2002年2月2日(土)
アーマ・トーマス「LIVE! SIMPLY THE BEST 」(ROUNDER CD 2110)
1.BREAKAWAY
2.TIME IS ON MY SIDE
3.HIP SHAKIN' MAMA
4.THAT'S WHAT LOVE IS ALL ABOUT
5.THINKING OF YOU
6.I NEEDED SOMEBODY
7.MEDLEY: I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG/PLEASE PLEASE PLEASE
8.HITTIN' ON NOTHIN'
9.IT'S RAINING
10.SECOND LINE MEDLEY: I DONE GOT OVER/IKO IKO/HEY POCKY WAY
11.WISH SOMEONE WOULD CARE
12.YOU CAN HAVE MY HUSBAND
13.OH ME OH MY(I'M A FOOL FOR YOU)
14.SIMPLY THE BEST
ニュー・オーリンズを代表する女性シンガー、アーマ・トーマスのライヴ盤。90年8月30・31日、サンフランシスコ「SLIM'S」にて録音。91年リリース。
つい先日もニュー・オーリンズの有名な音楽誌「OFF BEAT」にてべスト・シンガーに選ばれた実力派の彼女だが、41年生まれ、今年61歳になる大ベテラン。もちろん、今もバリバリの現役で活躍中である。
高校を卒業してウェイトレスをしながら、シットインで歌ったのがきっかけで認められレコード・デビュー、かのアラン・トゥーサンのプロデュースにより60年代前半でいくつものR&Bヒットを飛ばす。
その代表作が、ストーンズもカバーした「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」だ。
70年代は表舞台からは遠ざかっていたが、80年代に入って見事復活、現在に至っている。
近年ではゴスペル・ソングばかりを歌ったアルバムを出すなど、新しい分野にも大変意欲的なひとである。
そんな息の長いシンガーの、実力が最大限に発揮されるのは、やっぱり生のステージ。
このライヴ盤はアーマ49歳のときの録音だから、まさに脂ののり切った歌がぞんぶんに楽しめる。
まずは白人女性シンガー、ジャッキー・デシャノンでおなじみ、アップ・テンポの陽気なロックンロール・ナンバー、(1)でスタート。
アーマの少し低め、でも伸びやかな歌声にはピッタリの曲だ。
続いて、代表的オリジナル曲(2)を。ストーンズのラフな感じとはまた違い、きめの細かい歌いぶりは、さすがご本家の貫禄。
(3)は歌詞がちょっとユーモラスな、トラッド・ブルースの佳曲。アーマの歌は、どこか姐御肌で勇ましい感じだ。
決して男に媚びるようなことはなく、豊かな声量で豪快に、でももちろん細やかさを忘れることなく、歌いあげていく。
余裕たっぷりのフレージング、堂々たるブルース・フィーリングに感服!の一曲。
お次の(4)は、ロンゲの白人シンガー、マイケル・ボルトンの作品。
いかにも白人ポップスの「王道」のようなメロディを持ったバラードだが、彼女の手にかかると、しっかりブラックな味つけで料理されて、一流のソウルに仕上がってくる。
とにかく、ジャンルを選ばぬ、見事な歌唱力だ。
(5)は、オリジナル・ナンバー。前曲とは対照的な、黒い上にも黒い、きわめつけのソウル。
ファンキーなビートにも、彼女のよく伸びる歌声は、しっかりと乗っかっていく。
低音だけでない、シャープな高音もOKなアーマの歌声は、オール・マイティだ。
(6)はメンフィスで活躍する黒人女性シンガー、アン・ピーブルズのカバー。ディープなスロー・ソウル・バラードだ。
幾度となく繰り返される「Needed Somebody」のシャウトが、迫力満点。聴く者を熱くせずにはいられない。
(7)はその勢いをかって、さらにソウルフルでディープな世界へ突入。
