NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#387 フレディ・キング「Yonder Wall」(Cotillion)

2024-04-27 08:55:00 | Weblog
2024年4月27日(土)

#387 フレディ・キング「Yonder Wall」(Cotillion)





フレディ・キング、1970年リリースのアルバム「My Feeling for the Blues」からの一曲。エルモア・ジェイムズの作品。キング・カーティスによるプロデュース。

米国の黒人ブルースマン、フレディ・キング(1934-1976)については過去に何度も取り上げているが、まだまだ語り切れていない気がするので、またもピックアップしてみる。

フレディ・キングは1950年代半ばにレコードデビューしているが、当初は主にフェデラルレーベルからシングルを、そして60年代からはキングレーベルからアルバムをリリースしていた。

60年代末にアトランティック傘下のコティリオンレーベルに移籍、2枚のアルバムをリリースしている。これが共に完成度が高く、50年以上経った現在も名盤として聴き継がれている。

その2作目に当たるアルバム「My Feeling for the Blues」に収められているのが、本日取り上げた「Yonder Wall」である。

この曲はクレジットにもあるように、直接はエルモア・ジェイムズのカバーである。エルモア版のタイトルは「Look On Yonder Wall」。

61年12月にファイアレーベルより「Shake Your Moneymaker」のB面としてリリース、ともにエルモアが63年で亡くなる前の、最終期の代表曲となった。

しかし、多くのブルース・スタンダードと同様、この曲にも原型が存在する。それは、メンフィス出身のピアニスト/シンガー、ジェイムズ・ビールストリート・クラークが45年にリリースしたシングル「Get Ready to Meet Your Man」である。

タイトルこそ全然違うが、歌詞内容は、後々のバージョンとほぼ同じ。曲調はクラリネットをフィーチャーした、至ってのどかなもの。エルモア版の持つ、アッパーなテンションはそこにはない。

曲調だけでなく、メロディライン自体も大幅に改変されているので、本曲はエルモアによって新たな曲に生まれ変わったといっていい。

さて、フレディ版の「Yonder Wall」は、先日取り上げたキング・カーティスがプロデュースを担当しており、バック・ミュージシャンも彼のバンド、キングピンズのメンバーが参加している。例えば、ギターのコーネル・デュプリー、ペースのジェリー・ジェモツトがそうだ。

他のメンバーはキーボードのジョージ・スタッブス、ドラムスのケネス・ライス、トランペットのアーニー・ロイヤルをはじめとするボーン・セクション。のちにシンガーとしてもよく知られることになるダニー・ハサウェイがアレンジャー、キーボードとして加わっている。

フレディ・キングはこの曲を、いわゆるブルーム調のエルモア版より、ぐっとテンポを落としたスロー・ブルースとして歌っている。そのせいか、これもまたまるきり違った曲に聴こえる。

リズム、テンポが変われば、曲はその都度、新たな顔を見せるものなのだ。名曲は三たび装いを変える。

ジャケット写真は、ボーカルレコーディング中のキングの姿。スタジオの中で、ギターを持たずにじっくりと歌い込むキングの様子を捉えており、出色の出来ばえだ。

キングはもっぱらギタリストとしてクローズアップされがちだが、このアルバムでは歌い手のキングもしっかり見て(聴いて)欲しい、そういうことなのだろう。

そのために、このアルバムではキング本人のオリジナルは数曲に抑えて、TボーンやBB、レイ・チャールズ、ジミー・リード、ギター・スリムらが生み出したブルース・スタンダードのカバーを、メインディッシュとしてリスナーに提供している。

お馴染みの曲群も、フレディ・キングの歌とギター・プレイで料理すると、キングのコテコテな個性が滲み出てきて、彼ならではの味わいが感じられる。

フレディ・キング版「Yonder Wall」の、独自のアレンジ、解釈は、エルモア・ジェイムズによっていったん固定化してしまったこの曲の持つイメージを、解放してくれた。

かつては愛し合っていた、一組の男女の離別を歌ったうたには、このしみじみとしたスローブルースが、実はふさわしいのかも知れない。






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