2007年9月8日(土)
#11 エスター・フィリップス「Use Me」(Anthology/Import)
#11 エスター・フィリップス「Use Me」(Anthology/Import)
48才の若さで84年に亡くなった、実力派女性シンガー、エスター・フィリップスがビル・ウィザーズの作品をカバーしている。これが実にいい。
エスターといえば、13才にして少女歌手、リトル・エスター・フィリップスとしてデビュー。以来、あらゆるジャンルの曲を歌いこなしてきた、プロ中のプロ。日本でいえば、美空ひばりに匹敵するような存在やね。ビートルズ・ナンバーをカバーした「And I Love Him」なんてヒットもある。
彼女は、その特徴ある顔立ちからして、いかにもアフロ・アメリカン。声も個性的で非常に粘っこく、万人向きではないが、はまると病み付きになりそう。たとえば妙に白人化してしまったディオンヌ・ワーウィックとかシュープリームスあたりなどとは対照的に、あくまでも黒人ならではのセクシーさをアピールし続けたひとである。
しかるに、ファン数はけっして多くないが、その分、熱狂的な「濃ゆ~い」ファンの占める率が高いというのも事実。そんな中のひとりが、かの永井ホトケさんだったりする。
ホトケさんと彼女とのエピソードは、彼の著書「ブルーズ・パラダイス」にて語られている。
それによると、エスターは、ホトケさんが彼女の歌を熱狂的に好きだという感情を、一女性としての彼女が好きだということとして受け取ってしまい、困惑していたようだ。
ということで、まるで映画「ディーヴァ」の女性オペラ歌手とファンの郵便配達夫との関係のようなエピソードが、なんとも微笑ましい。
でも、別にどちらだってええんとちゃいますか。「彼女の歌が好き」イコール「彼女が好き」、そういうことになっても。
そのくらい、エスターの歌には、男心をひきつけてやまない、エモーショナルな魅力がある。お上品なだけの砂糖菓子ポップスしか聴いたことない、おぼっちゃま君たちには耳の毒なくらい、強烈な魅力が。
それは、この一曲を聴くだけでわかるはず。レコーディング後、生前にはリリースされず、1990年コロムビアのベスト盤ではじめて発表されたようだが、彼女の長いキャリアの中でも、格別の出来映えだと思う。
なんといっても、この曲での彼女のブルース・フィーリングはハンパじゃない。これを聴いてしまうと、他のブルース・ウーマンたちなど、小便臭い子供に思えてくるに違いない。心して聴いとくれ。