2023年3月20日(月)
#488 JOHNNY GUITAR WATSON「A REAL MOTHER FOR YA」(Sequel NEMCD775)
米国のミュージシャン、ジョニー・ギター・ワトソンのスタジオ・アルバム。77年リリース。ワトソン自身によるプロデュース。
ジョニー・ギター・ワトソンは本欄では以前に2枚取り上げているが、筆者としてもお気に入りのアーティストのひとりである。
ワトソンの名前を知ったのは筆者が大学生になった頃だったろうか。同じクラスにブラック・ミュージックが好きな友人がひとりいて、「カッコいい黒人ミュージシャンがいる」と彼に教わった記憶がある。
この「A REAL MOTHER FOR YA」も、その時期にリリースされたアルバムだ。
オープニング曲はその「A REAL MOTHER FOR YA」。シングル・カットされ、全米41位、R&Bチャート5位と、ワトソン最大のヒットになった曲である。ワトソンの作品(以下同様)。
カネのろくにない若者のシケた日常をユーモラスに描いた歌詞内容がウケてヒット、ワトソン再ブレイクのきっかけとなった。
当時の人気TV番組「ソウル・トレイン」に出演して、その小粋なパフォーマンスを披露したのも、大きかったんだろうな。
すっとぼけた雰囲気で皮肉を交えながらラップ調の歌を聴かせた彼はまさに、今でいうところのヒップホップ・ミュージックの先駆者だった。
のち89年にヒップホップのアーティスト、キャッシュ・マネー&マーヴェラスがこの曲をカバー、オリジナル音源をサンプリングしたことで、再度ワトソンに注目が集まったナンバーでもある。
「NOTHING TO BE DESIRED」は、ワトソンの語り(というか口説き?)から始まる、ミディアム・テンポのナンバー。お前以外に欲しいものはない、と愛する女性に伝えるストレートなラブソング。
ホーンやフェンダー・ローズをフィーチャーしたゴージャスなアレンジ。ワトソンのアドリブ・スキャットがジャズィでなかなか洒落ている。
おちゃらけまくるのもワトソンなら、ぐっと素になってマジ口説きするのもワトソン。さすが、ホワイト・スーツが世界一キマる伊達男である。
ヒップホップ・デュオ、オーガナイズド・コンフュージョンが97年に「SOUNDMAN」という曲でこの曲をサンプリングしている。やはり、ワトソンをリスペクトするヒップホップ系ミュージシャンは相当数いるのだろう。
ワトソンは35年テキサス州ヒューストン生まれ。50年代はロサンゼルスに移住、若くしてプロのギタリスト/ピアニストとなり、RPM、キーン・レーベルでブルース曲をリリース、数曲を小ヒットさせている。
もともとブルース畑だった彼が大きくイメージチェンジをしたのが70年代。流行のファンク・サウンドを取り入れ、ブルースにこだわらないコンテンポラリー・ミュージックを目指すようになったのだ。
76年DJMレーベルに移籍し、伊達者のイメージを演出した同年のアルバム「AIN’T THAT A BITCH」をリリースして注目を集め、翌年の本盤でブレイクした、というわけだ。
「YOUR LOVE IS MY LOVE」は小気味のいいドラム・ブレイクで始まるナンバー。
この曲は、ボコーダーという当時の最新兵器を全面的に駆使しているのが一番の特徴だ。
生のボーカルではなく、シンセサイザーにより変換された音声のみの歌なんて、当時は画期的だった。きょうびでは珍しくないけど。歌詞は分かりやすく、ほぼ求愛の言葉のみで構成されている。
このようにさまざまな楽器をマスターしていることも、ワトソンの強みだ。本盤では、ドラムスと三管を除いたすべての楽器をワトソンがプレイしている。まさにマルチ・プレイヤーだ。
日本の山下達郎あたりも、ワトソンを目標として、ひとりレコーディング体制を作り上げていったのだろう。
「THE REAL DEAL」は、ギターとスキャットのユニゾン・プレイで始まるバラード・ナンバー。
