2023年3月21日(火)
#489 OASIS「BE HERE NOW」(SME 488187 2)
英国のロック・バンド、オアシスのサード・アルバム。97年リリース。オーウェン・モリス、ノエル・ギャラガーによるプロデュース。
マンチェスターで91年に結成されたオアシスは94年にレコード・デビュー。ファースト・アルバムが全英1位、全世界でも500万枚以上を売り上げ、一躍人気バンドへ。
95年のセカンド・アルバムは2500万枚以上のセールスを達成して、人気を世界的なものとした。
が、このサード・アルバムは前作ほどの好セールスを出せなかった。ギター・サウンドが分厚く重たくなり、曲調もヘビーで暗く、長めのものが多くなったことが大きく影響しているのだろう。
オープニングの「ドゥー・ユー・ノウ・ワット・アイ・ミーン?」はシングル・カットもされ、全英1位となったナンバー。バンドのギタリスト、ノエル・ギャラガーの作品(以下同様)。
ほぼすべての曲のリード・ボーカルは、ノエルの弟であるリアム・ギャラガー。彼の声、ルックス、カリスマ性ゆえに、このバンドはビッグになったのは間違いない。
この曲でも、そのパワフルな歌声の威力は、存分に発揮されている。
サウンド的には、エレクトロニクス処理が大胆に導入されている。前の2枚ではわりとシンプルなサウンドが多かったオアシスとしては、初めての試みといえる。
うねるようなサウンドが、実に印象的。終盤のギターの残響音には、後期ビートルズの「ホワイト・アルバム」あたりに見られるアヴァンギャルド・サウンドの影響を感じるね。
「マイ・ビッグ・マウス」はギターのフィードバック音から始まる、ハードなロック・ナンバー。
ギターの音が前2作に比べて、明らかに激しい。当バンド比50パーセント増量、そんな感じだ。
そういう音を、以前の軽めのポップな音よりも、本来彼らはやりたかったのではないだろうか。
「マジック・パワー」は珍しくノエル自身が歌うナンバー。マイク・ロウ(ゲスト)のエレクトリック・ピアノの伴奏で静かに始まったと思うと、ハードなギター・サウンドに切り替わる。
深みのあるバンド・サウンド、そしてノエル兄貴がけっこう味のある歌を聴かせてくれる。
いつもは自作曲をすべて弟に譲り、バックコーラスに徹しているノエルだが、もう少しボーカリストとして前に出てきてもイケるんじゃないかと感じさせる。
事実、2009年に彼が脱退してオアシスが終了した後は、自らのバンド、ハイ・フライング・バーズを率いて、リード・ボーカルをとるようになっている。
自分が作った曲は、やはり自分で歌うのがベスト。現在が彼のアーティスト活動としては最良な状態と言えるのではなかろうか。
「スタンド・バイ・ミー」は「ドゥー・ユー〜」に次いでシングル化されたナンバー。全英2位。
キャッチーなメロディ・ラインにどことなく既聴感がある。70年代のグラム・ロックっぽいなと思っていたら、この曲、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」(デイヴィッド・ボウイ作)に影響を受けて書かれたのだとか。
オアシスといえばビートルズの強力な影響下にあることで知られているバンドだが、もちろん、それ以外の英国バンドにもさまざまなインスパイアを受けているのだ。
本盤の中では比較的明るいムードを持ち、ゆったりとしたテンポで歌われる、ロック・バラードの佳曲。ヒットしないほうがおかしいくらい、よく練られたメロディだ。
「アイ・ホープ、アイ・シンク、アイ・ノウ」はアップ・テンポのロック・ナンバー。
報道メディアとはトラブルを起こしがちの、血の気の多いオアシスらしい、自己主張の強い歌詞が印象的だ。
「ザ・ガール・イン・ザ・ダーティ・シャツ」はピアノをフィーチャーし、バック・コーラスが耳に残るミディアム・テンポのナンバー。
この曲は、ノエルが当時付き合っていた女性とのエピソードから作られたという。
オアシスには、そういう身辺の出来事からインスピレーションを受けて作られた曲が多い。そのあたりが、聴き手の共感を強く呼ぶポイントなのだと思う。
「フェイド・イン–アウト」は米国の俳優、ジョニー・デップがゲスト参加したナンバー。
アコースティック・ギターをバックに、デップは達者なスライド・ギターを披露している。カオスなギター・サウンドが展開する一曲。
いつものオアシス・サウンドとは一味違う、ブルーズィでディープな世界がそこにある。
「ドント・ゴー・アウェイ」は日本でのみシングル化され、TVドラマ「ラブ・アゲイン」の主題歌にもなったバラード。
恋人との別れを歌っているように見えるが、曲想自体は母親の病気入院の経験から得たもののようだ。
切ない歌唱と歌詞が、心に沁みるナンバーだ。
