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音曲日誌「一日一曲」#189 パット・ベネター「I Get Evil」(True Love/Chrysalis Records)

2023-10-07 05:31:00 | Weblog
2011年10月15日(土)

#189 パット・ベネター「I Get Evil」(True Love/Chrysalis Records)





白人女性シンガー、パット・ベネター、1991年のアルバムより。アルバート・キングの作品。

パット・ベネターは53年、ブルックリン生まれの御年58才。でも外見からは、とてもそんな年齢には見えない。

79年デビューだから、実に32年のキャリアがある、大ベテランなんだけどね。

デビュー当初は、ハートのウィルスン姉妹などと並ぶ、白人女性ロッカーの旗手、そんなポジションだった。

スレンダーな体つきでショートヘア、大きな瞳が印象的な小顔美人だったので、女性ロッカーというよりはむしろ、ファッションモデルのような雰囲気があった。

歌声のほうも、他の多くの女性ロッカーがハスキー・ボイス系、低音系だったのに対し、澄んだ高音で異彩を放っていた。ブルースっぽさも、ベネターの声には希薄だった。

そんな彼女が最初に放ったシングル・ヒット、「Heartbreaker」は都会的なハードロックナンバーで、リスナーの耳にはとても新鮮に感じられたものである。

その後も着実にヒットを飛ばし、80年代は確実にアメリカの音楽シーンの中心にいたといえる。

90年代、すなわち彼女自身が30代後半に入ったあたりから、ハードロック中心の音作りに変化が見られるようになる。

それがきょうの一曲を含むアルバム「True Love」だ。

単に「ロック」というジャンルにこだわらず、そのルーツたるブルース、R&Bにも目を向けた、意欲的な試み。バックのサウンドも、かなりジャズやブルースに接近している。

「I Get Evil」は、おなじみアルバート・キングの60年代前半の代表作だが、このルンバ・ビートの陽気でダンサブルなナンバーを、ちょっとドスを効かせた低めの声で歌い上げている。姐御っぽいカッコよさがあるよな。

このアルバムでは、他にBBやチャールズ・ブラウンあたりの曲もカバーしていて、これまでのロック、ポップ路線のベネターからは想像できなかった、大人のシンガーとしての魅力がかいまみられる。

本来の彼女の持ち味とはいささか違うのだが、これもまた佳き哉。すぐれたブルースは、何十年たっても古びないこと、そして新しい魅力的な歌い手を得て再び甦ることが、よくわかる。必聴です。