2004年4月4日(日)
#212 伊藤銀次「SUGAR BOY BLUES」(POLYSTAR 28P-39)
伊藤銀次のサード・ソロ・アルバム。82年リリース。
誰にでも「青春の一枚」とでも言うべき一枚のアルバムがあると思う。甘酸っぱくて、ときにはほろ苦い。針を下ろしただけで、当時の思い出が瞬時に蘇るような。
この「SUGAR BOY BLUES」は、筆者にとってまさにそんな一枚なんである。
当時、佐野元春のバック・バンド「HEARTLAND」に所属し、ギタリスト兼アレンジャーとして大活躍していた彼の、もうひとつの顔が見られるソロ・アルバム。一曲を除く全曲、彼が作・編曲をし、歌っている。
「恋のリーズン」はそんな中でも一番好きな曲。彼がアコギを弾きながら歌うミディアム・テンポのポップ・チューン。キャッチーで、もう琴線に触れまくりのせつないラヴ・ソング。
「フールズ・パラダイス」は、それにまさるとも劣らぬ名曲。セカンド・ライン風のビートがなんともカッコいい。
そして、知っているひとは知っている往年のアイドル歌手・神田広美が作詞家となって、彼に歌詞を提供している。これがまたいい。恋ってどうしてこう「おバカ」なものなんだろう、でもそれがまた(・∀・)イイ!!と思わせる佳作。
タイトル・チューン「SUGAR BOY BLUES」も好きなんだよなあ。この歌に登場する、「女のコに優しいだけでいつもフラれてばかりいる少年」って、まるで昔の自分のことじゃないか、なんて思ってしまったり。
音楽職人・銀次の紡ぎ出すノスタルジックでスゥイートなメロディ・ライン同様、いいのがこのアルバムのリリック。
その後中森明菜、チェッカーズの作詞でブレイクしたコピーライター・売野雅勇、山下久美子、オメガトライブの作詞でも知られる康珍化、この当時の二大人気作詞家の、ツボをおさえたセンチメンタルな詩はもう涙もの。
盟友・佐野元春も、もちろん協力している。「恋のソルジャー」は元春が作詞・作曲、コーラスでも参加しており、いかにも元春ライクな疾走感のあるナンバーに仕上がっている。ここでは人気サックス奏者、ジェイク・コンセプションのプレイが聴きものだ。
この他、同じく元春調の「Night Pretenders」、バディ・ホリー調の「シンデレラリバティなんて恐くない」、AORなバラード「真冬のコパトーン」、珍しくテクノ調の「Audio-Video」、ロッカ・バラード調の「Hang On To Your Dream」などなど、60~70年代ポップスのエッセンスがぎっしりつまった佳曲が目白押しである。
ビーチボーイズみたいな白人系ポップスも、黒人のR&Bもバランスよく共存しているのが、彼のサウンドの特徴。とくにモータウン系がお好きのようで、ビートやストリングス・アレンジなどに強くそれが感じられる。そのあたりは、筆者にとってもストライク・ゾーンだったりする。
歌唱のほうは、音程・声量ともにちょっと頼りない感じで、お世辞にもうまいとはいえないのだが、優しく素直な感じの歌い方には好感が持てる。
最初聴いたときには印象が稀薄なのだが、何度も何度も聴きこんでいくうちに、次第に銀次ワールドに引き込まれていく、そんな一枚だ。
青山純、青山徹、美久月千晴、ペッカー、浜口茂外也、西本明、松下誠らバックのメンバーもスゴ腕のミュージシャン揃いで、演奏にハズれなし。もちろん、銀次のアレンジもいい。
日本にもこんな上質のポップス・アルバムがあったのだよ。いわば、隠れた名盤。
CDでも再発されているから(現在の発売元はKi/oon Sony)、皆さんもぜひチェックしてみて欲しい。
<独断評価>★★★★