「ビィ・ヒア・ナウ」はアルバム・タイトルともなったミディアム・テンポのロック・ナンバー。
そのヘビーでタイトなビートは、ビートルズよりもストーンズの線に近い。
先輩バンドのエッセンスを巧みに取り入れて、自分たちのものに昇華していく彼らのテクニックは、なかなかのものだと思う。
「オールド・アラウンド・ザ・ワールド」は翌98年にシングル・カットされたナンバー。全英1位。
こちらはビートルズの影響が強く感じられるメロディ・ライン、アレンジのバラード。9分20秒と「ヘイ・ジュード」なみに長い。
オーケストラを使い、キャッチーなコード進行、リフレインをずっと繰り返していく構成は、まさにヒット曲の王道パターン。
オアシスのポップ性を凝縮した一曲。ギター・ロックの性格の濃くなった本盤でも、この曲があれば、過去からのファンも、新たなファンも納得することだろう。
「イッツ・ゲッティン・ベター(マン!!)」はハードなギター・サウンドの、陽気なロックンロール。
この曲もストーンズを90年代ふうにアップデートした感じのナンバー。ワウ・ペダルを使ったギター演奏が、クラシック・ロックっぽい。
筆者のようなオールド・ロック・ファンにも馴染みやすいサウンドだ。ひたすらノリノリで楽しめる一曲。
「オールド・アラウンド・ザ・ワールド(リプライズ)」は同曲をオーケストラ・アレンジし、バンドの音も加えたインストゥルメンタル・ナンバー。
最後の効果音は、飛行機のハッチを閉じた音だそうだ。これを聴くと「ああ、一枚が終わったな」と感じる。
ポップ・アルバムとしての「かたち」もしっかりと整えた構成をもつ本盤、前作ほどのセールスはなかったが、むしろ完成度は高まったように感じる。
ロック・バンドとしての攻めの姿勢、ポピュラー・ソングの作り手としての職人技、この両者が絶妙なバランスをとっている。
オアシスのロックは、筆者のような70年代にロックを青春の伴侶として愛好した者にとってみれば、ストレートに「カッコいい!」「イカしてる!」と叫んで飛びつくようなものではない。
その魅力、よさは十分に分かるのだが、いまさらミーハーに飛びつくのは、かなーり恥ずかしいものなのだ。
そういうわけで、おっさんロック・ファンとしては、90年代に若者たちが「これイイ!」と無邪気に騒ぐのを遠まきに眺めていたわけだが、家でこっそり聴く分には許されるんじゃないかなと思っていた。
若くて稚気にあふれたロックも、時にはいいもんだ。
<独断評価>★★★☆
英国のロック・バンド、オアシスのサード・アルバム。97年リリース。オーウェン・モリス、ノエル・ギャラガーによるプロデュース。
マンチェスターで91年に結成されたオアシスは94年にレコード・デビュー。ファースト・アルバムが全英1位、全世界でも500万枚以上を売り上げ、一躍人気バンドへ。
95年のセカンド・アルバムは2500万枚以上のセールスを達成して、人気を世界的なものとした。
が、このサード・アルバムは前作ほどの好セールスを出せなかった。ギター・サウンドが分厚く重たくなり、曲調もヘビーで暗く、長めのものが多くなったことが大きく影響しているのだろう。
オープニングの「ドゥー・ユー・ノウ・ワット・アイ・ミーン?」はシングル・カットもされ、全英1位となったナンバー。バンドのギタリスト、ノエル・ギャラガーの作品(以下同様)。
ほぼすべての曲のリード・ボーカルは、ノエルの弟であるリアム・ギャラガー。彼の声、ルックス、カリスマ性ゆえに、このバンドはビッグになったのは間違いない。
この曲でも、そのパワフルな歌声の威力は、存分に発揮されている。
サウンド的には、エレクトロニクス処理が大胆に導入されている。前の2枚ではわりとシンプルなサウンドが多かったオアシスとしては、初めての試みといえる。
うねるようなサウンドが、実に印象的。終盤のギターの残響音には、後期ビートルズの「ホワイト・アルバム」あたりに見られるアヴァンギャルド・サウンドの影響を感じるね。
「マイ・ビッグ・マウス」はギターのフィードバック音から始まる、ハードなロック・ナンバー。
ギターの音が前2作に比べて、明らかに激しい。当バンド比50パーセント増量、そんな感じだ。
そういう音を、以前の軽めのポップな音よりも、本来彼らはやりたかったのではないだろうか。
「マジック・パワー」は珍しくノエル自身が歌うナンバー。マイク・ロウ(ゲスト)のエレクトリック・ピアノの伴奏で静かに始まったと思うと、ハードなギター・サウンドに切り替わる。
深みのあるバンド・サウンド、そしてノエル兄貴がけっこう味のある歌を聴かせてくれる。
いつもは自作曲をすべて弟に譲り、バックコーラスに徹しているノエルだが、もう少しボーカリストとして前に出てきてもイケるんじゃないかと感じさせる。
