2022年12月5日(月)
#386 THE BEACH BOYS「ペット・サウンズ」(ユニバーサルミュージック UICY-15519)
ザ・ビーチ・ボーイズ、66年リリースのオリジナル・アルバム。
1960年代半ば、英国におけるトップ・バンドがビートルズであったように、米国におけるそれは、ビーチ・ボーイズであった。
最初はシングル・ヒット、そして次第にアルバムにおいても大ヒット作を連発するようになり、コンサートやテレビ番組への出演で多忙を極めるようになる……と言った具合に大西洋を挟むふたつのグループは、似たような経過を辿っていった。
コンサートツアーやプロモーションに時間に取られるあまり、本来、一番時間をかけたいアルバムのレコーディングに、十分時間を取れないような状況が続いた。
そこで、ビートルズの方はコンサート・ツアーを65年の北米ツアー以降きっぱりとやめてしまい、レコーディングに専念する方向へと舵を切った。
その成果生まれたのが、65年末にリリースした名盤「ラバー・ソウル」である。
以後、彼らは基本的にライブ・パフォーマンスを行なわなくなる。
この動きに大きく刺激されたのが、ビーチ・ボーイズだ。「ラバー・ソウル」の高い音楽性に注目、自分たちもビートルズのようにもっとキメの細かい音作りをしたいと考えた。
とりわけ、グループの音楽的リーダーであったブライアン・ウィルスンは、そういう思いが強かった。そこで彼は、今後一切のライブ活動をやめて、音楽制作に専念することにした。
「ペット・サウンズ」は、このような背景のもとに生み出されたアルバムである。
雑誌「ローリング・ストーン」の「500のオールタイム・ベスト・アルバム」投票ではマーヴィン・ゲイの「What’s Going On」に次いで2位という高い評価を得ているが、それもプロデューサーであるウィルスンの、ほとんどパラノイアとも言える完璧主義によって一分の隙もなく構築された音世界ゆえのものであることは、間違いあるまい。
まず、ビーチ・ボーイズのメンバーには、演奏を一切させずに、ボーカルとコーラスに専念させ、演奏はすべて腕利きのスタジオ・ミュージシャン(通称レッキング・クルー)に任せた。
これは画期的というか、賛否が分かれるところかもしれないが、結果的にはアルバムの音楽的質を向上させることにつながったと言えるだろう。
また、ソングライティングに関しても、歌詞は今回、プロの作詞家トニー・アッシャーに大半を依頼して、ブライアン・ウィルスンがイメージした世界をきちんと構築してもらっている。
要するに、ブライアン・ウィルスンがビーチ・ボーイズとスタジオ・ミュージシャンを使って作った、彼のためのアルバム、そういうことになろう。
まぁ、このアルバムの解説としては、日本で初CD化された時に、ビーチ・ボーイズ・フリーク中のフリークである山下達郎氏がライナーノーツを書いているので、それをご覧いただくのがベストだろう。
ビーチ・ボーイズの特別なファンでもない、半可通の筆者が今さら何を書けるわけでもない。
とりあえず、筆者のフェイバリット・ソングを数曲挙げておく。
「素敵じゃないか」
アルバムのオープニング曲。これぞビーチ・ボーイズ・スタイルと呼べるコーラス・ワークが楽しめる、快活なナンバー。シングル・カットされ、全米8位となっている。
「スループ・ジョン・B」
A面ラストの曲。これもシングル・カットされ、全米3位に輝いている。もともとはバハマ諸島の民謡で、メンバーのアル・ジャーディンの提案により取り上げられたという、異色のトロピカル・ナンバー。
歌詞はブライアン・ウィルスンによるもの。陽気で大いに盛り上がる曲調が、ビーチ・ボーイズにぴったり。
「神のみぞ知る」
「素敵じゃないか」のB面。B面ながらも、全米39位にまでなった。トニー・アッシャー、ブライアン・ウィルスンの作品。その音作りは、「サージェント・ペパーズ」以降のビートルズにも大きく影響を与えたと言われており、ことにポール・マッカートニーは、その美しいメロディ・ラインを絶賛していたそうだ。
ビートルズに刺激を受けたビーチ・ボーイズの曲が、今度はビートルズに影響を与える。実に見事な相互作用ですな。
「キャロライン・ノー」
アルバム最後のバラード曲。ブライアン・ウィルスンがリードボーカルを務めた、実質的ソロ曲。彼名義でシングル・カットされたが、ヒットはしていない。だが、彼自身は一番気に入っており、それゆえにラストに置いたものと思われる。
同時にレコーディングされたものの、アルバム入りを見送られ、後に手直しされて全米・全英でナンバーワン・ヒットになった「グッド・ヴァイブレーション」もまた、「ペット・サウンズ」の偉大なる副産物である。
この時期のブライアン・ウィルスンの仕事ぶりは、本当に神がかっていた。
完璧な曲作り、アレンジ、歌唱、演奏、録音、そしてミキシングの追求…。
後には、その完璧主義が完全に裏目に出て、彼は精神的にボロボロになって追い詰められていくのだが……。
それはまた、別の話。
ともあれ、「奇跡」のような一枚。56年経った現在も、そのレベルに匹敵する出来のポピュラー・レコードは、何枚も出ていない。
