2003年5月25日(日)
#163 ジョージ・ベンスン「ベスト・オブ・ジョージ・ベンスン」(Warner Bros. WPCR-473)
ジョージ・ベンスン、ワーナー・ブラザーズ時代のベスト・アルバム。95年リリース。
76年の「ブリージン」から、86年の「ホワイル・ザ・シティ・スリープス」に至るまでのアルバムから、厳選された14曲を収録している。
ベンスンといえば、ヴォーカリストというイメージが一般的には強いようだが、もともとはジャズ畑のギタリスト。
64年にレコード・デビューした当時は、もっぱら「ポスト・ウェス・モンゴメリー」という扱いだったと思う。
その後、ビートルズの「アビイ・ロード」のカヴァー・アルバムなどを出し、その中でヴォーカルもとったりして、次第にポップスの世界に接近。
意外に歌がうまいということが世間にも知られるようになり、ワーナーとも契約、ヴォーカル・アルバム「ブリージン」を出してみたら、これが予想以上にヒット。なんと全米ポップ・アルバム・チャートで1位を獲得する。
並行してCTIでジャズ・アルバムも出していくが、そちらとは比べものにならないセールスを記録するのである。
以来、95年までの在籍期間中に、ワーナーで13枚ものオリジナル・アルバムを出すに至る。
その後彼は、ジャズの世界に本格復帰、現在までGRP等で作品を発表し続けている。
そんな「二足のわらじ」な彼の、「流行歌手」時代が総括できる一枚なんである。
<筆者の私的ベスト3>
3位「THIS MASQUERADE」
ご存じレオン・ラッセル作の名曲。ベンスンのシンガーとしての地位を不動のものにしたヒット・ナンバーだ。「ブリージン」収録。
一番よく知られるカーペンターズ版よりは、気持ち遅めのテンポで、ディープな歌をご披露。
ピアノとストリングスの音色が実に美しい、洗練されたサウンドと、ベンスンのメロウかつソウルフルなヴォーカルが見事にカクテルされて、リスナーに心地よい酔いを提供してくれる。
これが売れないわけがない。シングルは全米ポップ・チャートで10位にランク・イン。
グラミー賞の最優秀レコードにも選ばれ、ベンスンの名声を一躍世界中に広めたのである。
ここで注目すべきは、ギターとスキャットのユニゾンという、難易度の高い「合わせ技」だろう。
トゥーツ・シールマンスの、ギターと口笛のユニゾン・プレイと並ぶ、トップ・ミュージシャンならではの名人芸だと思う。
これは、いかなスゴテク・ギタリストでも、そう簡単に真似の出来るものではあるまい。
2位「ON BROADWAY」
三枚目にしてライヴ・アルバムでもある79年リリースの「メロウなロスの週末(WEEKEND IN L.A.)」から。
ドリフターズの大ヒットのカヴァー。リーバー&ストーラー、マン&ウェイルという豪華なチームによる作品。
こちらも全米7位のヒットだったというから、当時の彼の人気がいかにすさまじかったかが、よくわかるだろう。
この曲でも、スキャット&ギターの超絶技巧を披露しているので、聴きのがせない。
ドリフターズの原曲よりテンポも早く、ファンキー度もさらにアップ、実にごキゲンなソウル・チューンに仕上がっている。
ベンスンのみならず、バックをつとめるキーボードのホルヘ・ダルト(アルゼンチン出身)、同じくロニー・フォスター、リズム・ギターのフィル・アップチャーチ、パーカッションのラルフ・マクドナルド、ベースのスタンリー・バンクス、ドラムのハーヴィー・メイスン、いずれも名うての巧者ぞろいで、聴きごたえは十分である。
1位「GIVE ME THE NIGHT」
80年リリースのアルバム「ギヴ・ミー・ザ・ナイト」のタイトル・チューン。
これも他アーティストの提供作品。マイケル・ジャクスンに「ロック・ウィズ・ユー」「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」等一連のヒット曲を書いたコンポーザー、「ブギー・ナイツ」をヒットさせた「ヒートウェイヴ」のリーダーでもあったロッド・テンパートンのナンバーだ。
キャッチーなファンク・ナンバーを得意とするテンパートンの生きのいいメロディを、これまたスゴ腕でアレンジ、プロデュースするのは、かのクインシー・ジョーンズ。もう、これだけでも、期待するなというのが無理だよね。
ベンスンはここでは、他の曲とは違って歌い込み過ぎず、飄々とした感じなのが面白い。でも、サビでは危なげなくソウルフルにキメてくれる。
ギター演奏はやや抑え気味、全体のアンサンブルに溶け込むような弾き方なのも、興味深い。
また、バックがものスゴく豪華なのも、ベンスンならでは。リー・リトナー、ハービー・ハンコック、リチャード・ティー、エイブ・ラボリエル、エトセトラ、エトセトラ。実力派女性シンガー、パティ・オースティンもバック・ヴォーカルで参加しているので、これも要チェキです。
とにかく、ベース・ラインがビンビン、腰にきます。ノリのよさで、一位にケッテーイ!
もちろん、他にもごキゲンな曲は一杯あります。「愛の幾何学(LOVE X LOVE)」しかり、「僕の愛を君に(I JUST WANNA AROUND YOU)」しかり、「キッス・イン・ザ・ムーンライト」しかり。ベンスンは声域も広く、どの曲も実にソツなく器用にこなしている。
とてもギタリストの「副業」のレベルではない。ギターを一切やめて、ヴォーカル一本に絞ったとしても、十分やっていけるレベル。
逆に、そういう「器用貧乏」さがいささか災いして、ギタリストなのかヴォーカリストなのか、どっちつかずになっている気もしないではないが、これはギター、歌、どちらでも勝てない才能のない人間のヤッカミというものだろう(笑)。
あっさりと「流行歌手」のポジションを返上して、今はジャズに専念している(歌はうたうが)彼だが、ヴォーカリストとして開花した76~95年は、まさに黄金の20年だったと思う。
声よし、曲よし、アレンジよし。これぞ、プロフェッショナル・ミュージック。違いのわかる「おとな」なひとには、ぜひのおススメである。
<独断評価>★★★