2006年3月5日(日)
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#309 TINBIN「Toccata(夜明け)」(ワーナー・パイオニア 06L5-4095)
白ベリ、ZONEにならなかった少女たち
きょうは珍しく、シングルである。TINBINのサード・シングル。89年リリース。
TINBIN(ティンビン)は87年にデビューした、わが国ではきわめて珍しいガールズ・インストゥルメンタル・グループ。音楽ジャンルとしては、フュージョンに入るだろう。
メンバーは5人。大半のレパートリーの作曲も手がけるリーダー格の上野千佳(KB)を中心にした、キーボード×2、シンセ×2、そしてドラムスという、ちょっと特異な編成である。
筆者はこのシングルが出た89年に、彼女たちを代々木公園の野外ステージで初めて観たのだが、「スゲエ!」と思い、さっそくこのシングルを購入した記憶がある。
当時のメンバーは一番年長の上野が17才、最年少のプヨこと乗富由香は15才。まさにのちのモー娘やZONEのようなアイドル年齢だったのだ。
そんな見た目はいかにも子供子供した5人が繰りひろげる演奏は、SQUARE、カシオペアあたりにもひけをとらない本格派フュージョン。
聞けば彼女たちは、84年ころから(つまり上野が中1のころから)本格活動しており、その年にはNHK「朝の体操」のテーマソングを作曲していたという。さらにさかのぼれば、どのメンバーも5才くらいから音楽レッスンをはじめており、シンセやドラム演奏に親しんでいたという。そのスクール仲間からTINBINは生まれた、とこういうことなのだ。
以前取り上げたデビー・ギブソンにも匹敵する、早期教育によって見い出された、きわめて才能のある少女たちだったのだ。
今だったら、それこそ「スウィングガールズ」や「カーリング娘。」ではないが、マスコミにもっとアイドル視され、大々的にクローズアップされてもおかしくないが、当時はちょうどアイドル冬の時代。
87年におニャン子クラブが解散して以来、ガールズ・グループは退潮気味だった。
またTINBIN自身も、もともと才能教育の流れから出てきたバンドなので、そういうアイドルもどき的な扱いを潔しとしなかったといえる。
TINBINは3枚のシングルを発表後、しばらくは地道な(草の根的ともいえる)コンサート活動を続けていたようだが、メンバーの進学やら何やらで、活動停止というか実質解散へとむかったようである。
最年長の上野は現在34才。ネットで検索してみたら、どうやら音楽大学へ進学して、現在は作編曲の仕事にたずさわっているようだ。他のメンバーについては、まったくわからない。
さて、バンドの紹介ばかり長くなってしまった。このシングルについて書いておかねば。
A面の「Toccata(夜明け)」、B面の「Mountain Dance」、ともに上野千佳の作曲、アレンジはTINBINの全メンバーによるもの。
まずは「Toccata(夜明け)」。シンセによる荘厳なオープニングに続いて、突如始まるのは、激しいシンコペーションの嵐。早いパッセージのキーボード&シンセ・ソロが続き、とどめは重量感のあるドラムソロ。もう、ハンパなくカッチョえーのである。
「Mountain Dance」もシンコペてんこ盛りのナンバー。哀感あふれるピアノ・ソロ、ブラス風の重厚なテーマに導かれ、またもハデなソロの応酬の連続。頻繁にテンポを変え、流れにメリハリのあるアレンジも素晴らしい。
これをパッケージをふせて聴けば、誰も15、6才の少女たちが演奏しているなんて思わんでしょう。「え、これ、デイヴ・グルーシン?」、なんて訊くに決まっている。
もちろん、まだ若く未熟な面もないではない。まだ、リズムが機械的というか正確すぎて、微妙なニュアンスというか、シーケンサーなどには出せない「グルーヴ」を出すまでには至っていない。ソロもまだ、頭の中でひねりだしたような感じではある。
でも筆者が彼女たちの年齢のころに、これだけのレベルの演奏なんか、逆立ちしても出来なかったことを思うと、素直にすげー!と思ってしまう。(今だって、出来ないしぃ(笑))
若いガールズ・バンドの代表だったWhiteberry、ZONEだって(ライブのときはどうだったかしらんが)レコーディングのときには、スタジオ・ミュージシャンの助けを借りざるを得なかったが、彼女たちはまったくそんな必要もなく、すべて自分たちだけでやってのけているのである。
「才能」「TALENT」とは、こういうもののことを指すのであるよ、本来は。
まあ、相変わらず見てくれだけの人間に、「下駄」をはかすことしか考えていない、わが国のショービズ・システムでは、本物の才能ある人間がクローズアップされることは稀だろう。
白ベリ、ZONEに「なれなかった」のではなく、あえて「ならなかった」TINBIN。その残したわずかな音源は、いまでも十分に筆者の耳を楽しませてくれている。
十代くらいで、ちょっとバンドをやって「オレたちけっこう上手いじゃん」なんて自惚れているキミたち、これでも聴いて、世の中上には上があるってことを思い知るべし。
<独断評価>★★★☆