2002年12月1日(日)
フリートウッド・マック「英吉利の薔薇」(EPIC/SONY ESCA 5421)
(1)モタモタするな (2)ジグソウ・パズル・ブルース (3)ドクター・ブラウン (4)恋のモヤモヤ (5)夕暮ブギー (6)燃える恋 (7)ブラック・マジック・ウーマン (8)君をなくして (9)ワン・サニー・デイ (10)ウィズアウト・ユー (11)カミング・ホーム (12)アルバトロス
このコーナーでも、すでに数回取上げたことのあるフリートウッド・マックだが、やはりこの一枚を外して彼らを語るわけにはいくまい。69年発表のセカンド・アルバム、原題「ENGLISH ROSE」である。
67年、ジョン・メイオール率いるブルースブレイカーズにいたピーター・グリーン(g)、ジョン・マクヴィ(b)、ミック・フリートウッド(ds)の3人に、スライド・ギタリスト/シンガーのジェレミー・スペンサーを加えて結成されたブルース・ロック・バンドが、第一期マック。
これにギタリスト/シンガーのダニー・カーウェンを加え、5人編成となってレコーディングしたのが、このアルバムである。
彼らのサウンドは黒人ブルースに強い影響を受けていたのはいうまでもないが、とりわけ、エルモア・ジェイムズ、そしてオーティス・ラッシュ、このふたりの存在は「神」にも近いものであったようだ。
たとえば、(3)。これは50~60年代に活躍したブルースマン、バスター・ブラウンの曲だが、リード・ヴォーカルをとるスペンサーは、明らかにエルモアを意識した、ラフでがなるようなスタイルをとっている。
そしてもちろん、スライド・ギターのフレーズも、エルモアくりそつ。
彼らのデビュー・アルバム「PETER GREEN'S FLEETWOOD MAC」でも「SHAKE YOUR MONEYMAKER」「GOT TO MOVE」の2曲、エルモア・ナンバーをカヴァーしているくらいで、当時スペンサーがいかにエルモアに心酔していたかが、よくわかる。
(5)も、一聴すればおわかりいただけるだろうが、エルモアの「HAWAIIAN BOOGIE」を下敷きにして書かれた、スペンサー作のインスト・ナンバー。
エルモア・サウンドのハイな雰囲気をそのまま再現している、名演。
(8)もスペンサーの作ったミディアム・スロー・ブルースだが、これまたメロディといい、歌いぶりといい、スライド・プレイといい、エルモア節以外のなにものでもない。
スペンサーはおそらく「エルモア命」とでも刺青を彫っていたんじゃないかな(笑)。
そしてきわめつきは、エルモア・ナンバーのカヴァー、(11)。ややスロウで重ためのシャッフル・ビートに乗せて、エルモア・トリビュート色全開。ワンパタといわれようが構うものかとばかり、ひたすらエルモアになりきっていらっしゃる(笑)。
さて、その一方で色濃く感じられるのがオーティス・ラッシュの影響。
こちらはバンドのリーダー的存在、ピーター・グリーンが大のオキニであった。
(1)はグリーンの作品で、グリーンが歌、リード・ギターもやっているが、こういうオーソドックスなメジャー・ブルースでは、歌いかたにせよ、ギター・フレーズにせよ、さほどラッシュの影響は感じられない。
ところが、マイナー・ブルースでは、一目ならぬ一聴瞭然である。
(6)が好例。曲を書いたグリーン自身が、ヴォーカル、リード・ギターも担当している。
ここでの、哀感あふれるギター・フレーズは、まぎれもなくラッシュ譲りのものである。
そしてなんといっても、(7)だ。グリーンの作品。
サンタナによってカヴァーされ大ヒットしたのは皆さんご存じだろうが、オリジナル版の、よりブルーズィな味わいはまた格別。未聴のかたは、ぜひチェックを。
ラッシュの「オール・ユア・ラヴ」を強く意識しながらも、どこかラテン・ビートも漂わせる、官能的なメロディ、そして艶やかなギターの音色。単なるパクりを超えた、見事な「本歌取り」だ。
グリーンの際立った音楽的才能なくしては、この名曲は生まれえなかったであろう。
しかし、このアルバム、こういった黒人ブルースへのトリビュート色が強いナンバーだけではない。
基本はホワイト・ブルース・バンドでありながら、それを自ら打ち破り、たえず脱皮していこうという「能動性」も彼らにはあった。
それを特に感じさせるのは、新加入のメンバー、カーウェンの存在であろう。
彼はギタリスト/シンガーとしてよくこなれたパフォーマンスを聴かせるだけではなく、ソング・ライティングにもなかなかの才能を持っていた。
それがよくわかるのが、インスト・ナンバー、(2)だ。カーウェンが曲を書き、リード・ギターを聴かせてくれる。
ブルースだけでなく、ジャズやポップスのセンスをも盛り込んだ、多彩なフレージング。彼の卓越したセンスを感じることが出来るだろう。
(4)もカーウェンの作品。わりとオーソドックスなスタイルのマイナー・ブルース。
彼のブルージーなギターに加え、高めで繊細なヴォーカルも聴くことが出来る。
だが、ややグリーンの路線とかぶっているこの曲よりは、(9)のほうにこそ、彼の個性が出ているといえるだろう。
カーウェン自作の(9)は、飄々とした彼のヴォーカルにからむへヴィーなギター・リフが印象的な、ハードなブギ。
「ブルース・ジャム・イン・シカゴ」での「シュガー・ママ」にも一脈通じるものがある。
ロック感覚あふれるアレンジで、黒人ブルース・バンドとは一線を画した「マック・サウンド」を生み出した一曲だ。
続く(10)も彼の作品。「鬱」なムード漂う、ミディアム・スロー・ブルース。カーウェンの切なげな歌いぶりにも、なかなか味わいがある。
新加入とはいえ、しっかりとした「仕事」をしていて、決してあなどれない存在なのである。
さて、ラストはグリーン作のインスト・ナンバー、(12)。マックの名を一躍高めたスマッシュ・ヒットでもある。
ゆったりとした、どこか心臓の鼓動を思わせるビートに乗せて、3人のギタリストのたゆたうようなフレーズが紡ぎ出されていく。いかにもタイトル(アホウドリの意)通りの、悠然としたサウンドだ。
この曲でグリーンは、かならずしも自分の個人的趣味である「ブルース的なもの」にこだわらず、より音楽的に広がりのある世界を作り出そうとしているようだ。
非常にオーソドックスなブルース指向と、それとは別のポップな感覚が並行して共存していたマック。
多くのひとびとは、初期のマックと、「ファンタスティック・マック」以降のマックを聴き比べてみて、「これが同一グループ? 信じられない!」みたいな反応をするが、よくよく聴き込んで行けば、初期のマックにものちのちのサウンドの萌芽が見られるのだ。
「ローマは一日にしてならず」ではないが、トップ・グループとしてのマックが生まれて来るのにも、長い長~い「揺籃期」があったってこと。
「ブルースっぽいのは、どうも苦手で」とおっしゃるかたも、一度聴いてみてちょ。
ジャケ写は鬼面人を驚かすような大仰なものだけど(笑)、意外と、耳にすんなりと入って来るサウンドだと思いますよ。
<独断評価>★★★★