2012年9月9日(日)
#233 トミー・マクレナン「Baby Don't You Want To Go」(The Bluebird Recordings 1939-1942/RCA)
#233 トミー・マクレナン「Baby Don't You Want To Go」(The Bluebird Recordings 1939-1942/RCA)
1930~40年代に活躍した黒人シンガー/ギタリスト、トミー・マクレナンのナンバー。ロバート・ジョンスン「Sweet Home Chicago」のカバー。39年録音。
これまで取り上げてきたブルースナンバーの中でもかなり古い時代に属するのだが、聴いてみたら、みょうにビビッドでドキッとしてしまうんじゃないかな。
マクレナンは1908年、ミシシッピ州ヤズーの生まれ。ロバート・ジョンスン(14年生まれ)よりは、少し年長の世代である。
デルタ・ブルースとよばれるスタイルでは、後期に属している。シカゴに移住して都市で活動してはいたが、南部人の破天荒な持ち味をずっとなくさずにいたタイプ。
まず、声がスゴいよね。オリジナルのロバジョンとは対照的な、低めのダミ声で唸るようにこの歌をうたわれると、全然違った曲に聴こえてしまう。
野性的なのは声だけでなく、叩き付けるように弾くギターもまたワイルド。スギちゃんもビックリである。
ブルースマンが本来もつヤクザっぽい雰囲気を、まったく隠すことなく、さらけ出している感じだ。
やたらと「イエイ」というフレーズをはさむところ(口癖か?)といい、歌いながら笑い出したり、最後にはベティ・ブープの呪文のような言葉で締めるところとか、相当お茶目なひとだったようである。
シブさというより、インパクトとパンキッシュな感性で勝負する自由人タイプ。フリーダムな彼には、シカゴブルースの元締め的存在、ビッグ・ビル・ブルーンジーの睨みもきかなかったらしく、「ニガーなんて言葉を歌詞に使うな」という制止などまったく無視していたらしい。あっぱれな野生児であるな。
マジック・サム版やブルース・ブラザーズ版のヒットによって「Sweet Home Chicago」は、今日ではブルース愛好者、いやそれ以上の広範囲のリスナーでブルース・スタンダードとして認められているが、36年の初録音当時はまったく地味な存在であった。それがここまで大きな存在になったのは、このマクレナンによるカバーによるところ大だと思う。
何者にも縛られることのない、ヤクザっぽいところではどこか共通した因子をもつ、ジョンスンとマクレナン。このソウル・ブラザーズのふたつの魂が共鳴しあうことで「Sweet Home Chicago」は、とてつもなく大きなパワーを持つようになったのだと思う。
本能むき出しのストレートな表現力、ワンアンドオンリーなブルース者(もの)、トミー・マクレナンの渾身のひと咆え、一聴の価値ありです。