2006年3月19日(日)
#311 TOTO「ハイドラ」(CBS/SONY CSCS 6019)
TOTOのセカンド・アルバム。79年リリース。彼ら自身およびトム・ノックスによるプロデュース。
前年、シングル「ホールド・ザ・ライン」、アルバム「TOTO~宇宙の騎士」をひっさげて華々しくデビューした彼らが、その人気を不動のものとした第二作。
もともとは西海岸の売れっ子スタジオ・ミュージシャンだった彼らの、高い演奏力と作編曲のセンス、クリエイティビティがいかんなく発揮されたアルバム。四半世紀を経た現在聴いても、そのクォリティの高さはハンパではない。
TOTOといえばよく知られるのが、そのレコーディング・スタイル。歌、コーラス以外のトラックは基本的に一発録りで、楽器のパートではツイン・リード・ギターのようなケースでもない限り、めったにオーバー・ダビングをしないという。たとえ、シンセのようなパートでも。
いくつものテイクを切り張りするようなレコーディング法が当たり前となった現在では、前時代的ともいわれかねないやり方だが、この方法のおかげで、彼らのレコードは、まことにライブ感が溢れるスリリングなものとなっている。
リハは念入りに行うが、本番は原則的にライブ同様、一発勝負で、小細工をしない。これは真に実力のあるミュージシャンのみに可能なワザといえよう。
また、TOTOというバンドは、リード・ボーカルとしてボビー・キンボールというメンバーを擁しているが、彼にすべておまかせではなく、他のメンバーも率先してリードをとる。このへんが、バンドの底力というか層の厚さの証しといえる。
なかでも、ギターのスティーヴ・ルカサーは、声のやたら甲高いキンボールとは対照的に、中音域の落ち着いた声で勝負するタイプだが、ある意味「裏リードシンガー」といってもいい活躍ぶりを見せている。
その一番顕著な例が、当アルバムの3曲目、スマッシュ・ヒットとなったバラード、「99」だろう。
これはTOTOの音楽的リ-ダーといえる、デイヴィッド・ペイチの作品。このうえなく美しいメロディをもつこのラブソングを、ルカサーは淡々と歌いこんでいる。
これが実にいい味わい。デビュー・ヒットの強烈な印象のおかげで、TOTOイコール「キンボールの激しくリキんだような歌声」と理解していた我々リスナーにとって、この一曲が新鮮なショックだったのを、昨日のことのように思い出しますわ。
キンボールのハイトーン・ボイスも、TOTOの個性の重要なポイントであることには違いないのだが、流行りものの音楽としては、いまいち万人ウケのする声でなかったような気がする。
それが証拠に「99」以降のヒット曲は、「ロザーナ」「アフリカ」のような、中音域を中心にしたものが多い。キンボールの声が前面に出ているのは「グッバイ・エリノア」くらいかな。
やはり、声の好みというのは重要な問題で、作曲者はまったく同じでも、リードシンガーが変わることで、バンドの人気が大きく変化するものなのだ。たとえば、シカゴとか、ヴァン・ヘイレンとかがいい例だろう。
TOTOも、いかにもプロフェッショナルっぽいキンボールより、素人っぽいルカサーやペイチの歌声のほうが、万人ウケしたということである。
超プロフェッショナルな、一分の隙もない演奏、でもどこかトーシロっぽい歌声、このへんのギャップが意外とよかったのかもしれないね。
さて、当アルバムは、わりとポップでキャッチーなところもあった前作に比べて、よりハードでプログレッシヴなサウンドになっている。
たとえばタイトル・チューンの「ハイドラ」しかり、二曲目の「St.ジョージ&ザ・ドラゴン」しかり。神話/伝説の世界にモチーフを求めたこの二曲は、特にハードでヘビーな仕上がりだ。
後半の「ホワイト・シスター」もその系統の一曲だろう。この手の曲は、おもにキンボールが、その張りのある高音で、バンド全体を牽引している。
一方、ファースト・アルバムからの流れといえそうな、ポップな味わいのナンバーもある。「ロレイン」「オール・アス・ボーイズ」がそうだ。後者とかは、クイーンっぽい雰囲気さえある。こういう曲では、キンボールのかわりにルカサー、ペイチが歌で活躍しているのが、興味深い。
ヒットシングル「99」には、クラシックの要素がふんだんに盛り込まれているが、「ロレイン」の前半部にもそういうアレンジがなされていて、一筋縄ではいかないものを感じる。
そうかと思えば、フュージョンぽいメロウなノリの曲もあったりする。「ママ」がそれだ。やたら凝ったリズム・ワーク、アレンジは、どう考えても並みのプログレ・ハード系のバンドからは出てこない音だ。
このへん、引き出しの多さでは他の追随を許さない彼らの、面目躍如といえそう。
現在もバリバリ活躍中のミドルエイジ・ハードロック・バンド、TOTO。その一番生きのよかった頃の演奏がここにあります。出来るだけ、ボリュームを上げて、楽しむべし。
<独断評価>★★★★