2004年4月11日(日)
#213 Mr.Children「Atomic Heart」(トイズファクトリー TFCC-88052)
ミスター・チルドレンの4thアルバム。94年リリース。小林武史によるプロデュース。
それまでは群小バンドのひとつに過ぎなかったミスチルが、このアルバムの大ヒットで一躍トップ・アーティストへの仲間入りをしたといっていい。彼らにとっても記念碑的な一枚。
同年の連続スマッシュ・ヒット「Cross Road」「Innocent World」を主軸に、10曲(+2トラックのSE)を収録している。
ミスチルといえば、典型的な「ワンマン・バンド」のひとつで、ほとんど全ての楽曲をヴォーカルの桜井和寿が作っているが、このアルバムでも「Asia」の作曲をドラムの鈴木英哉が手がけている以外は、桜井が曲作りを一手に引き受けている。(ただし、4曲は小林武史Pとの共同名義による作曲。)
ミスチルは3枚目のアルバムまではなかなかブレイクせず、わりとスロー・スターターだったが、本来トップに躍り出るだけのものを十二分に持っていたバンドだ。
まず、ヴォーカルの桜井の声がいい。しかも歌がうまい。彼の作るメロディに独自のセンスがある。そしてとどめは、彼のルックスがいい。三拍子どころか、四拍子もそろっている。
彼らの兄貴格、サザンの桑田だって、こんなに揃ってないしぃ(笑)、成るべくして成ったスターというべきですな。
筆者的にはやはり、ヒット当時有線とかラジオとかで偶然聴いた「Cross Road」や「Innocent World」に心を奪われ、「このアーティスト(最初はバンド名も知らなんだ)は、絶対天下を取る!」と確信したものだ。そして、もちろん、その通りになった。
実際には、ブレイクしてからの十年の道のりは平坦なものではなかった。それは皆さんもよくご存じのことだろう。
音楽的に煮詰まって活動を休止した時期もあったし、バンドの中枢、桜井のスキャンダルやら闘病もあった。
でも、そういったことをすべて乗り切って、ふたたび意欲的に音作りに取り組んでいるのを見ると、彼らの実力はハンパではなかったのだと感じざるをえない。
おりしもこの7日に発売されたアルバム「シフクノオト」は実に11枚目。
常に前に進み続けるこの姿勢には、素直に敬意を表したいと思う。
さて、本題の当アルバムだが、サウンド的には全面的にプロデューサー、小林武史のセンスとアイデアが横溢している。
ミスチルが本来持っている、清新な曲作りのセンスを極力壊すことなく、バンドとしてのダイナミズムを付与しているのだ。
「Dance Dance Dance」のハードなデジタル・サウンド、「ラヴ コネクション」のあからさまなストーンズ・サウンド、「Innocent World」の、佐野元春のお株をとったかのようなフィル・スペクター風サウンド、「クラスメイト」のメロウなホーン・サウンド。「Cross Road」のフォーク・ロックとボレロを合体させたサウンドも、当時では実に新鮮だった。
まだまだある。「ジェラシー」のデジタルとオルタナの融合、「Asia」のスケールの大きなシンフォニック・サウンド、「雨のち晴れ」のファンク・サウンド、「Round About~孤独の肖像~」のサザンライクなホーン・サウンド。そして「Over」の優しいアコースティック・サウンド。
これらを見ただけでもサウンド職人、小林武史の引き出しの多さがよくわかりますな。
ミスチルと小林、両者の出会いにより、バンド単体だけでは到底出しえなかったサウンド、グルーヴを獲得したこと。これは大きい。バンドに限らずアーティストは、自分たちとは異なる才能を持った人々(ミスチルの場合は、桑田そして小林だな)と邂逅し、たがいに触発してあっていくことで、初めて成長出来るのである。
ここに、ミスチルが10年以上も作品を世に送り出し、しかも今も多くのひとびとに支持されている理由を、見出せるように思うね。
「自分たちが一番、他人にプロデュースなんて頼まん!」なんて思い込みは、得てしてバンドの行き詰まりにつながるもんだ。
キムタクのCFのセリフではないが、「開いている」か「閉じている」かでいえば、ミスチルはまさに「開いている」バンドなのだ。
あるときは深夜放送でホンネを喋り、またあるときは音楽ヴァラエティに登場し、漫才師にツッコミを入れられる。ここまで平気で出来るのは、本当に自分たちの音楽に自信がなくては出来ないことで。
いたずらに自己演出し、自らをカリスマ化することに血道を上げている凡百のバンドにはない、余裕と貫禄を感じるね。
やっぱ、ミスチルは最強!
しかし、そんなミスチルでも、筆者的にはあまり受け入れられない部分がひとつだけある。
それは、桜井の書く歌詞。理が勝ち過ぎというか、理屈っぽいというか、説教臭いのだ。
ロックの歌詞は、「理詰めですべてを書く」ことに余り意味はないと筆者は思っている。暗喩を交えて聴き手をはぐらかし、ケムに巻くくらいの適当さ加減でいいのに、彼の歌詞は妙に律儀で厳密で、誤った解釈の余地がない。
歌詞の意味を真剣に考えながら聴いていくと、息苦しくなるので、筆者はあまりそれをしないようにしている。
ま、それを差し引いても、十分お釣りが来るくらい、桜井の才能と魅力はスゴい。
大瀧詠一、山下達郎、桑田佳祐といった諸先輩が、自分の陣地を守ることに汲々としている一方で、彼だけは今後、何かドカーンと大きなことをやってくれそうな予感がある。
「後生、畏るべし」ということが当てはまる数少ないアーティストのひとつ、Mr.Childrenに期待age( 2ちゃん風)である。
<独断評価>★★★★