2022年12月15日(木)
#396 村田和人「また明日」(ALFA MOON MOON-28003)
シンガーソングライター、村田和人のデビュー・アルバム。82年リリース。村田本人と余越直によるプロデュース。
2016年、惜しくも62歳という若さでこの世を去った村田の、初々しい歌声が聴けるこのアルバム、おりからの80’sジャパニーズ・シティ・ポップの復興ブームもあって、再び注目が集まっていると聞く。
思えば筆者もこのアルバムのリリース時は、某出版社の入社2年目の若手社員だった。筆者が配属された男性週刊誌の編集部には、毎日のようにレコード会社のプロモーション担当者さんたちが、いま一番売りたいレコードのサンプル盤を持ってきてくれるのだった。
そんな中、アルファムーン・レコードの若手社員Kさんは、出来立ての村田和人のデビュー盤を差し出して、こう言った。
「彼は、山下達郎さんが一番可愛いがっている後輩なんです。アレンジや演奏も山下さんが自らやっているので、ぜひ聴いてみてください」
いただいたLPに針を落とすと、それまでに聴いたことのないような、フレッシュで伸びやかな歌声が流れ出した。
それが「電話しても」だった。作詞・作曲は村田、アレンジは山下。テレキャスターを山下が弾いて録音にも参加している。テンポのいい、ロックンソウル・ナンバー。
その時点では知らなかったのだが、実は筆者が村田の歌声を聴いたのは、それが初めてではなかった。
その2年ほど前、筆者が大学4年の時、就職活動で忙しい合間に、渋谷のヤマハでアマチュア・バンドのインストア・ライブを偶然観たのだが、それが村田が率いる「アーモンド・ロッカ」だった。
アマチュアとはいえ、メジャー・デビューしていないだけで、バンドの音のクォリティは、ほとんどプロと言ってよかった。
カントリー・ロックにハワイアン的なスパイスを加えたサウンド。カリフォルニアの空のように澄み切った声の、ヒゲ面のリードシンガーが、とても印象に残った。
そして、バンドの一番右手で生真面目な表情でテレキャスターを弾くメガネのギタリストがいて、それが現在筆者とも知己である中野新哉さんだった。
そんな不思議な縁があったことを「また明日」を聴いた当時は筆者はまるで知らなかったが、とても耳に馴染む村田和人の作り出すサウンドに、なんともいえぬ懐かしさを覚えたものだ。
歌詞も、恋愛に不器用な、(おそらく山下本人も投影されているであろう)シャイな青年の心情を見事に歌っていて、恋愛下手な当時の筆者もいたく共感したのを覚えている。
「WHISKY BOY」はそんな奥手な青年を代弁して、山下夫人となって間もない竹内まりやが作詞したナンバー。作曲は小野敏と村田、編曲は鈴木茂である。ちょっとオールド・タイミーなジャズっぽいアレンジ、コーラスがマッチしている。
それにしても、アレンジャーが複数、それも有名な山下と鈴木とは、新人としては豪華過ぎジャマイカ。
「想いは風に」は作詞・作曲が村田、編曲鈴木の、軽やかなテンポのポップ・ロック。
透明感あふれるサウンドにのせた、ポジティブな恋の讃歌。アーモンド・ロッカでもよく聴かれた、メロディアスなギター・ソロがいい。
「LADY SEPTEMBER」は個人的に好きなナンバーのひとつだ。パラシュート、AB’Sのキーボーディスト、安藤芳彦が作詞し、作曲は村田、編曲は山下。きめ細かなバッキング、コーラス、音響処理、どれをとっても正調ヤマタツ・サウンドだ。
切ない歌詞、そして情感たっぷりに歌う村田。ラブ・ソングとして、これ以上の完成度は望めないくらい。
「MARLAS」はA面ラスト、安藤作詞、村田作曲、鈴木編曲の、しっとりとしたラテン調のバラード。一日の最後を締めくくるにふさわしい、夢を見るように美しいナンバーだ。
B面トップは一転、ロックな村田が登場する。「GREYHOUND BOOGIE」だ。
作詞は新井正春、作曲は村田、編曲は山下。これはアーモンド・ロッカ時代から演奏していたナンバー。ついでに言うと「電話しても」も、同様である。
サザン・ロック風の、オールマンっぽいスライド・ギターを大きくフィーチャーしたサウンドがなんともカッコよい。
山下本人は滅多にこういうアレンジを自作にはしないけれど、実に達者にそれっぽくまとめている。脱帽である。
「波まかせ風まかせ」は村田自身によるデキシーランド・ジャズ風のアレンジがノスタルジックなナンバー。作詞は新井、作曲は村田。
オール・アメリカン・ミュージックのいいとこどり、みたいな心なごむ一曲である。なお、アルバムのラストには、歌詞抜き、コーラスのみのリプライズが加えられている。
「BE WITH YOU」も筆者のフェイバリット・ナンバーだ。安藤作詞、村田作曲、そしてなんとこの一曲だけだが、井上鑑が編曲!
