2002年10月27日(日)
ザ・ファーム「THE FIRM」(ATLANTIC 81239-4)
(1)CLOSER (2)MAKE OR BREAK (3)SOMEONE TO LOVE (4)TOGETHER (5)RADIOACTIVE (6)YOU'VE LOST THAT LOVIN' FEELING (7)MONEY CAN'T BUY (8)SATISFACTION GUARANTEED (9)MIDNIGHT MOONLIGHT
ザ・ファームのファースト・アルバム。85年リリース。
元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、元バッド・カンパニーのポール・ロジャーズが84年結成した、いわゆる「スーパー・グループ」、覚えていらっしゃるかたも多いことだろう。
このふたりのビッグ・ネームに加えて、トム・ジョーンズのバック、マンフレッド・マンズ・アースバンド、ユーライア・ヒープなどで活躍していたスキンヘッドのドラマー、クリス・スレイド、ジミー・ペイジがリスペクトするシンガー、ロイ・ハーパーのもとにいた若手ベーシスト、トニー・フランクリンという実力派プレイヤーふたりを加えて「ザ・ファーム」は誕生した。
前評判は華々しかったこのバンド、残念ながら、レコードでは大したセールスを上げられなかった。
ペイジ、ロジャーズ、双方の実績を考えれば、全米ナンバーワン・ヒットになってもおかしくなかったのに、実際にはベスト20にも入らずじまい。
彼らとしては「惨敗」の部類に入るだろう。
その後、翌年にはセカンド・アルバム「MEAN BUISINESS」をリリースするも、これまた不評で、前作を下回るセールス。
グループもあえなく、二作のみで解散の憂き目にあうことになる。
話題だけはダントツのスーパーグループが、なぜそのように売れなかったのか、そのサウンドから考察してみたい。
まずは、ペイジとロジャーズの共作、(1)から。
ミディアム・ファスト・テンポのファンキーなナンバー。ホーン・セクションが加わっているのが大きな特徴。
あえてギターでなく、サックスのソロを入れたりして、当時人気絶頂のホール&オーツをかなり意識しているふう。
続くはロジャーズの作品、(2)。これまた快調なミディアム・テンポの、8ビート・ナンバー。
ペイジのギターは、オーバー・ダビング、ディレイといったエフェクトがやたら使われていて、太く、厚みのある音。だが、繊細さに欠け、ZEP時代に比べるとあまり「いい音」という感じがしない。
バンド全体のアンサンブルも「すきまなく音で埋めた」という感じのサウンドで、トゥー・マッチな感じ。
ヴォーカルとバンドが、たがいに一歩も譲らず張り合っている印象で、要するに「ウルサイ」。
ZEPの持っていった「ハードだが、どこか隙間、ゆとりを感じさせる音」とは、だいぶん違う。
どちらが「すぐれたサウンド」かは何ともいえないが、好みの問題でいえば、断然このファームよりZEPの方が好みだ。
次の(3)は、ペイジとロジャーズの作品。「サムワン・トゥ・ラヴ」つーたかて、ヤードバーズのそれとは全然別曲ざんすよ。
こちらはかなり激しい調子のハード・ロック。後期のZEPのために書かれたといってもおかしくないくらい、ハード&へヴィな曲調。
ロジャーズはプラントに負けじと高音でシャウトし、ドラムのスレイドも、ボンゾばりのラウドなプレイを聴かせてくれる。
でも、地味頁氏はそれにくらべると、いまいち気合いが入っていないプレイで、トホホなんだよなぁ。
ZEPのヘタなレプリカのようで、正直いってあまり感心しない出来のトラック。
(4)は一転、アコギのカッティングから始まる、ミディアム・スローなロック。
ペイジとロジャーズの作品。前の3曲に比べると、サウンドにもゆとり、ひろがりは感じられる。
ポール・ロジャーズというヴォーカリストの本領は、アップ・テンポの曲よりはこういう曲やバラードにあると筆者は思っているので、このほうが耳にしっくりと来る。
ペイジではここでは、ストリング・ベンダー(テレキャスターの変種で、ボディにあるボタンを押すことで、スティール・ギターのような効果が得られる)を使っているらしく、うねるような、一風変わったフレージングを聴かせてくれる。
ふつうはカントリー・ロック系のギタリスト(アルバート・リー、クラレンス・ホワイトなど)が多用するストリング・ベンダーを、また違ったサウンドで自分流に使いこなしているあたり、いかにもアイデア・マン、ペイジらしい。
歌やギター以外では、ベースのトニー・フランクリンがかなりがんばっている。
このひとの弾くベースはたぶんフレットレスだと思うが、その強烈にうねりまくるグルーヴは、もう圧巻である。ジャコとはまたひと味違う、ロック・センスにあふれたプレイだ。
