2023年2月15日(水)
#455 川本真琴「川本真琴」(SONY RECORDS SRCL 3946)
女性シンガーソングライター、川本真琴のデビュー・アルバム。97年リリース。石川鉄男、岡本靖幸によるプロデュース。
川本は74年福井生まれ。96年、シングル「愛の才能」でデビューし、30万枚を超えるヒットに。セカンド・シングル「DNA」もヒット。
そして翌年当盤がいきなりオリコン1位、ミリオンセラーとなり、一躍時の人となる。
その後、アルバム収録曲「1/2」がアニメ「るろうに剣心」のOPとして採用され、73万枚超えの大ヒット。
デビュー盤にてハット・トリックを決めることとなった。
ボーイッシュなルックスとは裏腹に、かなり高めの、いわゆるアニメ声で歌うという意表を突いたキャラクターで、唯一無二の存在となった。
そんな飛ぶ鳥を落とす時期の川本を、チェックしてみる。
メイン・プロデューサーの石川鉄男は、知名度こそイマイチだが、シンセサイザー・プレイヤー、そしてアレンジャーとして数多くのアーティストをバックアップしてきた人。
例えば渡辺美里、佐野元春、大江千里、大沢誉志幸、山下達郎、そして岡村靖幸。
そんな彼が目指したのは、ポップでありながら十分にロック・ビートにあふれたサウンドだった。
「10分前」はエスニック音楽風のバック演奏に乗り、川本の奔放なメロディ・センスが炸裂するナンバー。
PVでの彼女のイメージのせいか、川本はギター少女と思われがちだが、元々はピアノのひとなんだそうだ。
あの空を飛び回るような、自由過ぎるメロディ・ラインは、ピアノから生まれてきたのだと思うと、すとんと腑に落ちるね。
「愛の才能」は作曲・プロデュースがあの岡村靖幸ということで話題を呼んだナンバー。当時岡村はほぼ活動休止状態であったので、「岡村ちゃん復活!」というセンセーションを巻き起こしている。
その後、岡村は自身の活動を本格的に再開しているから、川本とのコラボはそのきっかけになったともいえる。
アコースティックおよびエレクトリック・ギターは岡村自身がプレイしている。ベースは有賀啓雄、ドラムスは山木秀夫。
早口で歌詞を詰め込みまくる「真琴節」がここでも全開で、聴くものを引き込む。韻を踏んだ歌詞も、ソウルフル。
黒人シンガー、プリンスを思わせる展開もあり、岡村ちゃんの洒落っ気を感じる。
そして、なんといっても、20代女子のホンネを吐露した川本の歌詞がいい。女性リスナーにも支持が高いのも納得。
「STONE」はロックバンド、SPARKS GO GOをバックに迎えたナンバー。
ヴァン・ヘイレンばりのハード・ロック・サウンドに、アニメ声が乗っかるという、トンデモなマッチング。でも、まったくミスマッチ感はない。
むしろ、これぞポップだ! そしてロックだ!
「DNA」はサンバ・ビートにアレンジされたナンバー。
明るく、ダンサブルでポップな曲調。完璧なサビ。
シングル・ヒットしないほうがおかしいくらいの出来ばえだ。
「EDGE」はピアノをフィーチャーした、英国バンド、クイーンを意識しまくりのナンバー。
ブライアン・メイそっくりのギター・サウンドは、名手佐橋佳幸によるもの。再現度たけーな。
ダークでメンヘラなムードが、アルバム中では異彩を放っている、ゴシック・ロック。
「タイムマシーン」は、歌詞が切ないバラード・ナンバー。
大人っぽいフュージョン・サウンド。歌い方も、いつもの黄色い声を抑えてしっとりとした感じ。
これもまた、川本真琴の世界なのだ。
「やきそばパン」は歌詞がひたすらユーモラスな、ビート・ナンバー。
サイケデリックなギター・サウンドが60年代後半のムードだ。
「LOVE&LUNA」はその「やきそばパン」からシームレスにつながるソウル・ナンバー。
この曲、なんとドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」をまんま引用したメロディから始まるのだ。
「そんな曲まで知ってたの、お嬢さん?!」と思わず問い詰めたくなる。
おまけにバックのフルートは、まるでハービー・マン。完全に60年代ソウルのノリ。
おっさんリスナーをもニヤリとさせるアレンジ、ナイス過ぎます。
「ひまわり」はフォーク・ロックなナンバー。転調を巧みに使った構成は、きちんと作曲を学んだ者ならではのワザだなと思う。
単に思いつきだけでは、ひとつの曲としてこうもうまくまとまらない。感性と技術、両方を持つ川本にして初めて成しうるものだ。
ラストはビッグ・ヒット「1/2」で締め。
この曲、キャッチーなフィル・スペクター的なサビばかりがクローズアップされがちだが、そこに至るまでの複雑なメロディ・ラインも実にスゴいのだ。
よくこんな音選びが出来るもんだなと思うけれど、それ以上にスゴいのは、そんな奇抜なメロディを現場でパーフェクトに歌ってみせる、彼女の歌唱力なのだろうな。
終盤のファンクな展開も、なかなかカッコいい。
若いにもかかわらず、音楽の引き出しはとてつもなく多い川本と、年長の手だれのミュージシャンたちが組んで生み出したポップ・ワールド。
ずば抜けた才能というのは、いつ、どこから現れてくるか、わからない。
でも、本当の本物が出てくれば、同じく才能を持つ人たちがその才能を必ず察知して、高みに引き上げてくれるものだ。
川本真琴も、岡村靖幸、石川鉄男という強力なサポーターを得て、その才能を開花させることが出来た。
この一枚を聴くと、才能を見いだす「伯楽」の存在がいかに重要であるかが、よく分かる。