事実、2009年に彼が脱退してオアシスが終了した後は、自らのバンド、ハイ・フライング・バーズを率いて、リード・ボーカルをとるようになっている。
自分が作った曲は、やはり自分で歌うのがベスト。現在が彼のアーティスト活動としては最良な状態と言えるのではなかろうか。
「スタンド・バイ・ミー」は「ドゥー・ユー〜」に次いでシングル化されたナンバー。全英2位。
キャッチーなメロディ・ラインにどことなく既聴感がある。70年代のグラム・ロックっぽいなと思っていたら、この曲、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」(デイヴィッド・ボウイ作)に影響を受けて書かれたのだとか。
オアシスといえばビートルズの強力な影響下にあることで知られているバンドだが、もちろん、それ以外の英国バンドにもさまざまなインスパイアを受けているのだ。
本盤の中では比較的明るいムードを持ち、ゆったりとしたテンポで歌われる、ロック・バラードの佳曲。ヒットしないほうがおかしいくらい、よく練られたメロディだ。
「アイ・ホープ、アイ・シンク、アイ・ノウ」はアップ・テンポのロック・ナンバー。
報道メディアとはトラブルを起こしがちの、血の気の多いオアシスらしい、自己主張の強い歌詞が印象的だ。
「ザ・ガール・イン・ザ・ダーティ・シャツ」はピアノをフィーチャーし、バック・コーラスが耳に残るミディアム・テンポのナンバー。
この曲は、ノエルが当時付き合っていた女性とのエピソードから作られたという。
オアシスには、そういう身辺の出来事からインスピレーションを受けて作られた曲が多い。そのあたりが、聴き手の共感を強く呼ぶポイントなのだと思う。
「フェイド・イン–アウト」は米国の俳優、ジョニー・デップがゲスト参加したナンバー。
アコースティック・ギターをバックに、デップは達者なスライド・ギターを披露している。カオスなギター・サウンドが展開する一曲。
いつものオアシス・サウンドとは一味違う、ブルーズィでディープな世界がそこにある。
「ドント・ゴー・アウェイ」は日本でのみシングル化され、TVドラマ「ラブ・アゲイン」の主題歌にもなったバラード。
恋人との別れを歌っているように見えるが、曲想自体は母親の病気入院の経験から得たもののようだ。
切ない歌唱と歌詞が、心に沁みるナンバーだ。
「ビィ・ヒア・ナウ」はアルバム・タイトルともなったミディアム・テンポのロック・ナンバー。
そのヘビーでタイトなビートは、ビートルズよりもストーンズの線に近い。
先輩バンドのエッセンスを巧みに取り入れて、自分たちのものに昇華していく彼らのテクニックは、なかなかのものだと思う。
「オールド・アラウンド・ザ・ワールド」は翌98年にシングル・カットされたナンバー。全英1位。
こちらはビートルズの影響が強く感じられるメロディ・ライン、アレンジのバラード。9分20秒と「ヘイ・ジュード」なみに長い。
オーケストラを使い、キャッチーなコード進行、リフレインをずっと繰り返していく構成は、まさにヒット曲の王道パターン。
オアシスのポップ性を凝縮した一曲。ギター・ロックの性格の濃くなった本盤でも、この曲があれば、過去からのファンも、新たなファンも納得することだろう。
「イッツ・ゲッティン・ベター(マン!!)」はハードなギター・サウンドの、陽気なロックンロール。
この曲もストーンズを90年代ふうにアップデートした感じのナンバー。ワウ・ペダルを使ったギター演奏が、クラシック・ロックっぽい。
筆者のようなオールド・ロック・ファンにも馴染みやすいサウンドだ。ひたすらノリノリで楽しめる一曲。
「オールド・アラウンド・ザ・ワールド(リプライズ)」は同曲をオーケストラ・アレンジし、バンドの音も加えたインストゥルメンタル・ナンバー。
最後の効果音は、飛行機のハッチを閉じた音だそうだ。これを聴くと「ああ、一枚が終わったな」と感じる。
ポップ・アルバムとしての「かたち」もしっかりと整えた構成をもつ本盤、前作ほどのセールスはなかったが、むしろ完成度は高まったように感じる。
ロック・バンドとしての攻めの姿勢、ポピュラー・ソングの作り手としての職人技、この両者が絶妙なバランスをとっている。
オアシスのロックは、筆者のような70年代にロックを青春の伴侶として愛好した者にとってみれば、ストレートに「カッコいい!」「イカしてる!」と叫んで飛びつくようなものではない。
その魅力、よさは十分に分かるのだが、いまさらミーハーに飛びつくのは、かなーり恥ずかしいものなのだ。
そういうわけで、おっさんロック・ファンとしては、90年代に若者たちが「これイイ!」と無邪気に騒ぐのを遠まきに眺めていたわけだが、家でこっそり聴く分には許されるんじゃないかなと思っていた。
若くて稚気にあふれたロックも、時にはいいもんだ。
<独断評価>★★★☆