2006年1月8日(日)
#301 ウェス・モンゴメリー「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」(ALFA/A&M LAX-3092)
ウェス・モンゴメリー、晩年のアルバム。67年リリース。
ウェスがA&Mに遺した三部作の、二作目にあたる。
ひさしぶりに引っぱり出して聴くアナログ盤は、スクラッチ・ノイズだらけで閉口してしまうが、サウンドそのものは全く古びていない。まことにエヴァーグリーンな音なのだ。
ハーブ・アルパートとティファナ・ブラスのテーマ曲「風のうた」にはじまり、ラロ・シフリン1 1作の映画音楽「女狐のテーマ」に至るまでの10曲は大半がポップスのカバーもので、ウェスのオリジナルはブルース・スタイルの2曲のみ。徹底して、一般的なリスナーにも聴きやすい選曲で通している。
その中でもとくに有名な曲といえば、ホーギー・カーマイケル作の「わが心のジョージア」だろう。カントリー・フレーバーあふれたこの佳曲を、ウェスはどちらかといえばスロー・ブルース的なアプローチで自分のものとしている。
テクニックよりは、間を大切にした丁寧な演奏ぶり、訥々と歌うかのようなフレージングが、この曲に実にマッチングしているように思う。
あるいはバート・バカラックの大ヒット、「あなたに祈りを」。邦題としては「小さな願い」のほうが通りがいいか。ウェスのあのオクターブ奏法による演奏は、ディオンヌ・ワーウィックの高らかな歌声に匹敵する説得力を持っている。
軽やかでありながら、どこか内省的なものも感じさせる。ギターで「歌う」とはどういうことかの、見事なサンプルといえそうだ。
あまり知られていない楽曲にもいい演奏が多い。バラード「瞳をみつめて」のリリシズム。ボサ・ノバのカバー「ノウ・イット・オール」の軽妙なフレージング。世界最高のギタリスト、ウェスならではの仕上がりである。
そして一方、自身のオリジナルでは、深いブルース感覚を披露して、お汁粉の中に入れた塩のごとく、アルバム全体の味をひきしめていたりする。絶妙なバランス感覚なのだ。
ウェスのA&M時代のアルバムでは、みなさんご存じのようにアレンジをドン・セベスキー、デオダードが行い、大胆にストリングスを導入しているが、これが非常に仕事の質が高く、ウェスのジャズィな味わいを殺すことなく、見事にコンボの演奏と融合しているのだ。
決して凡百のイージー・リスニングに堕することなく、ピュア・ジャズとしても一級品の出来ばえである。
「アザーマンズ・グラス」のスウィンギーでスリリングな演奏、タイトル・チューン「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」(これもシフリン作曲の映画音楽)の思い入れたっぷりなメロディアスな演奏も印象に残る。
ゴリゴリのコンボ演奏時代のウェスも勿論大好きだが、音楽的な円熟を見せたA&M時代も悪くない。
本当に耳の肥えた、おとなのリスナーが聴いてこそ良さのわかる音楽、それがA&M時代の三部作なのだと思う。
<独断評価>★★★☆