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音盤日誌「一日一枚」#260 レッド・ツェッペリン「聖なる館」(MMG/ATLANTIC 20P2-2027)

2022-08-01 05:00:00 | Weblog

2005年2月6日(日



#260 レッド・ツェッペリン「聖なる館」(MMG/ATLANTIC 20P2-2027)

レッド・ツェッペリンの5thアルバム。73年リリース。

すでに前作で全世界的な人気を獲得した後、約1年半のインターバルを経て発表。

何せ4thアルバム(通称「フォー・シンボルス」)はロック史上最高のセールスを記録した一枚(ちなみに米国内だけで1000万枚以上を売っている)。その次の作品ということで、この一枚に寄せられた期待たるや物凄いものがあった。

で、結果としてセールス的には前作にはとても及ばなかったのだが、それがイコール本作の出来ばえを示すものではないと筆者は思う。

過去の作品において、一作ごとに進化・変容を繰り返してきた彼ららしく、本盤でもさまざまな新しいサウンドへの試みを見せている。

まずは「永遠の詩」。ZEPはのっけから、アップテンポの極みで飛ばしまくる。

ここでのボンゾの鬼神が乗り移ったかのようなドラミングを聴いただけでも、リスナーは「買って損はなかった」と思うはずだ。

もちろん、ジョーンジーのベース・プレイも実に気合いが入っている。そして、ペイジの12弦ギター、プラントの高音のヴォーカルとが相まって、このうえないアンサンブルを生み出している。

個々人の「技」もさることながら、ZEPはアンサンブルにおいてもあらゆるバンドを凌駕している、そう思いますな。

録音技術が前作よりさらに向上して、各パートの音像がよりクリアに捉えられている。これも強く感じる。

「永遠の詩」からシームレスに続くのが「レイン・ソング」。ハードなサウンドから一転、静謐なバラードとなる。

ここでの主役はジョーンジー。ピアノ、そしてメロトロンを駆使して精緻に積み上げられたアレンジ。世界最少人数のオーケストラの感あり。

それにプラントのヴォーカル、ペイジのアコギがぴったりと重なり、一分の隙もない世界をそこに構築している。

ハードロック・バンドというイメージで語られることの多いZEPだが、明らかにこの一曲でZEP=ハードロックと定義することの無意味さを聴き手全員に知らしめたに違いない。

エレクトリック・ギターをフルボリュームで鳴らさなくても、刺激的で迫力あふれるサウンドは作れることを、この「レイン・ソング」は証明している。

続く「丘のむこうに」は、これもまたアコギの優しい響きが印象的なナンバー。

途中からテンポを変え、激しいエレクトリック・サウンドへと変貌するのだが、その静と動との取り合わせに違和感がなく、よくこなれたサウンドとなっている。

「ザ・クランジ」はジェイムズ・ブラウンにインスパイアされたというか、むしろそのパロディともいえる異色曲。

ひたすらファンキーなカッティングを続けるペイジ。すごく楽しげにプレイしている感じ。

「ダンシング・デイズ」はワンコードでシンプルに押しまくるロックンロール。「フレンズ」あたりでもすでに試みていることだが、不協和音を効果的に用い、ありきたりな音使いを排したあたり、さすがサウンドの開拓者ZEPである。

「ディジャ・メイク・ハー」も意欲作。曲のコンセプトはドゥ・ワップ風、でもそれに当時まだまだ目新しかったレゲエを合体させてしまう。

古いようで妙に新しいサウンド。まあ、これを評価するかどうかは大きく分かれるだろうが。

「ノー・クォーター」はエレクトリック・ピアノ、アコースティック・ピアノを効果的に配した作品。スロー・テンポのナンバー。

ジョーンジーが紡ぎ出す「静」なる音にときおり、ペイジのノイズィな「動」的な音が絡み、彩りを与えていく。

「レイン・ソング」同様、これまでのZEPにはほとんど出てこなかった「異世界」がそこには拡がっている。

ジャズや現代音楽の要素も取り入れられており、これはどちらかといえば「ノる」「踊る」ための音楽というより「聴く」ための音楽という印象だ。

こういう、他に類例を見つけることの難しい曲作りをあっさりとしてしまうところが、ZEPの空前絶後たるゆえんですな。

ラストの「オーシャン」も、面白いサウンドだ。

シンコペーションの利いたメリハリのあるロック・サウンドなんだが、あえてスカスカな、音の「隙間」を感じさせるような録音法をとっているのが、興味深い。

「ダンシング・デイズ」あたりについても言えることだが、プラントの好みのサウンドって厚みのあるハード・ロックよりは、結構隙間の多い昔ふうのロックンロールなんじゃないかなと思う。

「オーシャン」でも後半、テンポが上がって、ドゥ・ワップ風のコーラスが入って来る。木に竹を接ぐような荒技ながら、不思議とキマっている。まさにZEPならではのサウンド・マジック。

予定調和、お約束の世界をはるかに越えて、出すアルバム、出すアルバム、常に聴き手の意表をついた音で勝負してきたのがレッド・ツェッペリン。

こんなバンド、もう二度と出て来はしないだろうなぁという諦めがある反面、いや、そのうちZEPをしのぐバンドだって出てくるかもという密かな期待は捨てられない。

ま、なんにせよ、ここまで自分たちの音世界を突き詰め、しかもそれを商業的に成功させてしまったということは、脱帽に値すると思うとります。

<独断評価>★★★★★


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