NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#91 リチャード・P・ボウルズ「THE BLUES GURU'S MYSTIC CITY MANTRAS 」(GROWLIN BARE GB103)

2022-02-13 05:11:00 | Weblog

2002年3月16日(土)



リチャード・P・ボウルズ「THE BLUES GURU'S MYSTIC CITY MANTRAS 」(GROWLIN BARE GB103)

(1)CAT IN THE STREET

(2)AIN'T NO WAY

(3)MYSTIC CITY BLUES

(4)SUNRISE IN EAST CHICAGO

(5)BROADWAY SHUFFLE

(6)CITY SOUL

(7)ROCK THIS HOUSE

(8)BED FULL OF BLUES

(9)IN THE HEAT OF THE NIGHT

(10)THAT'S HOW MUCH I LOVE YOU

(11)HE USED TO BE LIKE YOU

(12)HEY HEY HEY

(13)10TH STREET VICTORY MISSION

(14)RIDE THAT TRAIN

(15)ANYWHERE YOU ARE IS CHICAGO

先日、私の知人、えびさんこと海老原康弘さんが帰国なさったが、彼よりアメリカのお土産として二枚のCDをいただいたので、このページでご紹介したいと思う。

ともにリチャード・P・ボウルズという、オハイオ州出身の白人シンガー/ギタリストが率いる「ザ・ソウルズ」というバンドのアルバムである。

まずは98年リリースの「ミスティック・シティ・マントラ」という一枚から。

(1)をかけると、タイトなバンド・サウンドに乗ったSRVばりのヴィヴィッドな音色のギター・ソロ、そして気合いの入ったハスキーなシャウトが耳に飛び込んでくる。

これぞ、リチャード・P・ボウルズそのひとのプレイである。

曲はマイナー・ブルース(オリジナル)。でもSRV&ダブル・トラブルをほうふつとさせる、かなりロック色の強いアレンジ、グルーヴなのが、いかにも今様ブルースという印象。

音色はもちろん、ギター・フレーズの端々にも、SRVの影響はかなり感じられる。

この(1)をはじめ、すべての曲は彼自身のオリジナル。次の(2)はスピーディなシャッフル・ナンバー。

よくスウィングするウォーキング・ベースにのって、フレディ・キングの「ハイダウェイ」風の演奏を聴かせてくれる。

ボウルズの歌声は、かなりしゃがれていて、しかも声域があまり広くないので、勢い「がなる」ような歌い方になりやすく、いわゆる「いい声」「上手い歌」とはいえないが、なによりも強烈なガッツが感じられ、独特の「味」がある。