洋楽ファンなら、絶対はずせませんぜ。
<独断評価>★★★★★
ザ・ビーチ・ボーイズ、66年リリースのオリジナル・アルバム。
1960年代半ば、英国におけるトップ・バンドがビートルズであったように、米国におけるそれは、ビーチ・ボーイズであった。
最初はシングル・ヒット、そして次第にアルバムにおいても大ヒット作を連発するようになり、コンサートやテレビ番組への出演で多忙を極めるようになる……と言った具合に大西洋を挟むふたつのグループは、似たような経過を辿っていった。
コンサートツアーやプロモーションに時間に取られるあまり、本来、一番時間をかけたいアルバムのレコーディングに、十分時間を取れないような状況が続いた。
そこで、ビートルズの方はコンサート・ツアーを65年の北米ツアー以降きっぱりとやめてしまい、レコーディングに専念する方向へと舵を切った。
その成果生まれたのが、65年末にリリースした名盤「ラバー・ソウル」である。
以後、彼らは基本的にライブ・パフォーマンスを行なわなくなる。
この動きに大きく刺激されたのが、ビーチ・ボーイズだ。「ラバー・ソウル」の高い音楽性に注目、自分たちもビートルズのようにもっとキメの細かい音作りをしたいと考えた。
とりわけ、グループの音楽的リーダーであったブライアン・ウィルスンは、そういう思いが強かった。そこで彼は、今後一切のライブ活動をやめて、音楽制作に専念することにした。
「ペット・サウンズ」は、このような背景のもとに生み出されたアルバムである。
雑誌「ローリング・ストーン」の「500のオールタイム・ベスト・アルバム」投票ではマーヴィン・ゲイの「What’s Going On」に次いで2位という高い評価を得ているが、それもプロデューサーであるウィルスンの、ほとんどパラノイアとも言える完璧主義によって一分の隙もなく構築された音世界ゆえのものであることは、間違いあるまい。
まず、ビーチ・ボーイズのメンバーには、演奏を一切させずに、ボーカルとコーラスに専念させ、演奏はすべて腕利きのスタジオ・ミュージシャン(通称レッキング・クルー)に任せた。
これは画期的というか、賛否が分かれるところかもしれないが、結果的にはアルバムの音楽的質を向上させることにつながったと言えるだろう。
また、ソングライティングに関しても、歌詞は今回、プロの作詞家トニー・アッシャーに大半を依頼して、ブライアン・ウィルスンがイメージした世界をきちんと構築してもらっている。
要するに、ブライアン・ウィルスンがビーチ・ボーイズとスタジオ・ミュージシャンを使って作った、彼のためのアルバム、そういうことになろう。
まぁ、このアルバムの解説としては、日本で初CD化された時に、ビーチ・ボーイズ・フリーク中のフリークである山下達郎氏がライナーノーツを書いているので、それをご覧いただくのがベストだろう。
ビーチ・ボーイズの特別なファンでもない、半可通の筆者が今さら何を書けるわけでもない。
とりあえず、筆者のフェイバリット・ソングを数曲挙げておく。
「素敵じゃないか」
アルバムのオープニング曲。これぞビーチ・ボーイズ・スタイルと呼べるコーラス・ワークが楽しめる、快活なナンバー。シングル・カットされ、全米8位となっている。
「スループ・ジョン・B」
A面ラストの曲。これもシングル・カットされ、全米3位に輝いている。もともとはバハマ諸島の民謡で、メンバーのアル・ジャーディンの提案により取り上げられたという、異色のトロピカル・ナンバー。
歌詞はブライアン・ウィルスンによるもの。陽気で大いに盛り上がる曲調が、ビーチ・ボーイズにぴったり。
「神のみぞ知る」
「素敵じゃないか」のB面。B面ながらも、全米39位にまでなった。トニー・アッシャー、ブライアン・ウィルスンの作品。その音作りは、「サージェント・ペパーズ」以降のビートルズにも大きく影響を与えたと言われており、ことにポール・マッカートニーは、その美しいメロディ・ラインを絶賛していたそうだ。
ビートルズに刺激を受けたビーチ・ボーイズの曲が、今度はビートルズに影響を与える。実に見事な相互作用ですな。
「キャロライン・ノー」
アルバム最後のバラード曲。ブライアン・ウィルスンがリードボーカルを務めた、実質的ソロ曲。彼名義でシングル・カットされたが、ヒットはしていない。だが、彼自身は一番気に入っており、それゆえにラストに置いたものと思われる。
同時にレコーディングされたものの、アルバム入りを見送られ、後に手直しされて全米・全英でナンバーワン・ヒットになった「グッド・ヴァイブレーション」もまた、「ペット・サウンズ」の偉大なる副産物である。
この時期のブライアン・ウィルスンの仕事ぶりは、本当に神がかっていた。
完璧な曲作り、アレンジ、歌唱、演奏、録音、そしてミキシングの追求…。
後には、その完璧主義が完全に裏目に出て、彼は精神的にボロボロになって追い詰められていくのだが……。
それはまた、別の話。
ともあれ、「奇跡」のような一枚。56年経った現在も、そのレベルに匹敵する出来のポピュラー・レコードは、何枚も出ていない。
洋楽ファンなら、絶対はずせませんぜ。
<独断評価>★★★★★