2006年7月30日(日)
#323 ビッグ・ビル・ブルーンジー「GOOD TIME TONIGHT」(COLUMBIA CK 46219)
本コーナー、ひさびさの復活第一弾はこれ。ビッグ・ビル、1990年リリースのコンピ盤。本欄でもおなじみ、「ROOTS N' BLUES」シリーズの一枚でもある。30年~40年録音。
ビッグ・ビル・ブルーンジー。いうまでもなく、戦前のシカゴ・ブルース界における親分的存在である。
通称通りの堂々たる巨漢。きわめて精力的にレコーディングを行い、他のブルースマンの世話も非常にまめにやっていたという、ゴッドファーザー・オブ・ブルース。
でもそんな彼の音楽世界は、エネルギッシュというよりは、どこかほのぼのとしたものがある。そう、彼の笑顔の写真のように。
ブルースという音楽の持つ、「鬱」の部分は最小限に抑えて、悲しい歌をうたっても、どこかオプティミスティックな視線が感じられる。そんなブルースなのだ。
たとえば、表題曲の「GOOD TIME TONIGHT」がいい例だな。毎日しんどいことが続いても、「今宵佳き夜」とつかのまの宴に酔い痴れ、また明日からの辛い生活に耐えていくだけの心の糧を得る。そんな前向きな姿勢がそこにはある。
他の代表曲についてもそれはいえる。「I CAN'T GET SATISFIED」しかり、「WORRYING YOU OFF MY MIND」しかり。後者はミシシッピー・シークスやハウリン・ウルフでおなじみの「SITTIN' ON TOP OF THE WORLD」とほぼ共通の構成のナンバー。いかにも、ブルースの初期原型のひとつという感じの曲調だが、こういう8小節ブルース、カントリーの匂いも強く感じられるスタイルで歌わせれば、ビッグ・ビルの右に出るものはいない。
皆さんご存じの「KEY TO THE HIGHWAY」もまた、その流れにある。辛い人生でも、どこか一点の希望を持って生きていけば大丈夫。彼は、そういうふうに歌っているように思う。
その巨躯に似つかわしくない、どこか訥々としたあたたかみのある歌い口が、ビッグ・ビルの魅力。
ギター、ピアノ、ベースなど、生楽器のみによって演奏されるサウンドは、エレクトリック・サウンドを聴きなれた耳にとっては、「いなたい」「平板」の一言だろうが、何度も繰り返し聴いていると、次第に耳になじんでくる。
そのうち、最新の音楽などを聴こうものなら、刺激過多でうんざりしてくるようになってくるから、不思議なものである(笑)。
ブル-スとは結局「節回し」の音楽。ただ3コードの進行を持ってさえいればブルースというものではないことが、ビッグ・ビルの歌を聴くとよくわかる。執拗なまでに繰り返される、ブルースならではのフレージング。ワンパターンとはいえ、これがなんとも、クセになるのだ。
全20曲。シンプルなバック・サウンドに乗った「純度100パーセント」のブルースにたっぷりと酔って欲しい。もちろん、かたわらにはバーボン&ソーダのグラスなど置いて。
<独断評価>★★★★☆