この曲では、とびきりの美女に眩惑される、軽薄なチャラ男的キャラをロールプレイするワトソン。
すべてのオトコはマブいオンナに弱いのだという永遠不滅の真理を、ワトソンは示してくれる。
憂いを含むボーカルとギターに、なんとも男の色気が漂う一曲。
「TARZAN」は、野生動物の鳴き声のSEから始まる、歌詞のユーモラスなナンバー。街を歩くカワイコちゃん(死語)に対して、思わず知らず雄叫びを上げてしまう、しょうもない野郎どもの歌だ。
前のアルバムに収録された「SUPERMAN LOVER」同様、スーパー・ヒーローもイカした女性の前ではまるで形無しという、ワトソンお得意のパターンだな。
ここでのソリッドでファンキーなワトソンのギターが、ハード・ロックを聴き慣れた当時の筆者にはえらく新鮮に聴こえたことを、昨日のことのように思い出す。
筆者が現在、ギブソン・エクスプローラーというギターを持つようになったのも、エリック・クラプトンの影響などではなく、実はジョニーGことワトソンへの憧れからなのだよ。
「I WANNA THANK YOU」
ホーン・アレンジで始まるミディアム・テンポのバラード。恋人への感謝の気持ちを語るナンバー。
ダンサブルなビート、エレクトリック・ピアノのソロがメロウな気分を盛り上げてくれる。
切なく泣きの入ったワトソンのボーカルが、心にグッとくる一曲だ。
ラストの「LOVER JONES」はミディアム・テンポのファンク・ナンバー。
ざっくりとした感触のサウンドが耳に心地よい。アコースティック・ギターのソロも、面白い趣向だ。
ワトソンの意外と骨太なボーカルが聴ける一曲として、おすすめ。
以上、ブルースをベースとしながらも、それからいったん離れてワン・グレード上の音楽を目指したサウンド・クリエイター、ワトソンのアイデアが詰まった一枚。
そのソフィスティケイトされた音は、たとえ45年以上経とうと色褪せていない。
ジョニー・ギター・ワトソンこそは、真にクールなミュージシャン。聴くたびにそう確信する。
<独断評価>★★★★
米国のミュージシャン、ジョニー・ギター・ワトソンのスタジオ・アルバム。77年リリース。ワトソン自身によるプロデュース。
ジョニー・ギター・ワトソンは本欄では以前に2枚取り上げているが、筆者としてもお気に入りのアーティストのひとりである。
ワトソンの名前を知ったのは筆者が大学生になった頃だったろうか。同じクラスにブラック・ミュージックが好きな友人がひとりいて、「カッコいい黒人ミュージシャンがいる」と彼に教わった記憶がある。
この「A REAL MOTHER FOR YA」も、その時期にリリースされたアルバムだ。
オープニング曲はその「A REAL MOTHER FOR YA」。シングル・カットされ、全米41位、R&Bチャート5位と、ワトソン最大のヒットになった曲である。ワトソンの作品(以下同様)。
カネのろくにない若者のシケた日常をユーモラスに描いた歌詞内容がウケてヒット、ワトソン再ブレイクのきっかけとなった。
当時の人気TV番組「ソウル・トレイン」に出演して、その小粋なパフォーマンスを披露したのも、大きかったんだろうな。
すっとぼけた雰囲気で皮肉を交えながらラップ調の歌を聴かせた彼はまさに、今でいうところのヒップホップ・ミュージックの先駆者だった。
のち89年にヒップホップのアーティスト、キャッシュ・マネー&マーヴェラスがこの曲をカバー、オリジナル音源をサンプリングしたことで、再度ワトソンに注目が集まったナンバーでもある。
「NOTHING TO BE DESIRED」は、ワトソンの語り(というか口説き?)から始まる、ミディアム・テンポのナンバー。お前以外に欲しいものはない、と愛する女性に伝えるストレートなラブソング。
ホーンやフェンダー・ローズをフィーチャーしたゴージャスなアレンジ。ワトソンのアドリブ・スキャットがジャズィでなかなか洒落ている。
