2010年2月14日(日)
#110 ダイナ ・ワシントン「Begging Mama Blues」(Blues for a Day/Delta Distribution)
#110 ダイナ ・ワシントン「Begging Mama Blues」(Blues for a Day/Delta Distribution)
ジャズ・シンガーとして名高いダイナ ・ワシントンが歌うブルース・ナンバー。ウィルバート・バランコ、チャールズ・ミンガスの作品。
ダイナ ・ワシントンは1924年、アラバマ州タスカルーサ生まれ。63年、39才の若さでデトロイトにて亡くなっている。
短命ながら膨大なレコーディングを残し、「恋は異なもの」「ハニーサックル・ローズ」「煙が目にしみる」など、さまざまなヒット曲を持つ。第二次大戦後、アメリカでもっとも人気を博した女性歌手のひとりといえる。
ダイナは、ベシー・スミス、ビリー・ホリデイといった先達に強い影響を受けながらも、彼女たちとは違った、どこかしら陽性で華のあるブルースを歌うことで個性を発揮した。
彼女の魅力はやはり、艶とハリのあるその「声」に集約されるといえるだろう。
ダイナの歌声を聴くと、たとえそれが沈鬱なブルースであったとしても、なにやら「ようし、きょうもがんばろうじゃないの」という気になるから、不思議である。元気を聴くものに与えてくれるのだ。まさにチアリング・ボイス。
ところできょうの一曲は、かの偉大なるジャズ・ベーシスト、チャールズ・ミンガス(とピアニスト、ウィルバート・バランコ)の曲というから、ちょっと面白いでしょ。あのミンガスの歌ものですよ。
でも、ミンガスは自身のバンドでボーカルをとることもあったひとなんで、実はそんなに不思議なことではなかったのだ。あまり知られていないことだけど。
この曲が収録されたアルバムでは、ミンガスのナンバーをもう一曲(Pacific Coast Blues)、あと、メンフィス・スリムの曲(Trouble Trouble)もカバーしている。
ブルースというと、音楽ジャンルのひとつだと多くのひとは理解しているようだが、必ずしもそれだけではない。
曲の形式としてのブルース、というのも忘れてはいけない。ジャズ歌手、カントリー歌手、さらにはオペラ歌手(!)が歌う12小節ブルースってのも、フツーにありってことなのです。
ダイナはジャズの枠を越えて、ポピュラー歌手の域にまで達していった人だが、その音楽の根底にあるものは、ジャンルとしてのブルースであり、そのレパートリーの根幹は、曲の形式としてのブルースだと思う。
ベシーやビリーの後を継いで王座についたブルース・ディーヴァ、ダイナ ・ワシントン。その歌声は、死後約半世紀を経た現在でも、輝きを失うことはない。
20世紀のすぐれた音楽遺産を、しっかり確認していただきたい。