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音盤日誌「一日一枚」#128 キャロル「ゴールデン・ヒッツ 」(マーキュリー・ミュージックエンタテインメント PHCL-8)

2022-03-22 05:20:00 | Weblog

2002年11月24日(日)



キャロル「ゴールデン・ヒッツ 」(マーキュリー・ミュージックエンタテインメント PHCL-8)

(1)夏の終わり (2)番格ロックのテーマ (3)泣いてるあの娘 (4)ヘイ・タクシー (5)やりきれない気持 (6)ミスター・ギブソン (7)憎いあの娘 (8)恋の救急車 (9)コーヒー・ショップの女の娘 (10)ファンキー・モンキー・ベイビー (11)涙のテディー・ボーイ (12)彼女は彼のもの (13)ハニー・エンジェル (14)最後の恋人 (15)いとしのダーリン (16)レディ・セヴンティーン (17)二人だけ (18)愛の叫び (19)0時5分の最終列車 (20)ルイジアンナ

日本において「ロック」は60年代末、当時ブームであったグループサウンズの一部のグループ(たとえば、ゴールデンカップス、フラワーズ、モップスといった連中)によって次第に生み出されていったが、実際には歌謡曲と折衷したような中途半端なものが大半であった。

トップ・バンドのカップスにしてからが、ライブハウスでは本格的なハードロック、R&Bを演奏してはいても、シングルは職業作曲家による「歌謡曲」を歌わされていたていたらくだった。

やはり、歌謡曲でないモノホンのロックが登場するのは、GSブームが完全に終焉する70年代になってからといえる。

72年デビュー、75年解散、実質3年弱という短い活動期間しかなかったが、若者(ことにツッパリといわれていた不良、暴走族を中心に)絶大なる人気をほこっていたキャロル。彼らはまさに、「ロック」を表看板にして人気を博した、最初のグループだったように思う。

当時ロック・ミュージシャンといえば判で押したように、長髪にTシャツ、ジーンズという出で立ち。

その流れをあっさり無視した、革ジャン、リーゼントのテディボーイ・スタイル。

サウンド的にはよくいわれているように、初期ビートルズに酷似していたが、あえてビートルズのぶりっ子スーツ・スタイルではなく、メジャーデビュー以前のビートルズのテディ・スタイルを選択させたのは、彼らの「反骨心であり、「自己主張」であったと思う。

筆者は当時、ツッパリでもなんでもない普通の中学生だったが、そのふてぶてしい面構えに、ひそかに「オヌシらやるな」と思っていたものだ。少なくとも、チューリップ(彼らは後期ビートルズのサウンドを意識していた)あたりなんぞより、100倍はロックだと思っていた。

さて、ひさびさにCDで聴いてみる彼らは、なかなかに新鮮。新たな発見もいろいろある。

まず感じたのは、リズムが非常にタイトで、基礎演奏能力が非常に高いということ。

だから、今聴いても、GSや70年代Jロックの多くのような「チャチ」な感じがまったくしない。

もちろん、難しいことは何もしていないのだが、バンドとしての「骨組み」が実にしっかりとしている。

当時はツッパリ、ワルのイメージが先行していたため、食わず嫌いのひとが多かったと思うけれど、純粋に音だけで聴いても、かなりのハイ・レベルだ。

演奏だけではない。大倉、矢沢のツートップ・ヴォーカルも、GS時代のヴォーカリストたちに比べると、格段とウマい。さらにはバック・コーラスがこれだけキマっているのも、かつてのバンドにはいなかった。

曲作りも、他のアーティストに頼ることなく、すべて彼らによるもの。これがまた、どれもこれもアメリカのポップスのエッセンスをしっかり自らの血肉としたものなのだ。

そう、キャロルというバンドは、ヴォーカル、コーラス、演奏、曲作りの4枚のカードが見事に揃った、当時では稀有な存在であったのだ。

個人的にオキニな曲を上げていくと、まずは矢沢がリードのバラード、(1)。先々週登場の憂歌団もやっていた「渚のボードウォーク」の本歌取りともいえる曲調がイカしてる。

