2002年2月9日(土)
ウィッシュボーン・アッシュ「百眼の巨人アーガス」(ビクター音楽産業/MCA MVCM-37)
1.TIME WAS(時は昔)
2.SOMETIME WORLD(いつか世界は)
3.BLOWIN' FREE(ブローイン・フリー)
4.THE KING WILL COME(キング・ウィル・カム)
5.LEAF AND STREAM(木の葉と小川)
6.WARRIOR(戦士)
7.THROW DOWN THE SWORD(剣を棄てろ)
8.NO EASY ROAD(ノー・イージー・ロード:ボーナス・トラック)
ウィッシュボーン・アッシュのサード・アルバム。72年リリース。
本コーナーでも3度目の登場となったアッシュだが、オリジナル・アルバムとしては最高傑作との誉れの高いのが、本作品である。
69年、アンディ・パウエル、テッド・ターナーのふたりのギタリストを中心に、マーティン・ターナー(ベース)、スティーヴ・アプトン(ドラムス)の4人で結成されたアッシュは、ロンドンのライヴハウス・シーンでたちまち評判となり、早くも翌年には大手レーベルMCAと契約、同年末アルバム「光なき世界(WISHBONE ASH)」でデビューを果たす。
以後、71年のセカンド「巡礼の旅(PILGRIMAGE)」、そして本アルバムと、着実なリリースを続けてビッグ・ネームへと昇り続けていくのだが、アメリカでもメジャーとなった後年のアルバムより、こちらのほうがはるかにファンの支持率は高い。
何故か。
4thアルバム「ウィッシュボーン・アッシュ」以降は、アメリカなど全世界の市場を意識したため、よりヴォーカル中心のサウンド作りをしているのだが、アッシュ本来の面目は、やはりギタリストふたりの絶妙に息の合ったアンサンブル、いわゆるツイン・リードにこそあるのだ。
アンディのブライトで太いフライングVサウンドに、テッドのソリッドでシャープなストラトサウンドが絡み合うことで、なんともいえないハーモニーが生まれる。
このインスト志向こそ、彼らのカルト的人気をよんだ最大の理由なのに、4作目以降、それは抑制されていくことになるのだ。
また、アッシュのもうひとつの魅力は、どこか哀愁と翳りのある、英国のトラディショナル・フォークの伝統を引き継いだメロディ・ラインだ。
これこそは、アメリカのバンドには求めても決して得られない、英国のバンド「アッシュ」ならではの「匂い」なのである。
ところが、サード・アルバムまで濃厚であったこの「匂い」は、4作目以降、急速に弱まっていく。
そして、テッドの脱退、新メンバー、ローリー・ワイズフィールドの参加により、その傾向は決定的になる。
アメリカナイズされることによりアッシュは、別のバンドになってしまったのである。
その後、紆余曲折を経て、88年オリジナル・メンバーで再結成される。
その第一弾が、以前ご紹介した「NOUVEAU CALLS」だったというわけだが、やはり、この4人が揃わないことには「ウィッシュボーン・アッシュ」とはいえない、という思いを新たにしたアルバムであった。
「目黒のさんま」風にいえば、アッシュはオリジナル・メンバーに限る、ということだな。
そういうわけで、30年前のアルバムを、ひさびさにCDで購入して聴いてみたが、これが古さなどまったく感じさせない、素晴らしい出来なのである。
日本盤タイトルでお分かりいただけるように、本作はストーリー仕立てになっていて、伝説の巨人アーガスと人間との戦いが描かれていく。
まずは静謐なギター・イントロから始まる(1)。まさに「物語」の始まりらしい、おだやかな雰囲気のオープニングだ。
これは途中で、テンポがガラリと変わり、軽快なカントリー・ロック風になる。
アンディの流麗なギター・ソロも、もちろんアメリカン・ミュージックの流れの上にあるのだが、でもどこか英国的な香りを隠し持っている。
明らかに同時代のアメリカ出身バンドとは違う、「サムシング」があるのだ。
なお、前半部分は、ライヴで頻繁に演奏されていることでも、よく知られている。
続く(2)は、しっとりした雰囲気、デリケートなタッチのコーラスをフィーチャーした、いかにもアッシュなナンバー。
こちらもスロー・テンポから始まり、アップ・テンポにチェンジして、うねるようなギター・ソロへとなだれこんでいく。アッシュお得意のパターン。
前半のソロはテッド、後半はアンディ。こういう、マイナー・チューンでの彼らの「泣き」のギター・プレイは最高だな。
陽性のアメリカン・ハード・ロックとは一味違った、「アッシュ節」が楽しめる一曲だ。
お次は、ロック・ファンなら知らぬ者はないであろう、(3)。いまやスタンダード・ナンバーと呼んでもさしつかえないだろう。
実際、当時のアマチュア・ロックバンドはこの曲をこぞってコピーしたもんだ。あなたもそのクチでしょ?
もちろん、彼ら本人もいったい何百回演奏したか、数えられないくらいだろう。
アッシュといえばブローイン・フリー、ブローイン・フリーといえばアッシュという感じで、いわば彼らの代名詞。
以前にご紹介したライヴ盤でのロング・ヴァージョン演奏もグーなのだが、オリジナル録音ももちろん最高。
ここでは、マーティンのベースがまるで「第三のリードギター」のよう。
ふたつのギターにぴったりと重なり合って生み出していくハーモニーが、なんとも素晴らしい。
また、テッドのスライド・ギターも、なかなかいい隠し味になっているので、よーく聴いてみて欲しい。
(4)はミディアム・テンポで、これまたピッタリと息の合った、ツインギター・リフが印象的なナンバー。
テッドのワウ・プレイも、実にカッコいい。人気の高い曲のようで、ライヴでも必ず演奏されている。
アコギのイントロで始まるフォーク・ソング調のナンバーが(5)。哀愁に満ちたメロディ・ラインのバラード。
アンディのギター・ソロが実にやるせない感じで、泣かせます。
(6)も、これぞアッシュ!という感じの佳曲。ハードなアタックのアンディのギター・ソロで始まるのだが、まずこれにシビれる。
そして静けさを感じさせるコーラスから、ツイン・ソロへ。もう完璧なアンサンブル。
コーラスとアンディのギターが掛け合うかたちで、グイグイと盛り上げていく構成。百眼の巨人アーガスとの死闘をほうふつとさせる。
アルバムのクライマックスにふさわしい、アッシュの様式美そのもののような曲だ。もち、ステージでも(必)の一曲。
このクライマックスを受けて、エピローグとして演奏されるのが、(7)。スロー・テンポのマイナー・チューン。これまたアッシュの十八番。
果てしなく続く、アンディの粘っこいソロがこのうえなくイカしている。ステージでも当然、ハイライトとして演奏されることが多い。
ラストはCD版ボーナス・トラックの(8)。ちょいとストーンズ風の、ラフでシンプルなロックンロール・ナンバー。
歌うはマーティン。ふだんはわりとソフトな歌いかたのアッシュも、たまにはこういうシャウトするヴォーカルも聴かせるんだなという、なかなか面白いナンバーである。
全編、まったくムダのない緊密な構成。曲も粒揃い。70年代、数多く作られたいわゆる「コンセプト・アルバム」の中でも、出色の出来ばえである。
言ってみれば、ギター・バンドの達成したひとつの「頂点」が、ここにはある。
いまの若いバンド・ピープルも、パンクだのオルタナだのヴィジュアル系だのやるくらいなら、こういうのを少しは聴いてからのほうがええんでないの、筆者はそう思います。
アンディとテッドの、「究極」のギター・アンサンブルを、じっくり聴いて欲しいものですな。