聴きこめば、けっこう「クセ」になるタイプの歌声といえそう。

(3)はミドル・テンポのブルース。でも、フェイザー処理をしたかのようなギターの音色が、ロックっぽい。

「ブルースのギターはどうもペナペナな音が苦手で…」とおっしゃるロック派のリスナーにも結構聴きやすいのでは。

(4)は典型的R&Bチューンという感じの、スロウ・バラード。

ここでもボウルズは、エッジのたったヴィヴィッドな音色でプレイしているので、SRV系ブルース・ギターのお好きなひとにおススメ。

(5)は、アップ・テンポのシャッフル・ナンバー。ここでも「ハイダウェイ」風のリックをまじえつつ、軽快なソロを聴かせてくれる。

ただしこの曲ではソリッドなクリーン・トーンで弾いているので、どちらかといえばピュア・ブルースのファン向き。

(6)は粘り腰のファンクなリズムが印象的な、速めのテンポのブルース。

こういうリズム処理は、やはり今日のブルース・バンドならではのものだろう。

ギターはあまり歪みのない、クリーン・トーンに近い音。高音のキレが実によい。

ボウルズはフレーズを速弾きするタイプではないが、フレーズが流麗でよどみがなく、また「間」のとりかたもうまい。

要するにリズム感に確かなものがある。ゴリゴリと弾かなくても、二、三小節弾いてみれば、その「上手さ」がすぐわかるのである。

(7)は、陽気なロックン・ロール・ナンバー。こういう曲を入れるあたり、やっぱり彼は白人なのだな~と思う。

ギターはペナペナ・グレッチ系の音。いかにもな演出だ。

(8)も8ビートのロックで、白人っぽさを感じさせる一曲。カントリー・ロックというか、サザン・ロックというか、正調アメリカン・ロック路線の音である。

白も黒も、ロックもソウルもブルースもと、間口が実に広いのが、この「ザ・ソウルズ」の身上なのである。

(9)は一転、アルバート・キングふうの、ファンキー・マイナー・ブルース。

とはいえ、バックのリズム・ギターはもろ、ドゥービーズ風だし、ギター・ソロもアルバートというよりはSRV。

やっぱり白人バンド、基本はブルースというより、ロックなんだな~と思う。

ま、このくらいロック色の味つけがないと、商業的にやっていくのは大変なのでしょう。

(10)はバックに女声コーラスを従えてのシャッフル。

ここでのギターは、オーヴァードライヴをかけているようだ。ボウルズは、曲に応じて実に多様なトーンを使い分けるプレイヤーだといえそうだ。

多様なトーンといえば、次の(11)というスロウ・ブルースでのギターもまた、ディレイばりばりのドラマティックなトーン。

「泣き」と「タメ」のプレイでも、実に達者なところをみせてくれる。

ボウルズ自身が語ったところでは、エリック・クラプトン、B・B・キング、ジェフ・ベック、スティーヴ・クロッパー、ロジャー・マッギン、ジミ・ヘンドリクス、デイヴ・ギルモアといったギタリストに強い影響を受けたそうであるが、そういえばジェフ・ベックにも通じるものがある、ダイナミックなプレイである。

基本的には、白人ロック・ギタリストの流れの上にあるといっていいだろう。

ちなみに、ヴォーカリストとしてはヴァン・モリスン、ポール・バターフィールドあたりの影響が大きいとのこと。確かに彼の歌声を聴くと、それが十分ナットクできる。

これまで、サウンド面の話ばかりをしてきたが、少し歌の内容についてもふれておくと、この(11)は、都市における社会問題、「ホームレス」について取上げたという側面ももっている。

今日、ブルース・アーティストたちの多くは、昔とは違って、単にパーソナルな題材(男女間のことのような)を歌にするだけでなく、社会的な視座からも歌を作るようになってきているが、このボウルズもまた、社会問題に強い関心を寄せているひとりである。

聞いたところでは、彼は哲学や宗教にも造詣が深く、ミュージシャン活動のかたわら研究に励み、オハイオ州立大学で哲学の学士号を取得しているそうだから、なかなか学者肌でもある。

そんな彼がホームレス問題をモチーフに作った曲は、ブルースの固定観念からは一歩抜け出たものといえそうだ。

(12)はうってかわって軽快なアップテンポのナンバー。オーバーダブによるツイン・ギター・ソロからスタート。

バックの「ヘイ・ヘイ・ヘイ」というコーラスが実にノリのよい、ドライヴ感あふれるロックン・ロール。

いかにもステージでウケそうなタイプの、一曲ではある。

(13)はアコースティック・ギター、そして男女混声コーラスをフィーチャーした、フォーキーにしてどこかゴスペル風でもあるユニークなナンバー。

この曲でも、先ほどの(11)と同様、ホームレス問題を、視点を少し変えつつもクローズアップしている。

こういった試みは、日頃、ライヴ活動を通して、多くの無名の人々に接触し、都市社会のさまざまな問題を「皮膚感覚」でとらえている彼ならではのものだと言えるだろう。

(14)はハモニカをフィーチュア、このアルバムでは珍しく、ダウンホームな響きのある、アップテンポのブルース。

なかなか高度なテクニックのハーモニカは、実はボウルズ自身の演奏なのである。

ボウルズ流「ローリン・アンド・タンブリン」といったところだろうか。

ラストはピアノ演奏にのって歌われる、ゴスペル・ソング風の(15)。

「メンフィスに住もうが、メインに住もうが、名前や住所をかえてみても…あなたがどこにいても、そこはシカゴなのだ」とは、意味深長な歌詞だ。

これを自己流で解釈するに、都市生活者(それもどちらかといえば下流の)のおかれた孤独な状況は、本質的にどこにいてもかわらない、なぜなら「心」のなかにつねにブルースが流れているのだから…ということなのだろうか。

そのメランコリックな調べ、情感あふれる歌声に、妙にひきつけられてしまった一曲だ。

以上、さまざまなサウンド・ヴァリエーションを持ちながらも、「STREET」「CITY」「BLUES」といった歌詞に散見されるキーワードでわかるように、都市生活におけるさまざまな憂鬱を歌ったのが本アルバムだといえよう。

その傑出したギター・プレイとともに、曲作り、アレンジ、そしてヴォーカルも、高い水準にある一枚だ。


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