#300 サル・サルヴァドール「All The Things You Are」(Frivolous Sal/Bethlehem)
今年最後の一曲、そして、たまたまではあるが、300曲目という節目の一曲はこれだ。アメリカの白人ジャズ・ギタリスト、サル・サルヴァドール、56年発表のアルバムより。ジェローム・カーン=オスカー・ハマーシュタイン二世の作品。
サル・サルヴァドールは25年、マサチューセッツ州モンスン生まれ。コネチカットで育ち、父親の影響でギターを弾き始める。折しもチャーリー・クリスチャンにより、ジャズの世界でもギターがソロ楽器として注目され出した頃。サルヴァドールはクリスチャンに強い影響を受け、ジャズ・ギタリストの道を歩み出したのである。
20代でプロとなり、49年ニューヨークに進出。52年にはスタン・ケントン楽団へ迎えられる。その後独立、ピアニストのエディ・コスタらとともに、自己のグループを結成、ベツレヘム・レーベルで多数のアルバムをレコーディングしている。
その中でも特に評価が高いのが、この「Frivolous Sal」というアルバムで、サルヴァドールはもとより、相棒のエディ・コスタの高い演奏力が存分に発揮された作品に仕上がっている。
きょうの一曲としてピック・アップしたのは、ジャズ・ファンなら知らぬ者のない、スタンダード中のスタンダード「All The Things You Are」、邦題「君は我がすべて」だ。
この曲はもともと、カーン=ハマーシュタインのコンビにより39年、ブロードウェイ・ミュージカル「Very Warm For May」のために書かれた曲なのだが、44年には映画「American Rhythm」、45年に同じく「A Letter For Evie」にて使われたことで広く知られるようになり、さまざまなアーティストにカバーされるようになった。
主な例を上げただけでも、ミルドレッド・ベイリー、グレン・ミラー、フランク・シナトラ、ディジー・ガレスピー、ジョー・スタッフォード、ジャンゴ・ラインハルト&ステファン・グラッペリ、デイヴ・ブルーベック、クリフォード・ブラウン、チャーリー・パーカー、ハンプトン・ホーズ、ジェリー・マリガン、エラ・フィッツジェラルド、スタン・ケントンなどなど、枚挙にいとまがない。単にメロディが美しいというだけでなく、そのコード進行がモダン・ジャズ的な要素を強く持ち、奏者のアドリブを引き出しやすい作りであったことも手伝って、新旧のジャズ・アーティストにこぞって取り上げられたのである。
筆者的には、テナーの巨人、コールマン・ホーキンスによる62年のライブ演奏が、もっとも印象に残っている。テンション・コードが非常に特徴的なイントロから始まるこのナンバーを、いったい何度繰り返し聴いたことだろう。
さて、50~60年代に活躍したジャズ・ギターの名手、サル・サルヴァドールによる「All The Things You Are」は、ちょっと変わったアレンジのイントロから始まる。
エディ・コスタはここではまずヴァイブラフォンを弾き、サルヴァドールのギターと絡み合うようにして、クラシック室内楽(MJQ?)風の早いパッセージを弾き始めるのだ。まずは、このスピード感に圧倒される。
イントロからそのまま、サルヴァドールがテーマを弾き、すぐにコスタのヴァイブ・ソロにバトンタッチ。神技のようなマレットさばきだ。そしてギター・ソロが続いた後は、なんとコスタがピアノにスイッチ、ソロを弾く。ピアノとギターの掛け合いが続き、さらにはヴァイブとギターの掛け合いへと突入、ものすごく密度の高い演奏が展開されていく。でも、けっして息づまるような感じはせず、あくまでもリラックスしたなごやかな雰囲気だ。本当によくスウィングしている。
最後は、再び室内楽風のアレンジに戻って、見事なエンディング。4分ほどの短い時間の中に、実に多彩なサウンドが詰まっている。
サル・サルヴァドールは、チャーリー・クリスチャンに影響を受けたジャズ・ギタリストのひとりとして、クリスチャンを越えるだけの新しいサウンドは作り出せなかったが、ギター職人としてのワザを極めたといえるだろう。そのシングルトーン・プレイは、とにかく正確無比で、よどみがなかった。ミディアム程度のテンポの曲では、いささか単調な感じは否めないが、この「All The Things You Are」のようなアップテンポの曲調では、そのたしかな技術の威力は、最も発揮されていたと思う。
白人ということもあって、その演奏にはほとんどブルース的なものは感じられず、あくまでもテクニカルなジャズに終始しているのだが、それもまたジャズのひとつのありようだろう。
混血音楽であるジャズの、白人的な要素をもっぱら強調すれば、サルヴァドールのようなジャズとなるのだ。
60年には記録映画「真夏の夜のジャズ」にも登場、ソニー・スティットらとともにニューポート・ジャズ・フェスティバルでの熱演を披露、多くの観客にサル・サルヴァドールの名前を知らしめた。
その後は、モダンジャズの新しい潮流に乗ることもなく、自然と第一線から消えていってしまったものの、大学でジャズ・ギターを教えるなどして、70代までマイペースな音楽人生を送ったようだ。99年没。
31歳で夭折した天才ピアノ/ヴァイブ奏者エディ・コスタの好サポートを得て生み出された、サル・サルヴァドールの名演。今聴いても、十分スゴみを感じます。