なんと、3人目のアレンジャー登場である。ゴージャス過ぎるだろ(笑)。
このアレンジも最高だ。ラテン・テイストあふれるフュージョン・サウンドに、男女コーラス。
ハッピー・エンドな歌詞内容も、この曲が好きな理由。人生片思い、失恋ばかりじゃ、悲し過ぎるからね。
「終らない夏」は安藤作詞、村田作曲、鈴木編曲の、「夏男」「海男」村田のテーマ・ソングとも言える一曲。
全編を通して聴かれる、鈴木茂の大きくうねるようなギター・プレイがまことに素晴らしい。特にツイン・リードでキメるあたり、鳥肌ものである。
村田和人の恋愛観というよりは、ライフスタイルそのものを歌い上げたナンバー。
本当にナイス・ガイだった、村田という男は。
このアルバムの発売後1年を経て、筆者は村田和人と直に出会い、話を交わすことになる。
アーモンド・ロッカ時代のことも、その時に聞いた話である。
が、そういった話題はまた、日を改めて語ることにしよう。
いまはこの、デビュー盤を何度も聴き返して、村田のことを偲びたい。
<独断評価>★★★★☆
シンガーソングライター、村田和人のデビュー・アルバム。82年リリース。村田本人と余越直によるプロデュース。
2016年、惜しくも62歳という若さでこの世を去った村田の、初々しい歌声が聴けるこのアルバム、おりからの80’sジャパニーズ・シティ・ポップの復興ブームもあって、再び注目が集まっていると聞く。
思えば筆者もこのアルバムのリリース時は、某出版社の入社2年目の若手社員だった。筆者が配属された男性週刊誌の編集部には、毎日のようにレコード会社のプロモーション担当者さんたちが、いま一番売りたいレコードのサンプル盤を持ってきてくれるのだった。
そんな中、アルファムーン・レコードの若手社員Kさんは、出来立ての村田和人のデビュー盤を差し出して、こう言った。
「彼は、山下達郎さんが一番可愛いがっている後輩なんです。アレンジや演奏も山下さんが自らやっているので、ぜひ聴いてみてください」
いただいたLPに針を落とすと、それまでに聴いたことのないような、フレッシュで伸びやかな歌声が流れ出した。
それが「電話しても」だった。作詞・作曲は村田、アレンジは山下。テレキャスターを山下が弾いて録音にも参加している。テンポのいい、ロックンソウル・ナンバー。
その時点では知らなかったのだが、実は筆者が村田の歌声を聴いたのは、それが初めてではなかった。
その2年ほど前、筆者が大学4年の時、就職活動で忙しい合間に、渋谷のヤマハでアマチュア・バンドのインストア・ライブを偶然観たのだが、それが村田が率いる「アーモンド・ロッカ」だった。
アマチュアとはいえ、メジャー・デビューしていないだけで、バンドの音のクォリティは、ほとんどプロと言ってよかった。
カントリー・ロックにハワイアン的なスパイスを加えたサウンド。カリフォルニアの空のように澄み切った声の、ヒゲ面のリードシンガーが、とても印象に残った。
そして、バンドの一番右手で生真面目な表情でテレキャスターを弾くメガネのギタリストがいて、それが現在筆者とも知己である中野新哉さんだった。
そんな不思議な縁があったことを「また明日」を聴いた当時は筆者はまるで知らなかったが、とても耳に馴染む村田和人の作り出すサウンドに、なんともいえぬ懐かしさを覚えたものだ。
