2004年10月3日(日)
#241 CHIBO & THE BAYSIDE STREET BAND「BAYSIDE STREET 」(ポリドール 28MX 2044)
シンガー、チーボーこと竹村栄一が率いるベイサイド・ストリート・バンドのファースト(にしてラスト)アルバム。82年リリース。
チーボーといえば知る人ぞ知る、横浜本牧出身の伝説的シンガー。
68年、彼が高校生の頃、友人の陳信輝、加部正義らとともに結成した日本初のサイケデリック・ロックバンド「ミッドナイト・エキスプレス」を皮切りに、パワーハウス、パワーハウス・ブルースバンドといったグループで活動し続けるも、ゴールデン・カップスのように東京進出をせず、あくまでも横浜、あくまでも本牧にこだわり続けた男、それがチーボーなんである。
そのへんの話は元夫人、天井桟敷所属の女優でもあった、高橋咲さんの小説「本牧ドール」に詳しい。
80年代に入ってからのチーボーは心機一転、ベイサイド・ストリート・バンドを結成。2枚のシングルと、このアルバムをリリースする。
彼の音楽はひとことでいえば、ひたすらソウルなロック。60年代後半からサム・クック、ベン・E・キングといったアーティストのカヴァーを得意として来ただけあって、とにかくR&B、ソウルが好きでしょうがない、そんな音なのだ。
アルバムのトップはアップテンポのロックンロール「PETITE BOUR」。テナーサックスのソロをフィーチャーした、いかにもいかにもなGOOD OLD ROCK'N'ROLL。
続く「I'M WISHING TOMMOROW」。サム・クックを意識した、明るいテイストのミドルテンポ・バラード。まったくヒネりというもののない、シンプル極まりない歌詞。でもそれがよかったりする。ロックに小難しい理屈は要りまへん。
ちなみにこの曲は彼らのファースト・シングルでもある。
3曲目は彼自身十八番といっている「STAND BY ME」。アレンジはもちろん、ジョン・レノンではなくオリジナルのに近い。目新しさなどはまるでないが、気持ちがホッと落ち着くようなサウンドだ。
なにより、彼の塩辛い(誉め言葉だからね)歌声がいい。まるで本牧に吹き込む海風のような声。ハスキーなんだけど、中音域のタッチは実になめらか。そのへんも魅力だ。
サウンドにせよ、ヴォーカルにせよ、R&Bの黄金のワンパターンってやっぱいいよね。
「DOKI DOKI NIGHT」は、スライドギターをフィーチャーしたブルージーなロックンロール・ナンバー。もう、お約束の世界の連発。
A面ラストの「LONELY RAINY DAYS」はスローテンポの2拍3連バラード。チーボーが最も得意とする系統の曲と見た。
女声コーラスをバックに、気持ちよさげにねっとりと歌うさまは、彼が経営していたライヴハウスで、夜毎に繰り返すステージそのままだったんだろうな。
B面トップの「HOTTOITE KURE」はエルモア・ジェイムズ・スタイルのブギ。いわゆるブルーム調のナンバーであります。
日本語の歌詞でも、なんだか英語で歌っているふうに聴こえてしまうところが、チーボー・スタイルというべきか。
「HEY HEY HEY」は、ジーン・ヴィンセントのカヴァー。ピアノ、そしてロカビリー調ギターをフィーチャーしたパワフルなロックンロール。ノリのよさではアルバム随一かも。
アルバム・タイトル・チューンの「BAYSIDE STREET 」は唯一のインスト・ナンバー。
シャッフル・ビートに乗せて、オルガン、ピアノ、サックス、ギターがノリまくる。実にカッコええです。
「KISS MARK」、これまたワンパタ極まりないロックンロールなれど、何故か全然気にならない。
下手に今風のサウンドを取り入れようとか、オリジナリティを出そうとか考えずに、あくまでも過去のR&B、ソウル、ロックの伝統を引き継いで行こうという、頑ななまでのポリシーが感じられる。そこがいいのだ。
チャック・ベリー・スタイルのギターが何ともハマっております。
「ONE MORE TIME」、これもまた「LONELY RAINY DAYS」同様、彼が得意しているタイプの曲。昔のライヴハウスは「踊れる」曲を演る、というのが大前提だったが、この曲などはチークタイム(死語)にはうってつけだろう。
オリジナルは名シンガー、ヴァン・モリスンを輩出したバンド、ゼム。チーボーが15年近く歌い続けて来たであろうナンバー。
彼の、ヴァンにもまさるとも劣らぬディープな歌いぶり、聴きものです。
ラストは「TEENAGER」。彼らにしては珍しくサザンロック調なナンバー。カントリータッチの明るいメロディ、オールマンズをほうふつとさせるスライドギターがなかなか気分。
以上、流行とはまったく別のベクトルにあるサウンドなれど、何とも心やすらぐ11曲。
チーボーの歌は、声量とか技巧とかでは他に抜き出た存在ではないが、とにかく熱い「ハート」が感じられる。特にブルージーな曲では。
そして、それこそが、シンガーにとって一番大切なものなのじゃないかと思うんだよな。
ハマのロックの源流ともいうべき男、チーボー。彼の影響なしには、キャロルも、ダウンタウン・ブギウギバンドも、柳ジョージも、さらにはクレイジーケンバンドも出てこなかったんじゃないかと思う。
現在、50代なかば。「Mojos」というバンドで今もバリバリの現役というチーボー。シニア・ロッカー、まだまだ枯れてません。
彼の歌を聴くたび、年下のオレらも負けていられないと思いますね。
<独断評価>★★★☆