NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#92 リチャード・P・ボウルズ「ACCESS DENIED」(GROWLIN BARE GB106)

2022-02-14 05:11:00 | Weblog

2002年3月17日(日)



リチャード・P・ボウルズ「ACCESS DENIED」(GROWLIN BARE GB106)

(1)AIN'T GOT THE TIME

(2)THERE'S A PARTY GOING ON

(3)DOWN ON THE BAYOU

(4)IF YOU HAVEN'T PLAYED IN TEXAS(YOU HAVEN'T PLAYED THE BLUES)

(5)SHE'S NOT YOU

(6)HIGHWAY 61

(7)KEEP ON FLAPPIN' YOUR JOES

(8)UP ON CROWLEY'S RIDGE

(9)TELL ME WHAT YOU LOVE ME

(10)RIDIN' WITH THE KING

(11)A ROSE IS A ROSE

(12)OMAHA RISIN'

さて、今日は「ミスティック・シティ・マントラ」に続くザ・ソウルズの新作。

愛用のオヴェイションのギター・ケースを携えたボウルズ自身が、「故障中」の男性トイレの前で「参った」という表情をしているジャケットがユーモラスな本作、前作は「都市のブルース(憂鬱)」をテーマにした少し重めのコンセプト・アルバムだったのとは対照的に、もっと軽めのノリに仕上がっている。

ここでちょっと、リチャード・P・ボウルズについて、その経歴を紹介しておきたい。



ボウルズは52年4月14日生まれだから、今年50歳。(写真左)

オハイオ州コロンバスに生まれ、以来ずっとそこを離れずにいたが、95年にコロラドに移っている。

9歳にしてギターを始め、10代にして「モズビーズ・レイダーズ」なるプロのバンドに参加、18歳で地元の高校を卒業。

以後、コロンバスを拠点に、さまざまな都市でライヴ活動を行うようになる。

85年には地元の店「ドルフィン・ラウンジ」で、月曜日にブルース・ジャム・セッションを主宰するようになる。

現在のバンド「ザ・ソウルズ」を結成する前には、「アンダーグラウンド・アトモスフィア」「「バックスキン」「シュガー・アンド・スパイス」「スチュードベイカーズ」「パラダイス・アイランド」といった地元バンドで活躍している。

その実力のほどは、B・B・キング、ウェイロン・ジェニングス、ケニー・ロジャース、マーサ&バンデラス、チャイ・ライツ、オハイオ・エクスプレス、ウルフマン・ジャック、ドクター・フックといった、ジャンルを超えたさまざまな大物アーティストのオープニング・アクトに出演してきた経歴からも、十分うかがえるだろう。

いってみれば、アメリカのローカル・アーティストの一典型。

メジャー・レーベルからこそデビューしてはいないが、ローカル・レーベルから何枚もアルバムを出し、地元ではなかなかの人気をほこっているのである。

これまでにリリースしたアルバムは「WHITE MEN'S BURDEN」(88年)、「FINAL PAGES」(94年)、「PIECES FROM ECLIPSE」(98年)など。

なかには「ミスティック~」のように、かなりコンセプトに凝ったり哲学的な歌詞のものがあったりと、従来の「わかりやすい」ブルースとは一線を画していたりするが、この「アクセス・ディナイド」は比較的ポップな内容だといえそうだ。

まず(1)はファンク・ブルース。「ミスティック~」でもよく聴かれた、エッジ感のあるギター・トーンが楽しめる。

もちろん、彼のソウルフルな歌声も。

(2)はアップテンポのブルース。ギターはクリーン・トーンで、こちらは黒人ブルース度は高め。80%くらいか?

パワフルなスライド・ギターで始まる(3)は、逆に白人ロック度80%くらいのナンバー。

ドゥービーズか?とまごうばかりの、正調アメリカン・ロック。

アーシーな世界を歌った歌詞もごキゲンだし、メンバーのひとり、パトリック・マクラフリンのスライド・ギターの粘っこい音もカッコいい。

かと思えば、スロウ・ブルースの(4)では黒人ブルース度全開、オーティス・ラッシュばりの歌声を聴かせてくれる。

ギターのほうは、テキサス・ブルースマンの代表、SRVが乗り移ったかのようなエネルギッシュなプレイ。弾きまくりとはこのことである。

「テキサスでプレイしなきゃ、ブルースをプレイしたっていえねえぜ」と大見得をきってくれる。いやー、実に痛快。

(5)も、ミディアムスローのブルース。黒く濃い路線が続く。この曲もヴォーカルの出来がなかなかよい。

マット・ショッツによるテナー・サックスが、サウンドにさらに厚みとブルーズィな雰囲気を加えていて、ナイス。

(6)は、もちろんボブ・ディランの曲とは全然関係ない、マイナー・ブルース。リフがなにやらヴェンチャーズ・ライクなサウンド。

ご丁寧にトレモロやらテケテケ音(!)まで入ってますが、色モノふうには聴こえないのがフシギ。

(7)は女性シンガー、ベティ・ローデンの歌をフィーチャーしたナンバー。

白人シンガーなのであろうが、彼女の歌がソウルフルでなかなか聴かせる。

ボウルズはお得意のマウスハープでバックアップ。このアルバムではいちばん素朴な味わいのある一曲だ。

(8)はふたたびパトリックのスライド・ギターを前面に押し出した、ロックな一曲。

ボウルズが詩を朗読し、バックに男女のコーラスを配し、ユニークな音の実験を試みている。

(9)ではふたたびブルース路線で勝負。ウォーキング・ベース、ピアノ、ハモンド・オルガンのノリのいいサウンド。

「愛しているといってくれ」とストレートに求愛する定番系ソング。ソリッドでシャープなギターの音がいい。

(10)は図太いギターの音がウリの、テキサス系ブルース・ロックな一曲。マイナーの泣き節が文字通り、泣かせます。

ちなみに、同じタイトルの曲がエリック・クラプトンとB・B・キングの共演盤にあるが、まるで別の曲なので、念のため。

(11)は、他とはかなり趣きを異にする、しっとりとしたバラード。ジャズィーなサックス・ソロをフィーチャーし、大人向けのメロウな音作りをしている。

ブルースやロックの枠にしばられず、多様な曲作りをするボウルズの「新境地」といえそうだ。

ラストの(12)は、しめくくりにふさわしく、快調なロックン・ロール。

旅先の土地の名を歌に折り込む。各地を演奏して回る彼らしいナンバーではなかろうか。

さて、こうやって通して聴いてみると、前作でもかなり「音のゴッタ煮」的な性格は見られたが、本作ではさらにその傾向は進んでいるように感じられる。

(3)のような白人ならではのロック、(8)や(11)のような明らかな非ブルース路線の一方で、(2)や(4)や(7)などでは、あくまでもブルースにこだわる姿勢も捨ててはいない。

オール・アメリカン・ミュージックをカバーするということでは、CCRの精神的継承者ともいえそうな「ザ・ソウルズ」。

彼らがこれだけの実力を持ちながら、いまだに全国区登場をしていないというのも、スゴいことだ。

改めて、アメリカのプロ・ミュージシャンの「層の厚さ」を感じる。

地方に行けば、このくらいの実力を持ったローカル・ミュージシャンがゴロゴロしているわけだから。

いやー、本場恐るべし。

とにかく、聴き応え満点の二枚。「アメリカ」な音が、めいっぱい楽しめる。

素晴らしいお土産をくださった海老原康弘さん、本当にありがとうございました!


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 音盤日誌「一日一枚」#91 リ... | トップ | 音盤日誌「一日一枚」#93 ダ... »
最新の画像もっと見る