を通じて空前絶後といわれ、最隆盛期の『ホトトギス』の底力と選者の虚子への絶大な信頼をそこにみることができると、多くの研究書は述べています。
<高浜虚子>
「谺して 山ほととぎす ほしいまゝ」
人口に膾炙している帝国風景院金賞受賞の久女のこの句は、自然を描写しながら深山幽谷の清々しい空気の中に静かに佇み、鳥の声に耳を傾けている彼女の姿が彷彿としてくるような気がします。この句の要は下五の「ほしいまま」で、この五文字を得るために、彼女は何度も英彦山に登ったようです。
受賞後に、この句について書いた「新日本名勝俳句入選句」という文章が『久女文集』に載っているので、その一部を引いてみます。
〈青葉につゝまれた三山の谷の深い傾斜を私はじっと見下ろして、あの特色のある音律に心ゆく迄耳をかたむけつゝ、いつか句帳にしるしてあったほととぎすの句を、もう一度心の中にくりかえし考えて見ました。ほととぎすは惜しみなく、ほしいまゝに、谷から谷へとないています。じつに自由に。高らかにこだまして。
その声は従来歌や詩に詠まれた様な悲しみとか、血をはくとかいう女性的な線のほそい女々しい感傷的な声ではなく、北岳の嶮にこだましてじつになだらかに。じつに悠々と、切々と自由に。
英彦山の絶頂に佇んで全九州の名山をことごとく一望におさめうる喜びと共に、あの足下のほととぎすの音は、いつまでも私の耳朶にのこっています〉
久女はホトトギスの声を悠々とし自由だと捉えたんですね~。その時、ほしいままという言葉が天啓のように胸に浮かび、この句が完成しました。
久女は英彦山で白蛇を見て霊感を受け、この句を作ったとか、髪を茫々とふりみだし、幽霊のように山中をさまよい歩いて作句したなどの、例によって例のごとくの〈久女伝説〉があり面白いですが、そんなことで俳句は出来ないのは誰にでもわかることです。久女のこの文章は美しく、ほととぎすの鳴き声の余韻が読む人の胸に響いてくる気がします。
帝国風景院賞金賞受賞句は20句ありますが、今日、それぞれがその俳人の代表句になっています。久女の句以外の金賞受賞句には
「啄木鳥や 落ち葉をいそぐ 牧の木ゝ」 水原秋櫻子
「さみだれの あまだればかり 浮御堂」 阿波野青畝
などがあります。
(画像はネットよりお借りしました)
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