2023年3月16日(木)
#484 CHEAP TRICK「IN COLOR」(CBSソニー/Epic 25AP 728)
#484 CHEAP TRICK「IN COLOR」(CBSソニー/Epic 25AP 728)
米国のロック・バンド、チープ・トリックのセカンド・アルバム。77年リリース。トム・ワーマンによるプロデュース。
邦題「蒼ざめたハイウェイ」を持つこのアルバムは、本国に先駆けて日本でチープ・トリック(以下チープ)がブレイクするきっかけになった一枚だ。日本ではチャートの30位を記録している。全米73位。
リリース当時、筆者は大学一年。クラスメートとはロックの話をすることが多かったが、中でもチープは一番話題にのぼるバンドだったのを覚えている。
オープニングの「ハロー・ゼア」は1分40秒とごく短いロックンロール・ナンバー。
ジャック・ダグラスがプロデュースしたファースト・アルバム「チープ・トリック」では顕著だった、パンク・ロックっぽいラフな音作りが印象的だ。当時のコンサートでは、トップで演奏するのが通例の曲だ。
リード・ギターのリック・ニールセンの作品。チープの曲は、大半が彼の手によるものだ。
「ビッグ・アイズ」はギター・リフとコーラスを強調した、ハードでヘビーなロック・ナンバー。ニールセンの作品。
筆者が考えるに、チープの曲はおおよそ3つの要素に分かれると思う。
ひとつめは、ラフでパンクなサウンド。ふたつめは典型的なハード・ロック。そして、メロディアスでポップなスタイル。そして、曲によってその配分率も異なっている。
この「ビッグ・アイズ」のようにハード・ロックの影響が強い、重ための曲調は、実は彼ら自身が一番好んで演奏しているスタイルみたいだ。
このハードなサウンドをメイン・ディッシュにするか、それとも隠し味程度にしておくかどうかでアルバムの性格も大きく変わるし、売れ行きにも影響していく。
今回のプロデューサー、トム・ワーマンは後者を選んだと思われる。それにより、このアルバムは全体的に軽く、ポップな仕上がりとなって、日本のリスナーに強く支持され、チープの人気の基礎を築いたと言えるだろう。
「ダウンド」はニールセンの作品。粘っこい、ややスローなビートのロック・ナンバー。
ギターを強調した、ハードで深みのあるサウンドが印象的だ。そして、説得力のあるボーカルとコーラスが、ポップな味わいを添えている。
チープの人気は、女性ファンの場合はそのボーカル、ポップな曲とか、メンバーのキャラクターに対するものという感じがするが、男性ファンの場合はそのギター・サウンドへの支持が意外と大きい。
何十本ものギターを持ってご満悦な、永遠のギター小僧みたいなニールセンに、自分を重ね合わせるギターオタクも少なからずいたはずだ。
「甘い罠(I Want You to Want Me)」は、ノスタルジックでポップな曲調のナンバー。ニールセンの作品。シングル・カットされたものの、米国ではチャート・インしなかった。
日本ではスマッシュ・ヒットとなり、彼らの看板曲としてファンにも愛聴、愛唱された。コンサートでも必ずリフレイン部分はオーディエンスの合唱が入る。
のちにチープの初来日公演を収録した「チープ・トリックat武道館」(当初日本限定発売)が米国でも人気となり、そこからシングル・カットされたライブ・バージョンが全米7位の大ヒットとなったぐらいだから、もともとヒット性はある曲だったのだ。モータウン・ソウルにも通じるキャッチーな一曲。
「ユーアー・オール・トーク」はニールセン、ベースのトム・ピータースンの共作。
シンプルなリフを繰り返し、それにニールセンの攻撃的なギターが絡む。チープのハード&ヘビーな側面がフィーチャーされた一曲。
「オー・キャロライン」はニールセンの作品。
哀感の漂うメロディ、コーラス。リード・ボーカルのロビン・ザンダーの甘くもパワフルな声の魅力がよく表れたナンバー。
彼の力強いシャウトは、なんと言ってもチープの人気のみなもとだからね。
「今夜は帰さない」は「甘い罠」と並ぶ、本盤の人気曲。ニールセンの作品。
ギター・ハーモニクスによるチャイム音から始まる、スピーディなロックンロール。パワーにあふれたボーカルとコーラス、そしてギター・サウンド。これぞ、チープ・トリック!!
ライブでも、超人気だったのがうなずける。
「サザン・ガールズ」はニールセンとピータースンの共作。ミディアム・テンポのロック・ナンバー。
そのタイトル、歌詞、そしてコーラスのスタイルからして、間違いなく先輩バンド、ビーチ・ボーイズのパロディであり、またオマージュでもあるだろう。
ピアノ中心の前半から急転、テンポがあがってギター・サウンドに変化する中間部が面白い。こういう「細工(Trick)」を仕掛けてくるのが、いかにも彼ららしいではないか。
「カモン・カモン」はニールセンの作品。ポップなリフレインを持つビート・ナンバー。
ビートルズの強い影響を感じさせるメロディ、ハーモニー、そしてリズムだ。ツボをおさえたポップ職人のワザを感じさせる一曲。
こういうサウンドへの転換が、地味な売り上げだった前作から一転、アルバムセールスを高めた大きな要因だったのは間違いあるまい。
ラストの「ソー・グッド・トゥ・シー・ユー」はニールセンの作品。
エンディングにぴったりのナンバー。センチメンタルなメロディ・ライン、ザンダーの伸びやかなボーカル、泣かせるコーラス、歯切れのいいバック・サウンドと、すべて揃った一曲。シングルにしても問題ない出来ばえだ。
チープのメンバーらとしては、本作の音がやや軽いことを不満に感じていたようだが、その代償として彼らはメジャー・バンドとなるパスポートを獲得出来たのだ。そんな気がしてならない。
本国ではまだまだその存在を認知されていなかったが、後年の国内ブレイクも十分に予感させる、充実した内容だ。
チープ・トリックの数あるアルバムの中でも、彼らのポップ性を引き出したこのセカンドを、筆者は強く推したいと思う。
<独断評価>★★★★