NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#332 ホームシック・ジェイムズ「MY HOME AIN'T HERE - THE NEW ORLEANS SESSIONS」(FEDORA FCD 5033)

2022-10-12 05:22:00 | Weblog

2006年10月22日(日)



#332 ホームシック・ジェイムズ「MY HOME AIN'T HERE - THE NEW ORLEANS SESSIONS」(FEDORA FCD 5033)

AMGによるディスク・データ

ホームシック・ジェイムズの一番最近のアルバム。2004年リリース。クリス・ミラーによるプロデュース。

ホームシック・ジェイムズ。このひと、筆者はけっこう好きである。ギターも、歌も。

1910年、テネシー州サマービル生まれの、おん年96才。現役ブルースマンとしては最高齢のひとりである。

不世出のブルースマン(ワタシがこういうほめ方をすることは滅多にないからね)、エルモア・ジェイムズのバックバンド、ブルームダスターズに在籍。エルモアとは従兄弟の関係だそうだが、バンドのサイドギターをつとめ、エルモア死後はハーピスト、スヌーキー・プライアーなどと組んで活動していた。

エルモア同様、スライドギターを得意とするが、その持ち味は、都会的なエルモアと比べて、ぐっとひなびた、ダウンホームなもの。

歌ははっきりいってアマチュア・レベルで、上手いとは到底いいがたいが、ブルースが洗練されて都会的な音楽になる前の、原初的な味わいを持っているのだ。

いってみれば、ブルースの歴史の生き証人、というかブルースの歴史そのもののような人である。

そんな彼の最新作は、長年の付き合いがあり、親子同然に親密なギタリスト、ジョン・ロング(もちろんホームシックが父、ジョンが息子ね)、そしてニューオーリンズのドラマー、クリス・ミラーを加えての、ベースレス編成によるセッション。

エコーなど録音後の加工処理をほとんどせず、いかにもスタジオで録音したまんま、って感じのナマなサウンドに仕上がっている。

さて、そのサウンドはといえば、さすがに御大、トシがトシなので、歌の方はかなりヤバいです(笑)。

もともと歌うというよりは叫ぶ、がなるといったボーカル・スタイルで、滑舌のよいほうではなかったのですが、本盤ではさらにお年もあいまって発音のほうが、かなり怪しいのです。歌詞の半分は、聴き取り不能(苦笑)。

熱心なファンでもなければ、ちょっと聴いててしんどいかな。でも、筆者的には、嫌いな歌じゃない。たとえていうなら、ロリー・ギャラガーの歌を、さらに拙く、素人っぽくした感じ。

曲目としては、オリジナルが7曲(といっても、おなじみの「クロスロード」も彼の曲ということになっちゃってますので、実質6曲かな)、エルモアのカバーが2曲、「プリーズ・セット・ア・デート」と「ガッタ・ムーヴ」。あと1曲はジミー・リードのヒット曲、「ユー・ドント・ハヴ・トゥ・ゴー」。曲調は、スロー、ミディアム、アップテンポと、いろいろやってます。

演奏は、ジョンとクリスがしっかりとしたビートを刻んでいるので、思ったほど、ハラハラドキドキさせるような展開はない。たまにコードチェンジがちょっと危なくなるけど(笑)、明らかに外したような音は少なく、とても94才のご老体が弾いているとは思えない。

ベースレス、エレキギター2本なので、サウンドのバランスは大丈夫なのかいなと心配される向きは多いと思うが、意外とそのへんはうまくいっている。ジョン・ロングの低音弦主体のリズム・ギター・プレイがなかなか巧みで、ベースのいない部分もきちんと埋めてくれているのだ。

ホームシックのスライドも、全盛期(例を上げるなら、プレスティッジの「BLUES ON THE SOUTH SIDE」あたりね)ほどのプレイではないものの、割りとしっかりしている。

特にそのコード・プレイでの煌めくような、あるいはさざめくような「響き」には、彼ならではのものを感じる。

たった一音聴くだけでも、「あ、ホームシックだ」とわかるような、そういう個性が健在なのである。

本盤を聴いてはっきり言えるのは、ホームシック本人が、歌うこと、スライドを弾くことを心から楽しんでいるということ。

そうでなけりゃ、90代になるまで現役でプレイなどしないでしょ。

音楽の完成度とか、演奏上のミスの数とか、そういった観点でいえば、決して高得点をつけられる一枚ではないけど、生涯ミュージシャンであり続けるのが可能であることを証明した、貴重な「記録(レコード)」でありますよ、これは。

死ぬまでギターと歌を愛する、こういうイカしたチャンジーに筆者もなりたい。心底そう思います。

<独断評価>★★★



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