おちゃらけまくるのもワトソンなら、ぐっと素になってマジ口説きするのもワトソン。さすが、ホワイト・スーツが世界一キマる伊達男である。
ヒップホップ・デュオ、オーガナイズド・コンフュージョンが97年に「SOUNDMAN」という曲でこの曲をサンプリングしている。やはり、ワトソンをリスペクトするヒップホップ系ミュージシャンは相当数いるのだろう。
ワトソンは35年テキサス州ヒューストン生まれ。50年代はロサンゼルスに移住、若くしてプロのギタリスト/ピアニストとなり、RPM、キーン・レーベルでブルース曲をリリース、数曲を小ヒットさせている。
もともとブルース畑だった彼が大きくイメージチェンジをしたのが70年代。流行のファンク・サウンドを取り入れ、ブルースにこだわらないコンテンポラリー・ミュージックを目指すようになったのだ。
76年DJMレーベルに移籍し、伊達者のイメージを演出した同年のアルバム「AIN’T THAT A BITCH」をリリースして注目を集め、翌年の本盤でブレイクした、というわけだ。
「YOUR LOVE IS MY LOVE」は小気味のいいドラム・ブレイクで始まるナンバー。
この曲は、ボコーダーという当時の最新兵器を全面的に駆使しているのが一番の特徴だ。
生のボーカルではなく、シンセサイザーにより変換された音声のみの歌なんて、当時は画期的だった。きょうびでは珍しくないけど。歌詞は分かりやすく、ほぼ求愛の言葉のみで構成されている。
このようにさまざまな楽器をマスターしていることも、ワトソンの強みだ。本盤では、ドラムスと三管を除いたすべての楽器をワトソンがプレイしている。まさにマルチ・プレイヤーだ。
日本の山下達郎あたりも、ワトソンを目標として、ひとりレコーディング体制を作り上げていったのだろう。
「THE REAL DEAL」は、ギターとスキャットのユニゾン・プレイで始まるバラード・ナンバー。
この曲では、とびきりの美女に眩惑される、軽薄なチャラ男的キャラをロールプレイするワトソン。
すべてのオトコはマブいオンナに弱いのだという永遠不滅の真理を、ワトソンは示してくれる。
憂いを含むボーカルとギターに、なんとも男の色気が漂う一曲。
「TARZAN」は、野生動物の鳴き声のSEから始まる、歌詞のユーモラスなナンバー。街を歩くカワイコちゃん(死語)に対して、思わず知らず雄叫びを上げてしまう、しょうもない野郎どもの歌だ。
前のアルバムに収録された「SUPERMAN LOVER」同様、スーパー・ヒーローもイカした女性の前ではまるで形無しという、ワトソンお得意のパターンだな。
ここでのソリッドでファンキーなワトソンのギターが、ハード・ロックを聴き慣れた当時の筆者にはえらく新鮮に聴こえたことを、昨日のことのように思い出す。
筆者が現在、ギブソン・エクスプローラーというギターを持つようになったのも、エリック・クラプトンの影響などではなく、実はジョニーGことワトソンへの憧れからなのだよ。
「I WANNA THANK YOU」
ホーン・アレンジで始まるミディアム・テンポのバラード。恋人への感謝の気持ちを語るナンバー。
ダンサブルなビート、エレクトリック・ピアノのソロがメロウな気分を盛り上げてくれる。
切なく泣きの入ったワトソンのボーカルが、心にグッとくる一曲だ。
ラストの「LOVER JONES」はミディアム・テンポのファンク・ナンバー。
ざっくりとした感触のサウンドが耳に心地よい。アコースティック・ギターのソロも、面白い趣向だ。
ワトソンの意外と骨太なボーカルが聴ける一曲として、おすすめ。
以上、ブルースをベースとしながらも、それからいったん離れてワン・グレード上の音楽を目指したサウンド・クリエイター、ワトソンのアイデアが詰まった一枚。
そのソフィスティケイトされた音は、たとえ45年以上経とうと色褪せていない。
ジョニー・ギター・ワトソンこそは、真にクールなミュージシャン。聴くたびにそう確信する。
<独断評価>★★★★