NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#327 メンフィス・スリム「MEMPHIS SLIM」(MCA/CHESS CHD-9250)

2022-10-07 05:31:00 | Weblog

2006年8月27日(日)



#327 メンフィス・スリム「MEMPHIS SLIM」(MCA/CHESS CHD-9250)

AMGによるディスク・データ

メンフィス・スリムの、チェスにおける初アルバム。61年リリース。

チェスからはもう一枚、66年に「THE REAL FOLK BLUES」も出ている。

メンフィス・スリム、本名ジョン・ピーター・チャットマン。その芸名の通り、テネシー州メンフィスにて15年に生まれ、88年パリにて亡くなっている。

メンフィス・スリムといえば「エヴリデイ・アイ・ハブ・ザ・ブルース」の作者というイメージが強いが、他にも名曲を数多く作っている。「ステッピン・アウト」しかり、「マザーレス・チャイルド」しかり、「マザー・アース」しかり。

本盤はその「マザー・アース」をフィーチャーし、他にも「ROCKIN' THE PAD」「REALLY GOT THE BLUES」「SLIM'S BLUES」「BLUES FOR MY BABY」といった佳曲を多数擁している。

「マザー・アース」は既にヴィー・ジェイのライブ盤でもレコーディングしているが、これをスタジオで再録。「SLIM'S BLUES」も同様である。ロックンロール調の「ROCKIN' THE PAD」は、ヴィー・ジェイ・ライブ盤の「ROCKIN' THE BLUES」の改作にあたる。

メンフィス・スリムの魅力を一言でいうなら、「成熟したおとなのブルース」といったところか。

荒削りな激情のブルースは他のブルースマンにまかせておいて、彼はひたすら、彼ならではのライプでマイルドなピアノ・ブルースを追求している。

ギター・ブルース偏重の傾向が強い、日本のブルースファン、ブルースマニアたちには、一番敬遠されがちなジャンルといえるが、聴かず嫌いでは実にもったいないのである、これが。

ブルースといえば単調なパターン化されたメロディ、紋切り型の歌詞、つまり過去のブルースの引写し、みたいなケースがよく見られるのだが、真にクリエイティブなブルース作曲家というのも少数ながら存在していて、メンフィス・スリムはそのひとりといえる。

そのメロディラインは、ジャズの影響もあってか、非常に変化にとみ、過去のパターン化されたブルースとは明らかに違う。

歌詞にしてもしかり。「マザー・アース」「SLIM'S BLUES」の歌詞など聴き込むと、「ああ、このひとは詩人だなあ」と思う。他のブルースとは作詞術がだいぶん違うのである。

モノローグ、孤独なつぶやきではなく、歌を介して聴き手に語りかける、そういうスタイルなのだ。「エヴリデイ~」もまた、そのラインの上にある。

いってみれば、彼においてブルースは、彼の音楽を形成する「一部」ではあっても、すべてではない。

ジャズやクラシック、あるいはその他の音楽もいろいろとのみ込み、吸収した地盤の上に、彼の豊穣な音楽は花開いている。

すぐれた音楽家は、その人自身がひとつのジャンルだといわれるが(たとえば、サッチモ、マイルス、スティービー・ワンダーetc)、メンフィス・スリムもまた、そういうひとりだと思っている。

文句なしの流麗なピアノ・テクニック、ハイトーンが印象的な、ソフトな歌唱、そして含蓄にとんだメロディアスな楽曲。実に創造的だ。

ミュージシャンもまた「作家」であることを感じさせてくれる、そういう一枚なのであります。

<独断評価>★★★★


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