歌詞も、恋愛に不器用な、(おそらく山下本人も投影されているであろう)シャイな青年の心情を見事に歌っていて、恋愛下手な当時の筆者もいたく共感したのを覚えている。
「WHISKY BOY」はそんな奥手な青年を代弁して、山下夫人となって間もない竹内まりやが作詞したナンバー。作曲は小野敏と村田、編曲は鈴木茂である。ちょっとオールド・タイミーなジャズっぽいアレンジ、コーラスがマッチしている。
それにしても、アレンジャーが複数、それも有名な山下と鈴木とは、新人としては豪華過ぎジャマイカ。
「想いは風に」は作詞・作曲が村田、編曲鈴木の、軽やかなテンポのポップ・ロック。
透明感あふれるサウンドにのせた、ポジティブな恋の讃歌。アーモンド・ロッカでもよく聴かれた、メロディアスなギター・ソロがいい。
「LADY SEPTEMBER」は個人的に好きなナンバーのひとつだ。パラシュート、AB’Sのキーボーディスト、安藤芳彦が作詞し、作曲は村田、編曲は山下。きめ細かなバッキング、コーラス、音響処理、どれをとっても正調ヤマタツ・サウンドだ。
切ない歌詞、そして情感たっぷりに歌う村田。ラブ・ソングとして、これ以上の完成度は望めないくらい。
「MARLAS」はA面ラスト、安藤作詞、村田作曲、鈴木編曲の、しっとりとしたラテン調のバラード。一日の最後を締めくくるにふさわしい、夢を見るように美しいナンバーだ。
B面トップは一転、ロックな村田が登場する。「GREYHOUND BOOGIE」だ。
作詞は新井正春、作曲は村田、編曲は山下。これはアーモンド・ロッカ時代から演奏していたナンバー。ついでに言うと「電話しても」も、同様である。
サザン・ロック風の、オールマンっぽいスライド・ギターを大きくフィーチャーしたサウンドがなんともカッコよい。
山下本人は滅多にこういうアレンジを自作にはしないけれど、実に達者にそれっぽくまとめている。脱帽である。
「波まかせ風まかせ」は村田自身によるデキシーランド・ジャズ風のアレンジがノスタルジックなナンバー。作詞は新井、作曲は村田。
オール・アメリカン・ミュージックのいいとこどり、みたいな心なごむ一曲である。なお、アルバムのラストには、歌詞抜き、コーラスのみのリプライズが加えられている。
「BE WITH YOU」も筆者のフェイバリット・ナンバーだ。安藤作詞、村田作曲、そしてなんとこの一曲だけだが、井上鑑が編曲!
なんと、3人目のアレンジャー登場である。ゴージャス過ぎるだろ(笑)。
このアレンジも最高だ。ラテン・テイストあふれるフュージョン・サウンドに、男女コーラス。
ハッピー・エンドな歌詞内容も、この曲が好きな理由。人生片思い、失恋ばかりじゃ、悲し過ぎるからね。
「終らない夏」は安藤作詞、村田作曲、鈴木編曲の、「夏男」「海男」村田のテーマ・ソングとも言える一曲。
全編を通して聴かれる、鈴木茂の大きくうねるようなギター・プレイがまことに素晴らしい。特にツイン・リードでキメるあたり、鳥肌ものである。
村田和人の恋愛観というよりは、ライフスタイルそのものを歌い上げたナンバー。
本当にナイス・ガイだった、村田という男は。
このアルバムの発売後1年を経て、筆者は村田和人と直に出会い、話を交わすことになる。
アーモンド・ロッカ時代のことも、その時に聞いた話である。
が、そういった話題はまた、日を改めて語ることにしよう。
いまはこの、デビュー盤を何度も聴き返して、村田のことを偲びたい。
<独断評価>★★★★☆