2002年6月16日(日)
シルヴィ・バルタン「シルヴィ・バルタン・ベスト」(BMGジャパン BVCM-37009)
1.アイドルを探せ
2.悲しきスクリーン
3.いつでもあなたを
4.わたしを愛して
5.ジョニーはどこに
6.しあわせの2分35秒
7.あなたのとりこ
8.男の子のように
9.ズン・ズン・ズン
10.想い出のマリッツア
11.悲しみの兵士
12.愛のかたち
13.アブラカダブラ
14.恋人を探せ
15.哀しみのシンフォニー
16.悲しきジプシー
17.悲しき雨音
18.いとしき若者(デルタの夜明け)
19.ディスコ・クイーン(愛しのジョニー)
20.愛はジタンのかおり
「4月からフォーマットを変えて書きます」と宣言したこのコーナーだったが、「独断評価」がくっついた他は、ほとんど変わっていないことに気がついた。こりゃいかん。
当初は、もっと一回分を軽めにして、週最低三枚は取上げようというもくろみをしていたのだが、筆者の性分なのか、ついつい一枚へのコメントが長くなってしまい、「ライト化」計画は二週目にして頓挫してしまった。
ということで、仕切り直し。
今回から、思い切って簡潔な内容にしますので、なにとぞヨロシクね、皆さん。
さて、今回はぜんぜんブルースでない一枚。
(とゆーか、このコーナーは上の惹句にもありますように「ノン・ジャンル」を基本ポリシーに始めたんですから、文句いわないように、そこのヒト。)
最近、映画主題歌やCFソングに連続起用されたこともあって、人気再燃しているシルヴィ・バルタン。このベスト盤もバカ売れしているそうな。
1944年生まれ、おん年58才なれど、現在でもマイペースで歌手活動を続けているという。
さて、バルタンといえばウルトラマン、じゃなくって、なんといっても(1)。詞はC・アズナブール。
このデビュー曲に、彼女の魅力がすべて集約されているといっても過言ではない。
バルタンは歌唱力(声量・声域)で勝負するタイプの歌手ではなく、リズム感、ビート感覚の素晴らしさで抜きん出ているひとだ。
この(1)も、ドリフターズ=ベン・E・キングのあたりの色濃い影響が感じられるR&Bサウンドに、フランスならではの繊細にして優雅なストリングス・アレンジを絡ませ、その上にバルタンの、頼りなげながらフレッシュこのうえない歌声を乗せて、見事なフレンチ・ポップスの逸品に仕上がっている。
オフ・ビートなシャンソンの伝統とは一線を画した、新時代のハイブリッド・ポップス。60年代のバルタンは、そういうアメリカン・ポップスの「本歌取り」の手法で次々とヒットを生み出していく。
(2)、(4)、(5)、(6)、いずれもそうである。(4)はカントリー・ソングのリメイクだったり、(5)では結構ヘヴィーなR&Bだったり、(6)ではラグタイム風だったり。ポール・アンカ作の(3)などでは、慣れぬ英語詞にまでチャレンジしている。
現在清涼飲料水のCFでさかんにオンエアされている(7)も、フィル・スペクター風サウンドに録音されている一方、ブラス・アレンジには当時流行していたアメリアッチ(ハーブ・アルパートなどに代表されるメキシコ風サウンド)の強い影響が見られる。
レコード制作スタッフが、いかにアメリカ音楽を熱心に聴き込んでいたかが、うかがえる。
一方では(8)、(9)などのようにヨーロッパならではの味わいのある曲も。特に(9)は60年代末のカンツォーネ・ブームを象徴する大ヒット曲のカバー。
(10)、(12)もシャンソンの伝統の上にあるラヴ・バラード。でも、こういう曲ではあまりバルタンの良さは発揮されていない。これなら、ミレイユ・マチユーが歌ったっていいじゃん!って思ってしまう。バルタンの本領は、あくまでもきめ細かい表現を要求するバラードでなく、ビート感覚あふれるナンバーにあるのだ。
(11)は70年に日本でもヒットした、反戦メッセージを持った異色のナンバー。こういうビートの利いたナンバーのほうが断然いい。
70年代からは、世界的な流行もあって、ディスコ色が強くなっていく。(13)しかり、(14)しかり。(19)にいたっては、タイトルまでまんまである。
(15)のように、クラシックを引用したり(モーツァルトの交響曲)、(16)のようにソニー&シェールのヒットをカバーしたり、「企画モノ」にも積極的に取り組むようになる。
(17)(カスケーズのカバー)、(18)(タニヤ・タッカー、ヘレン・レディのカバー)もその一環といえよう。
唯一80年代に入ってからのヒット、(20)もカバーもの。シーナ・イーストンの「モーニング・トレイン」が原曲。
以後の彼女はヒット・チャートとは疎遠になる。が、やはり60年代の一連のヒットは、現在に至るまで人気が衰えることなく聴き継がれている。
そして21世紀の日本で、ブーム再燃。「アイドルを探せ」、「あなたのとりこ」時代の、キュートそのものの「永遠のアイドル」は、万人に思春期の甘酸っぱい想い出を、思い起こさせていくに違いあるまい。
<独断評価>★★★