前半はオーティス・レディングの作品として、あまりにも有名。アイク&ティナの超セクシー・ヴァージョンもよく知られているが、アーマ版も、これまた最高にエキサイティングな出来。
もう、とことんシャウトしまくり。
これを聴いて、心をゆさぶられないようなら、ブラック・ミュージックのファンなんて、おやめなさい、ってなもんだ。
息もつかず、シームレスに歌われる後半は、もちろん、ジェイムズ・ブラウンの大ヒット。
ブラウンのステージ・ナンバーでも、最重要な位置をしめる曲で、これをアーマはエネルギッシュに歌い切る。
このメドレーを易々とこなすとは、ホント、脱帽もののパワーであるな。
そこいらのガキンチョ歌手には、到底真似できるものではない。
彼女は決して黒人女性シンガーにありがちの「太め」体型ではないのに。実に素晴らしい声量、強靭なノドである。
(8)もトラッド・ブルースに、アラン・トゥーサンが手を加えたナンバー。
ファンク・ビートがいかにも心地よく、観客もノリノリで踊っているのが、目に浮かぶよう。
(9)は彼女の60年代、インペリアル在籍時のスマッシュ・ヒット。トゥーサンのペンによる、ミディアム・スローの3連バラード。
こういうクラシカルな曲も、モダンな曲も、すべて自分のもの、それも現在の自分の感覚で消化して歌っている。
そこがただの「昔の名前で出ています」的なベテラン・シンガーとは違うところだ。古臭さというものがない。
60代になっての、ベスト・シンガー受賞も、大いに納得が行くな。
(10)のメドレーも、なかなか楽しい。「セカンド・ライン」と名づけられたことでもわかるように、ニューオーリンズ出身者の、あくまでも陽性なセンスが存分に発揮された選曲だ。
まずは、ニューオーリンズの名物男、アーニー・K-ドゥの作品「I DONE GOT OVER (IT)」から。途中でいろんなN.O.名物をMCに折り込みつつ、N.O.のテーマ中のテーマ、「IKO IKO」へ。
さらには、ミーターズの「HEY POCKY WAY」で、ファンキーに盛り上げ、最後は「I DONE~」に戻って締めくくり。
歌詞に折り込まれるさまざまなアイテムといい、ひたすら陽気なビートといい、とにかく、N.O.っぽさがプンプンと漂う、ごキゲンなメドレーである。
(11)も初期のヒット曲、アーマ自身がペンをとったナンバーだ。こちらもお得意のミディアム・スロー・バラード。
ちょっとセンチで、でも決して弱々しくはならず、あくまでもポジティヴなアーマの世界が全開である。
快調なシャッフル・ビート、歌詞がちょっとユニークでユーモアにあふれたブルース、(12)も、彼女の持ち歌。
ココ・テイラー、マーヴァ・ライトといった女性シンガーもカバーしている。
ここでも、(3)同様、抜群のビート感覚で歌いまくるアーマ。いやー、カッコいい。
「カッコいい」なんて、女性シンガーには普通使わない形容詞だけど、彼女に関しては、自然と使いたくなってしまう、そんな感じだ。
そして極めつけは、(13)。前の曲のノリノリ状態から一転、しっとりと、でも力強く聴かせるラヴ・バラード。
彼女の持ち歌の中でも、おはこ中のおはこと呼べそうな、キラー・チューン。「女王」アレサまでがカバーしたとゆー、名曲だ。
もし、付きあっている女性に、こんなディープな歌を歌われちまった日にゃ、結婚するしかあるまい、ってか。
このうえなくパワフルな「OH ME OH MY」のリフレインが、まことに印象的。この曲のこの一節を聴くために買っても損はない。
もちろん、他の曲も、じゅうぶんに素晴らしいけどね。
そしてラストは、アルバム・タイトルともなっている(14)。スイートやブロンディ、パット・ベネターらのプロデュースでおなじみの、マイク・チャップマンの作品。
ヘヴィーなロック・ビートに乗り、自信に満ちあふれた歌声でぐいぐいと観客をひっぱるアーマ。これも実に勇壮でカッコいい曲だ。
全編、どこを切っても、アーマの気合い十分で、しかも円熟した歌声が楽しめる。タイトル通り、「SIMPLY THE BEST」な一枚。
ひさびさに、絶対のおススメである。