今年最後の一曲、そして、たまたまではあるが、300曲目という節目の一曲はこれだ。アメリカの白人ジャズ・ギタリスト、サル・サルヴァドール、56年発表のアルバムより。ジェローム・カーン=オスカー・ハマーシュタイン二世の作品。
サル・サルヴァドールは25年、マサチューセッツ州モンスン生まれ。コネチカットで育ち、父親の影響でギターを弾き始める。折しもチャーリー・クリスチャンにより、ジャズの世界でもギターがソロ楽器として注目され出した頃。サルヴァドールはクリスチャンに強い影響を受け、ジャズ・ギタリストの道を歩み出したのである。
20代でプロとなり、49年ニューヨークに進出。52年にはスタン・ケントン楽団へ迎えられる。その後独立、ピアニストのエディ・コスタらとともに、自己のグループを結成、ベツレヘム・レーベルで多数のアルバムをレコーディングしている。
その中でも特に評価が高いのが、この「Frivolous Sal」というアルバムで、サルヴァドールはもとより、相棒のエディ・コスタの高い演奏力が存分に発揮された作品に仕上がっている。
きょうの一曲としてピック・アップしたのは、ジャズ・ファンなら知らぬ者のない、スタンダード中のスタンダード「All The Things You Are」、邦題「君は我がすべて」だ。
この曲はもともと、カーン=ハマーシュタインのコンビにより39年、ブロードウェイ・ミュージカル「Very Warm For May」のために書かれた曲なのだが、44年には映画「American Rhythm」、45年に同じく「A Letter For Evie」にて使われたことで広く知られるようになり、さまざまなアーティストにカバーされるようになった。
主な例を上げただけでも、ミルドレッド・ベイリー、グレン・ミラー、フランク・シナトラ、ディジー・ガレスピー、ジョー・スタッフォード、ジャンゴ・ラインハルト&ステファン・グラッペリ、デイヴ・ブルーベック、クリフォード・ブラウン、チャーリー・パーカー、ハンプトン・ホーズ、ジェリー・マリガン、エラ・フィッツジェラルド、スタン・ケントンなどなど、枚挙にいとまがない。単にメロディが美しいというだけでなく、そのコード進行がモダン・ジャズ的な要素を強く持ち、奏者のアドリブを引き出しやすい作りであったことも手伝って、新旧のジャズ・アーティストにこぞって取り上げられたのである。
筆者的には、テナーの巨人、コールマン・ホーキンスによる62年のライブ演奏が、もっとも印象に残っている。テンション・コードが非常に特徴的なイントロから始まるこのナンバーを、いったい何度繰り返し聴いたことだろう。
さて、50~60年代に活躍したジャズ・ギターの名手、サル・サルヴァドールによる「All The Things You Are」は、ちょっと変わったアレンジのイントロから始まる。
エディ・コスタはここではまずヴァイブラフォンを弾き、サルヴァドールのギターと絡み合うようにして、クラシック室内楽(MJQ?)風の早いパッセージを弾き始めるのだ。まずは、このスピード感に圧倒される。
イントロからそのまま、サルヴァドールがテーマを弾き、すぐにコスタのヴァイブ・ソロにバトンタッチ。神技のようなマレットさばきだ。そしてギター・ソロが続いた後は、なんとコスタがピアノにスイッチ、ソロを弾く。ピアノとギターの掛け合いが続き、さらにはヴァイブとギターの掛け合いへと突入、ものすごく密度の高い演奏が展開されていく。でも、けっして息づまるような感じはせず、あくまでもリラックスしたなごやかな雰囲気だ。本当によくスウィングしている。
最後は、再び室内楽風のアレンジに戻って、見事なエンディング。4分ほどの短い時間の中に、実に多彩なサウンドが詰まっている。
サル・サルヴァドールは、チャーリー・クリスチャンに影響を受けたジャズ・ギタリストのひとりとして、クリスチャンを越えるだけの新しいサウンドは作り出せなかったが、ギター職人としてのワザを極めたといえるだろう。そのシングルトーン・プレイは、とにかく正確無比で、よどみがなかった。ミディアム程度のテンポの曲では、いささか単調な感じは否めないが、この「All The Things You Are」のようなアップテンポの曲調では、そのたしかな技術の威力は、最も発揮されていたと思う。
白人ということもあって、その演奏にはほとんどブルース的なものは感じられず、あくまでもテクニカルなジャズに終始しているのだが、それもまたジャズのひとつのありようだろう。
混血音楽であるジャズの、白人的な要素をもっぱら強調すれば、サルヴァドールのようなジャズとなるのだ。
60年には記録映画「真夏の夜のジャズ」にも登場、ソニー・スティットらとともにニューポート・ジャズ・フェスティバルでの熱演を披露、多くの観客にサル・サルヴァドールの名前を知らしめた。
その後は、モダンジャズの新しい潮流に乗ることもなく、自然と第一線から消えていってしまったものの、大学でジャズ・ギターを教えるなどして、70代までマイペースな音楽人生を送ったようだ。99年没。
31歳で夭折した天才ピアノ/ヴァイブ奏者エディ・コスタの好サポートを得て生み出された、サル・サルヴァドールの名演。今聴いても、十分スゴみを感じます。
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