2009年4月26日(日)
#75 オーシャン「Put Your Hand In The Hand」(The Buddah Box/Essex)
カナダのグループ・オーシャン、71年の大ヒット(全米2位)。日本では原題よりも邦題「サインはピース」で、あまりにも有名なあの曲だ。
この曲が出た頃、筆者は中学2年だったかな。とにかく、当時ものすご~く流行った。AMラジオではひっきりなしにかかっていた記憶がある。
で、いま考えてみれば、この曲が筆者にとって初めての「セカンド・ライン」体験だったように思う。
同系統の曲、ザ・バンドの「Upon The Cripple Creek」は69年発表のセカンド・アルバムに収録されていたから、そちらを先に聴いた可能性もないではないが、ザ・バンドなんておっさん臭いバンド、ボクらの間ではまったく流行ってなかったから、たぶん当時は聴いていない。やっぱり、「サインはピース」が、生まれて初めて聴いたセカンド・ラインだったのだろう。
もちろんその頃は「セカンド・ライン」という言葉すら知らなかった。ただただ、「なかなか新鮮な、かっこいいビートだな」と思っていただけだった。
その後、セカンド・ラインの曲で流行ったのはニール・セダカ(とエルトン・ジョンのデュエット)の「Bad Blood」だが、これは75年、筆者が高3のときのヒット。だいぶん後になってからである。
しかも、その時点でもまだ「セカンド・ライン」という言葉は知られていなかった。ようやくその言葉を覚えたのは、大学時代にリトル・フィートにハマったあたりからだ。
ということで、いまでは当たり前のように自分のレパートリーの中に取り入れられているセカンド・ラインも、こうやって長い時間をかけて、徐々に意識されていったわけだ。自分の音楽史において、この「サインはピース」は、実に記念すべき曲だということやね。
ここでオーシャンについて少し紹介しとくと、女性リード・シンガー、ジャニス・モーガンを中心とする5人組バンド。ヒットらしいヒットは「サインはピース」のみで、後は3曲ほどがビルボードの70~80位台に入っているだけである。
典型的な一発屋といえそうだが、実はこの「サインはピース」、彼らのオリジナルではなく、ソング・ライターが別にいる。
彼らと同じカナダ出身のシンガーソングライター、ジーン・マクレランである。
もともと彼はいまのフリーター達のようにさまざまな職業につきながら、セミプロとして音楽活動を続けていたが、70年前後、カナダのTV番組に出演するようになってから、大きくチャンスが広がった。
当時売り出し中の女性シンガー、アン・マレーと知り合い、彼女に「スノーバード」を提供したことで一躍注目され、キャピトルと契約、カナダのみならず米国でもデビューを果たす。
そして、オーシャンに提供したこの曲でいま一度、そのたぐいまれなるソングライティングの実力を証明したのである。
当時筆者は、雑誌などメディアの情報量不足ということもあって、そんな裏話をまったく知らなかった。が、とにかくこの曲については「いいものはいい」と感じていた。他のリスナーも、みんなそうだったのだと思う。だから、大ヒットとなった。
当時のレコード会社やラジオ局はこの曲をソフト・ロック、あるいはバブルガム・ロック的なものとして紹介していたという記憶があったけど、いま聴いてみると、実にしっかりとした骨太なサウンドなんである。
歌いかた、ハモのつけかたはいかにも白人的なカントリー・ロック路線なんだが、曲の底流にあるのは、セカンド・ラインの本質、ゴスペル・ミュージックそのものなんだと感じる。
それはやはり、作曲者であるマクレランのセンスによるところだろう。
「一発屋ヒット」というと、曲もチンケでつまらないものだという先入観があったりするが、必ずしもそういうものではない。全く無名のアーティストが出したホームラン級ヒットには、それなりのワケがある。
マクレランの作曲センス、ジャニスの声の魅力、バックの4人の確かな演奏力。この3つがそろったからこそ、この曲はすべての人々から熱狂をもって迎えられたのだろう。
ぜひいま一度、聴き直してみてほしい。