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音盤日誌「一日一枚」#483 WILSON PICKETT「HEY JUDE」(Atlantic 756780375)

2023-03-15 05:53:00 | Weblog
2023年3月15日(水)



#483 WILSON PICKETT「HEY JUDE」(Atlantic 756780375)

米国のソウル・シンガー、ウィルソン・ピケットの9枚目のスタジオ・アルバム。69年2月リリース。リック・ホール、トム・ダウドによるプロデュース。

ピケットは41年アラバマ州生まれ。「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」「ダンス天国」「ムスタング・サリー」といったヒット曲で知られるシンガーだが、単にソウル、R&Bといった黒人音楽だけでなく、白人ロックも積極的にカバーしたことで、われわれロック・ファンにとっても無視できない存在だった。 

アルバム「ヘイ・ジュード」は、まさにその代表例と言える。

オープニングの「セイブ・ミー」はジョージ・ジャクソン、ダン・グリーアの作品。ジャクソンは「ダウン・ホーム・ブルース」「ワン・バッド・アップル」などで知られるシンガーソングライターだ。

曲調は典型的なサザン・ソウル。ホーンセクション、女声コーラスを従えて、余裕綽々の歌を聴かせてくれる。

次の「ヘイ・ジュード」は、言うまでもなくレノン=マッカートニーの作品。実質的にはマッカートニーの作詞・曲である。68年8月にビートルズのシングルとしてリリース、全米・全英1位を獲得している。

この曲をいちはやくカバーしたのが、本盤のバージョン。68年11月にレコーディングを行ない、年末にシングル・リリース。全米で23位、R&Bチャートで13位というスマッシュ・ヒットとなった。

この曲での聴きものはなんといっても、バック・バンドのギタリスト、デュアン・オールマンのプレイだ。

彼のオールマン・ブラザーズ・バンドとしてのデビューは69年11月。その前はおもにマッスル・ショールズでスタジオ・ミュージシャンとして活動していた。

後半のシャープなギター・ソロが話題となり、これにいたく惹きつけられたエリック・クラプトンが、新バンド「デレク・アンド・ドミノス」のレコーディングにゲストとして呼んだ逸話は、大抵のロック・ファンなら知っているはず。

ここではオールマンの、後の表芸であるスライド・ギターではなく、通常の指弾きでのプレイ。ストラトキャスターによるソリッドな音色がグッと来ます。

そしてもちろん、ピケットのワイルドなシャウトがビートルズとはまた違った、この曲のソウルフルな魅力を引き出している。

「バック・イン・ユア・アームズ」は前出のジョージ・ジャクソン、ラリー・チェンバースほかの作品。

ゆったりとしたテンポのソウルバラード・ナンバー。亡きオーティス・レディングの流れを汲む、切ない歌いぶりが心に残る。

「トゥー・ホールド」はアイザック・ヘイズ、デイヴィッド・ポーターの作品。ヘビーでファンキーなダンス・ナンバー。

ここでのオールマンのオブリガート・プレイは、ホントにカッコいい。ソウル系のギタリストなら、絶対真似したくなるはず。

「ナイト・オウル」はドン・コヴェイの作品。コヴェイは「マーシー・マーシー」「シー・ソー」などで知られるソウル・シンガー。

「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」を想起させる、明るくノリのいいナンバー。ピケットの思い切りのいいシャウトが耳を揺さぶってくる。

「マイ・オウン・スタイル・オブ・ラヴィング」は再びジョージ・ジャクソンの作品。

スティーブ・クロッパー風のギター・リフで始まる、リズムも快調な、MG’Sトリビュート的ナンバー。ここでのオールマンの、ファンキーなギター・プレイもごきげんだ。

「ア・マン・アンド・ア・ハーフ」はジョージ・ジャクソン、ラリー・チェンバースほかの作品。先行リリースのシングル曲だが、全米42位とイマイチの成績。

リフがいかにもな、ダンサブルなサザン・ソウル・ナンバー。

ノリは悪くないが、いまひとつ印象に残るメロディに欠けている。「ヘイ・ジュード」に比べると訴求力が弱いのは、致し方ないかな。

「シット・ダウン・アンド・トーク・ディス・オーバー」はピケットとボビー・ウーマックの共作。

ウーマックはギタリストとしても知られるシンガー。曲作りにもすぐれ、歌、ギターも一流。まさに「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的なひとり。

オルガンを生かしたファンキーなビートと、粘りのあるボーカルが楽しめる一曲。ダンス・チューンとして楽しめる。

「サーチ・ユア・ハート」は、ジョージ・ジャクソンの作品。上記シングル曲「ア・マン〜」のB面。

スローなバラード・ナンバー。ピケットの絞り出すような塩辛声が、恋の辛さを見事に表現している。

「ワイルドでいこう」は69年の映画「イージー・ライダー」の主題歌ともなった、カナダのロック・バンド、ステッペンウルフ68年5月リリースの大ヒット。全米2位。

キム・ワイルド、ローズ・タトゥー、ザ・カルトなどさまざまなアーティストにカバーされたが、もちろんピケットが一番乗りであった。

ピケットはこの曲をオリジナルのハード・ロック・スタイルからガラリと変え、自分の得意とする、ホーンをフィーチャーしたソウル・ナンバーに仕上げている。

ギターもマイケル・モナークからオールマンに置き換わることで、相当雰囲気が変化している。そのへんも聴きもの。

ラストの「ピープル・メイク・ザ・ワールド」は前出のウーマック作のバラード・ナンバー。

女声コーラスを従えて、思い入れたっぷりのシャウトを聴かせるピケット。思わず、聴き入ってしまう。

レコーディング・メンバーとしては、オールマン以外ではフレディ・キングのアルバムにも登場したベースのジェリー・ジェモット、ドラムスのロジャー・ホーキンス、ピアノのバリー・ベケット、オルガンのマーセル・トーマス、ホーンのジーン・ミラー、アーロン・ヴァーネルら、手だれの南部ミュージシャンで固められている。このあたりもポイントが高い。

アルバム自体もソウル・チャートで15位とまずまずの成績だったが、それよりもデュアン・オールマンという無名の才能あるギタリストをアメリカ中に、そしてエリック・クラプトンに紹介したという功績こそが、本盤の真の面目だろう。

アメリカン・ロック史に、少なくない影響を及ぼした一枚。何度でも聴き返したくなる。

<独断評価>★★★☆

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