<独断評価>★★★☆
女性シンガーソングライター、川本真琴のデビュー・アルバム。97年リリース。石川鉄男、岡本靖幸によるプロデュース。
川本は74年福井生まれ。96年、シングル「愛の才能」でデビューし、30万枚を超えるヒットに。セカンド・シングル「DNA」もヒット。
そして翌年当盤がいきなりオリコン1位、ミリオンセラーとなり、一躍時の人となる。
その後、アルバム収録曲「1/2」がアニメ「るろうに剣心」のOPとして採用され、73万枚超えの大ヒット。
デビュー盤にてハット・トリックを決めることとなった。
ボーイッシュなルックスとは裏腹に、かなり高めの、いわゆるアニメ声で歌うという意表を突いたキャラクターで、唯一無二の存在となった。
そんな飛ぶ鳥を落とす時期の川本を、チェックしてみる。
メイン・プロデューサーの石川鉄男は、知名度こそイマイチだが、シンセサイザー・プレイヤー、そしてアレンジャーとして数多くのアーティストをバックアップしてきた人。
例えば渡辺美里、佐野元春、大江千里、大沢誉志幸、山下達郎、そして岡村靖幸。
そんな彼が目指したのは、ポップでありながら十分にロック・ビートにあふれたサウンドだった。
「10分前」はエスニック音楽風のバック演奏に乗り、川本の奔放なメロディ・センスが炸裂するナンバー。
PVでの彼女のイメージのせいか、川本はギター少女と思われがちだが、元々はピアノのひとなんだそうだ。
あの空を飛び回るような、自由過ぎるメロディ・ラインは、ピアノから生まれてきたのだと思うと、すとんと腑に落ちるね。
「愛の才能」は作曲・プロデュースがあの岡村靖幸ということで話題を呼んだナンバー。当時岡村はほぼ活動休止状態であったので、「岡村ちゃん復活!」というセンセーションを巻き起こしている。
その後、岡村は自身の活動を本格的に再開しているから、川本とのコラボはそのきっかけになったともいえる。
アコースティックおよびエレクトリック・ギターは岡村自身がプレイしている。ベースは有賀啓雄、ドラムスは山木秀夫。
早口で歌詞を詰め込みまくる「真琴節」がここでも全開で、聴くものを引き込む。韻を踏んだ歌詞も、ソウルフル。
黒人シンガー、プリンスを思わせる展開もあり、岡村ちゃんの洒落っ気を感じる。
そして、なんといっても、20代女子のホンネを吐露した川本の歌詞がいい。女性リスナーにも支持が高いのも納得。
「STONE」はロックバンド、SPARKS GO GOをバックに迎えたナンバー。
ヴァン・ヘイレンばりのハード・ロック・サウンドに、アニメ声が乗っかるという、トンデモなマッチング。でも、まったくミスマッチ感はない。
むしろ、これぞポップだ! そしてロックだ!
「DNA」はサンバ・ビートにアレンジされたナンバー。
明るく、ダンサブルでポップな曲調。完璧なサビ。
シングル・ヒットしないほうがおかしいくらいの出来ばえだ。
「EDGE」はピアノをフィーチャーした、英国バンド、クイーンを意識しまくりのナンバー。
ブライアン・メイそっくりのギター・サウンドは、名手佐橋佳幸によるもの。再現度たけーな。
ダークでメンヘラなムードが、アルバム中では異彩を放っている、ゴシック・ロック。
「タイムマシーン」は、歌詞が切ないバラード・ナンバー。
大人っぽいフュージョン・サウンド。歌い方も、いつもの黄色い声を抑えてしっとりとした感じ。
これもまた、川本真琴の世界なのだ。
「やきそばパン」は歌詞がひたすらユーモラスな、ビート・ナンバー。
サイケデリックなギター・サウンドが60年代後半のムードだ。
「LOVE&LUNA」はその「やきそばパン」からシームレスにつながるソウル・ナンバー。
この曲、なんとドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」をまんま引用したメロディから始まるのだ。
「そんな曲まで知ってたの、お嬢さん?!」と思わず問い詰めたくなる。
おまけにバックのフルートは、まるでハービー・マン。完全に60年代ソウルのノリ。
おっさんリスナーをもニヤリとさせるアレンジ、ナイス過ぎます。
「ひまわり」はフォーク・ロックなナンバー。転調を巧みに使った構成は、きちんと作曲を学んだ者ならではのワザだなと思う。
単に思いつきだけでは、ひとつの曲としてこうもうまくまとまらない。感性と技術、両方を持つ川本にして初めて成しうるものだ。
ラストはビッグ・ヒット「1/2」で締め。
この曲、キャッチーなフィル・スペクター的なサビばかりがクローズアップされがちだが、そこに至るまでの複雑なメロディ・ラインも実にスゴいのだ。
よくこんな音選びが出来るもんだなと思うけれど、それ以上にスゴいのは、そんな奇抜なメロディを現場でパーフェクトに歌ってみせる、彼女の歌唱力なのだろうな。
終盤のファンクな展開も、なかなかカッコいい。
若いにもかかわらず、音楽の引き出しはとてつもなく多い川本と、年長の手だれのミュージシャンたちが組んで生み出したポップ・ワールド。
ずば抜けた才能というのは、いつ、どこから現れてくるか、わからない。
でも、本当の本物が出てくれば、同じく才能を持つ人たちがその才能を必ず察知して、高みに引き上げてくれるものだ。
川本真琴も、岡村靖幸、石川鉄男という強力なサポーターを得て、その才能を開花させることが出来た。
この一枚を聴くと、才能を見いだす「伯楽」の存在がいかに重要であるかが、よく分かる。
<独断評価>★★★☆