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音曲日誌「一日一曲」#109 タル・ファーロウ「Will You Still Be Mine?」(A Recital By Tal Farlow/Verve)

2023-07-19 05:00:00 | Weblog
2010年2月7日(日)

#109 タル・ファーロウ「Will You Still Be Mine?」(A Recital By Tal Farlow/Verve)





たまには趣向を変えて、スタンダード・ナンバーでも聴いてみよう。1940~60年代に活躍した白人ジャズ・ギタリスト、タル・ファーロウの55年のアルバムより。マット・デニス=トム・アデールの作品。

タル・ファーロウは21年、ノースキャロライナ州グリーンズボロ生まれ。98年にニューヨーク市にて77才で亡くなっている。

ギターを始めたのは20代に入ってからだが、天賦の才能があったようでめきめきと腕を上げ、マージョリー・ハイアム、レッド・ノーヴォ、アーティ・ショーといったプロ・ミュージシャンのバックで頭角を表し、そして32才のとき、自身のコンボを組むに至る。

ファースト・リーダー・アルバムをブルーノートよりリリース(当時は10インチ盤)。以来、その軽快ながらも切れ味鋭いギター・プレイは、イーストコースト系ジャズの中でも際立った存在となる。

「A Recital by Tal Farlow」はロサンゼルスにて録音。ヴァーヴに移籍して2枚目、通算では4枚目にあたるアルバムだ。ここでは、ピアノレスの三管という、ちょっと面白いセクステット編成をとっている。

冒頭、ファーロウのイントロに続き、ボブ・エネボールゼンのトロンボーンを中心とした三管がおなじみのテーマを奏でる。1コーラス目の後半からファーロウも主旋律に加わる。

それに続き、テナー・サックスのビル・パーキンス、そしてトロンボーンにソロを取らせた後、ようやくファーロウがソロに入る。実に淡々としたというか、軽妙な感じのフレージング。

ゴリゴリ弾くことなく、あくまでもライトでさらっとした演奏。いかにも、イーストコースト・ジャズであるな。

最後にバリトン・サックスのボブ・ゴードンのソロからテーマに戻って、終了。時間はほぼ4分。

実にあっさりとした構成だが、たったこれだけの短い時間でも、各プレイヤーのスゴ腕は如実にわかる。

ベースのモンティ・バドウィッグ、ドラムスのローレンス・マラブル。彼らの刻む確かなビートに、絶妙なカッティングで絡み、ピアノのない状態を十二分にカバーするファーロウ。この見事なリズム・セクションに加え、3人のホーン・プレイヤーの抑制のきいた巧みなブロウ。

これぞ、アンサンブルの醍醐味!とでもいうべき演奏ぶりであります。

曲についても少しふれておくと、これは「エンジェル・アイズ」「コートにすみれを」といったメロディアスなナンバーで人気の高いシンガー兼ピアニスト兼コンポーザー、マット・デニスの作品。共作者の書いた小粋な内容の歌詞に負けない、センスあふれるメロディ・ラインで、聴き手を魅了するアーティストだ。もちろんこの曲も、彼の傑作のひとつと言えるだろう。

タル・ファーロウのプレイって、他のプレイヤーを食ってやろう、みたいなケンカっぽい雰囲気は全くないのに、なぜか最後は一番印象に残る。そんな感じだ。

あくまでもアンサンブルを重んじた上で、自分のソロの番がまわってきたら、さりげなく自己主張する。そんな奥ゆかしさがあるのだ。

彼のやってきたようなスタイルのジャズは、60年代後半から70年代にはほぼすたれてしまい、彼の出番も非常に少なくなってしまった。

が、やはり、いいものはいい。何度もそのアルバムは再発され、CD化され、いまになっても、少数ながら聴き続けているリスナーはいる。筆者のように。

マット・デニスの粋な歌曲同様、いい音楽というものは何かを知る人々がいる限り、タル・ファーロウの演奏はずっと聴かれていくにちがいない。

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