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音曲日誌「一日一曲」#236 ロバート・パーマー「Trick Bag」(Riptide/Island)

2023-11-23 05:14:00 | Weblog
2012年10月7日(日)

#236 ロバート・パーマー「Trick Bag」(Riptide/Island) 





英国のシンガー、ロバート・パーマー、85年のアルバムより。アール・キングの作品。

パーマーは49年、ウェスト・ヨークシャー州バトリーの生まれ。10代の頃から歌い始め、72年にR&Bバンド、ビネガー・ジョーのボーカリストとしてレコード・デビュー。バンドは鳴かず飛ばずだったが、74年にソロデビューを果たす。

デビュー・アルバムのバックにはミーターズが起用されるなど、そのサウンドはアメリカ、それも南部への指向が非常に強かった。78年「Every Kinda People」が最初のスマッシュ・ヒット、翌年にも「Bad Case of Loving You」がヒットして、注目されるようになる。

80年代前半は、アメリカでのヒットが途絶えていたが、85年のアルバム「Riptide」からは「Addicted To Love」「Didn't Mean to Turn You On」が連続ヒット、それぞれ全米1位、2位という大成果を収める。

同年にはデュラン・デュランのアンディ・テイラーらに請われてスーパー・バンド、パワー・ステーションにも参加し人気を博したので、その年はパーマー最大の当たり年だったといえるね。

さて、きょうの一曲は、前述のヒット曲群ではなく、カバー・ナンバー。ニュー・オーリンズ出身のユニークなブルースマン、アール・キングの代表的ヒットだ。

つーか筆者的には、永井ホトケ隆さんが約10年前にやっていたバンド、そしてこの「巣」を作る直接のきっかけともなった「tRICK bAG」の名前はこの曲にちなんでいるので、非常に大きなモーメントをもっている曲なのだ。

ミーターズもカバーしたことのあるこの「Trick Bag」は、62年、キングがインペリアルにて録音。

キングは同じくN.O.で活躍したブルースマン、ギター・スリムの影響を強く受けているが、このふたりに共通するのは、脱力系といいますが、いい感じに肩の力が抜けたボーカル/ギターのスタイルでしょうな。

ほとんどヘタウマといってもいいのですが、でも侮れないのは、ふたりの作曲センス。

他の個性の違うシンガーが歌ってもピシッときまるような、メロディとリズムの絶妙なコンビネーションが心憎いばかりなのです。

この「Trick Bag」もまたしかり。パーマーの張りのあるボーカル・スタイルでも、キングのトボけた歌い口とはまた違った味わいがあるのですわ。

バックは80年代半ばだけに、流行を反映してかなりニューウェーヴ、あるいはエレクトリック・ポップ色が強く、シンセサイザー音がビンビンって感じだが、これもまたオリジナルのアレンジとは違ったカッコよさである。ちなみにプロデュースとベースは、シックのバーナード・エドワーズ、ドラムスは同じくトニー・トンプソン、キーボードはグレース・ジョーンズのバックなどで知られるウォリー・バダルー。ファンキーかつ洗練された先進的なサウンドは、彼らならではものだ。

彼らのある意味無機質的ともいえる音に、人間臭くアクの強いパーマーのボーカルが絡むことで、この「Trick Bag」は無双の出来ばえとなった。

いかにオリジナルとは異なる味を加えられるかで、カバー・ナンバーとしての成功/不成功は決まってくる。となれば、このパーマー版は、見事な成功例のひとつといえるだろう。

2003年に、54歳の若さでこの世を去ったのが本当に惜しまれるひとだ。でも、彼の遺したもろもろのアルバムを聴けば、いつだって彼の素晴らしさにふれることができる。

流行をうつし出したサウンドは、歳月を経て聴くと、ときにものすごく陳腐に思えたりするが、パーマーの場合はけっしてそういうことがない。それは彼の骨太の歌声が、ソウル・ミュージックというものの、根源的なものを確実に体現にしているからなのだ。必聴です。

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