そういえば、憂歌団はキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」をカヴァーしている。まるで両極端のように見えるふたつのグループにも、実はかなり相通ずるものがあるんじゃないかな。

ピアノ・アレンジを加え、どこか後期ビートルズっぽい(3)も、ちょっと大人っぽい側面を見せてくれて好きな曲だ。ウッチャンのギターがなかなかファンキー。

(4)のコーラスもなかなかごキゲン。リードをとるジョニーの甘い声と、永ちゃんのハードな声がうまく絡んで、黄金のコーラスを生み出している。

これまたジョニーがリードをとる(5)もいい。ギターの響きが美しく録れているのも、グー。

(6)はポール・マッカートニーばりのベース・ラインを聴かせる永ちゃんがカッコよい。

キャロルというと、ビートルズのパクりや、単純そのものの3コード・ロックンロールしかやっていないと把握しているムキも多いようだが、実は微妙にその当時の流行を取り入れたりしている。(7)の、T・レックス風ブギ・サウンドが好例だ。

かと思うと、(9)のように思いきりノスタルジックな3連ロッカ・バラードもお得意という、幅の広さも見せてくれる。

前半のハイライトはもちろん、キャロル最大のヒット、(10)。

彼らのキッチュ、でもイカしているサウンドの魅力が、最大限に発揮された作品。当時、この曲をコピーするために、エレキを買ったツッパリ兄ちゃんたちが、何十万人いたことか(笑)。

もちろん、筆者も文句なしに好きである。これを聴くと、ポップスとは、こういう脳天気なものでええんじゃ!という気になる。

(11)は、彼ら自身でなく、元スパイダーズの大野克夫のアレンジ。いかにも甘酸っぱい青春そのものの、歌詞&メロディが○。

次の(12)や(13)にしてもそうだが、この「適度に甘く、でも決して甘すぎない」というところが、彼らの絶妙なサジ加減であるな。

またまた引き合いに出して恐縮だが、チューリップの「ヘタレ」的、ニューファミリー的なグズグズの甘ったるさとは違って、どこか潔さが感じられる。女にふられて悲しくとも、人前では涙は決して見せない、オトコとしてのツッパリ。

そこが「硬派」を標榜するツッパリ諸兄にも支持された理由ではないかしらん。

(14)は、「ラバー・ソウル」以降のビートルズ・サウンド(たとえば「レイン」)を思わせるナンバー。この曲でも永ちゃんのプレイに、ポールばりのモダンなセンスが感じられる。

基本的にはギター・バンドであるキャロルだが、(15)などではシンセを取り入れて、新味を出したりしているのだ。

(16)も代表的ナンバー。ジョニーをフィーチャーした、典型的な初期ビートルズ調。

ダンサブルで、理屈抜きに楽しめる。

アコギのイントロで始まる(17)も、時代を越えて残る名曲だな。同じく、ジョニーがリード・ヴォーカル。こうやって聴いていくと、キャロルって二の線の主役はジョニーで、永ちゃんはどちらかといえばワキ役だったんだな。今と逆じゃ(笑)。

(18)はR&B調で、全面に展開されるコーラスがなんともいい、ナンバー。

アレンジがちょっと泥臭いが、そこがまた魅力。

(18)同様、永ちゃんがリードを取る(19)も、ビートルズの「ひとりぼっちのあいつ」を思わせるコーラスがなんともごキゲン。

ジョニー・永ちゃんのハモは、日本ポップス史上でも、ベスト3には入るベスト・コンビネーションだと思う。

ラストはもちろん、72年12月リリース、デビュー・ヒットの(20)。あの曲がテレビ番組「リブ・ヤング」で初めて演奏されたときの衝撃を忘れていないひとは多いだろう。

キャッチーなメロディ、ちょっとべらんめえ調な永ちゃんのヴォーカル、とっぽいファッション。すべてが新鮮で、驚きの連続だった。

そしてそのフレッシュさは、30年も経過した今でも、決して失われてはいない。

当時若者だったひとだけでなく、今、青春まっただなかというひとたちにも、ぜひ聴いて欲しい一枚だ。

<独断評価>★★★☆



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