(5)はミディアム・ファスト・テンポのロック。シングル・カットもされた、ロジャーズの作品。
こちらでも、アコギを使ってサウンドに深みを出している。マイナーで始まり、メジャーに転調する曲構成。
リズムはあくまでも粘っこい。ペイジの奇妙な、ラジオドラマのSE風のギター・ソロが、なんとも「???」な感想を抱かせる。
シングルにするからには、この曲のようなサウンドがザ・ファームの基本路線なんだろうが、いまひとつピンとこない。
それは何故なんだろうとしばし考えてみたが、結局、リズム重視型(つまりそれはZEP型ということでもある)のバンドが、メロディをていねいに歌い上げていくタイプのシンガー、ロジャーズの良さをうまく引き立てることが出来ず、むしろ歌と演奏が拮抗し、ケンカさえしているためではないかと思う。
これは、メロディ重視型ではなくリズム重視型の歌い手、ロバート・プラントと一緒のときには、まず起こらなかった現象だ。
だから、サウンドが全体に「重ったるい」。(これはヘヴィ・ロックとかいうときのへヴィとは意味が違う。もったりしている、というニュアンスだ。)
すぐれたミュージシャンを一堂に集めれば、すぐれたバンドになるとは限らない。「食べ合わせ」というのもまた、あるのだ。
さて、後半の(6)へ参ろう。
これはいうまでもなく、ライチャス・ブラザーズの全米・全英ナンバーワン・ヒットのカヴァー。邦題は「ふられた気持ち」。ヒット・メーカー、バリー・マン、シンシア・ウェイル、フィル・スペクターの合作。
もちろん、皆さんにはホール&オーツによるカヴァー・ヴァージョンが、一番おなじみであろう。あまたあるポップス・チューンの中でも、名曲中の名曲。
で、このザ・ファーム・ヴァージョンはといえば、あまり出来がいいとはいえない。テンポがやや遅く、もったりとした感じの上、オリジナル・ヴァージョンやホール&オーツにはあった、デュオ・コーラスの魅力がここにはない。
残念ながら、先行の作品には遠く及ばない。
この選曲でもわかるように、ザ・ファームは、必ずしもハード・ロック一辺倒ではなく、アメリカン・ポップス、それもR&Bやソウルの系統の曲を歌って、アメリカ人に受けようという狙いを持ったグループでもあったのだが、いかにもこのメンツでは、ムリがあった。演奏が「重すぎる」のである。
続くロジャーズの作品、(7)はミディアム・テンポのバラード・ライクな一曲。
このアルバムでは一番メロディアスで、哀愁を帯びた曲調。アコギ・サウンドにエレキギターのハードなアレンジが加わって、いかにもドラマチックな構成。
ブルーズィな「ロジャーズ節」も健在で、3分半と短いわりにはよくまとまった、佳作。
こういうメロディ重視型の曲がもう少し入っていれば、セールスも違ってきたかもしれないなぁ。
(8)は、ペイジ=ロジャーズの共作。こちらはストリングス・アレンジを加えた意欲作。
サビの部分の、いささかエスニック(中近東)調の節まわしを聴くと、どこか後期のZEP、さらにはのちの「ペイジ=プラント」をほうふつとさせるものがある。
非ヨーロッパ音楽の面白さが味わえる、小味な一曲。
ラストの(9)は、9分以上にも及ぶ大作。こちらもペイジ=ロジャーズの共作。
静かなアコースティック・サウンドで始まり、たんたんと進むかと思いきや、ときおり激しいエレクトリック・サウンドが顔を出す。ストリングスやコーラスも総動員して、彩りにあふれた音世界が展開する。
ここではペイジのアコギ・プレイが出色。エレキでの不調ぶりにくらべると(笑)、それは際立つ。
こういうシンフォニックな構成の長編を、いともたやすくアレンジしてみせるあたり、ペイジの才能はただものではないと思ってしまうね。
という感じで、筆者的には、(6)を除く後半(アナログ盤でのB面)の出来がいいと思う。あくまでも個人的な意見だけどね。全体ではそのレベルを維持出来ていないのが、ちょっと残念だ。
凡百のアーティストの作品に比べれば、このアルバムだってそう駄作ではないが、アメリカ人の好むサウンドとは微妙にずれているのも事実。
たとえばホール&オーツのような「ヌケのよさ」がここには欠けている。ブラック・ミュージックにどっぷりハマっているように見えても、どこかで白人の(ネアカな)フィーリングをきちんと押さえていないと、白人リスナーは食指を伸ばさないのだ。
だから、いかにビッグ・ネームふたりを擁していても、好セールスにはつながらなかった。
なんともシビアな話だが、ショウ・ビジネスとはそういうもの。一作一作が勝負なのだ。
結論。「ネームヴァリュー、過去の実績だけではリスナーはレコードを買わない。あくまでもそのレコードが聴きたい音楽であるかどうかが問題なのだ。」
<独断評価>★★★☆