2005年2月13日(日)
#261 久保田利伸「THE BADDEST」(CBS/SONY CSCL 1001)
久保田利伸のベスト盤。89年リリース。彼自身によるプロデュース。
久保田のベスト盤は現在までに3枚出ているが、これはその第一弾。セカンド・シングル「TIMEシャワーに撃たれて」以降の12曲を収録。
キムタク・ドラマの主題曲以来、ヒット・チャートにはとんとご無沙汰気味の久保田ではあるが、もちろん音楽活動をやめているわけではない。
93年より始めたアメリカでの活動もすっかり長期化、一年の半分は日本、半分はアメリカに滞在というパターンが定着してきた。
けっして彼の国ではブレイクしたとはいえないものの、「TOSHI」というジャパニーズ・シンガーの名は次第にアメリカ人にもなじんで来たようである。
これまで何人もの日本人ミュージシャンがアメリカでの成功を目指し、その大半が惨敗の結果に終わり、ほうほうの体で本国に戻るというのがお決まりのコースだっただけに、おそるべき粘り強さですな。
宇多田ヒカルみたいに、女王様気分で乗り込んでいったところで、人種や民族の壁、言葉や文化の壁はとてつもなく厚い。一発ヒットなど狙わずに、相当な時間をかけて地道に自分の音を知らしめていく、やはりそれしかないような気がする。
今後、「スキヤキ」以来の全米ヒットを出しうるのは、久保田をおいて他にないだろう。健闘を期待したい。
さて、当盤を聴いて感じるのは、懐かしさ、あるいはこれらの曲をリアルタイムで聴いたころの記憶、どうしてもそういうものになってしまう。
告白してしまえば、恥ずかしながら筆者も、久保田にハマっていた時期があった。
87年ころだったか、トレンディ・ドラマ(死語)の嚆矢、「君の瞳をタイホする!」というのがあって、その主題曲の「You were mine」を聴いたとき、「これだ!!」とひらめいてしまったのである。
それまで筆者のカラオケの定番といえば、サザン・安地・チューブ・吉川といった大衆ウケ路線だったのだが、それらにはない粘っこい玄人好みのビートが見事にツボにはまってしまった。
以来、アップテンポの曲なら「You were mine」、バラードなら「Missing」が定番に加わるようになった、ということである。
もちろん、彼の歌はキーがおしなべて高く、フレージングも極めて難しかったのだが、周囲では他に誰も歌いこなせないだけに、歌っているだけでかなり目立てたのは事実。
今考えてみると、自己顕示欲の塊、それだけのヤナ奴でしたな(笑)。
筆者が思うには、シンガーの声にもいろいろタイプがあって、誰でもトレーニングすれば出せるような平凡な声(例えば杉山清貴とか)もあれば、百万人にひとりくらいの天賦の声というのもある。
後者の代表は、チューブの前田亘輝、そしてこの久保田利伸だと思う。
鋼(はがね)のように強靭で、しかもしなやか。歌手こそ天職!という感じの声である。
このベスト盤を聴くに、若干青い感じはあるものの、彼のヴォーカル・スタイルはデビュー当時からほぼ完成していたことがわかる。
もちろん、彼の魅力は歌声だけでなく、その生み出す日本人離れしたファンキーな楽曲にもあるのだが、これも彼の声があってこそ初めて輝きを放つもの。
他のシンガーが歌っても、たぶん、グッとくるものはないだろう。
しかしながら、現状を見るに、8年以上にわたって、久保田はヒットらしいヒットを出していない。
彼のような天性のシンガーが、何年もヒットに恵まれず、歌ともいえないような似非ヒップホップばかりがヒットする。まさに夜郎自大な状況。
現在のわが国の音楽シーンって、やっぱりどこかおかしくないか。
こんな時こそ、「本物」の復活が待たれるよね。
来年はいよいよデビュー20周年を迎えることになる久保田。ぜひ、「日米同時ヒット」という前人未踏の目標にチャレンジして欲しいもんだ。
<独断評価>★★★★